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「いよいよこの日がやってきましたね! 姐さん!」

「エレインさん、気合が随分と入っていますね」

 私たちはギルドの正門前で、これからの未来への期待を胸に抱いていた。

「私もこの日を待ちわびていた。今日から私たちは正式にパーティーを組むことになったのだからな」

「ソアラ様~! 手続きはきちんと済ませておきました~!」

「ご苦労さまです。ルミアさん」

 ローラさんとルミアさんも気合は十分。

 そう。今日で私とこちらのギルドの契約は満期を迎え……四人で新たにパーティーを結成して、冒険者として活動することになったのだ。

「……それにしても驚きました。あのジルベルタ王宮が私たちのパーティーを召抱えたいと打診をしてこられるなんて……」

「……ソアラ姐さんの実績を考えたら当たり前のことですよ! 多分、他の王宮も有望なパーティーを取られて悔しがっていると思います!」

「それは大げさではないでしょうか? エレインさん」

 なんと私たちはジルベルタ王国から宮廷所属のパーティーにならないかと直々に勧誘を受けたのだ。

 しかも報酬として、かなりの金額を用意してくれるとのこと。

 これには流石に驚いたが、断る理由もない。

 ルミアさんが滞りなく事務手続きをしてくれて……私たちは晴れて宮廷所属のパーティーとなったというわけなのだ。

「では、我々がこれから向かうところはジルベルタ王都になるのだな?」

「いえ、王宮へのご挨拶は最初に引き受けた仕事が済んでから、となります」

 ローラさんの質問に私は答える。

 今回、私が受けた依頼は……辺境の修道院で修行をしているというジルベルタ王女の護衛。

 なんでも、彼女を王宮へと連れ戻したいが最近辺境に魔物が増えているので安全を確保するために強力な護衛が必要となったそうだ。

 そこで白羽の矢が立ったのが、私たちである。これが私たちのパーティーとしての初仕事だ。

「まずは隣国、アスタリア王国との国境沿い……辺境の修道院に向かうことになります。道中も魔物たちが出現してそれなりに危険な道のりになると思いますが……」

「まぁ、あたしたちならどんな強敵が現れても大丈夫ですね!」

「うむ、そうだな。腕が鳴るぞ」

「ソアラさん、頑張りましょう~」

 三人はやる気に溢れている。士気は十分……仲間たちの力は申し分ない。

(だからこそ私のリーダーとしての資質が試されるんですよね)

 緊張はしている。でも、これは良い意味での緊張だ。

 彼女たちとなら……以前のパーティーでは見つからなかった大切なモノを手に入れることができるかもしれない。

「それでは、参りましょうか」

 私たちは意気揚々と歩き出す。

 こうして、私の新しいパーティー生活が始まったのであった。


 ◆


「ここが、その修道院ですか?」

「はい、そうです」

 私たちはジルベルタ王国の国境沿いに存在する、とある小さな村に到着した。

 この村の外れにある古ぼけた建物こそが目的地の修道院である。

(皆さんのスペックが高いおかげで、簡単にここまで来ることができました)

 ここまでの道中、幾度となく魔物と遭遇した。しかし、私たちは難無くそれを撃退する。

 特にエレインさんとローラさんの活躍には目を見張るものがあった。

 ローラさんは剣を振るえば一撃で巨大な魔獣をも仕留め、エレインさん魔法を唱えれば一瞬にして何体もの敵を焼き尽くす。

 まさに規格外の戦闘力を持っていた。

 ルミアさんもサポート役としては完璧だった。

 回復薬や補助アイテムを的確に使いこなし、さらには近距離での肉弾戦まで臨機応変に対応する。

 宿の手配や食料品の買い付けなど無限の体力を活かして走り回る彼女は、私たちのパーティーの大黒柱とも言えた。

 そんな感じであっという間に北端のギルドを出てから三日が経過して、私たちは無事に目的の地に辿り着いたのである。

「おぉ、やっぱりあんたが噂の聖女様かい。よく来たねぇ。……ソアラ」

(んっ? この声は……まさか?)

