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「すみません、ソアラ先輩。大騒ぎをしてしまいまして」

 結局、エリスさん以外が退出するまで一時間くらいかかってしまった。

 おかげで疲れ果ててしまったけれど、不思議と嫌な感じはない。むしろ楽しかった。

「気にしないでください。みなさんを見て、なんだか元気が湧いてきましたから」

「ソアラ先輩……。ありがとうございます」

 エリスさんは私の言葉に感激しているようだった。

「ところでエリスさん、そういえばこうしてゆっくり話す機会はあまりなかったですね」

「そうですわね……。氷の魔城攻略で大変でしたから。それに、憧れのソアラ先輩とお話するのも緊張してしまいますし」

「緊張、ですか? 私など平民の出自ですし、貴族であるエリスさんと比べると格が違いすぎますけど……」

 私はそう言って苦笑するが、エリスさんは首を横に振った。

「そんなことはありません。ソアラ先輩は素晴らしい聖女です! ですから、わたくしは先輩に憧れて家を出たのです!」

「そ、そうでしょうか……?」

 私は褒められて照れてしまう。

 でも、やっぱり自分が優れているとは思えない。

 ずっと鈍臭くてダメダメな自分だと感じていたからだ。

「ソアラ先輩はご自身のことを過小評価し過ぎです。もっと自信を持ってください!」

「うーん……。わかりました。努力します」

 私は少し考えた後、エリスさんの言葉を受け入れることにした。

 自信は私にとって一番足りないものかもしれない。そこは改められるように頑張ろう。

「はい! あの、実はわたくし、聖女になる前に……一度ソアラ先輩のことを見たことがありますの」

「そうなんですか?」

「ええ、ルルテミア平原で……、多くの魔物をお一人で相手取って行商人の方々を助けられておりました」

 あのとき、か。

 あの日のことはよく覚えている。ゼノンさんが私に後方からくる魔物を押さえるように指示を出していて……想像以上に多くの魔物が押し寄せてきたのだ。

 ルルテミア平原は貴族たちが避暑地として利用している土地へと続く道だったから、エリスさんが通りがかって見ていても不思議ではないかもしれない。

「あのときわたくしの馬車は大きな魔物に襲われそうになったのですが……、ソアラ様が剣術で一閃! あのときの先輩、格好良かったですわ……!」

 キラキラとそのエメラルドのような瞳を輝かせて回想するエリスさん。

 こうして誰かを助けて、その誰かが他の誰かを助ける力を手にしたと考えると感慨深い。 

「それからわたくしはソアラ先輩のファンになりました。……ですから、聖女の力を得て、憧れのパーティーに勧誘されたときはとても嬉しかったのです」

 彼女はゼノンさんのパーティーに入ることを二つ返事で了解したと聞いている。

 貴族の娘が冒険者になるなど、思い切ったことをするな、と思っていたがそういう背景があったのか。

「それで……ソアラ先輩。一つだけお願いがあるんです」

「お願い、ですか?」

 改まってそんなこと言うエリスさんに、私は疑問符を浮かべる。

 なんだろう? まったく、見当がつかない……。

「その……、また今度でよろしいので、わたくしとご一緒に王都を回りませんか? 夢でしたの。先輩と一緒に街を歩くことが」

 エリスさんは不安そうな表情で私を見つめてくる。

 なんだ……そんなことか。わざわざお願いという前置きだったので構えてしまっていた。

「もちろんですよ。怪我が治りましたら、いずれ必ず」

「本当ですか!? 嬉しいです! 約束ですからね!」

「ええ、楽しみにしていますね」

 私がそう言うと、エリスさんは満面の笑みになった。

 やはりこうしてゆっくり仲間と話す時間は必要かもしれない。

「それで、その……」

「……エリスさん? まだ、なにかありましたか?」

 エリスさんは姿勢を正してまっすぐにこちらを見る。

 その目は真剣そのもので、輝きがいっそう増したように感じられた。

 ……これは一体? 私が思わず息を呑んだ瞬間、彼女は口を開く。

「ソアラ先輩、大好きです!」

「ふぇっ!?」

 突然の告白を受け、思わず変な声が出てしまう。

 そんな私に対して、エリスさんはとても可愛らしい微笑を見せた。

(もう、本当に可愛いらしい人ですね。こんなに慕ってくれているなんて)

 私は彼女の気持ちに応えるべく、勇気を振り絞って言葉を口にする。

「私もエリスさんのことが好きですよ。これからもよろしくお願いします」

「――っ!? は、はいっ!!」

 エリスさんは顔を真っ赤にして返事をした。

「すみません。そろそろ寝ますね。エリスさんのお薬が効いたのか体が楽になって眠気が……」

「そう……ですね。おやすみなさいませ、ソアラ先輩」

 エリスさんの寂しげな顔に後ろ髪を引かれつつも、私はベッドに横になる。

「エリスさん、おやすみなさい。また明日もお話しましょうね。それと――ありがとうございます。あなたのおかげで今日はぐっすり眠れそうです」

「ソアラ先輩……。こちらこそ楽しい時間をどうもありがとうございました。お礼を言うのはわたくしの方です!」

「では、お互い様ですね。それではお休みなさい」

「はい、ゆっくり休んでください。おやすみなさい、ソアラ先輩」

 エリスさんの優しい言葉を聞きながら、私の意識は眠りに落ちていった。


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