ツーショット6
あの日は、幾らか暖かかった
日光が柔らかく空気を包んでいて、久しぶりに洗濯物を干すのが苦じゃなく朝からいい気分だった
これから、次第に春へと向かっていく様子が好ましい
あと、2週間もすれば、早咲きの桜が芽吹くんじゃないだろうか
日曜日の朝だったので、いつも朝飯を作ってくれる妹もこの時ばかりは二度寝に耽る
我が家の家事は完全分担性だ
食事は妹が、掃除洗濯は僕がやる
妹は片道1時間掛けた学校に通ってるので朝はかなり早いのだが、それでもその事に関して文句を聞いた事はない
その日、父は家に居なかった
珍しい事ではあるが、たまにあることだし、夜になるといつの間に帰ってくるので気にはしなかった
誰の声も彼の耳には届かないし、誰の存在も彼の気を止めることはできない
何もしない酒に溺れる無害な男
そして、その日夕方頃になって一本の電話が入る
「もしもし、向井さんのご自宅でお間違いないでしょうか?」
事務的な言葉に、胸の中にじわりと不安が広がる
「はい、向井です
失礼ですが、どなたでしょうか?」
相手の返答から僕が息子だと気づいたようだ
「息子さんですね、お母様はいらっしゃいますか?」
「母はいません」
「お出掛け中でしょうか?
急ぎの用件なのですが」
「母はいないんです」
2度目のそれに相手はようやく悟ったようだ
勘の鈍い奴め
しかし、その事を知らないと言う事はこの地域の人間じゃないようだ
「では、誰か保護者の方は?」
「用件をお伝えください」
「…」
電話の相手が逡巡した後、用件を口にした
僕はまるで、今朝の穏やかさが遠い過去の話のように思えた
父が暴力を働いたのだとそいつは言う
そして、その相手は櫻井裕子だと告げられた




