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お試しでパーティーを組むという約束をした翌日の朝。私たちはジルベルタ王国の東側にある砦の前に集まった。
今日の依頼は大人数が参加するので、まずはここで内容について説明を受けることになっているのだ。
「この日が来ることを待ってました! 姐さんと同じパーティーで戦える日を! いよいよ聖女ソアラのパーティー、試運転開始ですね!」
「エレインさん、大袈裟ですよ。あくまでもお試しですからあまり期待しないでくださいね」
「それでも、あたしはソアラ姐さんと冒険をするっていう夢が一つ叶いました」
「エレインさん……」
彼女は感極まっており、目に涙をためている。
(そこまで喜んでもらえるとは思いませんでした……)
今日はルミアさんに手配してもらったとおりエレインさんとローラさんとパーティーを組んで仕事に参加している。
その手続きの問題で彼女は今日のお仕事にはついてきていないから、宿の手配などは自分で行わなくてはならない。
(それよりも今日のお仕事を成功させることが先ですね)
今回の仕事は一言でいうと狩り。
毎年、この時期になるとスモールドラゴンという小型で非常に繁殖力の高い魔物が大発生するらしく、時期を見て狩りをしておかないと更に繁殖して手に負えない事態になるとか。
そこでジルベルタ王室が国中のギルドからフリーター、またはパーティーを招集して人員を多数取り揃えたらしいのだ。
もちろん、スモールドラゴンの群生地に向かわせ、狩りを行わせる為である。
「エレイン、抜け駆けしてソアラにアピールするのは許さんぞ。――私もあなたと仲間として共に戦えることが嬉しい。この喜びを刃に乗せて戦おう」
「ローラさん……。承知致しました。私も今日はお二人をパーティーの仲間として頼らさせていただきます。改めて、ふつつか者ですがよろしくお願いいたしますね」
「「――っ!?」」
私が挨拶をすると、お二人とも顔を真っ赤にして俯いてしまった。……どうしたのでしょう?
「くっ、姐さんの笑顔が眩しい。天使か、女神なのか?」
「ああ、やはりソアラ……あなたは美しい。その美しさはまさしく天上の光だ……」
「えっと、お二人ともどうされました?」
「なんでもありません……!」
「な、なんでもない!」
「そ、そうですか」
(よくわかりませんね。な、なんの時間だったのでしょう? これは……)
とりあえず、お二人もやる気になっているみたいだから良かった。
それにしても、昨日も思いましたがお二人がここまで気合いが入っているなんて珍しい。いつもはもっとクールなのに。
とりあえず、昨日と違ってお二人が仲が良さそうなのでよかった……。
「待たせたな、諸君!」
「「――っ!?」」
砦の門が開き中から屈強な黒髪の騎士が現れた。
無駄のない筋肉に加えて、自分の背丈よりも大きな剣を背負い、身のこなしもスキがない。
おそらく彼が今回の依頼主である国王陛下の代理人を務める方だ。
「ジルベルタ王国の誇る精鋭たちよ! よくぞ来てくれた! 私はジルベルタ騎士団、団長のセルティオスだ!」
ジルベルタ騎士団、団長セルティオス。卓越した剣の腕前は王国で最強だと聞いている。
もし仮に冒険者をしていたら、最上位ランクのパーティーに所属している実力があるだろう。
「スモールドラゴンは小さいが非常に獰猛な上に、旗色が悪くなると仲間を呼ぶ習性がある。半端に傷付けるな。トドメは必ず刺せ。これだけは絶対に守ってもらおう!」
スモールドラゴン討伐についての注意事項を一通り説明したセルティオスさんは、ドラゴンの群棲地への地図を部下に配らせた。
グルセイヤ湿原――ここからですと、そう遠くはない位置だ。
更にセルティオスさんは私の方に近付いてくる。
「あなたが聖女ソアラか。ふむ、やはり貧弱だ……」
「んだと、この野郎! ソアラ姐さんに喧嘩売ってんのか!」
「エレインさん! 手を出してはなりません!」
さすがに私たちだけに聞こえるような声だったが明らかに敵意を向けられてしまい、少しだけ驚いた。
エレインさんはとても腹が立っているのか、すごい形相でセルティオスさんを睨んでいる。
(揉めごとは起こしたくないのですが、困りましたね)
彼に因縁をつけられる覚えはない。一体私のなにが気に入らないのだろうか。
