126.メイドと愛弟子
今回はお留守番している、フィアさん視点のお話となります。
ティルラ様が素材集めに出て行かれた三日後のこと。私とリベアさんは少し遅めの夕食を取っていました。
「フィアさん、フィアさん。師匠は今どこで、何をしてると思いますか?」
普段ティルラ様が座っており、今は空席になっているそこを見て、リベアさんは寂しそうな目をして仰いました。
「そうですねー……」
私もどこに行くのか詳しく聞かされていませんでしたが、目的地まで二日、三日掛かると言っていたので、もう採集地に着いた頃でしょうとお答えしました。
「師匠、変な人に絡まれてないといいんですけど……もしくは声をかけた事で、逆に不審者扱いされて捕まるとかになってなければ」
流石にそれはない、と言いかけてティルラ様には前科があった事を思い出しました。
「そういえば、お二人の馴れ初めも、ティルラ様がリベアさんに声を掛けた事がきっかけなんでしたっけ?」
「そうなんですよ。師匠、変なところで勇気が出るらしくて。実の所、最初は私もちょっと変な人だなって思ったんですけど、話しているうちに優しい人だって分かって。この人になら自分の事を相談してもいいって思ったんです。不思議ですよね、初対面の筈なのに」
確かに不思議ですが、私も似たような感覚を覚えた事があります。それは数年前、私の人生の転機ともいえるある雪の日のよるです。
その日、私はティルラ様の師匠であるシャルティア様にお会いして、保護されました。声を掛けられ、この人になら不思議とついて行っていい気がしたのです。結果的にそれは正解でした。
リベアさんも、そのように感じられたのだと思います。
「それが【大賢者】の力なのかもしれませんね。ふふっ。それにティルラ様は、もしかしたらリベアさんのような可愛らしいお方には、積極的に話しかけているのかもしれませんよ?」
私が冗談めかして言うと、リベアさんは笑いながら首を縦に振ります。ん? 縦に?
「はい! だから心配なんですよ(浮気しないか)!!」
ティルラ様は、弟子に信用されてないようでした。
「んー、無自覚なティルラ様の事ですからね。罪づくりな事をなされて、お嬢様のような被害者を増やしていなければいいのですが……」
「あ、やっぱりソフィーさんも師匠の事を……」
リベアさんは当然気付いていたようですね。まあ結構分かりやすいですからね、うちのご主人様は。気付いていないのはティルラ様くらいなものです。お嬢様本人も自覚しているのか微妙な所ですが。
「はい。ティルラ様はかなり鈍感みたいですから。リベアさんのように言葉にして伝えないと、この先も気付いてもらえないでしょうね」
旦那様やリーナ様から話を聞くに、ここにはいないソフィーお嬢様も、幼少期からティルラ様に対し淡い恋心を抱いていたようです。
しかしシャルティア様が亡くなった事で、ティルラ様は周囲に壁を造りました。それは幼馴染であるお嬢様に対してもです。その事にお嬢様は深く傷ついておいででした。私がお嬢様と出会ったのも、丁度その頃でしたから。
(今思うと、グラトリア家が自分の娘と年が近いメイドを探していたのは、お嬢様の傷ついた心を癒すためだったのでしょうか?)
当時は何も知らず、メイドとして普通に接していました。そのうちに、今の専属メイドという立場になっていたんですよね。
『普通に接する』
それが逆に、お嬢様には良かったのかもしれません。
(私もお嬢様も、リベアさんには感謝しなければいけませんね)
ティルラ様の心が止まった時。その閉ざしてしまった心の扉を再び開かせたのは、他でもないリベアさんでした。
彼女が居なければ、今の生活はあり得なかったでしょう。
「お嬢様……」
私の主であるソフィー様のティルラ様に対する想いは、今もきっと変わっていないでしょう……報われない恋というのは辛いものです。
「…………」
「ああ、リベアさん。そんな顔をしないでください。フィアはリベアさんの事も応援していますし、その上でお嬢様にはもうちょっと頑張ってもらいたいと思っています。せめて自分の気持ちを伝えるくらいはと……フィアはこれからもお二人の味方なので」
「フィアさん……はい、私も師匠の事は絶対にあげれないですけど、ソフィーさんとは正々堂々と戦いたいです。だってその方が後腐れなく、師匠とイチャつけますから!」
そう言って微笑むリベアさんの顔は晴れやかでした。やはり恋する女の子は強いですね。私と違って。
「……案外、強かなんですね。リベアさんは」
「そんな強かって、私は『師匠の事が大好き!』っていう自分の欲に忠実なだけですよ」
「ソフィーお嬢様も、そのくらい素直だったらよかったんですけどね」
「ですね!」
私たちは顔を見合わせて、笑い合います。
「あー師匠の話をしてたら、だんだん会いたくなってきました。もう、早く帰ってきてくださいよ。今どこにいるんですか師匠ー!!」
本当に健気な子だと思います。この子にお嬢様は勝てるでしょうか? いえ、お嬢様をやる気にさせるのはメイドの役割でしたね。
――さぁ、ここからが正念場ですよ。お嬢様。
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