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 その姿を見た瞬間、私は絶句する。

「ゼノン、さん……」

 そこにいたのは間違いなくあの勇者ゼノンであった。

 彼は無言のまま、私たちを見つめている。

 その瞳からは生気が感じられず、まるで人形のような印象を受けた。

「ゼノンお兄様は私が作り出した実験体第二号なの。ふふ、びっくりした?」

「……なんということを」

「あれ? あんまり驚いてないんだ。もっと驚くと思ったの」

 アストはつまらなそうにしている。

 だが私は衝撃のあまり声が出せなかった。

 まさか、彼女が人間を材料にした魔族を生み出していたなんて……。

「どうして、そんなことを……」

 なんとか言葉を絞り出す。

 彼女は口元に手を当てながら笑みを浮かべた。

「だって、人間が憎かったの。この世界を我が物顔でのうのうと生きている人間はみんな嫌いなの。魔王様はまだ本気を出してくれないし、私が頑張って殺す努力をするしかなかったの」

「……」

 私は言葉を失う。

 魔族の少女は心底楽しげに語ったが、その内容はあまりにも狂っていた。

(とにかくゼノンさんをどうにか元に戻しませんと……)

「さぁ、ソアラお姉ちゃん。ゼノンお兄様があなたを殺したいって。……ゼノンお兄様は、すごく強いの。お姉ちゃんたちを皆殺しにするくらいなの」

「くそぉ! この野郎! はなせぇ!」

 エレインさんは依然として黒い霧の中で暴れているが、魔法によって動きを封じられている。

 このままでは危ないかもしれない。

「……あなたの主張はわかりました」

「ソアラお姉ちゃん、怒っているの? ふふ、その顔好きだよ」

「まずはエレインさんを返してもらいます」

「えっ?」

 エレインさんを覆っている黒い霧が胡散すると、アストは初めて驚いた表情を見せた。

「あらまぁ。すごいの。魔法耐性のある結界を張っているのに、あっさり解除されちゃったの」

「長話をしてくれたおかげで、ある程度の分析はできましたから」

 アストが話している間も私はエレインさんの拘束を解こうと頭をフル回転していた。

 幸いそこまで複雑な術式ではなかったので、私のトラップ解除魔法を使ってなんとか彼女を救出することに成功する。

「姐さん、ありがとうございます! おかげで助かりました!」

「エレインさん! 無事でよかったです!」

 私たちはお互いに握手して、喜び合う。

 するとアストは目を細めて私たちを観察し始めた。

「なるほど、やはりソアラお姉ちゃんは強いのね。ゼノンお兄様の強さを測るには申し分ない相手なの」

「……ゼノンさんを元に戻してくれませんか?」

「うん? ……ソアラお姉ちゃんはバカなの? ゼノンお兄様はあなたと今から殺し合いをするんだよ?」

 アストが指を鳴らすと、ゼノンさんの瞳が紫色の光を発する。

 次の瞬間、彼は……アストを思いきり蹴りつけた。

「くっ!」

「この僕に魔族が指図するな! 僕は、僕は! 誰の指図も受けん! 力だけもらうためにお前を利用したんだ!」

「きゃあ!?」

 ゼノンさんはアストを押し倒し、マウントポジションを取る。

 そして何度も拳を振り下ろした。

「さすがは私が作った最高傑作なの……、プライドが高すぎて言うこと聞かないのは難点だけど」

「黙れぇ! この魔族のガキめ!」

「うぐっ」

 アストの顔から血が流れる。それでも彼女は抵抗することなく、されるがままになっていた。

死神ノ唄(デスボイス)……!」

「うがああああ! 頭が! 頭が割れる!」

 突如としてアストから放たれる不快な音。

 まるで聞いたことのない言語で言葉なのかすらわからない。

(頭が締めつけられて、生命力が直接持っていかれそうになります)