「数多くの有力なパーティーがお前の実力を買って勧誘しとるらしいが、私はそうは思っとらん。なんせ、あの勇者ゼノン様のパーティーを追い出されたのだからな。何かしらの欠陥があったに決まっておる」
「否定はしません……」
「ふむ。自覚ありか……。そりゃ、そうだ。じゃないとフリーターみたいな底辺職をつづけるはずがないもんなぁ。くく、ゼノン様のパーティーから出ていって落ちぶれたもんだ」
私を嘲笑うようにセルティオスさんは暴言を吐き続ける。
確かにフリーターというのはパーティーに所属できない実力の者が多いが、底辺という言い方はいかにも失礼な物言いだ。
(どうやら、この方はゼノンさんのことを信奉しているみたいですね)
おそらく私が彼のパーティーを追放されてもなお、過分な評価を受けていることが気に食わないのだろう。
「ふっ、醜いな。男のジェラシーは……」
「ほう、こんな女に嫉妬ときたか。くく、笑わせるな」
「ローラさん、私は大丈夫ですから落ち着いてください」
ローラさんの一言を嘲笑するセルティオスさん。
彼は私のことがとにかく気に食わないみたいだ。
「お前がこの依頼を引き受けたという話を聞いた連中が、お前ならスモールドラゴンを百体は討伐すると噂していた。去年までの討伐記録は私の五十五体にも関わらず……、私の前で楽しそうにそんなことを語っていたのだ」
「やはり嫉妬ではないか」
「黙れ。この屈辱、貴様らのようなはぐれ者のフリーターには分からんだろう。――勝負したまえ、聖女ソアラ。この私の討伐数を一体でも上回ればお前のことを認めてやる。その代わり負けたら、今後王宮からの依頼を二度と受けることは許さん」
なんだか、妙な話になった。
色々な方に実力を買ってもらえているのは嬉しいが、まさかこんな勝負を持ちかけられるなんて……。
とにかく、私は私なりに与えられた仕事を自分のペースでこなすとしよう。
私情を挟んだ勝負だなんて、お仕事を下さった方に失礼だ。
「ソアラ姐さん、言い返さなくていいんですか? ナメられてますよ」
「エレインさん。怒ってくれてありがとうございます。……ですが揉めごとはできるだけ起こしたくはないんですよ」
私は今にもセルティオスさんに魔法を放ちそうなエレインさんをなだめつつ、渡された資料に目を向ける。
なるほど。グルセイヤ湿原はスモールドラゴンだけでなく、他の魔物も多く棲息しているようだ。
ワータイガー、ポイズンウルフ、エビルフライなど、この国で仕事をする時によく遭遇する魔物たちも多く棲息しているらしい。
(魔物の出現頻度も年々増しているみたいですし、注意が必要ですね)
セルティオスさんの説明が終わり、パーティーを組んでいる者たちは作戦会議を開始していた。
フリーターの方々も地図や資料に目を通している。
さて、私もエレインさんとローラさんに今後の方針を話さなくては……。
「スモールドラゴンにだけ気を取られると足を掬われてしまうと思います。ターゲットを多く討伐することも大事ですが、まずは身の安全から気を配りましょう」
「はい!」
「承知した」
今日だけはパーティーリーダーという体裁を取らなくてはならないので、私はそれに従って自分なりの指示を二人に出した。
リーダーの経験はないので、正しい指示かどうかは些か不安ではあるが……。
「くく、やはりゼノン様の金魚のフンをやっていたに過ぎん女の出す指示だな。消極的すぎる。保身しか考えぬのは二流どころか三流のやることだな」
どうやらセルティオスさんは私の出した指示を後ろで聞いていたみたいだ。
私を蔑み笑う彼を見て、エレインさんの顔つきが変わる。
「てめぇ! 騎士団長だか、何だか知らないが……! これ以上、ソアラ様をバカにすると――」
「するとどうというのだ? 底辺のフリーター風情がこの私に意見するな」
「「――っ!?」」
怒ったエレインさんが掴みかかろうとすると彼は大剣を抜いて物凄いスピードで振るう。
彼女は咄嗟に距離を取るが、彼の狙いは恐らく――。
「甘いことを抜かしていると、ドンドン差がつくぞ」
「すげー! 騎士団長殿! もうスモールドラゴンを討伐しちまった」
「見えなかったぞ! どうやった?」
「剣圧だ! とんでもないスピードで剣を振って出来た衝撃波だけでスモールドラゴンを倒したんだ」
スモールドラゴンが突如空中から落下して辺りはざわつく。
スモールと言っても牛くらいの、大きさがあるのだ。
