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『ツーショット』  作者: 倉科洸
6/13

ツーショット6


あの日は、幾らか暖かかった

日光が柔らかく空気を包んでいて、久しぶりに洗濯物を干すのが苦じゃなく朝からいい気分だった


これから、次第に春へと向かっていく様子が好ましい 

あと、2週間もすれば、早咲きの桜が芽吹くんじゃないだろうか


日曜日の朝だったので、いつも朝飯を作ってくれる妹もこの時ばかりは二度寝に耽る


我が家の家事は完全分担性だ

食事は妹が、掃除洗濯は僕がやる

妹は片道1時間掛けた学校に通ってるので朝はかなり早いのだが、それでもその事に関して文句を聞いた事はない


その日、父は家に居なかった

珍しい事ではあるが、たまにあることだし、夜になるといつの間に帰ってくるので気にはしなかった

誰の声も彼の耳には届かないし、誰の存在も彼の気を止めることはできない

何もしない酒に溺れる無害な男


そして、その日夕方頃になって一本の電話が入る


「もしもし、向井さんのご自宅でお間違いないでしょうか?」


事務的な言葉に、胸の中にじわりと不安が広がる


「はい、向井です

失礼ですが、どなたでしょうか?」


相手の返答から僕が息子だと気づいたようだ


「息子さんですね、お母様はいらっしゃいますか?」


「母はいません」


「お出掛け中でしょうか?

急ぎの用件なのですが」


「母はいないんです」


2度目のそれに相手はようやく悟ったようだ

勘の鈍い奴め

しかし、その事を知らないと言う事はこの地域の人間じゃないようだ


「では、誰か保護者の方は?」


「用件をお伝えください」


「…」


電話の相手が逡巡した後、用件を口にした


僕はまるで、今朝の穏やかさが遠い過去の話のように思えた


父が暴力を働いたのだとそいつは言う

そして、その相手は櫻井裕子だと告げられた



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