141.ミーア・メルベリという少女
「えっと、初めまして大賢者様……。体調の優れない叔母様に代わって、お二人の調整代理を務めさせて頂きますミーア・メルベリと申します……」
深々と頭を下げたミーアさんは、丁寧な口調で挨拶してくれました。先程までの眠気はどこかへ行ってしまったようで、背筋を伸ばして礼儀正しく振る舞っています。
物腰が強いシーヴ婆とは正反対といった印象ですね。
「あ、これはご丁寧にどうも。わたしはティルラ・イスティルです。もう知ってるとは思いますが隣にいるのが――」
「師匠の弟子であり、正統後継者のリベア・アルシュンです!」
わたしが紹介するより先に、リベアが元気に答えました。もう名乗りは完璧ですね! でも外套を翻す所まで真似しなくてもいいんですよ? 普通に恥ずかしい。
「はい、お二人の事は叔母上からよく伺っております……。恋仲である事も把握してますのでご安心ください……」
叔母という事はミーアさんはシーヴ婆の孫という事ですね。うん、くりくりとした大きな瞳や目元なんかがそっくりです。
そして恋仲という単語に、弟子が好反応を示します。
「えー! そうなんだー! 嬉しいな〜。シーヴさんっていい人ですね師匠!!」
くっ、やられました。最初はあんなに怖がってたのに……リベアの中で、今シーヴ婆の株がグンッと上がったのが分かります。
「恋仲っ……あのババア、自分の孫に余計なことを吹き込んでいやがりますね……」
確かに将来的にはそうなるかもしれませんが、今はまだ師と弟子です。そこの所はきっちりしておかねば。
「?」
不思議そうな顔をしているミーアさんに訂正しようかと迷いましたが、リベアが嬉しそうな顔をしているからまぁいっかと思い直しました。どうせ早いか遅いかの問題ですし。
「それでミーアさんはシーヴ婆の代わりに、わたし達を調整しに来たんでしたっけ?」
そう問うと彼女は静かに頷きました。話し方もそうですが、基本的に物静かな子なんでしょう。
「はい。既にリベア様は調整させて頂きましたが……どうですか? 身体に違和感などはありませんか……?」
リベアは言われて軽く手足を動かしたり、拳を作ったり開いたりしますが特に問題は無さそうです。魔法も普通に行使できるようでした。
「えっと……はい、大丈夫そうです!! むしろ前よりも力が漲ってきます!! あとミーアちゃん。私のことは様付けしなくていいって言ったじゃん! 同い年なんだから」
腰に手を当て、ぷんすかとほっぺを膨らませるリベア。その様子はとても可愛らしいものでしたが、ミーアさんは困り顔。
「これは、お仕事……ですから……だめです。それにリベア様は大賢者の正統後継者でありますし……」
「別に友達を作ってはいけないという決まりはないので、ミーアさんが良ければリベアのことを敬称無しで呼んでやってください」
「え……?」
予想していなかったのか、わたしの言葉にミーアさんは目を丸くして驚きます。
「ほら、師匠もこう言ってますから! ね?」
思わぬ所からの援護射撃を受け、満面の笑みを浮かべるリベア。ミーアさんはしばらく考える素振りを見せていましたが、やがて小さく溜息を吐いてから言いました。
「分かりました……善処いたします」
どうやら諦めてくれたようです。ちょっと可哀想な気もしましたが、わたしもリベアには勝てないので勘弁を。
(ミーアさん。うちの弟子がコミュ力馬鹿ですみません……ま、引きこもり野郎よりは全然マシですけどね)
心の中でミーアさんに謝罪しつつ、調整を終えたリベアを大賢者の観点から観察します。
(流石はシーヴ婆の孫娘……といったところですか)
リベアはわたしに比べると調整するのは難しくありませんが、調整士にとってリベアも中々やりづらい相手にはなります。二流、三流の調整士では彼女の体調を崩すだけになるでしょう。