なるほど、さすがはジルベルタ騎士団の団長。剣の腕前は超一流と言っても過言ではない。
「どうだ。底辺フリーター共……。こんな胡散臭い聖女に群がることしか出来ぬ愚図たちが。お前らは小銭稼ぎに来たんだろうが、私は国王陛下の信頼を背負っている。信念のないお前ら如きとは剣の重さが違うのだ」
勝ち誇った表情でこちらに蔑んだ視線を向けるセルティオスさん。
(この……、私だけじゃなくて段々エレインたちに暴言を吐くようになりましたね)
私があまりにも情けないから。弱い追放者だと見られているから……。
自分のことを貶められるのは構わないが、二人の尊厳を傷付けるような文言は許せない。
「そうですね。私の剣は軽いかもしれません」
「わかっているじゃないか。所詮は女の細腕……矮小な剣しか扱えぬ。飾りでそんな凶器を持つこと自体、滑稽だな。――っ!?」
「二閃――!」
私はセルティオスさんの目の前で二度剣を振るう。
スピードに特化した私の剣技、“閃光”。その威力は男性の力重視の剣技こそに劣るが――。
「うおおおおっ! スモールドラゴンが二体も落ちてきた!」
「羽根が切り落とされて――心臓に氷の刃が刺さっているぞ!」
「し、信じられねぇ!! どうなってやがるんだ!!」
二体のスモールドラゴンを仕留めた。
剣でスモールドラゴンの羽根を切り落として、落ちた瞬間に初級魔法である氷柱を発動して急所を貫いたのだ。
「な、な、なかなか小手先だけの大道芸は得意みたいだな。私は剣の一撃で倒した。お前は二手もかけている。つ、つまりだなぁ――」
「声が震えてるよ。セルティオスくん」
「ローラさん、煽らないでくださいな……」
私の剣技と魔法を大道芸と切って捨てるセルティオスさん。
確かに私の技には派手さもないし、突出した火力があるわけでもない。
(しかし手数で補い、急所を狙えば与えられるダメージは力の剣技にも負けません)
「う、うるさい! とにかく、たったの二体倒したくらいで――」
「お、おい! こっち見ろよ!!」
「――っ!?」
私が仕留めた他の五体のスモールドラゴンの死体も見つかったみたいだ。
そうです。私が倒したスモールドラゴンは二体ではなく全部で七体。
初級魔法であるアイスニードルなら同時に七つまで術式展開可能。
角度的に討伐しにくい二体は剣技で羽根を落として当てたが、そうしなくても倒せる五体は急所を氷の刃で貫くだけで仕留めていたのである。
「セルティオスさん。確かに私はゼノンさんから追放されました。私が至らなかったことが原因であるのは自覚しています」
「…………」
「ですがそれを理由に、共に戦おうとしてくれる仲間たちを侮辱することは許しません。あなたのプライドを傷付ける事はしたくありませんが、それだけはご理解して下さい」
力の誇示の為に動くなんて、聖女にあるまじき行為だとは分かっていた。
はしたないことをしている自覚もある。
だけど、こんな私をリーダーだと慕ってくれる方々を自分の至らなさのせいで馬鹿にされるのは我慢ならなかったのだ。
「くっ! 弱い剣技と魔法が多少器用に使えるから何なのだ!! 私はお前には絶対に負けん!!」
「きゃっ!」
セルティオスさんは私を突き飛ばして湿原の奥深くに入っていった。
(完全に冷静さを失っているように見えましたが、これはよくない予感がしますね……)
セルティオスさんを追いかける形で私たちは湿原へと足を踏み入れる。
彼のことは気になるが、それよりもパーティーリーダーとして頑張らなくては。
◆
「姐さんだけに頼りっきりじゃあ右腕は名乗れない! 氷竜召喚ッ!」
「ソアラの技はやはり美しい。私も負けるわけにはいかないな。……ダルメシアン流・レッドローズライジングッ!」
グルセイヤ湿原の奥地。私たちは襲いかかってくる大量のスモールドラゴンやその他の魔物たちと戦っていく。
エレインさんがハーフエルフの高い魔力を活かした高火力の魔法で遠距離や空中の敵を牽制しつつ倒し、ローラさんはその機動力を活かして中距離の敵を確実に仕留める。
私は仲間に近付く敵に神経を集中させて倒すことで、パーティーの安全を確保していた。
「これであたしは二十体、ローラは十四体。どーだ、ローラ。あたしの方が討伐してるぞ」
「うるさい。スモールドラゴンは空を飛ぶことができるのだ。貴様のほうが有利に決まっている」
「んだと、負け惜しみを!」
「負けてないのに、どうして負け惜しみが言えるのだ?」