 仲間たちも皆苦しんでいる……。このままではまずい……。

破邪結界(アンチデモン)!」

 私は魔力を練り上げて、仲間全員に補助魔法をかける。

 これで多少なりとも彼女の不快な音波の威力を軽減することができるはずだ。

「……流石ソアラお姉ちゃんなの。私の唯一の攻撃スキルをあっさりと防ぐなんて。……でも、ちょっと遅いの」

「どういう意味ですか?」

「ゼノンお兄様の調教が完了したの。今のお兄様はソアラお姉ちゃんを殺すことしか考えられないの」

「なんだと!?」

「うがああああ!!!」

 ゼノンさんは叫びながら立ち上がると、私を睨みつける。

 彼の身体からはどす黒いオーラのようなものが漂っていた。

「ゼノンさん、正気に戻ってください!」

 私は呼びかけるが、彼からの返事はない。

 まるで理性のない獣のように、鋭い眼差しを向けているだけだ。

(これは本当に手加減をしている余裕がないかもしれません)

「ソアラ! お前のような劣等聖女がこの僕を見下すなァァァ!!」

「くぅ……」

 ゼノンさんの拳が迫る。

 私はそれをなんとか回避するが、あまりの速さに冷や汗が止まらない。

「ふふ……ゼノンお兄様、魔族のスキルを見せてやるの」

「がぁ!」

 ゼノンさんは私の動きを読んでいたのか、瞬時に距離を詰めると、両手で私の首を掴んできた。

 そのまま体重をかけて押し倒される。

「かはっ! く、苦しいです……!」

「ソアラお姉ちゃん、もう終わり? お兄様は全然本気を出してないのに」

 体格差があるが、ここは柔術を使ってどうにか脱出を試む。

 相手の力を利用して、受け流すイメージ。

「なっ!? ソアラ! くそっ! こんな小細工で!」

「ぐ、ぐう」

 だが、ゼノンさんの力は想像以上に強く、技が決まらない。以前も力が強かったが、今は岩山をも粉々にしたアーノルドさんよりも遥かに強い……。

 首への圧迫が強すぎて油断するとすぐにへし折られる気がした。

 このままだと、まずいかもしれない。

「姐さんになにしやがる! 炎蛇フレアスネイク!」

「小賢しい!」

 エレインさんが放った魔法は、ゼノンさんの拳によって打ち消されてしまう。

 しかし、その隙になんとか脱出することができた。

「ごほっ、ごほ。ありがとうございます、エレインさん」

「いえ、それよりどうしますか? ……あいつ普通じゃありませんよ」

「それより、こんなところで戦っては被害が計り知れません。外に出ます」

「ソアラ様~、こんなときでも周りのことを考えていたんですか~?」  

 仲間たちと顔を見合わせて、私たちは窓から外に出て走る。

 この宿から少し離れた場所に開けた場所があったはずだ。そこなら、戦いやすいはず。

(それにしても……ゼノンさんの力が強すぎる。今の彼は人間じゃない)

「ふふっ、ソアラお姉ちゃん、鬼ごっこがしたいの? いいの、ゼノンお兄様が捕まえたら、すぐに殺しちゃうけど」

「ソアラ! この僕のSランクスキル聖炎領域(セントバーナード)に代わる最強の新スキルを見せてやろう! 闇鴉の爪(クロウクロー)

 ゼノンさんは指を鳴らすと、上空に大きな魔法陣が現れる。そこから何か巨大なものが降りてきた。

「なっ……あれは!」

 現れたのは……とんでもない大きさの鴉だった。

 その鴉はゼノンさんの体の中に入り融合する。

「があああ!」

 彼の赤髪は真っ黒に染まり……そして雄叫びをあげると、翼を大きく広げた。

「すごい……、あんな大きな鳥は初めて見ました~」

「ルミア、呑気なことを言うんじゃねーよ。……つーか、これやばくね?」

「あれがゼノンさんだなんて、信じられませんわ」

 仲間たちも呆気に取られている。

 それほどまでにゼノンさんの変貌ぶりは凄まじかった。

(……まさか、これほどとは)

