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12(ゼノン視点)

 ◇(ゼノン視点)


 足手まといであるソアラをパーティーから追い出して、僕たちはすぐに魔王軍の幹部の二人目を討伐しようと、最難関ダンジョンの一つである氷の魔城へと向かった。

 もちろん戦力の増強も行っている。劣等聖女であるソアラの代わりに新たにSランクスキルに覚醒している聖女エリスを加えての冒険だ。

 エリスのSランクスキル“栄光への道(シャイニングロード)”は超広範囲に渡って最大火力の光属性魔法を放つという、見栄えも威力も申し分ないスキルだった。

 矮小なスキルしか持たない劣等聖女であるソアラなんかでは逆立ちをしても出来ない――まさに天賦の才に恵まれた者のみが持つ特別なスキル。

 今回のこの氷の魔城も必ず攻略出来るぞ、と僕は確信していたのだが……。

「おいっ! リルカ! 早く治癒術をかけろ!」

「ええーっ! 今、魔力の回復中~~。エリスさんお願い!」

「わ、わたくしですか? わたくし、聖女ですが光属性の攻撃魔法に特化してまして、治癒術はあまり得意な方じゃ……」

「どちらでも良い。某も負傷した、このままではやられる……!」

 何故か全滅寸前まで追い詰められていた。

 おかしいな。僕らは全員がSランクスキル持ちの世界一のパーティーだというのに。

 魔王の幹部どころか、その部下を相手にして何を手こずっている……。

「わ、分かったぞ。敵の出現率だ! 出現率が異様に高いんだ! だからいつもよりもテンポが悪いのだ!」

 僕はどうにかこの事態を招いた理由を考えようと頭を捻った。

 この氷の魔城は、敵の出現頻度が今までに経験したことがないくらいに高い。

 だから僕らは先に中々進めずに足踏みをしているというわけだ。

「てか、そんなのどうでも良いじゃん。ゼノン、意味のないこと考えないで、さっさと戦って。はい、治癒魔術(ヒール)

「どうでもいいとはなんだ!? 分析は大切なんだぞ! それに全体治癒術(エクスヒール)はどうした!? Sランクスキル使えよ!」

 リルカのやつは僕の考察をどうでもいいと切って捨てた。

 このスイーツ頭は僕の高尚な考えが理解出来んらしい。

 つーか、さっきから普通のヒールばかり使ってるな。出し惜しみせずにSランクスキルのエクスヒールを使えばいいのに……。

「バッカじゃないの!? 魔力足んないに決まってるじゃない! 何回使ったと思ってんのよ!」

「魔力を回復したんじゃないのか……」

「あんな薬でこの私の魔力が全快出来るはずないでしょ。それに、お腹タプタプでもう飲めないけどね」

 こういう時のために魔力回復用のレッドポーションを大量に持ってきた。

 確かに一つの回復量は少ないみたいだが、大量に飲めば幾らでもエクスヒールが使えると思っていたのだ。違うっぽいな……。

「ついでに言わせてもらおう。そろそろ某の真・魔閃衝撃も打ち止めだ。生命力を燃やしているからな。治癒術では回復出来んのだ」

「そ、そうか。僕の聖炎領域(セントバーナード)と同じ理屈の技だったな。僕の場合は時間制限だが……」

 岩山をも粉塵と化するアーノルドの切り札、真・魔閃衝撃はどうやら闘気という生命力を燃やして操るパワーを使っているらしい。

 ということで、アーノルド、そして黙っているけど実は僕もSランクスキルが打ち止めとなってしまった……。

「ぐはっ……!」

「も、もう駄目ですわ……」

「くっ……、馬鹿ゼノン! 何とかなさい!」

 や、やばい。このままでは全滅する?

 そ、それだけは避けなくては……。

 でも、このダンジョンの攻略は大々的に宣言してるし、何ならこの国の国王から莫大な支援金も貰ってるし。

「グギュルルラアアア!!」

「ひぃっ! 撤退! 撤退だ!」

「「――っ!?」」

 僕は逃げた。

 全力で走って逃げ出した。

 今回の失敗は何かの間違いだ。

 対策をきちんと立てて再チャレンジすれば問題ない。

 そうだ。僕は……僕たちのパーティーはまだ大丈夫だ。


「全っ然大丈夫じゃないじゃない!」

「ここ三ヶ月で五回の攻略失敗。客観的に見ると無様としか言えん」

「う、うるさいな! お前らも仲間なんだから責任感じろよ!」

 おかしい……。どうしてこうなった?

