表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/191

135.大賢者は加減を知らない

 魔物と魔獣。その違いを問われれば、辺境の地に住んでる子供だって簡単に答えられます。


 災害級の魔物。それを人は魔獣と区別し、魔物とは隔絶した存在として恐れているのです。


「それにしてもヒドラかぁー。ティルラもお師匠様と似てきたねー。やばい魔獣の素材を惜しげもなく弟子に与えるなんて」


「そんな事ないですよ。師匠がわたしの杖を作るために用意した素材に比べたらヒドラの魔核なんて、十二分に手に入ります。魔獣って、実はそこそこ腕の立つ冒険者や魔法使いが集まったら倒せる程度なんですから」


 普通の人なら口に出すのも恐ろしい魔獣でも、わたしにとってはそれほどの脅威には感じませんでした。実際に戦った事がないのではっきりとは言い切れませんけど……多分そうです。


 なので緊張感の欠片もない会話が続きます。


「うーん、それでもティルラみたいに単騎で挑んでも余裕がある人が世界に何人いるかな〜?」


「いるんじゃないんですか? 世界は広いんですし」


「そうかな〜」

 

 雑談を交わしつつ、わたし達はヒドラの反応があった場所に向かっていました。

 わたしが前を歩き、その後ろをケイティが続く形です。


 大きな木を通り過ぎた所で、後ろを歩く錬金術師(へんたい)がでかい声を出すなって言ってるのにまた大きな声を出しました。

 そろそろぶっ飛ばしましょうかね?


「あ、あれって貴重な蜜を出すヤンバチの巣じゃない!?」

 

 勝手に飛び出していこうとするケイティの首根っこを掴み、引き止めます。


「ぐえっ!」

「ケイティ。素材に夢中になるのもいいですが、ここが奈落の平原だって事を忘れないように」

「ご、ごめん」


 慌ててわたしの後ろに戻るケイティ。まったくもう! 油断してると本当に死んじゃいますよ。


「わたしの通った道以外は踏まないようにしてくださいね」


「うん。分かってる」


 奈落の平原は一見普通の平原に見えますが、そこには天然の落とし穴があります。それこそが「奈落」と呼ばれる所以。見えない落とし穴の存在がこの場所の危険度を跳ね上げているのです。


 一度足を踏み抜けば、奈落の底真っ逆さま。まず生きては戻れないでしょう。


 そんなに危険なのに、なぜ大丈夫なのかって? 


 種明かしをすればわたしには魔素の流れが分かるからです。魔素を捉えることができれば大した仕掛けじゃありませんから。とは言っても冒険者の中で魔素を感じ取れる人なんて殆どいないんですけど。上位の魔法使い、もしくは魔素の濃い地域で育った子供ならあるいはって感じですかね。


 前方の平原を見つめ、よーく目を凝らします。


「……少し遠回りしましょう。穴が多い」

「おっけー」


 とまあ、こんな風に奈落の平原を進んで行きました。


◇◇◇


 反応のあった場所に着くと、平原には似つかわしく無い禍々しい色をした囲いが存在していました。


「これ、毒の壁ですね。昼間はこうして外敵から身を潜めているわけですか。てっきり穴を掘っているものかと思っていましたよ」

「近づいただけでも身体が侵されて溶けちゃいそうだよ。どうするの? 夜になって出てくるのを待つとか?」

 

