151.断罪の時間
今日は長めです。魔道具の表記揺れを修正しました。
魔導具→魔道具
思考内で術式を展開し、自然の法則を無視した力を発揮することを人は魔法と呼ぶ。
しかしそれとは別に、魔法には、物質に刻まれた術式に魔力を注ぐことで発動するという方法もある。
このときに使用される術式が刻まれた道具を“魔道具”と呼ぶ。
当然、魔道具に刻まれる術式は思考内で展開されるものよりも複雑だ。自ずと精密作業になる
魔道具製作に携わる専門の研究員でさえ、一日に一つ作れればいい方であった。
だが彼女は違う。
「ほいっ、ほいっ、ほいっ!」
それを簡単にやってのけるのがティルラという稀代の大賢者。
彼女はまるで流れ作業の如く魔道具に術式を刻んでいく。
手慣れた作業だった。そもそもこの魔道具の開発者は彼女自身なのだ。他の誰よりもこれに関して熟知している。
「こんなところでしょうか……どうかしました?」
たったの数分で出来上がった魔道具。自分が一日掛けて作り上げたものよりも出来が良いように見えた。
「……え? あ、はい」
呆けていた研究者は慌てて返事をする。周りの者達も慌てて作業に戻る。
「いえ……なんでもありません大賢者様」
「そうですか。貴方も自分のペースで頑張ってくださいね。わたしはノルマを終えたら休みます」
「はい、そうさせて頂きます」
そう言うと彼は自分の仕事に戻っていった。少しでも多く、彼女に追いつくために。
◇◆◇◆◇
「ティルラ・イスティルゥゥー!!」
―――今の状況でさえ、ティルラにとっては予想の範疇。むしろ遅いくらいだった。
彼の後輩と思わしき女の子まで来たのは予想外であったが。
「お待ちしていましたよ。オルドスさんとその可愛い助手さん」
協会の人間がここにきた理由は分かっています。師匠とわたしが研究していた成果の一つ。設置型の結界です。
(どうせ、ろくでもない言いがかりでしょうね)
王家のお墨付きと製造許可を得て量産を始めたこの結界魔道具は、王室から派遣された研究者達と共に更に改良を重ね、先月からロフロス村を拠点としてソフィー主導の元、生産・販売していました。
王家御用達の結界魔道具があるという噂を聞きつけてやってきた目敏い商人達がその性能を聞き、絶賛して、中には目の色を変えて幾ら出してもいいから買いたいと言ってきましたがこれを販売出来る利権を持っているのはわたしとソフィー。
ここで買った物を彼らが商品として販売する事は違法なのです。
それに彼ら個人に売ったとしても、貴族やお偉いさんなどに黙って横流しにするだけでしょうから。
ソフィーが丁重にお断りしました。
また、しつこい方には魔法でお帰りになってもらいました。
魔物に対処できない貧困層の家庭に回す分が先。
ロフロス村で売られているのとは別に、王家からも大量発注を受けています。
どうやら陛下は結界魔道具を買いに来れない、買えない者達に対し無償で配布するお考えのようで、王都に卸された魔道具は魔物や獣に苦しめられている村や街に兵士が乗った早馬で届けられるそうです。
もちろん大賢者考案の魔道具が野盗などに奪われる危険性を考え、わたしも護衛として運送には同行しました。
(全部終わったら村に活気が溢れ、わたし達も懐が潤い、王国の領民達も魔物の脅威がなくなり安心して暮らせる。いい事尽くめですね!)
そう思っていたのですが……。
「やっぱりこうなってしまいましたか……」
「お前のせいで我々の研究は台無しだ! 貴様のせいで同時期に発売した我々の結界魔道具が全く売れない!! あの破格の値段はなんだ!! 平民でも買えてしまうではないか! この損害をどうしてくれる!?」
おそらく屋敷を漁って手に入れた少ない資料から再現しようとしたんでしょう。
でも残念。研究に関する殆どの記録はわたしが持ち出したか処分しましたし、重要な情報はわたしの頭の中です!
