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98. うちの弟子に何してやがるんです?

100話目ではありませんが、100部分目に到達する事が出来ました。応援ありがとうございます!!


今回はリベア視点がメインとなります。

(まずい……こんな場所であの子を一人にするわけには)


 誘拐、殺人、強姦、嫌なワードが頭の中をループします。

 焦りと不安で胸がきゅっと締めつけられました。


「ふぅ……ふぅ……はあ」


 動悸が激しくなり、今にも胸が張り裂けそうです。


「落ち着け、わたし……。とにかくここでじっとしている訳にはいきません。師匠ほどではありませんが、リベアの魔力を辿って後を追うしかないでしょう」


 そうして一人、路地裏へと駆け出すのでした。


◇◆◇◆◇


(師匠には後でいっぱい怒られちゃいますね。ちゃんと謝らないと)


 大賢者ティルラ様の弟子である私は、師匠の制止を振り切って私の大切な物を奪った少年を追っていました。


「まって……待って!」


 盗まれたポシェットの中に指輪が入っていなかったら、きっとこんな風に必死にはなっていない筈です。

 師匠から貰った物は全部大切ですが、その中でも指輪はなんだか将来を誓い合った仲のようで一番思い入れがありました。


(師匠……ついて来てない)


 師匠の事ですから、すぐに追ってきて捕まるものだと覚悟していましたが、時折振り返ってみても姿は見えず、隠れてついて来ている様子もありません。


(師匠が私の事を優先しないわけがない……ってのは流石に自惚れ過ぎかな。でも師匠が私を追ってこないのはありえないから、途中で何か問題にあったんだ……でもっ!)


 たとえ誰かに足止めをくらっていたとしても、師匠は絶対に追いついて来てくれる。


 そう信じて私は少年を追うスピードを早めました。


(――曲がった!)


 視界の先ギリギリに捉えてる少年が左の脇道に入ります。


 見失ってなるものかと、魔法で足を身体強化して一気に距離を稼ぎ、少年が曲がって数秒の内に私も曲がりました。


 まだ私は師匠のように身体強化を自由に扱えません。全身を身体強化したら10秒も維持できないのです。


 腕とか足とか一部分だけだったらなんとか維持出来ますが、並の魔剣士でもコントロールが難しい(本に書いてありました)と言われる身体強化を息をするように出来る師匠がおかしいんです。


「あ……」


 角を曲がると少し広い空間に出ました。しかしそこは行き止まりでした。


 土地勘のあるだろう少年が道を間違える筈がありません。私は少年に誘い込まれたのだと理解しました。


「よくやった。中々の上物を連れてきたじゃねえか。ご苦労、これは報酬だ」


「んっ」


 少年は柄の悪い男達と一緒にいて、私から盗んだポシェットを渡してお金を貰っていました。


「あ……私のポシェット」


 少年が「ごめんな、姉ちゃん」と言って私の横を通り過ぎます。


 少年が立ち去ると男達が逃げ道を固め、帰り道を塞ぎました。


(逃げ道を塞がれたからなんですか! 道なら後で作ればいいんです!)


 元々指輪を取り返すまで逃げるつもりはありません。


 ポシェットを盗んだ少年に憤りは感じませんでしたが、代わりにポシェットを受け取った隻眼の男に憤りを覚えました。左目に縦の傷が入っています。入口で見かけた男です。


「私の指輪を返してください!」


「ゆびわ? おっ、あったこれだな」


 ポシェットの中身を雑に漁り、綺麗な箱に入った指輪を取り出します。


「ふん、これの他に大したもんは入ってねぇな。やっぱり金目の物はもう一人の方が持ってたか」


 私の指輪を掌でコロコロ転がして言います。自分の体温が酷く下がっていくのが分かりました。気付けば私は彼等に杖を向けていました。


(人数は全部で5人。大丈夫、私ならやれる)


 決して弱い所を見せてはいけない。


 私は師匠のようにキッと彼等を睨みつけました。そして軽く地面に向けて魔法を放ちます。


 これで退散してくれる……そんな甘い考えをしていた私が馬鹿でした。


「あ? ガキがなに調子こいてるんだ? 腕震えてんぞ、だせーな」


「え、あ……」


 身体は正直でした。どうやら私は彼等に恐怖しているようです。


(どうして……? この前、賊に襲われた時は大丈夫だったのに……あれは師匠がいたから? 師匠がいないと私はダメなの?)


 杖を向けたまま、突っ立っている所を後ろから倒され杖を奪われます。


「あうっ!」


 腕を後ろ向きに押さえられた――!


 地面に組み伏した私に、隻眼の男がしゃがみ込んで言います。


「見たとこ魔法使いみたいだが、お前見習いだな。分かるぜぇー、そういう奴はビビって何も出来やしねぇ。見習いがこんな場所に一人で来てるわけねえからさっき一緒にいたのが師匠だな?」


「――っ、!?」


「ははっ、図星かよ。表情でバレバレだぞ。お前の師匠は教育者として失格だな。そんな初歩的な事も教えてねーとは」


 プチンッ。その言葉に私の中で何かがキレる音がしました。


 私は今自分が捕まっている事も忘れて、限界まで声を張り上げていました。


「――私の師匠はすごいんだ! 強くてカッコよくて、弱い者の味方。なにより、時より見せる笑顔がとっても素敵で可愛い!! そんな私の師匠を何も知らないあなたが馬鹿にするな!!」


 私のなけなしの抵抗にたじろぐ男でしたが、次にはニヤリと気色悪い笑みを浮かべました。


「おおそうか悪い悪い。なら大好きな師匠の事を想って泣いてくれ。それとな、お前の師匠たぶんこっち側の人間だぞ。あの目はやる側の人間だ。そしてお前はやられる側の人間だ」


「なっ、師匠はそんな人じゃ――」

 

「ま、よく考えるといいさ。そこの空き家に連れていくぞ。たっぷり可愛がってから売り捌いてやる」

「やめてっ!」


 いや! 連れて行かれたら何されるか分からない!! もう二度と師匠に会えなくなるかもしれない。そんなのって絶対嫌だ!


「あれ……?」


「ハハッ。兄貴、こいつ泣きやがったぞ」

 

「いいからさっさと立て! ここじゃ目立ってしょうがない」


 彼等は私を無理矢理立たせ連れて行こうとします。

 それでも地面にへばりついて粘っていると仲間の一人が苛立ったのか腕を振り上げました。


「一度痛い目みないと分からねぇようだからな」


(え、なに? 怖い怖い。師匠助けて、助けてください)


 その手が私の顔目がけて振り下ろされます。


 怖くなってぎゅっと目を瞑ります。その瞬間、暴風が吹き荒れ、殴ろうとしていた男と私を押さえていた男が壁に激突する音が聞こえ、目を開けると男は白目を剥いていました。



「うちの弟子に何してやがるんですか?」


 全てを凍てつかせるような、冷たい声が掛かります。

 私の前に守るようにして立っていたのは、黒いローブを靡かせ、三角帽子を被った私がこの世界で一番好きな人でした。


「ししょう!!」


ここまで読んで頂きありがとうございました。

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