17
「さすがに無理をしすぎましたね……」
魔力が切れて、闘気術からの百閃煉魔。
筋繊維はズタズタになり、治癒術では応急処置にしかならず……全身に無数の針が刺さっているような痛みを感じる。
王都の宿泊施設のベッドで横になりながら私は自分の状態を顧みた。
しかし、後悔はない。あれだけの強敵と戦う機会など滅多に訪れないだろう。
それに、結果的に私たちは誰も死なずに済んだのだから万々歳だ。
「……それで、みなさんはなぜ私の部屋に集まっているのですか?」
部屋の中を見回すと、なぜか仲間たち全員の姿があった。
今日はそれぞれ自由にして、しっかりと休むようにと伝えたはずなのに……。
「ソアラ、あなたが心配だったからに決まっている」
「そうですよ~。私たちがついていないと、ソアラ様は無茶するかもしれませんし~」
「姐さん、なにかほしいものがあったら言ってください。買ってきますから」
「治癒術は苦手ですが、薬草を煎じて我が家に代々伝わる薬を作りました。ソアラ先輩、お飲みください」
私は彼女たちの言葉を聞いて、胸が熱くなった。
私は一人じゃない――仲間がいるから頑張れるのだ。
みんなの厚意に感謝しながら、差し出された薬を飲む。
「うむ。薬を飲んだら眠るがよい。それが体を治す一番の手段だ」
「ええ、わかっております」
私はローラさんの言葉に従って寝ることにした。
早く体を十全の状態にして、陛下に謁見し……次の依頼に備えないとならないのだから。
「…………」
「…………」
「…………」
(黙ってジッと見られていると気が休まらないのですが……)
私はチラリと視線を向ける。
どうやら皆さんは私が寝たのを確認するまでここにいるつもりらしい。
……やはり気になって眠れない。
でも、それを伝えるとせっかくのみなさんの好意を無駄にしてしまうだろう。
ここはグッと我慢をして眠ったフリをする?
(他人の気配には敏感になっていますし、やはり眠れないでしょうね)
こうなったら目を開けて話を切り出すしかない。
私は目を開く。すると、そこには真剣な表情をしたエレインさんがいた。
「おい、お前ら。お前らがいるからソアラ姐さんが窮屈に感じて寝れねぇじゃないか」
よかった。エレインさんが私が眠れなくなっていることに気がついてくれて……。
私は安堵していたが、次の彼女の言葉でこの場に険悪な空気が流れる。
「ここはあたしに任せて、お前らは部屋を出ろ。一人いれば十分だろ?」
「……んっ? なぜ、貴様が残るのだ? エレイン」
「そうですよ~。ここはソアラ様のお世話をずっとしていたこのルミアが残るべきです~」
「いえいえ、ここはお薬を作ったこのわたくしが残りますわ。ソアラ先輩はこのエリスにお任せあれ」
みなさん、この部屋に残りたいと主張している。
ピリッとした空気が張り詰める。
皆さんには仲良くやってほしいと思っているのだけど……私のせいでこんなことになるなんて。
なんとかして止めなければと思いながらも、なにを言えばいいのかわからない。
「あ、あの。みなさん、私なら大丈夫ですからお休みください」
「いや、そういうわけにもいかない。我々は仲間なのだから」
「そうですよ~! ソアラ様のお休み中にもしものことがあってはいけません~!」
「姐さん、ルミアの言うとおりです。いくらソアラ姐さんがそう言っても、ここは譲りませんよ?」
「先輩、ソアラ先輩のお体は先輩だけのものではありませんわ。わたくしは先輩を心配して……」
だ、ダメだ。私の言葉は届かない。
皆さんは互いに睨み合い、火花を散らしている。
一触即発といった様子で、今にも戦いが始まりそうだ。
(こうなれば、あの手しかありませんね……)
私はゆっくりと起き上がると、両手を叩いて提案をする。
「みなさん、ここはじゃんけんで決めませんか?」
穏便に済ませるにはじゃんけんが最適だと思ったのだが……。
私の言葉を聞いた途端、みんながポカンとして固まってしまった。
(もしかして、真剣に話しているところにじゃんけんはまずかったのでしょうか……?)
私はその反応を見て、なにか間違えたことを言ったのだと悟ったが、もう遅い。
なにかを言わねば……そう思った瞬間だった。
「あの~、ソアラ様~。“じゃんけん”とはなんですか~?」
私の言葉を聞いていたルミアさんが質問してきた。
他の方たちも興味があるようで、こちらを見ている。
そうだった。この世界には“じゃんけん”は存在しなかった。前世の知識で発言してしまったと私は猛省する。
「ええーっと、じゃんけんというものは、ですね」
私は少し恥ずかしくなりながら、じゃんけんについて説明した……。
「なるほど、それは確かに平等な方法だな」
「おもしれー、さすがはソアラ姐さん! こんなに面白いゲームをご存じとは!」
「ではさっそくやってみましょう~」
「これなら恨みっこなしですわ。……じゃんけん!」
「「ポン!」」
彼女たちは一斉に手を出した。その結果は――。
エレインさん、ルミアさん、ローラさんが揃ってチョキを出したのに対して、エリスさんがグーを出した。
「やりましたわ! わたくしの勝ちですの! これでソアラ先輩の看病はわたくしの役目ですね!」
嬉しそうな顔で胸を張るエリスさん。
私はそんな彼女に対して、微笑ましい気持ちになる。
「うふふっ、よろしくお願いしますね」
「はい、お任せくださいませ!」
「むぅ~」
「くそぉ、負けちまった……」
「まぁ、仕方がないな。勝負で決まったことだ」
悔しそうに頬を膨らますエレインさんとルミアさん。
私は少しだけ申し訳ない気分になった。
「まぁいいか。あたしとローラはソアラ姐さんと添い寝した仲だし」
「え、エレインさん? いきなりなにを?」
「そ、ソアラ先輩? ほ、本当ですの? エレインさんとローラさんはそこまで先輩と仲がよろしいんですの?」
「ん? ……ああ、それは事実だ。だが、エレイン。それをわざわざここで言わなくともいいだろう?」
びっくりしたような表情のエリスさんの言葉をローラさんが肯定する。
すると、エリスさんは顔を真っ赤にして、わなわなと震え始めた。
「ルミアさん、わたくしたち……遅れを取っていますわよ。もっと先輩と仲良く――」
「えっと、エリス様~。私はソアラ様と添い寝したことありますよ~。それに時々、お風呂も一緒に入ります~」
「「「――っ!?」」」
ルミアさんの言葉になぜかショックを受けたような表情になる御三方。
そして、三人は私へと視線を向ける。
「ソアラ、私ともいつか一緒に入ろうじゃないか」
「あ、あたしもだ! ソアラ姐さんの背中を流しさせてください!」
「ソアラ先輩! わたくしと一緒に入浴いたしましょう!」
「ちょ、ちょっと皆さん落ち着いてください!」
興奮気味の四人を前にして、私は困惑してしまう。
(ど、どうしましょう。このままでは本当に大変なことになってしまいそうです……)
私のせいで皆さんを困らせてしまっていることに罪悪感を覚えながらも、なんとかこの状況を切り抜けようと思考を巡らせる。
しかし、私の頭では良い案が思い浮かぶことはなかった。
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