154.引きこもり大賢者様
「オルドスさーん。大丈夫ですかー?」
ペチペチ。ペチペチ。起きないと思うけど一応杖の腹で頬を叩いてみます。
「…………」
「ダメみたいですね」
暫く待ってみましたが、オルドスさんは完全に伸びていました。
彼の部下の方はどうでしょう。
「うーん……マスタ〜報告書の作成終わりましたょぅ〜。えーつぎはこれもっすかぁ〜。また残業っすよ。勘弁してください……」
むにゃむにゃと寝言を言っています。
「こっちはまだ夢の中ですか。そこまで強力に掛けたつもりはなかったんですけど、疲れていたんでしょうか?」
その言動から日々の苦労が窺い知れるというもの。きっとオルドスにこき使われているんでしょう。ダメな上司を持つと大変そうですね。
すやすやと深い眠りにつく彼女は置いておいて、わたしは伸びているオルドスに大賢者として語り掛けます。
「オルドス。貴方達の結界魔道具は確かに優秀だけどわたしの作った物に比べれば性能はゴミ以下。その上値段も高いから買う必要性すら感じない。でも貴方が言っていた事も分かる。わたしは確かに魔法使い全体の価値を下げてる」
「…………」
沈黙。彼は何も言わず目を閉じています。
「ふぅ……」
ここで一呼吸。考えをまとめるには言葉にするのが手っ取り早い。
「魔法使いは大抵のことは魔法でなんでもできるから頼られ、感謝される。だけど、言われた事を全てやるのでは奴隷と同じ。自分の価値、力は自分で示さなければならない。貴方も必死だったんでしょ? 貴方というか、統率協会全体が。今の協会は貴方の目から見ても戦前に比べて明らかに質が落ちているだろうし」
「…………」
お、今ピクッとした。このまま続けよう。
「分かるよ、その気持ち。今は余裕があるけど、わたしだってこうなる前は師匠と一緒に国の力になる為……ううん師匠に置いていかれないように頑張っていたから。でもちょっと方向性を誤っちゃったね。魔法使いなら出来ること、もっと沢山あった筈だよ」
自分で言った言葉がそのまま自分に返ってくる。
考えれば考えるほどあった。あの時の自分に出来たこと、しなかったことも。
そもそも大賢者である師匠が研究だけにかまけている訳がない。
わたしも大きくなり、魔族との戦いが激しくなってからは研究の方はわたしに任せ、屋敷を空けていることの方が多かった。
(きっとわたしの知らない所で師匠はずっと無理を……)
こんなことなら無理を言ってでもわたしも前線についていくべきだった。そうすれば師匠の負担を減らせてもう少し長生きできたんじゃないかと思ったりする。
でもわたしはそれをしなかった。師匠に甘えてしまった。
だから師匠に守られるだけの存在になってしまったんだ。
彼に屋敷に追い出されてリベアと出会っていなかったら、わたしはずっとあそこで腐っていただろう。その後悔を生涯胸に抱えて。
「……」
「だからね。わたしが怒ってるのはただ一つ。師匠の時間を無為に奪っていたこと。あの人ならあなた達の協力がなくとも一人でなんでも作れてた。今回の結界魔道具が完成したのもあの人が残した資料のお陰。貴方達はただ甘い蜜を吸っていたかった。栄誉が欲しかった。それだけですよね?」
口調を戻し、今度は諭すように言います。
「…………」
その自覚があるのでしょう。彼は黙りこくったまま顔を歪めていました。
器用ですねこの人。
協会特製結界魔道具。
大賢者特製の魔道具が一つで100体の魔物を防げるものだとしたら、彼らが作ったのは一つで1体の侵入を防げる程度。
それも一定の魔力を持っていないと使用できないという制限付き。おまけに値段も有力貴族か豪商人にしか買えない設定です。
今までは競合相手がいないので強気の値段設定ができたんでしょうが、それももう叶いません。
これから先は大賢者の魔道具が主流になっていくんですから。
ちなみに結界魔導具の販売に関してはリーナさんも一枚噛んでいます。流石にこの重要商品の扱いに関しては娘にはまだ早いと判断したからです。
実際、流通の数を見誤れば問題があちこちで起こっていたでしょうし、今まで利益を独占していた魔法統率協会からもっと早い段階で圧がかかっていたと思います。
まだ十分な数も確保できていませんしね。
相手がソフィーだけだったら、手頃な魔法使いを送り込んで黙らしていたんでしょうが、後ろにわたしという大賢者が付いているとなれば話は別。
教会の中でも上位の人物が、こうして直接交渉に出向くしかないわけなのです。
「……シャルティア様の時間を奪っていたのは、弟子である貴様もだろう」
やっとこさ声を出したと思ったら、返ってきたのはそんな言葉でした。
「……それで、いつから起きてました?」
「性能はゴミ以下の所からだ。それでどうなんだ?」
最初っから起きてたみたいです。
「……はぁ、そうですね。貴方の言う通りです。でもわたしはそれに見合う成果を出していると思いますよ。なんてったって、わたしは大賢者ティルラ・イスティル。あの人の意思を継いだ正統後継者であり、その義娘ですから」
「むすめ……か。ただの孤児が言うようになりおって」
項垂れたまま皮肉げに笑うオルドス。嫌な人ですね、まったく。
「尤もわたしの友人に手を出していたら、こんなものでは済みませんでしたが」
「そのつもりは元よりなかった。そんなことをすれば統率協会がお前に破滅させられるからな」
ふっふっふ。わたしの事をよく分かってるじゃないですか。
「では勝負の方はわたしの勝ちでいいですよね?」
「ああ……」
彼は諦めたように小さく息を吐きます。これで一件落着ですね。
あとは彼に約束を守ってもらうだけです。
「――三日後。相互不可侵条約を結ぶ為に、わたしが直接協会の本部にお伺いするので門前払いはやめてくださいね。あと貴方の助手ちゃんはもうしばらく起きないでしょうから、それまでゆっくりしていってください。中々良いですよ、ここは。空気も景色も」
「はっ、そうだな。私も余生はこんな田舎で過ごしたいものだ。隠居生活は順調か? 引きこもり大賢者様」
「元、ですよ。あとこの村は魔法統率協会の人間はお断りです」
「それは、残念だな」
全然残念そうじゃなさそうですが、彼は満足げに笑っていました。おかしな人です。
「それでは、また」
「ああ、また……」
「ねむいっす……ねむいっすよマスタ〜……むにゃ」
この子には巻き込んだお詫びの印に、今度何か差し入れしてあげるべきでしょうね。
大賢者特製の栄養ポーションでも作ってあげますか。
それから協会は王国から手を引き、王都での活動を自粛。わたし達がすることに手出ししないと正式誓いました。
これを破った場合はわたしが本部にカチコミに行くことになっています。
なんにせよ、これでようやく安心して村を離れリベアの元に向かえます。
「あの子は今何してるでしょうか? 案外わたしがいなくても友達と楽しくやってそうですよね。ま、行ってみれば分かる事です」
学院の特別講師。
大賢者としての初の大仕事。気張っていきましょう!!
ここまで読んで頂きありがとうございます!
次回はリベア視点になります。
ブックマーク、評価、感想、レビュー、紹介、リンクなど、もろもろ全て歓迎致します!
皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!




