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「ところで魔王軍の主力とはどのような者たちがいるのでしょう? わたくし、勉強不足なのであまり詳しくないのですが……」
しばらく進んだ頃、馬車の中で向かい合って座っていたエリスさんが私に質問してきた。
「私も詳しくは知らないのですが……確か、魔族の中でも上位に位置するような方々が魔王の幹部になっていると聞いたことがあります。氷の女王もそうでしたが圧倒的な魔力を有しており、誰もがSランクスキル級の火力を持ち合わせている、と」
私は以前に本で読んだ知識を思い出しながら説明する。
幹部クラスとの戦いはゼノンさんのパーティーにいたときに炎の魔城でも経験しているので、二回ある。
そのどちらもまさに死闘であった。
「やはり氷の女王ぐらい強い魔族との戦いは想定しておかなくてはならないのですのね。気を引き締めなくてはなりませんわ」
「……甘いな、エリス。もっと上の力を持つ魔族と複数回戦うことくらいは想定せねばならんぞ」
「総力戦ですからね~」
さすがはローラさん。戦場というものをよく知っている。
今度は魔王軍が戦力を結集しているのだ。
連戦という状況になってもおかしくない。
「ええーっ! それではわたくしたちの戦力では不足ではありませんか?」
「バーカ。だから、エデルジアに各国の強豪パーティーを揃えてるんだろ。あたしたちだけじゃ敵わなくても、力を合わせればわからねぇだろ」
「ああ、なるほどですわ。さすがはエレインさん」
エレインさんの言うとおりだ。
この大陸にはいくつも有力なパーティーが存在する。
勇者ゼノンのパーティーは結成してたったの二年で炎の魔城を攻略した早さを評価され、一番魔王討伐に近いと言われていたが、純粋な戦闘力で言えばもっと大きな力を持つベテランパーティーも存在するのだ。
「でもでも~、ソアラ様もおりますし~。私たちのパーティーも結構強いんじゃないですか~」
「うむ。我々にも氷の女王ケルフィテレサを討ち取ったのだからな」
ルミアさんとローラさんは私たちのパーティーもかなり強いのでは、と自負する。
魔王軍の幹部を倒した実績のあるパーティーはそうはいないので、彼女らの自信は決して過信ではない。
「そうですね。確かに自信を持つべき功績とは思いますが、この大陸だけでももっと強いパーティーは存在しますよ。例えば千年魔女フィーナ様のパーティーとか」
「――っ!?」
「あれ? エレインさん、どうかされましたか?」
「い、いや、なんでもないですよ。姐さん」
「そうですか……」
私の言葉を聞いて、エレインさんが一瞬目を見開いたような気がした。
(気のせいですかね)
なにか変なことを言った覚えがないから、おそらく見間違えだろう。
「千年魔女フィーナ様の名前は存じていますわ。確か、この大陸において魔王軍の幹部の討伐数は第二位。パーティーの平均年齢は断トツ一番の高齢パーティーですよね? 先輩」
「ええ、フィーナ様はハイエルフにして覚醒者。その魔王級と噂される無尽蔵の魔力はSランクスキルを連発しても尽きることはないのだとか」
ベテランパーティーのことを語るとなると、千年魔女の異名を持つフィーナ様のパーティーは外せないだろう。
キャリア、実績は間違いなくトップクラスだ。
「あたしはこのパーティーはどの有名パーティーにも負けてねぇと思ってますけど。……てかこんな話、どうでもいいじゃないですか。ねぇ? 姐さん」
「エレインさん? 急にどうしたんですか? 私は他のパーティーについて情報を整理するのも大事だと思いますよ」
「い、いえ、別に……」
なぜか、急に機嫌が悪くなったように感じられた。
この話題はあまり好きではないのだろうか。
「……す、すみません、姐さん。あたしは幹部討伐数ナンバーワンの剣神レオンのパーティーにだって、このパーティーは劣っていないって言いたかっただけですから」
「そうですか……」