「あははは! これが僕の新しい力だ! さぁ、ソアラ。お前には絶望を与えよう」

「…………」

 正直、なぜゼノンさんにここまで恨まれているのかわからない。

 アストさんに操られているだけかもしれないが……。

 だけど、ここで私は負けるわけにはいかない。

 負けてしまったら王都がとんでもないことになる。

「……みなさん、力を貸してください。ゼノンさんからはあの氷の女王ケルフィテレサ以上の力を感じますが、このまま放置するわけにはいきません」

「ええ、そうですわね。ソアラ先輩……わたくしたちでゼノンさんを止めましょう」

「そんなの当然だ!」

「頑張りましょ~」

「ソアラ姐さん、あたしはいつでも準備万端ですよ!」

 頼れる仲間がいる。だから私は安心して戦うことができるんだ。 

 みなさんと力を合わせれば、きっと……。

「ゼノンさん、あなたを救います!」

「ソアラァ!! お前だけは許さないぞ!!」

 黒い巨鳥と一体化したゼノンさんが、私に向かって突進してくる。

 私はそれを避けようと横に跳ぶ……が、それは罠だったようだ。

「なっ……!」

 私の着地地点には魔法陣が敷かれていて、そこから闇の鎖が伸びてくる。

 その鎖は私の足に絡みつくと、そのまま空中に持ち上げられた。

「ソアラになにをする!」 

「許しませ~ん!」

「黙れ! 雑魚ども!!」

 ローラさんが剣で、ルミアさんが拳で、それぞれ攻撃を仕掛けるが……しかしゼノンさんは難なくその黒い翼で防いでしまう。

「なにこれ、全然攻撃が通じないです~」

「ソアラ、今助けてあげるから待っていろ!」

「邪魔だ! 消えてろ!」

 ゼノンさんの蹴りが二人を襲う。二人はそれをまともに喰らい、遠くまで吹き飛ばされてしまう。

「うぅ……」

「強すぎます~……」

「次はわたくしの番ですわ! 栄光への道(シャイニングロード)ッッ!」

 エリスさんは両手を合わせてSランクスキルである最大出力の光系魔法を放った。

 さすがは私たちのパーティーで最高の火力を持つ魔法。

 ゼノンさんは私の拘束を解いて両手で防御するが……しかし、それでも威力を殺すことができずに後方に押し戻される。

「くそっ、なんて馬鹿げたパワーなんだ! だが、この程度ならいくらでも耐えられる」

「なら、これはどうです? 聖雷槍撃波(ライトニングランス)!」

 今度は、私が全力の魔法を放つ。

 聖なる光の力を纏った巨大な槍をゼノンさんに向けて放つが……しかし、これもまた簡単に弾かれてしまった。

「無駄だよ、ソアラ! エリスのSランクスキルならともかく劣等聖女であるお前が僕を傷つけられるものか」

「そんなことは……やってみなければわかりませんよ? 聖雷槍撃波(ライトニングランス)五重奏(クインテット)!」

 今度は五発連続で光の槍を放つ。これはケルフィテレサにも通用した魔法の運用だ。

 これで多少なりダメージを与えられるはず。

「さっきよりマシだが軽いねぇ! そんなのじゃ僕は倒せない。お前のような凡人の努力など僕には通用しないんだよ!」

「くっ……やはりダメですか」

「ソアラ、大丈夫!?」

「はい、問題ありません。今度は剣技で戦おうと思います。ローラさん、合わせてください」

「「闘気術(バースト)」」

 私とローラさんは同時に闘気術(バースト)で身体能力を上げて剣を構える。

「いくぞ、ソアラ」

「はい!」

 二人でゼノンさんに斬りかかるが……しかし、その瞬間、ゼノンさんの体の中から漆黒の鴉が飛び出して襲いかかってきた。

「きゃあああ!!!」

「ぐあっ!!」

 私たちはなすすべもなく弾き飛ばされる。

「あはは! 僕の勝ちだ! 身体強化で多少強くなったつもりだろうが、所詮は脆弱なスキル! 僕の闇鴉の爪(クロウクロー)に蹂躙されることには変わりない!」

 ゼノンさんが勝利宣言をする。

 私は悔しさで歯噛みする。

 確かに今の私たちではゼノンさんには勝てない。レベルが違いすぎる。

 しかし、このまま負けるわけにはいかない。

(なんとかしませんと……)