 私は修道院の中から聞こえてきた懐かしい声に反応した。

「……お久しぶりです。シスター・ナターリア」

「王宮から聖女がくるって聞いていたから、あんたじゃないかと思っていたよ。懐かしいねぇ。あんたがここを出てもう三年か」

「えっ? 姐さん、こちらに住んでいたんですか?」

 エレインさんがびっくりしたような顔でこちらを見る。

「ええ、そうです。ゼノンさんが来るまで私はこちらの修道院でお世話になっていました」

「なるほど。そういえば、以前に辺境の教会で聖女としての天啓を受けたと言っていたな」

「はい」

 ローラさんの言葉に私はうなずく。

「そういうことだったんですね~。それで、この修道院にソアラ様の知り合いがいたんですか~」

「シスターにはお世話になっておりました。……まさかこうしてパーティーとしての最初のお仕事でここにくるとは思いませんでしたけど」

「ソアラ、あんたと積もる話もしたいけどさ。大事な仕事があるんだろ? こっちに来ておくれ」

「ええ、よろしくお願いします」

 私たちはシスターに案内されて建物の中に入る。

 すると、そこには一人の少女の姿があった。おそらく彼女がジルベルタ王女だろう。

 ジルベルタ王国の王族特有の青髪と青い瞳を持っている。見た目は十五歳くらいだろうか。

 シスターと同じく修道服を着ていて、とても穏やかな表情をしていた。

「ようこそおいでくださいました。ジルベルタ王国第三王女、リディアーヌ・ジルベルタと申します」

「ソアラ・イースフィルと申します。今回、王女殿下の護衛を担当させていただくパーティーのリーダーを務めています」

「まぁ、あなた方が護衛をしてくださるのですね。それは心強い限りですわ」

「ご期待に添えるよう全力を尽くさせていただきます」

 私は丁寧に頭を下げる。

 王女殿下という高貴な方と直接お会いするなんて初めての経験で、私はこれまでになく緊張していた。

「うふふ、そこまで気を遣わないでも大丈夫です。これからしばらく同じ屋根の下で暮らすのですから、もっと気軽に接してくれて結構ですよ」

「は、はい……」

(流石に不敬が過ぎるのではないでしょうか……?)

 内心の動揺を悟られないように平静を装いながらそんなことを考える。

 ジルベルタ王国の王宮に仕えるということは、この国の中枢に関わることを意味する。

 いくら護衛の仕事とはいえ、王宮の関係者に対して馴れ馴れしく接するわけにもいかないのだ。

(それにしても、本当にきれいな人ですね……)

 ジルベルタ王国の第三王女、リディアーヌ・ジルベルタ殿下は美しい少女だった。

 年齢は私よりもいくつか下のはずなのに、その振る舞いは洗練されていて落ち着きがあり、思わず見惚れてしまうほどの美貌の持ち主だ。

 私は緊張しながらも、彼女の姿をじっと見つめていた。

「あら、どうしましたか?」

「い、いえ、なんでもありません」

 思わず見惚れていたなどと王女にいうことなどできるはずもなく、私は慌てて誤魔化す。

 しかし動揺しすぎて声が裏返ってしまった。

「うふふ、ソアラさんは照れ屋さんなんですね。可愛いです」

「きょ、恐縮です。……それでは殿下。さっそくで申し訳ありませんが、これから王都まで向かうにあたって、いくつかの注意事項を確認したいと思いますのでよろしいですか?」

「ええ、もちろんです」

 楽しそうに微笑むリディアーヌ殿下にどうしても緊張してしまうが、仕事はきちんとこなさねば……。

 私たちはリディアーヌ殿下との打ち合わせをして、用意しておいた馬車に乗ってもらう。

(辺境から王都までの道中……、絶対に彼女に傷一つ負わせないようにしなくてはなりませんね)