 天才たちの共演とも言うべきスター集団、勇者ゼノンのパーティーが何故五回も全滅寸前まで追い込まれて敗走しているのだ?

 こ、このままではヤバい。勇者としての信用がガタ落ちして、称号の剥奪もあり得る。

 そうなると、また僕は誰にも相手にされなかったあの時に逆戻りだ。

 せっかくチヤホヤされるために勇者になったというのに。

「しかし、分からん。どうして、こんなに上手くいかんのだ?」

「あの~~、質問してもよろしいでしょうか?」

「なんだ……? エリス、僕は今反省会をだな――」

「いえ、ソアラ先輩はいつ復帰なさるのかな、と思いましたの。やはりこのパーティーの要はソアラ先輩ですわ」

「「――っ!?」」

 エリスの発言で僕たちの時が止まった。

 いきなり追放したソアラなどの名前が出たから当然だ。

 そういえば、この女はまだソアラを追放したことを知らんのだったな。あの女に憧れているとか抜かしたから、勧誘するときに気が変わらぬように黙っていたのだ。

 しかし、ソアラの復帰か。まぁ、あんな奴でも慣れないエリスよりも多少は連携が上手く取れていたのかもしれんな。

 そういえば、治癒術も使えるし、補助も出来て、アタッカーとしてもそこそこ戦える奴だった。

 クソッタレ……。あんな奴に頭を下げるのは屈辱的だ。

 しかし、しかしだ。このままでは僕は勇者じゃなくなる……。

 それだけは絶対に避けねば……。

 いや、なにか他に手があるはずだ。諦めるな! ネバーギブアップだ、僕!

 しかしそんな僕に一通の手紙が届く。宛名はアルゲニア国王陛下……僕ら勇者のパーティーのスポンサー様である。


 ◇


「勇者ゼノン……面を上げよ」

 威圧的な声が僕の頭上から響き渡る。

 アルゲニア王国の王城――謁見の間にて僕と三人の仲間は国王陛下から呼び出しを受けた。

 氷の魔城攻略に幾度も失敗して、アルゲニア王室の予算をかなり浪費したこともあり僕のこの国での立場は相当悪くなっているようだ。

 こんなはずじゃあ無かった。未だに何が悪かったのか分からない。

 Sランクスキルに目覚めし者――“覚醒者”だけで組んだ天才のみを集めたパーティー。

 こんなにも豪華メンバーを揃えているパーティーは世界中探してもそう幾つもないだろう。

 ひと度、戦場に舞い降りれば魔物たちの大群を一気に殲滅せしめる火力の強さ。

 傷付いても直ぐに回復する打たれ強さ。

 最高の仲間たちと最高の冒険をしているにも関わらず、僕たちは氷の魔城に巣食う魔王の幹部に敗北を喫している。

 正確に言えば、魔王の幹部と相対することが出来たのはたったの一度のみで、そのときもまるで戦いにならず大怪我を負って敗走した。

(あの日ほど屈辱だったことはない!)

「どうした? ゼノンよ、頭を上げよ……」

「も、申し訳ございません。陛下のご期待に添えることも出来ずに僕は――」 

「ああ、いいから。いいから。そういうのは聞き飽きたから」

「うぐ……!」

 とりあえず謝罪のポーズを取ろうと頭を更に深く下げて言葉を口にすると陛下はそれを制する。

 最初の頃は謝罪すると労ってくれたのだが、既に信用はガタ落ちみたいだ。

「お主らが炎の魔城を攻略したときは、それは気分が良かったものじゃ。近隣諸国の為政者の誰もが大当たりのパーティーを召抱えたと羨ましがっとったからのう」

「…………」

「しかし、この体たらくを誰が予測出来たじゃろうか! まさか不良債権と呼ばれるほどになるとは! アルゲニアの恥とまで言われるとは! 誰が予測出来たのか!? 言うてみよ!!」

