136.錬金術師の懸念
「うへぇー。酷い目にあったよ、まったく」
「お疲れ様でした。ケイティ様。ティルラ様」
スレミアン邸に戻ってきたわたし達を出迎えたのは、ケイティの専属メイドであるメイさんでした。
彼女に荷物を渡し、身軽になったケイティは「んー」と大きく伸びをした後、わたしに屋敷へ入ることを促しました。
「ありがとうございます……うわぁ」
その言葉に従い、スレミアン家の屋敷へと足を踏み入れれば……そこには使用人一同が勢揃いしており、頭を下げてわたし達を迎えてくれていました。
……いやぁ、なんと言いましょうか、圧巻です。
グラトリア伯爵家もかなり大きかったですが、スレミアン家はまたスケールが違いますね。地方貴族だからって舐めていると痛い目をみることでしょう。
なにせ彼女の家は辺境伯。単なる伯爵家より上位であり、侯爵家に近い貴族ですから。
「夕飯? それとも錬金を先にする?」
屋敷の中に入るとすでにメイさん辺りから話が通っていたのか、わたしの分の食事まで用意されているとのこと。
「でしたら――」
ここはその好意に甘え、食事を先に摂ることにしました。食事の席には彼女の両親も同席するとのこと。
「ご両親にも、久々にご挨拶しなくてはなりませんね」
まぁ、彼女のご両親はそこまで怖い方ではありませんし、ソフィーのお母様のように少し変わった方でもありません。良くも悪くも貴族という印象が強い方達ですね。しかし貴族の方は大体変わり者が多いというのは本当かもしれません。……ケイティも含めて。
「ごっはん! ごっはん!」
「ふふっ」
「何笑ってんだよー!」
「いえいえ、なんでもないですよ?」
適当に笑って誤魔化します。
大きくなっても、こういう子供っぽい所は昔から変わりませんね。
「絶対ボクを見て笑っただろう……ティルラならいいけどさ。ほら着いたよ」
「おおっ〜!」
そんな事を考えながら案内された部屋にはテーブルがあり、その上にはすでに豪華な料理が並べられていました。
今日は一日平原を駆け回って疲れましたし、この後の大仕事を考えると休息は必要です。なのでお腹いっぱい食べさせて頂きましょう。
「喜べティルラ! 今日はご馳走だぞ!!」
能天気な錬金術師はこの後、両親に家を抜け出したことを咎められることなど忘れてているようでした。
もちろん、食事の後わたしも一緒に謝りましたけどね。そしたら「「大賢者のティルラちゃんなら全然平気」」と笑って許してくださいました。
ちなみに両親に黙ってお見合いを断っていたことについては許されなかったみたいですけど。
◇◇◇
食事を終えたわたしはケイティに連れられ、彼女が両親に頼んで造ってもらった地下工房へとやってきていました。
これからいよいよリベアの装備を製作するのです。
「ボクが素材の加工をして、杖はティルラが作るんだよね?」
「はい。ケイティには帽子と外套を制作してもらえればと」
「了解。デザインは今朝見せてもらったやつ?」
「はい。リベアはわたしとお揃いがいいみたいで」
「それは愛だね」
「愛ですか……」
「幸せにしてあげなよ。君のことを好いてくれる子なんて中々いないんだからさ」
「ずいぶん失礼ですが……まぁ、言われなくてもそのつもりですよ」
自分でも思ったより素直な言葉が出てきて驚きます。本人を前にすると絶対言えなそうな言葉なのに。
「惚気たなー。許さんぞこんにゃろ!」
軽く肩を小突いてきますが、わたしの言葉に満足したのか、ケイティは早速作業に取り掛かり始めました。
彼女に任せておけば大丈夫でしょう。
そうして一人になったわたしは、改めて部屋を見渡します。
(……この地下工房はかなり広いですね。天井も高く、魔法陣を描くために描かれたであろう巨大な円があるくらいです)
部屋の中央には様々な道具が置かれており、隅の方では木箱に入れられた素材もありました。
ここを使うのは初めてではないですが、やはり緊張してしまいます。ここで失敗すれば全てが無駄になってしまうのですから当然です。
特に杖は魔法使いの生命線ですし、責任重大です。失敗なんて許されません。
(……加工は、まだ掛かりそうですね。集中、集中)
彼女には様々な素材の加工を行ってもらい、その加工の過程で出た余分な部分は全てあげることになっています。どれも高価ですが、あれでも一流錬金術師なので信用しています。
あ、もちろんそれとは別に報酬はお支払いしてますよ? 一応依頼という形をとっていますから。
「………………」
「……まだ告白してすらないんだ」
暇なのでジーっと彼女の横で作業を眺めていると、ポツリと呟く声が聞こえてきました。どうやら独り言のようです。
わたしに聞かせる意図はないのかもしれませんが、ここは工房内なので、彼女の小さな呟きすらはっきりと聞き取れてしまいます。
別に盗み聞くつもりはなかったんですけどね。
「告白?」
ハッとなったケイティは慌てて誤魔化そうとしますが、それが無理だと分かると諦めたように息を吐きました。
「ねぇ、ティルラ。一つ聞いていい?」
「いいですよ、なんでも」
じゃあ聞くねと前置きし、彼女は口を開きました。
「――ソフィーの事をどう思ってる?」
質問の意図が分かりませんでした。わたしがソフィーの事をどう思ってるか? それが告白とどう繋がるのでしょう?
疑問はいくつも湧きますが、とりあえず答えないことには始まらないので、自分がソフィーに対して思っている事を素直に伝えました。
「ソフィー? 彼女とは色々ありましたが今でもわたしは良き友人だと思っていますよ? 少し口うるさい所もありますが、わたしの事をよく分かってくれている大切な幼馴染だとも」
その答えを聞いたケイティは静かに肩を竦めました。
「そっか、対象にも見られてないのか……って事は彼女はまだ……ううん、気づかないティルラも大概鈍感だと思うけど」
「ケイティ?」
ブツブツと何かを言っているケイティに声をかけると、突然顔を上げてこちらに向き直りました。
「ごめん。なんでもないよ。今のは忘れて。ほらヒドラの魔核、加工終わったから作業始めな」
煮え切らない態度のまま、彼女はわたしの背中を押して作業台まで誘導します。
彼女の話は気になりますが、これ以上問い詰めても教えてくれなさそうですし、大人しく言われた通り作業を始めましょう。
(ここからはわたしの仕事です。さて、頑張りましょう!)
その晩は作業に勤しみ、翌朝を迎えます―――それから数日が経ち、ついに装備が完成するのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
次回から新衣装リベア登場。受験が始まり本格的な学院編に入ります。
前編はリベアが入学して数日過ごす所までの予定です。
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