ツーショット8
彼女の脚の周りで跳ねるフリルがまるで、綻んだ桜の花びらのようだ
そのワンピースに身を包んだ彼女はまるで、桜の精のように思える
少し夢想的だな
僕はふと自嘲気味に笑みをこぼす
一瞬、シャッターに目を戻したがまたすぐに視線を彼女自身に向ける
僕の様子に彼女はキョトンとした顔でこちらを見つめ返してきた
僕は言った
「疲れたから、休憩しよう」
X
僕らは公園のベンチに並んでいた
すぐそこにここの出身の著名な芸術家の小規模な美術館があって、ここらは景観が良かった
無駄な障害物が一切なく、風が心地よくどこかへ去っていく
「ねえねぇ、写真はどんな感じ?」
最初に言葉を発するのはいつも彼女だ
「まだまだだよ」
僕は自分の靴の爪先を見つめていた
彼女が僕の反応に不満そうに口を窄めたのが、手に取るように分かる
「見せてよ」
「いやだ」
「なんで」
「だって、君が…」
躊躇ったが、僕は最後まで言う事にした
「これを見せたら、なんだか君がいなくなりそうだから」
苦いガムを噛み締めるように言葉は間隔を置かれて口から溢れる
隣に視線を向ける
彼女の頬はほんのりと赤みがあり、その瞳は以前と変わらない輝きを持っていた
僕は、昔これを見た時何と思ったかな
今は、それをどう思って受け取っているんだろう
僕は口を開いた
「何で、僕に会いにきたの?」
彼女は僕の問いを誤解したようだった
「なに?会いたくなかったって?」
僕は首を横に振る
「何の目的で僕に会ってくれたのか教えてくれ」
「だから、コンサートのモデルを君が
「ちがうっ!!」
彼女が言い終わる前に僕は激情を持って彼女の肩を掴もうとした
が、それは不可能だった
僕の行き場を失った両手は力なく振り下ろされ、僕はそれを見下ろした
ちょうどこんな風だった
こんな風に彼女の体を抱き抱えたのだ
正確には彼女の体だったものを
「君は本当は分かっているんだろう、自分自身のことを」
彼女は物に触れようとしなかった
僕以外の人間と口を聞かなかった
僕以外の人間は彼女と口を聞かなかった
彼女は僕の顔を先程と同じ、ん?というような顔で見つめ、何でも無いように当たり前のようにこう言った
「私が死んでるってことを言ってるの?そんな分かりきっている事を?」