 陛下から発せられるのは叱責。 

 僕たちは命懸けで戦っているが、結果が伴わないだけで罵倒されているのだ。 

 ボコボコにやられても幾度も諦めずにチャレンジする精神は一切認めないなど陛下も狭量ではないか。

「ここまで何度も失敗を見逃すとは、アルゲニア国王は心が広いですね、と嫌味まで言われたわ!」

「そ、それはさぞご不快だったでしょう」

「当たり前だ! 馬鹿者!」

 僕らはただ、ただ、罵られる。

 まるでサンドバッグのように屈辱の時間が続く。

 クソッタレ。……劣等聖女のソアラが羨ましいよ。

 僕が追放してやったから、こんな屈辱を受けずに済んだのだからな。忌々しい。

「先日、ジルベルタ国王と会食してな。お前らが追放した、あの聖女――ソアラ・イースフィルの自慢をされたわい! いい人材を送ってくれてありがとうとな! 近々、正式に彼女のパーティーを召し抱えるとのことだ。ギルドとの契約が切れたらどうとか言っとったわ!」

「「――っ!?」」

(はァァァァァァァァァァァァァ!?)

 な、な、なんでソアラが……、あの凡庸で矮小な力しか持たない劣等聖女がジルベルタ王室に宮仕えすることになっているのだ!?

 嘘だろ? あり得ぬ。あり得ぬ話だ……。

 だって、あの女が宮仕えなどになったら……僕たちのパーティーと同列のところに自力で上がったことになる。

 それどころか僕が勇者の称号を剥奪されれば――あの女よりも下? 

 この選ばれしエリート勇者である僕が、あの劣等聖女よりも下?

(バカな、バカな、バカな、バカな、そんなバカなことってあるかーーーーーーーッッッッ!!)

 自我が保てないよ。そんなことになったら僕は……。

 ソアラ以下などという状況だけは到底受け入れられない。

「勇者ゼノンよ。お前らにラストチャンスをやろう。あと、半年じゃ! あと半年の間に氷の魔城でも何でも良い! 魔王の幹部を一体で良いから討伐してみよ! それが叶わぬなら――分かるな?」

「――はっ! この勇者ゼノン! この命に代えましても、必ずや陛下のご期待に応えてみせます!!」

 首の皮一枚繋がった……。

 何とか半年の猶予をもらえた――。

 そうだ。焦っても仕方ない。今度はこの期間を有効活用して必ずや魔王の幹部の討伐を成し遂げよう。

 よーし、よし。僕はまだ冷静だ……。

 どうせ、ソアラに魔王の幹部を撃破など無理なのだから。僕はまだまだ格上だ。安心しろ……。

 とにかく、ここは仲間たちと意志を統一して一丸となり目標達成に向わねば――。



 ◇



「わたくし、このパーティーを抜けさせて貰いますわ」

「「――っ!?」」

 城を出て、開口一番にエリスは栄誉ある勇者のパーティーを抜けたいと言い出した。

 ちょっと待ってくれ。ここに来てエリスという戦力が抜けるのは痛すぎるなんてもんじゃない。

「おいおい、エリス。そりゃあないんじゃないか。確かに君が来てから連戦連敗だが、もう少し我慢すれば――」

「我慢ならもうしました! 数え切れないくらい死の恐怖と戦いましたし、辞めたいと思った自分を幾度も奮起させましたわ!」

「うっ……!」

 エリスはそのギラギラと光るルビーのような赤い瞳で僕の顔を睨みながら大声を出した。

 王室の血を引く貴族のお嬢様には、パーティーでの戦いは少しだけ厳しかったらしい。

 まさか、ここでこんな泣き事を聞かされるとは――。

「だがなぁ、エリス。よく聞いてくれ……」

「嘘つき!」

「へっ……?」 

 僕がエリスに弁明をしようとすると、彼女は大声で僕を嘘つき呼ばわりした。

 何のことだ? 嘘つきとは穏やかじゃないが……。

「ソアラ先輩のことですわ! いつか帰ってくる。彼女は身体の調子が悪いから敢えてギルドで楽な仕事をしながらリハビリさせている。そんな事をわたくしには説明していましたのに!」 