二人の口喧嘩は相変わらずである。
(仲良くなったと思ったのですが、困りましたね)
しかし、ローラさんが言うとおり今回は魔法が使えるというか遠距離射程の技を持っているほうが有利なのは確かだ。
スモールドラゴンの移動範囲がかなり広いので、より多くを仕留めようとするならエレインさんのようなタイプが向いているのである。
「エレインさん。ローラさんもあなたの安全を守りながら戦っているのです。強い魔法を使う際に安心して魔力を溜めることが出来るのは彼女が身体を張っているからなのですから」
私はエレインさんを咎めた。……パーティーとはお互いに尊重し合ってこそ、力を発揮出来ると思っている。
それに仕事量で言えばローラさんも決して引けを取ってはいない。
なんせスモールドラゴン以外の魔物ももちろん襲ってくる。そして、ローラさんはそのほとんどを接近するのと同時に切り伏せていたのだ。
エレインさんが安心して魔法を使えるのは彼女のおかげだと言っても過言ではない。
「うっ……、ソアラ姐さん……。――すまない、ローラ。あたし、調子に乗っちまった」
「えっ? いや、うむ。私もついムキになりくだらないことを言ってしまった。貴様の魔力は頼りにしてる」
エレインさんとローラさんは互いに仲直りしてくれた。
最初はどうなることかと思っていたが、少しずつ急造パーティーにも絆というようなものが芽生えたような気がする。
それは、追放されたあの日まで私がゼノンさんのパーティーに対して一番大事なモノだと信じていたことだった――。
「ソアラ姐さん、そろそろ引き上げますか? スモールドラゴンの数も減りましたし」
それから暫くして私たちは急にスモールドラゴンに遭遇しなくなった。
エレインさんは仕事を終えても良いという合図だと言って引き上げを提案しているが――。
「いえ、何か変です。あまりにも急激に減少し過ぎている気がします」
「うむ。ソアラの言うとおり、妙な静けさだな」
「おや? こちらに向かって誰か走ってきていますね……」
私が減少したスモールドラゴンの気配について違和感を覚えていると、ローラさんが指を差す方向から何名かジルベルタ騎士団の団員の方々が走ってくる様子が見えた。
「聖女様~~! た、た、助けて下さい! だ、団長が、セルティオス団長が~~!」
騎士団の団員は息を切らせながら、自分の来た方角を指差して助けを求める。
どうやら、セルティオスさんの身に何か起きたみたいだが、この静けさと何か関係があるのだろうか……。
(この慌てよう。ただ事ではなさそうです)
「あ、あ、あ、あんなに多くの……!」
「バカみたいにとんでもない化け物が――!」
「死んでしまう。し、死んでしまう~~。ひぃ~~!!」
「お前ら! いっぺんに喋んな! 何がどうなのかさっぱり分からねぇだろ!」
「行きましょう! 一刻を争う事態みたいです!!」
騎士団員の方々のパニック具合から状況を把握することは無理だと感じた私は、危険だが先に進むことを選択した。
人の命がかかっているのなら、聖女としてそれを無視するわけにはいかない。
◆
「くそっ! 次から次へと湧いて出てきてキリがない!」
団員たちが逃げてきた方向に走り暫くすると、大量のスモールドラゴンに囲まれているセルティオスさんがいた。
ここは湿原の奥地にある開けた場所に出た私たちはその異様な光景に目を丸くする。
軽く百体は居た。流石にこの数は異常だ。
「な、なにがあったら、こんなことに!?」
「おそらく瀕死の状態に気付かず、トドメを刺しきれなかったスモールドラゴンいたことが原因でしょう。そしてその瀕死のスモールドラゴンがいた場所が運が悪いことにドラゴンたちの巣の付近で連鎖的に大量の仲間を呼ぶという結果を招いたのではないでしょうか」
スモールドラゴンは傷付けられると仲間を呼ぶ習性がある――それはセルティオスさん自身が私たちに忠告していたことであった。
彼は既に左腕を食い千切られて重傷を負っている……。
普段の彼ならきっとこのようなミスは犯さなかったはず。
私よりも多くの数を討伐しようと焦った結果と、不運が相まってこのような状況を生み出してしまったのだろう。
(腕はもう手遅れかもしれませんが、命だけでもなんとか助けませんと)
「醜いな。自らの功績を誇るために焦り、その結果がこの体たらくとは。――だが、見殺しにするのは私の美学に反する。人数を集めよう」
