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「聖女って聞いてたから、そのうちSランクスキルに覚醒するって思ったんだが。何もかもが凡庸な劣等聖女であるお前はもう要らない」


 それは青天の霹靂と言っても過言ではない。


 昼食を取るためにパーティー四人で訪れたレストランで私たちはいつもどおり食事をしていた。お昼時だけあってお客さんも多く、店内はガヤガヤと騒がしい。


 そんな中で食事を終えるなりゼノンさんは勇者である自分のパーティーに私は要らないとはっきり告げたのだ。


(えっ? 私を勧誘したのはゼノンさんのほうですよね?)


 食事をしながら本を読んでいた私は驚きすぎて声が出なかった。


 忘れもしない二年前、強引に私を教会から引っ張り出してパーティーに入れたのは彼自身。


 それから私は研鑽を怠らずに古今東西の千を超える魔術や、剣技、鞭、弓、ブーメラン、トンファー、あらゆる格闘技を一流と呼ばれる水準まで精度を高めてスキルを習得した。


 幸運なことに前世で得意だったマルチタスクが活きて、多くのスキルを覚えることができ、冒険にも大いに役立っていた。


 それに最近……私たちのパーティーは魔王軍の幹部撃破という功績を上げたのだが、私もそれなりにパーティーに貢献したという自負があった。


 今、最も魔王の討伐に近いと言われるまでに成長した勇者ゼノンのパーティー。私もその一員として恥じぬようにと気合を入れているつもりだった……。


 どうやらそれでもゼノンさんからすると、劣等聖女だと揶揄するくらい使えない人間だったみたいである。


「凡庸と言われましても、私も努力して色々とスキルを修得していますし、貢献もしているはずです」


「はは、器用貧乏なだけだろ? お前のチンケなスキルなんてSランクスキルに比べたら何もないも同然なんだよ。お前だけだぞ、一芸に秀でたスキルを持ち合わせていないのは」


 私の主張を、ゼノンは嘲笑った。

 私のスキルなど矮小で無価値も同然だと……。


 確かに治癒術士リルカさんや剣士アーノルドさんは選ばれし天才だけが得ることが出来るという“Sランクスキル”に覚醒している、いわゆる“覚醒者”。


 リルカさんは一度に大人数の体力を大幅に回復する治癒魔術を、アーノルドさんは岩山をも木っ端微塵にする程の剣術を覚えて人間の限界を超えた力を得ている。


 もちろんゼノンも覚醒しており勇者として相応しい力を持っていた。

 Sランクスキルに覚醒していないのは私だけ。

 ゼノンが私のことを器用貧乏で凡庸な人間だと揶揄するのにはそんな背景があったのだ。


(嫌な予感はしていました。聖女の天啓を得たとき、覚醒者になれなかったのですから)


 前世で憧れていた刺激的な生活。

 確かにその願いは叶ったし、努力の末に気が弱かった自分もそれなりに自信がついてきたのに……、その終着点がこんな扱いとは。


 やはり人生とはどこの世界でも上手くいかないものである。

 いや、まだ諦めるには早い。私は“覚醒者”ではないが、役に立っていたはずだ……。


「ゼノンさん。考え直してください。私が抜けたら困ることもあるはずです」

「ああ、戦力なら気にしなくていいぞ。実はな、“Sランクスキル”に覚醒していて、しかも王家の血を引くというエリスという名の聖女を新たにパーティーに勧誘しようと思っていてな」

「はぁ……」

「お前さえ居なくなれば、全員が“覚醒者”という世界一ハイレベルなパーティーが完成するのだ。……もう一度言うぞ。ソアラ……お前さえ居なくなれば、このパーティーは最高のパーティーになるんだ」


 全員が“覚醒者”という世界一ハイレベルなパーティーか。

 これは完全に私がお邪魔虫、という感じみたいだ。

 今までの努力が何もないも同然とは、釈然としないけど、ゼノンさんは本気でそう思っているみたい。


「私は戦力外ということでしょうか? Sランクスキルが無くとも十分に皆様を援護しながら戦えていると思うのですが」


 それでも私はまだ引けない。

 パーティーの中で仲間の為に役に立っているという自信もようやくついたというのに、Sランクスキルに覚醒出来ないという小さな理由で追い出されるなんて到底承服出来ない。


 昔……というか前世から不当なことには不当だと主張せずにはいられない性格だったので私はゼノンさんの主張に反論をした。


「くっくっく、おいおい、なぁ聞いたか? この女、自分が僕たちを援護していると思っているらしいぞ!」

「うそー、マジでウケるんですけど。だって、ソアラって一人しか治療出来ないじゃん」

「岩を斬り落とすことが限界の女などに助けられた覚えはない」


 ゼノンさんが馬鹿にしたような声を出すと、リルカさんもアーノルドさんも私なんかに助けられたなんて微塵も思っていないと断言した。


(そ、そうだったのですか。私の力は本当に無力だったのですね……)


 驕っていた。努力すればきっとこのパーティーに貢献出来ると思ってたのに……。


「私は器用貧乏の役立たず、ということですか」 

「ようやく理解したか? 相変わらず鈍臭い女だな……。さっさと出ていけ!」

「わ、分かりました。出ていきます。そ、それでは……、あ、あれ? ……あ、あの私の鞄の中身は?」


 私は荷物を持って店から出ようと思ったが、鞄の中が空っぽになっていることに気付く。


「あー、居なくなるやつの持ち物なんて売るに決まってんだろ? 今まで、僕らの金魚のフンやってた迷惑料だと思えば文句もあるまい。消えろ、この劣等聖女が!」

「くっ……! ぜ、ゼノンさん、あなたはそこまで私を……」


 こうして私はゼノンさんの嫌がらせで無一文でパーティーから追放された。

 勇者のパーティーにとって私は要らない存在だったのだ。


 今までの努力によって得た自信も、僅かに持っていた物資や現金や何もかもも失って――私の精神は崩壊する寸前である。


「ですが、せっかく二度目の人生を与えてもらえたのですから。私は負けるわけにはいきません」


 この身には精一杯生きることができなかった前世のソアラの魂もある。

 彼女にできなかった生をまっとうして幸福を掴むまで――。


(私は生きることを諦めません)


「とりあえず、無一文の状態をなんとか脱出しましょう」


 私は自分のできることを探すために一人で歩みを進めた。

 どうしよう。うーん、なんとかお金を稼ぐ方法を見つけなくては……。

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