「はぁ」
私はそんなものを認可してない。魔道具なら一度魔法統率協会に提出すべきだ。今すぐ設計図をよこせ。矢継ぎ早に捲くし立ててくる彼に、心底うんざりします。
隣の助手ちゃんもウザそうにしてますね。仲良くなれそう。
「貴様のせいで、我々が中流、上流階級をターゲットに販売していた結界魔道具の市場価値が暴落したんだぞ!」
「えっ、知りませんよそんなこと。国が平和になるのはいい事じゃないですか」
「なんだとぉ!?」
顔を真っ赤にしてわたしに掴みかかろうする上司を助手の女の子が必死になって止めます。
女の子に迷惑を掛けるのはよくありませんね。
「えぇーい! いいから今すぐ貴様が開発した魔道具に関する情報を全部寄越せ。それと貴様とグラトリア家の小娘が持っている利権と今ある在庫を全て融通しろ!!」
「横暴ですね。嫌ですよ、そんなの。そんな事したらあなた絶対値段釣り上げますよね?」
「それがなんだと言うんだ。買えない奴は諦めればいい。いいか、魔法使いの常識を知らんお前に教えてやる。貴様のやっている事は魔法使いに対しての冒涜だ。庶民に魔道具が高価な物ではないと誤解されたらどうする? あれを作るのにも費用と技術がいる。我々魔法使いの威厳が下がるのだぞ。第一、新任の大賢者の魔道具など泊がつかない。今まで多大なる功績を上げている統率協会の物として世に出すべきだ」
何を言っているんですかねこの人は。それに……。
「多大なる功績……ですか」
「なんだ?」
まるで全部自分の功績のように言うんですね。コイツは。
「それは今まで師匠やシーヴ婆など有用な人物にあれこれ理由付けして、あなた達の研究を手伝わせていたからでしょう? 王家直属の間者さんに頼んで全て調べはついています。シーヴ婆を破門にしたのも、正当な報酬が得られず文句を言ってきて邪魔だったからでしょう? 彼女がムカついて協会が禁忌として封印している魔道具に手を出したのは事実のようですけど。最初に言っておきますがわたしは絶対手伝いません。わたしの戸籍や魔法使い登録がされなかったのは協会関係者の仕業によるものだという事も分かっていますから」
「なっ、貴様どこまで知って……!」
「だから全部ですよ。手伝ってもらう代わりに、この国におけるわたしの魔法使いとしての立場を確立させるという交換条件でも持ちかけたんでしょう? それに師匠は乗った。あなた達の理念には共感できないけど魔法使いの事に関しては協会に頼るしかありませんからね。今回だって陛下から圧力が掛からなかったら国の魔法使い申請登録を不受理にするつもりでしたよね? ふざけた真似を。そんなことの為に師匠の貴重な時間を奪いやがって!」
「――っ!!」
わたしの身体から発せられた魔力に助手の女の子は恐怖に震え、すっかり腰を抜かしてしまいました。きっとわたしの声も上手く聞き取れてないでしょう。
もういいか。
こいつは師匠の事を魔法使いとしては尊敬していたが、自分の為に利用したクズだ。そしてとことんわたしの事を嫌っている。ここで放っておけば、いずれわたしの大切な人達にも手を出すだろう。
杖を一振り。「あっ」という声を出して、女の子は自分が何をされたのかも分からず意識を失う。
「ごめんね」
体の支えを失った彼女を抱き止め、横にして寝かせます。
「アーティー!?」
突然の事にオルドスは驚きますが、序列三位の肩書きは伊達じゃなく、素早く距離を取って杖剣を抜き戦闘態勢を取りました。
「大丈夫。魔法で眠らせただけ。キミ達が作った結界魔道具を見たけどかなり粗悪品だった。やっぱり師匠が手を加えなければなんにもできないんだね」
安い挑発だ。でも今の彼にはそれがよく効いた。
「き、貴様如き小娘がぁ!! 高尚な大義を持つ我らを愚弄するなぁー!!」
「それが魔法使い至上主義ってやつ? はっ、“くっだらない”」
その言葉は奇しくもシャルティアが彼に誘われた時に言ったものと全く同じであった。
――くだらない。そんな事の為に時間を使うな。
激昂した彼はわたしに向かって一直線に突っ込んでくる。
こいつらが同時期に似たような魔道具を作っていた事は知っていた。国の認定を通り販売にこぎつけたのは彼らが先だけど、実際に自分の目で確かめて確信した。
――こんなゴミに、わたしと師匠の研究成果は絶対負けないと。
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