「あ、あたしも行くぞ。ローラだけじゃ不安だからな」
良かった……。二人とも自分たちを貶めた人間だから見殺しにしようだなんて言わなくて。
もう仲間を信じてパーティーは組めないと思っていたが、その考えは改めても良いかもしれない。
(これを使うと反動でしばらくパフォーマンスは落ちてしまいますが)
「お二人とも助けを呼ぶ必要はありません――」
「「えっ……?」」
「――我流・百閃煉魔ッッッッ!!」
最速の突き技のラッシュ。
秒間百回の突きから繰り出される衝撃波でスモールドラゴンの頭を貫く。
“覚醒者”になれなかった私なりに才能の限界に挑んだ結果生み出した新技。
今の私にできる最大火力の剣技で百体のスモールドラゴンを一気に絶命させた。
「う、ううっ……」
「ひどい怪我です。治癒魔法!」
残りの十体程のスモールドラゴンはエレインさんたちに任せて、私は重傷を負っているセルティオスさんの傷を治療した。
やはり食われてしまった左腕は再生できないが、命はまだ助けられるはずである。
(よかった。血が止まってくれました。あとはこの包帯を巻いて……)
「あうう……、ううっ……、せ、聖女様……。私が間違っていました。私は随分と失礼な態度しか取っていないのに、ううっ……、申し訳ありません」
治療を終えたセルティオスさんは涙しながら謝罪する。
小刻みに震えながら、焦点が合わなくなった目で……。
どうやら死の恐怖というものが余程の大きさだったみたいだ。
「命が助かって良かったです。止血も同時にしていますから少々お待ちを」
治癒魔法をかけながら私はセルティオスさんに応急処置を施す。
血さえ止まってくれれば大事に至らなくて済むはずだ。
「なんという手際。魔法を使うだけでなく、的確な処置まで。せ、聖女様……、あなたこそ本物の聖女様です……」
処置を終えると、セルティオスさんは立ち上がり砦まで自力で歩いた。
責任を持って最後まで仕事は行うとのことだ。
「これにて、スモールドラゴンの討伐任務は終了だ! よくぞ頑張ってくれた! 報酬に関しては所属ギルドを通して支給されるので、各自受け取るように!」
「姐さん! あたしたちの初仕事! 大成功でしたね! お疲れ様です!」
「うむ。やはりソアラがリーダーだと動きやすかった。最後のあの技も見事だったぞ」
こうしてセルティオスさんの言葉によって締められて、三人でパーティーを組んでの初仕事は終わる。
エレインさんとローラさんは私に笑顔を向けて労いの言葉をかけてくれた。
「お二人ともお疲れ様です。私が優れたリーダーというより、お二人が優秀すぎるんですよ。私は大した指示も出せませんでした」
「なにを言ってるんですか! 的確で簡潔な指示を出していましたよ!」
「そうとも。ソアラ、自分を過小評価しすぎだぞ」
「うーん。そうですかね? とにかく今日の疲れを取るために近くの街で一休みしましょう」
新技による消耗が激しくて私は早めに休むことを提案した。
二人は同時に頷いて私たちは宿屋を求めて最寄りの街へと足を進める。
(ああ、それにしても無事に仕事が終わって本当によかったです……)
初めて三人でパーティーを組んでの依頼。それを無事に達成した私は心底ホッとしていた。
「ところでソアラ姐さん、今日はどこに泊まるか決めてます?」
「あっ、いえ……まだです。そうでした。まずは宿を探すことからしなくてはなりませんよね」
街に到着してエレインさんの言葉を聞いて私はハッとしてしまう。
普段はルミアさんが宿の手配をしてくれていたのだが、今回は自分で探さなくてはならないということに気付いたのだ。
こういうときに、彼女のありがたさが身にしみる。
しかし振り返ってみると気心の知れたお二人との仕事は私としても非常に有意義な一日になった。
(パーティーのリーダーですか。私に務められるのかまだ不安ですが……)
そんな物思いに耽りつつ、私たちは帰路につく。
地図によると街の中心地の南側に宿泊施設が点在しているようだ……。多分この辺りに行けば空いている部屋くらい見つかるはず。
私は慣れない土地で慣れない作業をしつつも、なんとか宿を押さえることに成功した。
ふう、良かった。今日は百閃煉魔も使ったし、ゆっくり休もう……。
このときの私は確実に安堵の表情を浮かべていた。
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