「ええーっと、それはだなぁ」

 あー、しまった。そういえば、エリスってソアラのことを慕ってこのパーティーに入ったんだっけな。

 国王陛下の言葉を聞いてあの女が永久にここに帰らないことに気付いてしまったのか。

 面倒なことを言いやがって。どうやって、誤魔化そうか。

「本当は追放されていたんですね!? リハビリ中の方がジルベルタ王室に宮仕えなさるはずがないじゃありませんか!」

「だから、誤解だって。痛っ――!?」

「人を小馬鹿にするのも大概にしてくださいまし!」

 僕は思いっきり頬を叩かれて――エリスは最近修得してくれて逃げることが楽になった“空間移動魔法(テレポーテーション)”を使って消えてしまう。

 う、嘘だろ? 貴重な“覚醒者”がいなくなるなんて――。

 あと、半年で魔王の幹部を倒せなかったら僕は勇者じゃなくなるのに……。

 悪夢だ……、ゆ、夢なら覚めてくれ。

「ねぇ、ゼノン。いっそのことソアラに戻ってきてもらったら?」

「はぁ? あいつはジルベルタ王国の――」

「召し抱えるのはまだ先でしょ? さっさと謝っちゃって、また仲間になってくれるように頼むのよ。あんた、幼馴染なんでしょ?」

 リルカのやつ、簡単に謝るとか言ってくれる。

 この僕が劣等聖女であるソアラに頭を下げろ、だとぉ!? そんなことできるはずがないじゃあないか。

「某もリルカに賛成だ。恥ならもう十分に晒した。ソアラに頭を下げて謝罪するなど容易い」

「お前ら! プライドってものがないのかよ! ……絶対に嫌だ! 氷の魔城は必ず攻略できるように方法は考える! 待っていろ!」

 僕は二人の言葉に憤りを感じつつ、部屋に戻った。

 ったく、逃げ出したエリスはもちろんだがリルカもアーノルドも情けない。

 とにかく仲間だ。新たな即戦力を加えて……、僕はこれからどうすれば逆転できるのかに思いを馳せた。


 ◇


 さぁ、やって来たぞ。今日は逆転の狼煙を上げる日。

 僕が勝利の雄叫びを上げ、勇者として確固たる地位を死守した日となるのだ。 

 ――最難関ダンジョン・氷の魔城。

 この僕、勇者ゼノンのパーティーは初めての敗北を喫した。

 世界中から貴重なSランクスキルに覚醒した者たちを集めた究極のスター集団である僕たちが、幾度となく全滅に追い込まれたのである。

 おかげで、以前に炎の魔城を攻略した際に“最も魔王討伐に近いパーティー”というような名声をもらったが、それが過去の栄光となり今は勇者の称号剥奪寸前となってしまっていた。

 敗北し続けた理由――それを見つけるのは簡単だった。聖女エリスのせいである。

 あの女、Sランクスキルに覚醒した選ばれし者だったはずなのに平凡で矮小なスキルしか持たぬソアラなどに憧れを抱いてるとか常日頃から言っていた。

 よく考えたら、それだけで知能が足りない馬鹿女ってことが証明出来る。

(だって、普通に考えたらさー、憧れるのは僕でしょう?)

 顔も頭も良いし、強いし、Sランクスキル持ちだし、それに僕は勇者だよ?

 見る目がない女の本性に気付かずに、当てにしていたことが、背中を預けたことが、まず間違いだった。

 とはいえ、だ。三人で氷の魔城を攻略するのはちょっと厳しい。

 なので僕はアルゲニア国王から期限を切られたにも関わらず、まずは仲間探しから始めた。

 こういう時にこそ、冷静じゃなきゃな。そこが僕と凡人共の違いだ。

 今度はSランクスキル持ちで、更に僕のことを尊敬してる人間を探さなくては――。

「ウィーッス、ゼノン先輩! メロンパン買ってきやした! いやー、メロンパンって凄いっすね。メロン入ってねーのに、メロンパンっていうらしんすよ。ヤバくねぇっすか? いちごミルクにいちご入って無かったら、オレぶちまかしに行きますからね」 