「ソアラ、今度はプライベートで遊びにきなさい。……成長したあんたの姿が見られてよかった。風邪、引くんじゃあないよ」

「シスター、ありがとうございます。皆さん、それでは行きましょう」

 シスターに挨拶をした私は手綱を握り、馬を走らせる。

 こうして、私たちのリディアーヌ殿下の護衛任務が始まった。


 ◆


 ジルベルタ王国の国境沿いを南下すること数日。

 王都まであと少しの地点までたどり着いた。

 ここまでの道のりは特に問題もなく順調である。

 魔物に襲われることはあったが、それも難無く撃退することができた。

「ソアラ様、見えてきましたよ~」

 ルミアさんの声を聞いて前を見ると、そこには大きな城壁に囲まれた街が見えてきた。

「あれが王都、オルセードの街か」

「はい、その通りです」

 ローラさんの呟きに私は答える。

「うぅ……ついに到着してしまいましたね~。王女様、もうすぐ帰ることができますよ~」

 ルミアさんはそう言ってリディアーヌ殿下に話しかける。

 しかし、彼女はなぜか浮かない顔をしていた。

「あの……、殿下。なにかありましたか?」

「い、いえ、別に何もないです。ちょっと疲れただけですから」

 そう言うものの、やはり殿下の表情はどこか暗い。

 私は心配になって声をかける。

「リディアーヌ殿下、もし何かあるのなら遠慮せずに仰ってください。些細なことでも構いませんので」

「…………」

 リディアーヌ殿下はしばらく黙った後、意を決したように口を開いた。

「実は……、ここ最近毎日のように悪夢を見ていまして。王都までの道中に怖いことが起きるという同じ内容の夢なんですが……」

「……どのような夢なのでしょうか? 差し支えなければ教えてください」

「私が……、誰かに殺される夢です。場所は決まって王都に向かう道中なんですけど、そこで私は何者かに殺されてしまいます」

 不安そうな声で話す殿下。

 そんな夢を連日見ていたら気が滅入ってしまうだろう。

「だけど姫さん。たかが夢でしょう? 実際、ここまで無事なんだし気にすることはないと思うぞ」

「エレインさん……!」

「いえ、エレインさんの仰るとおり私の見る夢が普通の夢ならば気にしなくても良かったのです。……ですが、私は予知夢を見ることができるのです。だから、おそらくこれはただの夢ではありません」

「予知夢、ですか~?」

「はい。私は昔から未来の出来事について鮮明に見えることがあるのです。それが今朝見た夢はこれまでで一番はっきりしたものでしたので、きっとこれから起こる出来事なのだと思います」

 リディアーヌ殿下の言葉を聞いた私たちは顔を見合わせる。

 どうやら、このまま無事に王都にたどり着くというわけにはいかなさそうだ。

「そもそも王宮に呼び戻された理由は魔王軍との戦いに備えて私の予知夢を役立ててほしいということだったのです。そして、今回の護衛任務はその予知夢の通りに進んでいます」

 殿下の話を聞いた私と仲間たちはしばらく言葉を失っていた。

 まさかこんな形で予知夢の話を聞くことになるんて……。

「リディアーヌ殿、その予知夢の話……なぜ今まで黙っておられたのです? 話してくれればここまでの道中もそれなりに警戒できたのですが……」

 ローラさんは怪しむような視線をリディアーヌ殿下に向ける。

 確かに彼女の言っていることはもっともだ。

 事前に予知夢の内容を知っていたのであれば、もう少し安全に旅を進めることができたかもしれない。

 しかし、殿下は首を横に振った。

「すみません。そもそも予知夢の話は国家機密なのです。この話は誰にもしないつもりでした。……ですが、日増しに予知夢が明確になってきて黙っていることができなくなってしまったのです」

(そういうことでしたか)

 予知夢が本当ならばジルベルタ王国にとって、リディアーヌ殿下は重要な存在だ。

 もしも彼女の身に何かあれば国の存亡に関わるかもしれない。

 そのためジルベルタ王国の上層部は、彼女が王都から戻ってくるまでの間だけでも護衛をつけようと考えたのだろう。

(でも、今……最も重要なのは――)

「予知夢どおりならば……これからなにか危険なことが殿下の身に起きるかもしれません。ですが、私は護衛として全力で殿下をお守りします。改めて申しますが、どうか安心してください」

 私は強い意志を込めてリディアーヌ殿下に語りかける。

 すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます。ソアラさんのような頼れる人が護衛に付いてくださって本当に心強く思います」

