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「それではソアラ様! 初仕事となりますがはりきっていきましょう~!」


 フリーター登録をして、三日後の朝。宿屋まで迎えにきてくれたルミアさんが元気な笑顔を見せてくれた。

 しっぽをフリフリしていて可愛らしい。


「よろしくお願いします」

「おまかせください! ソアラ様のお世話を頑張っちゃいます~!」


 そして彼女に案内されて、私は冒険者ギルド付近の喫茶店で、初仕事でサポートするパーティーの方と顔合わせした。 


(人見知りなので、こういうときどうしても緊張してしまいますね――)


「ほ、本当に来た……! 聖女ソアラさん、は、初めまして……! 僕はアーウィン。以前にルルテミア平原でお見かけした時から憧れていまして、共にお仕事が出来て光栄です……」

「こちらこそ、初めまして。微力ながら全力を尽くして頑張らさせて頂きます」


 お互いに緊張しながら挨拶した私たち。

 剣士が二人、魔法士が一人で治癒術士が欠けているパーティーということなので、私はヒーラーに徹すればよいということか。それなら話が早い。


「ルミアです~! ソアラ様のマネージャーをしておりますので、なにかございましたら私にお話くださ~い!」

「あれ? ルミアさんも一緒にこられるんですか? 危険ですよ?」

「もちろんですよ~! このルミア、ソアラ様のマネージャーとしてたとえ火の中、水の中です~!」


 ニコニコと笑みを浮かべて言ったルミアさんは、早速地図を取り出してにらめっこを始める。

 驚いた。マネージャーといっても、まさか冒険にまで付き合うとは。

 これって、かなりの激務なのでは……?


「それでは、ソアラさん。よろしくお願いします」 


 アーウィンさんという方に頭を下げられた私は、フリーの冒険者として最初の助っ人業務に出発した。

 今回のお仕事は北部にある洞窟の奥に湧く“アルテミスの涙”という高級なポーションの原料となる水を汲んでくるというものらしい。


 洞窟にはかなり強力な魔物も棲息しているらしいので、警戒が必要とのこと、だ。


(それにしても、アーウィンさんたちは強そうですね……。私などの助けが本当に必要なのでしょうか)


 目的の洞窟までは深い森の中を通らなくてはならないのだが、道中は順調だった。

 この辺りにはあまり強い魔物はいないらしく、たまに現れるゴブリンなどの低級の魔物くらいしか襲ってくるものはいなかった。 


 それも、前衛の二人が難なく倒してしまうので、私の出番はないに等しい。それに――。


「ルミアさん、魔物がいますので私の後ろに下がっていてください」

「いえいえ、あの程度の魔物。ソアラ様の出る幕ではありませ~ん。そりゃあ~!」

「グキャアッ!」 


 襲いくるゴブリンを殴りつけて、見えなくなるくらいまで吹き飛ばすルミアさん。


(ええーっと、ルミアさん。かなり強くないですか?)


 犬歯を見せながらこちらを振り返る彼女に、私は呆然とする。

 そういえば獣人族(アニムス)の特性は人間の限界値を超える身体能力……。魔力を持つ者はいないらしいのだが、そのぶんパワーが強いのだ。


 そんなことを考えながら歩いているとアーウィンさんがこちらを向く。


「ソアラさんがいるだけで、こんなにスムーズに冒険ができるなんて。やはり聖女様はすごいんですね!」


「え、えっと、私はまだほとんどお役に立てていませんよ?」


「またまたご謙遜を。襲いくる魔物たちすべてに弱体化の魔法をかけてくれていたではありませんか。さすがは千の魔術の使い手だと恐れられていた聖女様です」


 アーウィンさんたちが強いので、ここまで治癒魔法を使う必要がほとんどなかった。

 このままでは給料泥棒になりそうだった私は敵にデバフをかけ続けるという作業をしていたのである。


 こういうのはゼノンさんたちには余計なお世話だと言われていたが、やはり道中で余計な消耗するのは好ましくない。


(差し出がましいとは思ったのですが、よろこんでもらえてよかったです)