 そして、仲間にしたのがこのマルサスだ。

 この男、Sランクスキルに覚醒したにも関わらず、フリーターなどをやっている変わり者でな。

 勇者である僕のことを尊敬してるみたいなんだ。

 だから、こうやって自ら僕のためにメロンパンを買ってきてくれた。まぁ、頼んだのはカレーパンであるが……。

「ねぇ、ゼノン。あいつみたいなので本当に良いの? あいつ、初対面で私の胸を触ってきたんだけど」

「お前が露出度の高い服を着てるからだろうが。いつも注意してるのを聞いてないお前が悪い」

「某の楽しみにしていたチョコレートを勝手に食べた……」

「菓子くらいで大の男がみっともない顔するな!」

 ったく、リルカもアーノルドも弛んでる。このマルサスはSランクスキル、“バーサクゾーン”という超戦闘力アップが可能なスキルがあるのだ。

 噂によるとたった一人であの強力なビッグドラゴンの群れを全滅させたのだとか。

 これはエリスにも出来ない芸当だ。ヒーラーはリルカ頼りになるが、そもそもエリスは聖女のクセに治癒魔法は下手くそだったからな。

 僕たちのパーティーはこれで確実にパワーアップしたはずだ。

「うっひょーーーー、あの雲、カニみてぇな形してるぜー! ハンパねー!!」

「「…………」」

 なんだ、なんだ、リルカもアーノルドも不安そうな顔で僕の方を見るな。

 パーティーの強さってのは才能と火力なんだ。

 今、この瞬間に最強のパーティーが出来上がったんだぞ。

(それに……あの男を見つけるために約束の半年のほとんどを消化してしまったんだ。もうあとには退けない)

 安心しろ、今度こそあの憎き氷の魔城を攻略してやるっ――!!


 ◇


「ギャハハハハハハハハハッッッッ―――!!」

 す、凄い……、なんて凄まじい力なんだ……!

 僕の目の前で衝撃の光景が繰り広げられていた。

 氷の魔城に入って最深部の一歩手前にて案の定ジリ貧になってきた僕たちだったが、ここに来て新メンバーのマルサスが本領発揮をした。

 Sランクスキル――バーサクゾーンの凄まじい力に僕は驚愕している。

 アイスゴーレムやブリザードスネークなどの氷の魔城で出現する厄介な上に強力な魔物たちが次々と蹂躙されていく。

 もう、「全部あいつに任せたらいいんじゃないか?」ってくらいの活躍ぶりである。

 まぁ、一つだけ問題点を上げるとしたら――。

「はぁ、はぁ……、私たちにまで攻撃してるじゃないのよ! (あったま)おかしいわよ! あいつ!」

「斬るわけにいかない分、魔物よりも厄介だ……」

 そう、バーサクゾーンを使うと、マルサスはアホみたいに強くなるけど、アホになった。

 いやはや、計算外である。まさか、敵味方の判別がつかなくなるとは――。

「ゲギャギャギャギャギャギャ! ギャハーーーーーーーーーーーッ!」

 僕たちはマルサスに思いきり殴られたり蹴られたりして、大ダメージを負う。

 おかげでリルカが無駄に治癒魔法を使う羽目になり、彼女の機嫌がすこぶる悪い。

 魔力回復アイテムも底をつき、僕らも傷だらけで体力も余りない。 

 このままでは、味方であるマルサスにパーティーが全滅させられる。

 撤退するか? そう思ったとき――。

「ガハハハハハハッ――、ガハッ……?」

 マルサスの動きが止まった。

 良かったー、聞いてた制限時間よりも随分と早かったが、どうやら力を使い果たしたらしい。

 ん? それにしても、何かおかしいぞ……。

「こ、凍ってるぞ! うっ……!」

「な、なんですって!? きゃあっ!?」

 突如として氷漬けになるリルカとアーノルド。

 空間呪法によるトラップか!? マルサスに気を取られて気が付かなかった。

「何度も、何度も、ご苦労なことじゃ。さすがの妾も飽きてしもうたので、な。罠を張ることにした。わざと逃がす戯れも、もう終わりにしようと思うてのう」

「お、お前は氷の女王ケルフィテレサ!」

 まさか、ターゲットの方から赴くとは思わなかった。

 あいつさえ倒せば僕の栄光は蘇るのだ。

 仲間は凍ってしまったが、僕があいつを倒せば問題ない。  

聖炎領域(セントバーナード)ッッッ!!」

 僕は懸命に戦った。

 一人でも、力尽きそうになっていても、奇跡ってやつが僕に味方してくれると信じて。

 そして、僕は――。

「下らぬ。他愛もないことこの上ない」

 気付けば、氷の中に閉じ込められていた。

 う、動けない。そして寒い、寒い、寒い……。

(ほ、本当にし、死んでしまう)

 こんな惨めな死に方ってあるか? 僕は勇者だぞ。

 こんな屈辱ってあるか? 諦めずに頑張り続けたのに。一体、何が間違っていたというのだ?

 体中が凍傷でもう痛いという感覚がない。このまま死ねば、僕は勇者として三流だったと笑われてしまう。

 惨めだよ……、本当に惨めだ……。

(クソッ、クソッ、クソッ、クソッ!)

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