(その点ミーアさんは完璧です。初めての相手だというのに魔力の流れが綺麗に統一されています。ついでに溜まっていた魔力も上手く逃してくれたみたいですね)
ちなみにわたしの調整は、わたしの魔力の癖を分かっている人ではないと無理でしょう。昔一度ありましたが、高額な報奨金に釣られて施術にやって来た調整士が調整中に弾け飛びました。死んではいませんでしたが、重傷だったのを師匠が「あ〜また経歴詐称の藪医者だったか……」と言って治療していたのを覚えています。
それくらい保有魔力量が異常なわたしの調整って危険なんですよね。
「でもリベア。今回は良かったですが、いきなりやってきた知らない調整士に自分の身体を弄らせる真似はやめてくださいね。せめてわたしがいる時にしてください」
「あっ、それは――」
ミーアさんが何か言おうとして、リベアがそれを遮ります。
「ふっふっふ。師匠、私がそんな迂闊なことをすると思いますが。私は大賢者の正統後継者なんですよ。確認くらいします」
「というと?」
「それはですね――」
何やら自信ありげな表情のリベアによるとシーヴ婆が直接ミーアさんとうちに来たとの事でした。婆はわたしの顔見知りですし、その孫と聞いて安心して調整を受けたとの事です。
「それに師匠が帰ってくる直前まで居間でお茶を飲んでいた筈です」
「ほー、そうなんですか」
何かあった時の為に、リベアの調整が終わるまではシーヴ婆もいてくれたようですね。
あと体調が悪いのはやっぱり嘘でしょうね。おそらく狙いは――。
「私と師匠の調整は良い修行代わりになるって言ってました」
その言葉にミーアさんが激しく同意し、頷きます。
「ティルラ様の調整が出来れば、並大抵の魔法使いの世話は出来るって叔母様に言われました……」
「まあ、確かにそうなんですが……わたしの調整は大変ですよ?」
「はい。でも頑張ります……! 私の夢は世界で一番の調整士になることですので……」
キラキラと目を輝かせて言う彼女からは強い意志を感じさせられました。
ティルラレベルの魔法使いを調整できればどんな魔法使いの調整もできる。そうシーヴ婆に言われたみたいですね。
(理には適ってる)
彼女の腕は確かみたいですし、わたしもリベアと同じように魔力を暴走させた事はあります。そう考えると専属の調整士がいる事は魔力の暴走を防ぐ上でも必要不可欠。彼女になら任せてもいいかもしれませんね。
「分かりました。では改めてお願いします。滞在期間などは決まっていますか?」
「リベア様の受験が終わるまではここにいたいと考えています……」
「分かりました。他の二人にもそう伝えておきます……リベア! もう一度言いますが今度からは私がいる時にしてください。万が一の事もありますし、悪いやつだったら大変です。最悪魔法を封印されてしまうんですよ。そしたら何されるか分かんないんですから」
「はい。肝に銘じておきます師匠」
「よろしい。あ、ミーアさんは信用してるので大丈夫です」
「はい。あと私からも一つ……ソファーで寝てたのは調整した反動で疲れちゃって、リベア様も慣れない調整で同じく疲れちゃったからで……だから安心してください、私とリベアさ……ちゃんはそういう関係ではありませんので……。そもそも年齢的に対象外……」
「あ、はい。分かってるので大丈夫ですよー」
「よかった……です」
最後の方に不安要素がありましたが、シーヴ婆の孫娘ですしそういう面もあるでしょう。あの人も若い頃から大層な女好きでしたから。熟女専門の。
「今日から暫くお世話になります……ティルラ様、リベアちゃん」
「はい、よろしくお願いします。ミーアさん」
「ミーアちゃん、よろしくです!!」
という訳で試験が終わるまでの1ヶ月間、大賢者専属調整士として、うちにまた一人同居人が増えましたとさ。
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