 こうして私たちはそのまま目的の洞窟に辿り着いた。


「さて、いよいよ洞窟ですね。準備はいいですか? ソアラさん」

「はい、大丈夫です」


 私たちは、早速洞窟の中に入っていく。

 内部は真っ暗だったが、ルミアさんが持っている魔法のランタンのおかげで視界は確保されている。


「気をつけて下さいね~! ここの魔物はそれなりに強力ですから~!」

「はい、分かりました。慎重に進みましょう」


 ルミアさんの言葉を聞いてアーウィンさんたちも周囲を警戒しながら進みはじめた。

 彼女はマネージャーとしてこのあたりの魔物についても調べてくれているし、魔法のランタンを始めとして必要なアイテムも持ってきてくれているし、素晴らしい仕事をしてくれている。


(頼りになる方ですね。おかげで助かりました) 


 それからしばらく進んだところで、私はふと違和感を覚えた。


(なんだか、妙な気配を感じます。これは――)


「――っ!? みんな!  敵がくる! 構えろ!」


 私がその正体を探ろうとした瞬間、アーウィンさんが声をあげた。

 直後、洞窟の壁をすり抜けて現れた巨大な影が私たちに襲いかかってくる。


解析魔法(アナリスク)……!」


 影の正体を探るべく私は魔法を使った。すると、目の前にいる存在がはっきりと見えるようになる。


「あれは、オーガ……!」


 そこにいたのは、鬼のような姿の魔物。

 筋骨隆々の巨体を誇るオーガが三匹もいた。

 影に隠れて人を襲うという臆病な一面を持つこの魔物。普通に戦ってもかなり強い。

 強力な魔物がいるとは聞いていたが、これは中々の大物である。


(んっ? この大きな足音はなんでしょう?)


 影の正体を見極めるのと同時に今度は正面からさらに大きなものの気配を感じる私。 


「ぐおおぉおおっ! 美味そうな獲物じゃねえかぁ! お前ら、食っちまえ!!」

「「「うおおおおっ! 肉ぅ! 久々の肉ぅ! 腹いっぱい喰うぞおおお!」」」


(これはまた、恐ろしい魔物が現れましたね)


 ギガントロール――オーガよりも遥かに危険なオーラを放っている怪物だ。それも四体……。


「ひぃ……! あ、あ、あんな化け物と戦うなんて聞いていませんよ!?」


 怯えた様子で後ずさるアーウィンさん。

 無理もない。あのオーガより強いと思われるギガントロールは、明らかにこの洞窟には本来いないとされる危険度の高い魔物だ。


(これはヒーラーに徹するのは厳しいかもしれません)


 アーウィンさんたちは強い。実際、道中で魔物と戦っている姿を見て私はそう思っていた。

 しかしながら、その実力を以てしてもこの化物には敵わないだろう。 


 ギガントロールは魔王の幹部のアジトを守っているような魔物。その強さは熟練の冒険者でも逃げるのが正解と言われるほどだ。


(最初の仕事からイレギュラー。ですが、せっかく手に入るかもしれない新しい居場所を諦めるわけにはいきません)


 私は追放されたとはいえ、元勇者のパーティーの聖女。

 そうあろうとして努力も続けてきた。


(今、私がすべきこと。それはこの魔物たちを一掃して……最初の仕事を完遂することです……!)