バツの悪そうな顔をしてそっぽを向くエレインさん。
やはり彼女の態度は普通じゃないような気がする。
「剣神さんといえば、剣士さんがリーダーの有名なパーティーって多いですよね~。剣聖ガイア様、剣王レヴィン様、剣帝リーベル様、大剣客ディオス様。なんででしょうかね~?」
変な空気になったからなのかルミアさんが話題を変えてくれる。
(彼女の言うとおり、やたら多い気はしますね……)
「ふむ。それはやはり剣こそが最も使い勝手の良い武器であるからであろうな。槍などに比べて取り回しがしやすい。弓などの飛び道具は使いどころが難しい上に、威力もそこまで高くはないからな。使い手も少ないのだ」
「姐さんはその点すごいですよね。どんな武器も使えば一流の腕前ですもんね」
「昔から器用さだけは自信がありましたから。自分にできる範囲のことを精一杯頑張ろうと思った結果ですね。ですが最近はローラさんと修行しているからなのか剣を使うことが多いですよ」
私は自分の手を見てギュッと拳を握る。
この小さな手でできることなんて限られているかもしれないけれど、それでも私は私の全力で仲間のために戦いたい。
「すごいパーティーが沢山あるのはソアラ先輩の仰るとおりだと思います。ですが、わたくしはやはりこのパーティーには特別な何かがあると思えてなりませんの」
「エリスさん……そうですね。私もなにかあると信じて皆さんとともに高みを目指そうと思います」
そう。私も自惚れが強いだけなのかもしれないが、このパーティーならきっと……!
そんな予感がしていた。
「――ソアラ、雑談はここまでだ。魔物の気配がするぞ」
「ええ、そのようですね。皆さん、戦闘の準備を!」
私たちは馬車から降りて、周囲を警戒しながら慎重に歩みを進める。
すると、前方からゴブリンの集団が現れた。
ざっと見て二十体以上いる。
(かなり多いですね。でも、これぐらいならなんとかなるはず!)
「私が正面を受け持ちます! ルミアさんは後方からの支援をお願いします! エレインさんとエリスさんは左右から回り込んでください! ローラさんは私とまっすぐ突っ込みましょう! 」
「うむ! 承知した!」
「任せてくださいまし!」
「はいです~」
「よし、いくぜぇ! 」
私の指示に従って一斉に動き出す。
まずは私が先頭にいるゴブリンの群れに突撃した。
一気に群れの中央付近まで駆け抜け、すれ違いざまに一体の首を斬り飛ばす。
そして勢いのまま振り返り、次の獲物に狙いを定めようとするが――。
ヒュンッという風切り音が聞こえたかと思うと、目の前のゴブリンの首が宙に舞っていた。
「ソアラ、背中はこの私の剣に任せてもらおう」
ローラさんが、その巧みな剣術で援護してくれたようだ。
「エリス、あたしらも負けてられねぇよな!? 炎蛇」
「ええ、もちろんですわ。光の精霊たちよ。わたくしの声に応えて。光の刃となり敵を焼き尽くしなさい。光の矢雨」
魔法で生み出された炎の蛇が、光の矢の雨が、ゴブリンたちを左右から襲う。
この攻撃により、十数体のゴブリンが瞬く間に倒れた。
「おお~、二人とも強いですね~」
「まぁな。この程度の相手、アタシらの敵じゃねえ」
「わたくしたちの力があればこの程度余裕ですわ」
二人は余裕の笑みを浮かべつつルミアさんから魔力回復効果のあるレッドポーションを受け取っていた。
「回復はおまかせくださいね~」
「助かるぜ」
「ありがとうございます」
そうこうしているうちに、私たちの周りに集まってきたゴブリンたちは次々と倒されていく。
あっという間にすべて倒し終えると、私たちは馬車へと戻ることにした。
やはりこのパーティーの連携は素晴らしいものがある。
個々の能力が高いうえに、お互いの力を把握しているからこその動きができる。
(エリスさん、やはりあなたの仰るとおりですね)
こんなふうに一緒に戦えることを嬉しく思いながら、私は皆のもとへ戻った。
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