 殿下の笑顔を見た私はホッとする。……しかし、すぐに気を引き締めて前方を見据える。

 ――王都まであと少し。油断はできない。

 ここから先はどんな危険があるのか分からないのだ。

 私たちは改めて周囲の気配を探りながら、慎重に王都へと進んでいくのであった。

(この気配!? やはりリディアーヌ殿下の予知夢は本当だったんですね)

 そして、そのときはやってきた。私たちは王都の手前にある森に差し掛かったところで馬車を止める。

「皆さん、止まってください! 何者かが私たちを狙っている可能性があります!」

 私は声をあげて皆に注意を促す。

 すると、それに反応するように茂みの奥から複数の人影が現れた。

「ほう、我らの存在に気づくとはなかなかやるではないか」

 現れた集団のリーダーと思われる男が感嘆の声をあげる。

 その男の姿は全身黒ずくめの格好をしており、目元だけを露出した覆面をしていた。

「あなたたちは何者です? どうしてリディアーヌ殿下を狙うのですか?」

 私がそう尋ねると、男はニヤッと笑う。

 このプレッシャー、この人たち……相当強い。何者だろう?

「目的は未来予知ができるという王女の命だよ。まあ、お前たちが邪魔をするのなら力づくで排除させてもらうがな」

「なぜ、貴様らはリディアーヌ殿の予知のことを知っている!?」

「ふふ、魔王様はなんでも知っているの。ねぇ? お兄様」

 ローラさんの質問に答えたのはリーダー格の男ではなく、その隣にいた小柄な少女だった。

 年の頃は十歳くらいだろうか? 紫色の長い髪をした可愛らしい女の子である。

 そんな彼女を見て私は思わず息を飲む。なぜならば、彼女の体からは禍々しいオーラのようなものが漂っていたからだ。

(魔力も高いですがそれだけではありません。なにやら不気味な得体のしれない気配がします)

 恐らくは魔族。隣のリーダー格の男もそうだと考えるのが妥当だろう。

 魔族と出会うのはゼノンさんのパーティーで魔王軍の幹部と戦ったとき以来である。

「ねぇ、お姉ちゃんたち。私の名前はアストっていうの。よろしくね」

「あ、あの人たち普通じゃありませんよ~」

「ルミア、落ち着け! 魔族はあたしらエルフ族と同じで高い魔力を持っている。動揺して隙を見せると魔法でやられるぞ」

 怯えた様子を見せたルミアさんをエレインさんが叱咤する。

 エレインさんの言葉を聞いてハッとした表情を浮かべるルミアさん。どうやら冷静さを取り戻したようだ。

(さすがエレインさん、強敵と対峙しても落ち着いています)

「ふん、小娘どもめ。俺の名はベリル。いずれは魔王軍の幹部となる男だ」

 リーダー格の男は魔王軍の幹部候補らしい。

 後ろにいるのは普通の人間たちに見えるが、操られているのか目が虚ろだ……。

「その王女様を置いていくなら生かしてやるが、どうする?」

 ベリルと名乗った男は手に魔力を込め始める。

 彼の言葉を聞いた私と仲間たちは顔を見合わせ、戦闘態勢を取った。

「断る。我々にはリディアーヌ殿を守る義務があるのだ。貴様が何者だろうと関係ない」

「そうですね~。私たちは冒険者として依頼をこなすためにここに来ましたから~。依頼を放棄することはできません~」

 ローラさんとルミアさんはリディアーヌ殿下を守るために戦うことを宣言する。

 もちろん、私とエレインさんも同感だ。

「ふっ、ならば見せてもらおうか。王女様の護衛とやらの力を! おい! 野郎ども! あの女たちをやってしまえ!」

「「「おおー!!」」」

 こうして、私とリディアーヌ殿下を乗せた馬車は予知夢と同様に襲撃者たちに襲われるのであった。

(この先は予知夢と同じ結果にはさせませんけどね)