収納魔法(アイテムボックス)!」


 私は初めてこの魔法を使う。ゼノンさんには私物を持つことをほとんど許されていなかったから、この魔法も不要だったのだ。


 だけど、今はフリーター。私は自分の使える武器はここに収納しておいて、いつでも取り出せるように準備していた。


「ソアラさんが剣を……!」

「アーウィンさん。ギガントロールたちとあなた方への援護は私が引き受けました。皆さんはオーガたちをお願いします」


 ヒュンと剣を振って、私は巨大な魔物と対峙する。


「お嬢ちゃん、オレたちに勝てると思ってるのか? 女ごときが剣を持ってもオレに傷をつけられるかよ!」

「…………」

「へえ、無視とはなかなか度胸のあるお嬢ちゃんだ。気に入ったぜ。オレが……喰らってやる!」

「オデも女は好き。だから、オデの女にしてあげる……」

「グヘヘッ! 女の肉は柔らかいからなぁ! たっぷり味わわせてもらうぜぇ!」


 私を見て、ギガントロールたちは下卑た笑みを浮かべる。

 そして、次の瞬間、一斉に襲い掛かってきた。


「――はあっ!」


 私はまず、一番近い個体に向かって斬りかかった。


「グギャアアッ!」


 急所である首筋の動脈に私の一閃を受けたギガントロールが倒れる。

 これには他の個体たちも驚いたみたいだ。


「なにぃ!?」

「速い……!」

「オデの速さについてくるなんて……!」


 ギガントロールたちがそれぞれ驚きの声をあげる。


「次は……あなたです!」

「うおっ!?」


 今度は別の一体を斬った。

 もちろん、迅速に急所を狙って……。


「おい、テメェ! ぼさっと突っ立ってんじゃねえ! 二人でいくぞ!」

「お、おうっ!」


 仲間がやられて動揺している二体のギガントロールたちは今度は同時に攻撃を仕掛けるようだ。

 あの巨体で俊敏さもあり連携もできるとは……。油断しているところを一気に仕留めたかったが、やはり強い。


「くそっ! オーガめ!」

「グオオオッ!」


 アーウィンさんもオーガに苦戦しているみたいだし、これは敵に勢いを与えてはならない場面だ。


「仲間たちの援護もする約束ですから、もっとギアを上げますよ」

「「――っ!?」」

治癒術(ヒール)! 岩砕破風斬! 極大火炎弾(メテオノヴァ)ッ!!」

「ま、魔法陣を二つ同時に展開した上で、強力な剣技まで……! な、何て人だ……! 剣術も魔法も全て一級品だなんて!」


 アーウィンさんがオーガの攻撃を受けてダメージを負っていたので、私は剣術と魔法を同時に使用する。

 聖女として、よりパーティーを上手く援護できるように私は一度になるべく多くの動作をするように心がけていた。


(前世で複数の動作を同時に行うことには慣れていたので、その応用が上手くいったのは助かりましたね)


 それによって魔法は簡単なものなら同時に七つまで、複雑な術式でも同時に二つくらいなら発動可能になったのだ。


 私はこの技術を多重スキル同時使用(アンサンブル)と名付けている。


「ば、バガなぁ」

「ごふっ……!」

「さあ、あとは任せましたよ」


 ギガントロールたちを屠った私はアーウィンさんたちに声をかける。


「あ、ああ……! さすがはソアラさんです! 今度は俺たちの番だ!」

「「グオオオッ!!」」


 アーウィンさんたち三人がオーガに立ち向かっていく。

 そして上手く連携をして敵を圧倒していた。


(どうやらうまくいきそうですね)


 私はほっと安堵の息をつく。 


 それからは問題なく、私たちは残ったオーガたちも殲滅していく。

 アーウィンさんの剣の腕前はかなりの実力で、オーガの硬い皮膚も切り裂いて倒せていた。


 他の二人もそれぞれの得意分野を生かして戦っていたため、危なげのない戦いだったと思う。

 私は回復役としても動けたし、無事に最初の依頼を終えることができそうだ。


「ありがとうございます。ソアラさんのおかげで無事に“アルテミスの涙”を手に入れることができました」


 アーウィンさんたちにお礼を言われる。


「いえ、皆さんの協力があったからこそですよ。私も皆さんのお役に立てて嬉しいです」

「ソアラさんは謙虚なんですね」

「そんなことはありません……」


 私は首を横に振る。

 謙虚というより自信がまだないのだ。

 パーティーを追放されたショックから立ち直れていないから……。

 でも、彼らの役に立ててよかったと心の底から思っている。


「よかったら、また次も一緒にお仕事がしたいです。マネージャーさん、次にソアラさんと一緒に仕事をするとしたらいつ頃になりますか?」

「ええーっと、三ヶ月後ですね~」


(すっごく増えてませんか……?)


 思わずツッコミを入れそうになった。

 私の記憶では、三日前は一ヶ月だったはずだけど……。


「やはりソアラさんと冒険したがるパーティーは多いんですね。それでは三ヶ月後で、お願いします」


(それでも予約してくださるんですね……)


 こうして私は三ヶ月後に再び、彼らと一緒に依頼を受けることになった。

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