「ソアラ、お前は最後にしてやる。まずは仲間たちが倒れる姿を見て、自分の力の無さに絶望しろ」

「――っ!?」

 ゼノンさんは仲間たちに向かって無数の漆黒の鴉をけしかける。

 みんなは必死で応戦しているが、その動きは明らかに鈍っていた。

「うぅ……」

「ソアラ様~、ごめんなさ~い。もう限界です~」

「ちくしょう。こんなところで終われないのに……」

「ごめんなさい、ソアラ先輩。わたくしも……」

 こんなとき、私はなんて情けないのだろう。

 たくさんのスキルを得て、それを同時に使えるように磨き上げたのに、ゼノンさんには通用しなかった。

 私はやはり劣等聖女なのだろうか。

 これでは、私のために……こんな私をリーダーとして信じて仲間になってくれた、みなさんに申し訳がたたないではないか。

(もう、ダメかもしれま――)

『それではソアラ様! 初仕事となりますがはりきっていきましょう~!』

「――っ!? ルミアさん……?」

 目を閉じそうになったとき、私の頭の中で仲間の声が響く。

『それに……、エレインはきっとこんなすごい技をソアラには教えないはずだ。わ、私のほうがソアラのことを――』

『どうです? ローラなんかじゃ、こんなにすごい魔法は教えられないでしょう? やっぱり、あたしがソアラ姐さんの右腕ですね!』

 こんなときに走馬灯のように駆け巡るのは仲間たちと笑い合って過ごした日々。

 そうだった。ローラさんやエレインさんからは術まで教えてもらったのだった。

 物覚えがいいことと、複数のスキルを同時に使うことだけが取り柄の私に――。

(待ってください。複数のスキルを同時に……使う、ですか?)

 ここにきて私は最後の手段を閃く。

 そうだ。まだ、これを試していなかった。

 ローラさんとエレインさんに教えてもらった闘気術(バースト)身体強化(ギアラ)……二つとも身体能力を飛躍的に上昇させる術だ。

 ならばこの二つを同時に発動させることができれば、あるいはゼノンさんに届きうる力になるかもしれない。だが――。

(体への負担は……考えたくもないですね。これでダメなら敗北は必至ですし)

 私は勝ちへの希望が見えても、まだ迷っていた。リスクがあまりにも大きいからである。

『ソアラ先輩はご自身のことを過小評価し過ぎです。もっと自信を持ってください!』

 そうだ。自信を持て。体への負担がどうした?

 私にもここまで努力して得た力がある。大丈夫だ。きっとなんとかなる。

 私は立ち上がり、そして――ゼノンさんを見据えた。

「なんだ、ソアラ。まだ戦意喪失していなかったのか?」

 彼はニヤニヤと笑みを浮かべて、初めて自らの剣を抜く。

 ここまで彼はまだ本気ではなかったのかもしれない。

(ルミアさん、ローラさん、エレインさん、エリスさん。あなたたちとの出会いは私にとって財産です。心強い仲間たちがいなかったら、私は立つことすらできなかったでしょう)

超身体強化術(フルバーストギア)……!」

 身体能力を強化する術を二つ同時に発動……その瞬間、私は自分の体重を感じなくなった。

 真っ赤な蒸気のようなものが全身から吹き出して、血液が沸騰していると錯覚するくらい熱い。

 まるで仲間たちの力が背中を押してくれるような……そんな気分だった。

(これなら、負けません!)