炎蛇(フレアスネイク)!」

 先手を取ったのは、パーティーメンバーの中で一番高い魔力を持つエレインさんだ。

 彼女は火属性の上級魔法を放ち、複数の火の大蛇を生み出して攻撃を開始する。

「がはっ!」

「うわあああっ!?」

 襲い掛かってきた男たちが、火の大蛇によって瞬く間に燃えていく。

「なに!? いきなり上級魔法だと!? あの女、エルフ族とか言っていたがかなりの使い手だな」

 予想外の出来事に驚くベリル。

 しかし、彼はすぐさま剣を抜いて、こちらに向かってくる。

「エレインさん、ローラさん、彼らは人間です。ベリルとやらに操られている可能性がありますので、殺さぬように注意してください」

「姐さん、わかっていますよ!」

「うむ。私も承知している」

 ベリルとやらの剣を受けようと前に出た私は、エレインさんとローラさんにやりすぎぬように指示をだす。

「俺を相手にしてよそ見をしていて大丈夫なのか?」

「お気遣いどうも。……ですが、同時に色々とするのは慣れていますから」

 私は剣を振り下ろすベリルの攻撃を自らの剣で受け止める。

 そして、そのまま力を込めて押し返した。

「くっ、なかなかやるじゃないか。だが、この程度の力では俺は倒せんぞ」

「それはどうでしょう? あなたは私たちのことを甘く見ているようですが……氷矢(アイスアロー)! 炎槍(フレアランス)!」

「なんだと!?」

 剣で打ち合いながら、私は二つの魔法を同時に発動させる。

 すると、空中に出現した二本の氷の矢と三本の炎の槍が勢いよく飛んでいき、それぞれ違う方向から彼をを襲った。

「ぐああぁ!?」

 突然のことに反応できなかったベリルはそのまま攻撃を受ける。

「まだです! 雷雨(ライトニングレイン)!」

「な、なめるな! 我が身に宿りし闇の力よ、今こそ目覚めん!」

 私が放った雷の雨にベリルは必死の形相で対抗する。

 彼がそう叫ぶと同時に、ベリルの体から黒い霧のようなものが発生した。

「これは闇属性の防御魔法ですか……」

「はははっ!! 俺の体に傷をつけることはできん!」

 私の剣を腕で受け止めて一滴の血も流さないベリル。

 どうやら魔法と物理、双方の攻撃に耐性があるようだ。

「さあ、次はこちらの番だ! 喰らえ!」

「きゃっ!?」

 今度は私に向けて闇の魔力の塊を放つベリル。

 咄嵯に身をかわした私だったが、完全に避けきれずに頬をかすってしまう。

(まさかこれほどとは……。予想以上の実力ですね)