 首をこてんと傾げて、可愛らしく聞いてくるケイティ。

 セオリー通りだと出てきた瞬間を狙うのがいいとされるのですが……。


「それじゃあケイティを連れてきた意味がありませんから。とりあえず詠唱するので時間稼いでてください」


 そう言うと彼女は「ほへー」と気の抜けた返事をして、剣を抜き放ちます。やる気満々といった様子です。

 彼女はこう見えて前衛型の人間ですからね。師匠に鍛えられてそこらの魔物には負けないでしょう。


 剣をフリフリしながら、ケイティが興味深そうにわたしの顔を覗き込みます。


「珍しいね。いつも無詠唱のティルラが魔法を行使するときに何か手順を踏むなんて」

「まあ、できれば一発で終わらせたいですから。では始めます――」


 集中するため目を閉じ、精神を統一させていきます。

 そして詠唱を始めると同時に魔力を練っていくのですが……。


「わぁ、いっぱいきた」


 わたしの強大な魔力に釣られて、周辺の魔物がわらわらとやってきました。これがあるので一人では少々きつかったのです。


「よろしくお願いしますね」


 詠唱を進めている間に、「わりゃー」、「とりゃー」、「そりゃー!」と変な掛け声と共に、ケイティに斬られた魔物がバタバタと倒れていきます。


 本当に優秀ですね。本業は貴族令嬢なのに。


 詠唱が終わる頃には集まってきた魔物達は全て掃討されていました。


 嫌がってましたけど、やっぱり余裕でしたね。流石は師匠お墨付き剣士。


「おおっ、ティルラの体が輝いてる! カッコいいね!」

「そういうケイティも小さな身体で魔物を屠っていく姿はカッコ良かったですよ」


「ちっちゃいは余計だ!!」


 小さな身体で剣を振り、抗議してくる彼女の頭を優しく撫でてやると大人しくなりました。



「それじゃあやっちゃいますね。――ライトニングレイ!」



 掌から強烈な光線が放たれ、毒の壁を貫通し、中にいるであろうヒドラを襲います。そして辺り一面に眩い光が立ち込め、その圧倒的なまでの熱量により周囲の地面がドロリと溶解し、草木が燃えていく中、ケイティが感嘆の声を漏らしました。



「…………相変わらず、馬鹿げてるなぁー」

 

 

 もはや呆れられてますね。


 後に残ったのは溶けた毒の壁から現れた、みるも無惨なヒドラの残骸でした。魔素の流れから体内にある魔石を傷つけないようにしたつもりですが、こんな有様だと心配になりますね。


「ふむ。ずいぶん呆気なかったですね。これでも手加減して撃った方なんですけど……」


 余裕ありありといったわたしの態度に、ケイティがジト目を送って来ます。


「それはティルラがおかしいんだよ。いくら不意打ちが上手く決まったからって、そんな()()()()()一発で倒せるような魔物じゃないんだから。楽に倒せるなら魔獣って呼ばれないよ」


「それもそうですね。わたしが強すぎるだけでした」

 納得していると、後ろからまた文句を言われてしまいました。


「……ティルラが強いっていうか、ティルラにしかできないんだけどね。まあいいか。んっ、あった。これが目的の物でいいんだよね?」


 ヒドラの残骸の中から魔核だけを的確に摘出しました。手慣れてますね。


「はい。それで大丈夫です」


「よし。名残惜しいけどこれで素材も無事確保できたわけだし、早く帰ろうよ」


「はい。もう日も暮れかけていますし、早く戻りましょうか……――それじゃあケイティ。口を閉じていてくださいね!」


「え、なんでそんなニヤついて……まさかあれをまた!? いや、いやだぁぁぁぁぁー!!」


「ほらほら暴れないの。行きみたいに頑張って耐えてくださいね」

「いやだぁぁー!! 助けてぇー!!」


 問答無用。涙目の彼女を抱き上げ、わたしは全速力で奈落の平原を抜けます。



「この雑さ加減がなければよい友人なのにぃーーー!!」



 お互い様だ、とわたしも心の中で思いながら、身体強化を重ねがけし速度を更に速めるのでした。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!」



 途中から物言わぬ屍になったのは言うまでもありませんね。

ここまで読んで頂きありがとうございます!


次回でリベア新装備は完成です! 彼女は首を長くしてティルラの帰りを待っています。


ブックマーク、評価、感想、レビュー、紹介、リンクなど、もろもろ全て歓迎致します! 


 皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] ケイティは剣士だったんですね! ところでこの世界の錬金術師と魔法士の違いってどんな感じなんでしょう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