162.邪悪胎動
今回は三人称視点です
――フィルレスム魔法学院 女子寮【地下空間】
そこには二つの人影があった。一人は白いローブに身を包み、もう一人は赤い髪に二本の角を生やした長身の女性。
長身の女性の方は優雅に足を組み、用意された紅茶を嗜んでいた。
「……貴方に味なんて分かりますの?」
「いーえー、全く。でもこういうのは気分の問題デスよ。それにエメラルダちゃん。人間はこれを美味しそうに飲むのでしょう? それならワタクシも練習しなくては」
角の生えた人間などいない。
彼女は数少ない生き残りの魔族であった。
そんな人間の仇敵とも言える存在と相対するのは、エメラルダと呼ばれた年若い魔法使いであった。
「それで、首尾はどうですの? 大賢者とは接触したのでしょう?」
白ローブの問いに対し、魔族は嗤う。
「何がおかしいですの?」
「あんな化け物を相手にしようとしているおたくのボスに驚いてるんですよ。本当に勝てるんですか? アレ? ワタクシの見立じゃ先代の大賢者より強いですよ。悔しい事デスけど、クソ勇者と大賢者ティルラ・イスティルがいれば王国は安泰でしょうね〜。大賢者の方はあのまま引きこもらせておけばよかったのに、なんでわざわざ外に出るよう仕向けたんです? ま、ワタクシには関係ない事ですけど」
白ローブは愉快そうに嗤う魔族に不愉快さを感じ、睨みつける。
「黙りなさい。貴方の質問には答えないわ。こっちの事情には口出ししない。そういう契約でしょ?」
白ローブが杖を取り出す。
それを見た魔族は、「おー、怖い怖い」と言って両手を上げ、首をすくめた。
「そんなに睨まないでくださいよ。ワタクシ達は魔王様の仇がうてればそれでいいんで。そっちの事情には首を突っ込みません。この国を滅ぼすにはまず勇者と賢者を排除する。ワタクシ達は勇者を皆様方には大賢者を。その後は……」
含みを持たせた言い方に、エメラルダは眉を顰める。所詮は魔族だ。信用には値しない。
「何? 言いたい事があるならハッキリ言いなさい」
「嫌デスねー。そんな睨まないでくださいよ。ただの確認ですよ、確認。計画の方も順調です。無事魔物を王都に運ぶコトに成功しましたよー。魔王様が倒されて平和ムードだからか警備も緩かったデスねー」
何人かは殺しましたけど、と魔族は何でもない事のように報告する。
それは別に良かった。もう一つの問題に比べれば。
「貴方達。ここに来るまでの間に協会の人間に存在が勘付かれたようですよ。諜報員から報告がありました。それと街で人を喰ったでしょう?」
「……栄養補給ですよ。擬態は疲れますから。必要な事です。協会の方は申し訳ないですねー。移動には気をつけていたつもりだったんですが〜」
一々癪に触る言い方をするが、ここで揉め事を起こしてもしょうがない。
エメラルダは怒りを押し殺して、出していた杖を仕舞う。
「まあいいわ。あの人が上手く誤魔化したようだし。今後は気をつけるように。それと他の魔族も貴方のように擬態したり、人語を理解できるの?」
戦力の確認と純粋な疑問であった。
裏切るかもしれない相手の情報を知ることは重要だ。
「うーん、あんまりこっちの手札を晒したくないんですが……まだイマイチ信用されてないようなので教えますね。人間に擬態できるのはワタクシ達だけです」
それは意外な答えだった。
「ワタクシは特別な魔族デスから。この特殊能力がなかったら王都にも潜入出来ませんよ」
特別な魔族。
その言葉はエメラルダの興味を引いた。
この魔族が特別なら、他の魔族も特別なのか? それとも何かしらの条件があるのか? そこまで考えて思考を止める。聞いても仕方のない事だと気付いたからだ。
「そう……質問を変えるわ。今のままで王国を、彼等を潰せると思う? 私は出来ると思った。でもあの人はそうは思っていないみたい」
「そうですねー。ワタクシ達もおたくのボスと結論は一緒です。――生き残りの魔族と【愚者】だけでは王国には敵わない。強者が多すぎますからね。滅ぼすには頭を使わなくては、ワタクシのようにね」
「…………やっぱりそうなのですね」
まだ足りない。もう一つ何か足りない。
一つの選択肢が浮かぶ。
それは帝国や神聖国にも繋がりを持つ魔法統率協会。
年々権力を高めてきた魔法統率協会と王国貴族は相容れない存在になっている。大賢者と協会の関係も芳しくない。それを利用できれば或いは……。
そこまで考えて思考を破棄する。
それを考えるのは自分の役目ではないからだ。
「ま、強者が絶対の魔族社会とは違って、人間社会は色々複雑みたいですし。そちらはそちらで頑張ってくださいね♪」
「ええ、貴方は引き続き私に従っていなさい。それがお互いのためよ」
「はいはい、分かってますよ。エメラルダちゃんの主にもよろしくお伝えください」
これで話は終わりとばかりにエメラルダは立ち上がり、出口に向かって歩き出す。
(大賢者ティルラ・イスティル……歴代賢者の中でも最強だと謳われたシャルティア・イスティルの弟子なだけあるわね。私では彼女には勝てない……なら、その弟子ならどうでしょうかねー?)
遠巻きに見ていただけでも、彼女から放たれていた魔力のオーラは絶大だった。それこそ並の魔法使いの数倍はある。
正面から挑んでも勝ち目はない。
「待っていてくださいね師匠! 私が、愚者の弟子である私が貴方に相応しい舞台を用意してみせますから!!」
歪んだ愛が生んだ、狂気に満ちた表情で彼女は高笑いする。
「全ては師匠のために。ふふふっ」
その狙いは純真な愛を紡ぐ少女に定まった。
◇◇◇
エメラルダが去った後の談話室にて、魔族は呟く。
「エメラルダちゃんってイマイチキャラが掴めないデスね。それと彼女は一つ勘違いをしています。最後に笑うのは我々魔族デスよ。ヒィッヒッヒ」
そう言って、魔族は嗤った。
「「団長」」
「おや、もうそんな時間ですか。では行きましょう。我々の目的の為に――」
どこからともなく現れた二人の少女と共に、彼女もまた行動を開始するのだった。
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