 背後で大爆発が起こり、まともに受ければタダでは済まないと確信する。

「ほらほら、どんどんいくぜぇ!」

 ベリルの続けて攻撃を繰り出してくる。

 次々に放たれる魔力の弾丸を私はなんとか避けていく。

「王女様! いいのかい!? このままだと、あんたのせいで人が死ぬぜ!?」

「くっ……、わ、私が命を差し出せば……、でも……」

 劣勢になる私を見て勝ち誇った表情を浮かべるベリル。

 そんな彼に対してリディアーヌ殿下は悔しそうな顔をして唇を噛んだ。

「心配しないでください、リディアーヌ殿下。必ず守り抜きます」

「そ、ソアラさん?」

 私はリディアーヌ殿下を安心させるために笑顔を見せると、再びベリルへ駆け出した。

「ローラさん、あなたに教わった技を使わせていただきます。闘気術バースト……!」

 私はローラさんに以前教わった、気を爆発させることで飛躍的に身体能力を強化する術を使った。

「くくっ、なんだ? その光は……。そんなものでこの俺にダメージを与えられるつもりか?」

「ええ、そのつもりです。覚悟してください!」

 一瞬にして距離を詰めた私は、ベリルの腹目掛けて拳を突き出す。

「がはっ!?」

 私の攻撃を受けて吹き飛ぶベリル。

 しかし、彼はすぐに体勢を立て直すと、怒りの形相で剣を振るってくる。

「ふざけるなよ、人間が! パワーが多少上がったとて、貴様ごときにこの俺が負けるか!」

「今の私はスピードも強化されています!」

「なんだと!?」

 素早い動きで剣をかわしながら、隙を見つけては攻撃を繰り返す。

 しかし、ベリルもまた剣の腕はかなりのものだった。

「ちぃ! ちょこまかと!」

「まだまだこれからですよ!」

「調子に乗るなよ、人間!」

 ここは複数の魔法で陽動して、急所に一撃を入れるのがベストでしょうか……。

 私はそう判断して魔法を発動させる準備をする。

「無駄だ! どんな魔法を使おうとも、俺は倒せんぞ!」

「さぁ、そうとは限りませんよ? 氷柱(アイスニードル)! 炎槍(フレアランス)! 雷雨(ライトニングレイン)!」

 私が魔法を唱えると、空中に出現した三種類の魔法が一斉にベリルを襲う。

「ぐぐっ、この俺がこんな初級魔法などに……!」

 狙いどおりベリルは少し怯んで、後ろに下がった。

「今です! ローラさん!」

「任せろ! うおおぉ!!」

 私は後ろから近づいてきていたローラさんの方を向く。

 そして、彼女は私の指示に従って剣を振りかぶると、ベリルに向かって思いっきり振り下ろした。

「ぐああぁ!?」

 ローラさんの渾身の攻撃によって地面に叩きつけられるベリル。

「ローラさん、ありがとうございます!」

 私はジャンプして剣を上段に構える。闘気術(バースト)は体力の消耗が著しい。

 渾身の一撃を放つことができるのはこれで最後だろう。

「こ、こんな人間に……! この俺が……」

「終わりです!」

 驚愕の表情を浮かべるベリルに私は容赦なく剣を振り下ろす。

 ――ズシャッっと、嫌な音を立てて私の斬撃を受けたベリルの体は二つに分かれ、そのまま地面へと倒れた。

「なんとか勝てました……」

 私は剣についた血を払うと、ホッと息をつく。

「やりましたね、ローラさん」

「私は少し手助けしたまでだ。しかし、闘気術(バースト)を短期間で使いこなせるようになるとは……恐れ入ったよ」

 お互いに健闘をたたえ合う私とローラさん。

 エレインさんとルミアさんは他の男たちとあの少女を相手にしていたはずですが……。

「姐さん! こっちは終わりました!」

「あのアストという女の子は逃げちゃいましたけど~」

 どうやら向こうも決着がついたようですね。

 ルミアさんの話によるとベリルが死んでしまって、虚ろな顔をしていた男たちはバタバタと倒れて気絶してしまったらしい。

 やはり彼に操られていたようだ。

 そして、あのアストという少女もリーダーが負けたのを見ると空中に浮遊していなくなったとのこと。

「ソアラさん! あなたの戦いぶり……とても素敵でした。私……感動してしまって……」

 リディアーヌ殿下は瞳を潤ませながら私の手を取ると、熱っぽい視線を送ってくる。

「そ、そんな……。大げさですよ」

「いえ、そんなことはありません。ソアラさんは私の予知夢による暗い未来を打ち破ってくださったのです。本当に素晴らしい方だと思います」

 そういえば私は漠然と未来は変えられると思っていた。

 しかしリディアーヌ殿下にとって、それは大きなことのようだ。

「それで……、その……、もしよろしかったらお友達になってくださいませんか?」

「えっ!? わ、私がですか?」

「はい。ソアラさんさえ良ければ……ぜひお願いします!」

 殿下の言葉に戸惑う私。まさかいきなり友達になどと言われるとは思ってもみなかった。

 なんというか、すごく畏れ多い……。