「いきます!!」

 私は地面を蹴った。それはまさに爆発的なスピードだ。

 私の体が弾丸のようにゼノンさんに迫る。

「なっ!? は、速――」

「はぁあああ!!!!」

 彼は剣を振り上げる。しかし、それすらも今の私にはスローモーション映像のような動きに感じられた。

 私は彼に向かって容赦なく剣を振り下ろす。

「くっ! こ、この僕が力負けだと!?」

 咄嵯にゼノンさんは剣でガードするが、そんなものは関係なかった。

 私の剣はあっさりと彼の剣を吹き飛ばす。

 そして、そのまま……私は剣で彼を滅多打ちにした。

「うう、劣等聖女がこの僕を見下すな!!」

 ゼノンさんの顔に恐怖が浮かんだ瞬間、彼が漆黒の鴉で攻撃してきたが、私は構わずに剣を振るう。

 鴉はバラバラに飛び散り、地面に落ちた。

 ゼノンさんは驚愕している。

「ば、馬鹿な……。こんなことが……」

 私は一気に間合いを詰めて彼に斬りかかった。

(これがローラさんとエレインさんのくれた力です!)

「闘気刃!!」

 私は剣に闘気を集中させて振り下ろした。

 ゼノンさんはなんとか反応して避けようとしたが、わずかに遅れる。

「ぐああああっ!!」

 私の一撃は彼の左翼を切り飛ばした。

(やりました!!)

 しかし、喜ぶのはまだ早かったようだ。

 ゼノンさんは残った右翼から漆黒の鴉を放つ。

 私はそれを冷静にかわすと、今度は右の翼を切り裂いた。

 ……彼は言葉にならない声で絶叫する。

「ぐううぅ……。こんなはずはない……。僕は勇者として認められ、Sランクスキルに覚醒するくらい才能もある。なのに、どうして劣等聖女なんかに……。僕の……僕の人生が……」

 彼は両膝をつく。もはや戦う力は残ってなさそうだ。

「……終わりにしましょう、ゼノンさん。あのアストという魔族から元の体に戻る方法を聞き出してきます。そうすれば、あなたは普通の人間として生きられるかもしれません」

「黙れ、劣等聖女が……! お前みたいな無能が……僕に指図をするな……! お前のようなやつの優しさが僕は、僕は――」

 涙を流したかと思えばゼノンさんの髪の色が漆黒からもとの赤色に戻り……彼は気絶した。

「お姉ちゃんすごいの。私の最高傑作に勝つなんて驚きなの」

「――っ!?」

 背後に気配を感じて振り返るとそこには、いつの間にか小さな少女が立っていた。

 アスト……、いつの間に私の背後に……。

「……お兄様は返してもらうの。私はゼノンお兄様を見捨てないよ。今回は撤退するけど……次はもっともっと強くなってもらうの」

 そう言って、彼女は闇に包まれ消えていく。

 そして、次の瞬間にはゼノンさんもまた姿を消していた。

(いったい何が起きたんですか……?)

 まさに満身創痍の戦いだった。

 あのアストという魔族はゼノンさんが負けるまで黙って見ていたことも今となっては謎である。

「ソアラ、無事だったのか!? よかった!」

「心配しましたわ」

「ソアラ姐さん、大丈夫ですか?」

「またボロボロになって、可哀想です~」

 仲間たちが呆然としている私のもとへ駆け寄ってくる。

(みなさん、無事でいてくださってよかった)

「ふぅ……」

 ゼノンさんのことは気になるが、まだ彼は生きている。

 助け出す方法はいずれ見つけ出せるはずだ。

 それよりも仲間たちの無事を喜ぼう。……私は安堵のため息をついた。

「ソアラ姐さん、怪我の治療をしましょう。歩けますか? もし辛いようならあたしがおぶりますけど……」

「いえ、エレインさん、そこまでしていただくわけには……」

「ダメですよ。早く治療しないと傷跡が残るかもしれないじゃないですか!」

「そ、それは困りますね」

「ソアラ様~、傷が治りましたらこのルミアがお風呂でマッサージして差し上げま~す」

「ふふ、ルミアさんったら」

 私が苦笑すると、みんなも笑う。

(ああ、幸せです)

 私はしみじみと胸の中が温かくなると感じた。

 そして、こうして笑い合うことができる日々がいつまでも続いてほしいと心の底から願う。

 それから数日……私は治療に専念して体を治した。

 アストのような魔族への警戒はしていたが、平穏な日々は過ぎてゆき私たちパーティーはジルベルタ王宮の再び謁見の間で国王陛下と相まみえる……。


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