 そんな私の気持ちとは裏腹に、リディアーヌ殿下はとても嬉しそうだ。

「ふむ。いいんじゃないか? せっかくの申し出なんだ。我々はジルベルタ王宮に召抱えられるのだから、王族とは懇意にしとくべきだろう」

「ローラさん? そ、それはそうですが……」

 確かにローラさんの言うとおりかもしれない。

 私は少し考え込んでしまうが、すぐに答えを出した。

「わかりました。では、よろしくお願いいたします。殿下」

「ふふ、こちらこそ、よろしくお願い致しますね。ソアラさん」

 差し出した手を握るリディアーヌ殿下。その手はひんやりとしていたが、心の中が温かくなるような気がした。

 こうして私はなぜか、リディアーヌ殿下とお友達になることになったのだった。

 さて……それはともかく、いよいよ王都に入ることができる。

 王宮に殿下を送り届ければ私たちの初仕事は終了だ。

「それでは行きますよ~。いざ王都へ~!」

 ルミアさんの掛け声と共に馬車は走り出す。そして、それから数時間後……。

「ようやく着きましたね。ここが王都ですか……」

「ええ、そうですよ。ここは我が国の王都、オルセードです!」

 ついに辿り着いた王都を眺めて感慨深い気持ちになっていると、リディアーヌ殿下が返事をしてくれた。

「それでは王宮に向かいましょう。きっとリディアーヌ殿下を皆様が待ちわびておいででしょうから」

「はい、わかりました!」

 私はリディアーヌ殿下に案内されて、ジルベルタ王宮へと向かった。


 ◆


「おお! あれが噂の聖女殿ですな!」

「とてもお強いとは聞いておりましたが……まさかこれほどまでに美しいとは!」

「さすがは王国の至宝と呼ばれるだけはある!」

「うぅ……恥ずかしいです……」

 王宮の中に入ると、大勢の方々が私たちを迎えてくれた。

 殿下はさすがに慣れているようで平然としていたが、私は居心地が悪くて仕方ない。

 私はなるべく目立たぬように端っこの方に移動しようとしたが、すぐに色んな人たちに囲まれてしまった。

 しかも、なぜか握手を求められたり、サインを求められたり……。

 こんなことになるなら、もっと地味な服装をしてくるべきだった。

「あなたたち、ソアラさんたちはお疲れです。あまり困らせないようにしてください」

「り、リディアーヌ殿下、これは申し訳ない」

「聖女様にはご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」

 リディアーヌ殿下の一声で周囲の人たちは大人しくなる。

 ふぅ、よかった。本当に助かった……。

「リディアーヌ殿下、陛下がお待ちです。……ソアラ殿たちには明日謁見していただきたく存じ上げますが、いかがでしょうか?」

「もちろん陛下がそうお望みでしたら我々にお断りをする理由がありません」

「ありがとうございます。では、明日の正午にまた来ていただけると幸いです」

「わかりました。それでは失礼させて頂きます」

 リディアーヌ殿下は王様に会いに行くようだ。

 つまりこれで私たちは最初の依頼を達成したということだ。

 仲間たちの顔を見るとみなさんも満足そうな表情をしている。

(魔族と遭遇するイレギュラーはありましたが、頼りになる仲間たちのおかげで無事にここまでたどり着けましたね)  

 私は改めて仲間の頼もしさを実感していた。

「ではソアラさん、今日はもう遅いので、この王宮に泊まっていくといいですよ」

「えっ!? そんな……悪いですよ」

「遠慮しないでください。せめてこれくらいはさせてください」

「姐さん、姫さんもこう言ってるんですしお言葉に甘えましょうよ」

「……エレインさん。ふぅ、わかりました。ではお世話になります」

「ふふふ、それではお部屋を用意するように言っておきますね」

 こうして私は王宮のお部屋を借りることになった。

 王宮は広くて豪華で、それぞれ個室を用意してもらう。

「まるでお姫様になったみたいです……」

 ふかふかなベッドに寝転ぶと、そんな感想が漏れる。

(前世じゃ普通の女子高生でしたし、こんなところに泊まるなんて想像すらしていませんでした)

 私はしばらくボーっと天井を見つめていたが、やがて眠気が襲ってきたのでそのまま眠りについた。

 次の日は国王陛下と会わなくてはならないというのに我ながら呑気なものだ。

 しかし、それだけパーティーリーダーとなって最初の仕事が成功してホッとしたとも言える。

 そして翌朝、私たちは仲間たちとともに謁見の間へと向かった……。


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― 新着の感想 ―
見せてもらおうか。王女様の護衛とやらの力を! →既視感のある言い回しですねw
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