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「おはようございま~す! ソアラ様~、先日はすみません~。一緒について行きたかったんですけど~。大丈夫でした~?」
お試しパーティーでのお仕事を終えて、ギルドに戻った私は、マネージャーであるルミアさんのもとに向かった。
彼女は心配そうな顔をしてこちらを見ている。
「はい。無事にお仕事は完遂することができましたよ」
「それはよかったです~」
「それで今日はお仕事の話の前に、折り入ってルミアさんにお願いしたいことがあるのですが……」
「はいはい~。なんでしょうか~?」
ルミアさんはピクッとその猫耳を動かしながら首を傾げる。
私は意を決して彼女に言った。
「実は……、私の新しいパーティーのメンバーになっていただきたいのですが……。ダメでしょうか? こちらのギルドを辞めていただくかもしれないので、無理は承知でお願いしております」
「えっ?」
私の発言に、ルミアさんは目を丸くしていた。やはり唐突なお願いでびっくりしたのだろうか……。
だが、ルミアさんは是が非でも必要な人材だ。
パーティーを追放された私もそうだが、エレインさんもローラさんも少しだけコミュニケーション能力に難がある。
その点、ルミアさんのコミュニケーション能力は抜群だ。それに加えて身体能力の高さと誠実な人間性。
(彼女ほどパーティーにほしい人材は他にいないです)
だからこそ、私はパーティーを作ると決めたときエレインさんとローラさんに加えて彼女も勧誘しようと決めたのだ。
「やはり……ダメ、ですかね?」
「……」
私が再度尋ねると、ルミアさんは無言のまま俯いた。
やっぱり難しいのだろうか……。
すると、彼女は顔を上げて私に微笑みかける。
「いえいえ、そんなことないですよ~! むしろ、私なんかがソアラ様の仲間になれるなんて光栄です~!」
「ほ、本当ですか!?」
「もちろんですよ~! ソアラ様に誘っていただいて嬉しく思います~。それに私はソアラ様のマネージャーになってからというもの、日々お慕いの気持ちが強くなりましたので……そこまでの評価をしていただいて……ぐすっ、本当に嬉しくて……」
「えっ……? ……えっ? えっ? ど、どうして泣いているのですか……? あの……、もしかして何か私のせいで嫌なことでもあったのですか?」
突然泣き出したルミアさんを見て、私はオロオロしてしまう。
「ち、違います! 違うんですよ~! 私はただ……ソアラ様から仲間として誘っていただけたのが純粋に嬉しかっただけで、ぐすん」
そう言って、ルミアさんは再び涙を流し始めた。
私は慌ててハンカチを取り出し、渡そうとする。
「ルミアさん、涙をお拭きください。……私の仲間になってくれるんですね?」
「はい……。よ、よろしく……、よろしくお願いします~」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
私はルミアさんと握手を交わして、正式にパーティーメンバーとなることになった。
まずはフリーターとしてお受けした仕事をやり遂げてからとなるが、私とルミアさん、そしてエレインさんとローラさん――この四人で約一年後にパーティーとしてデビューすることになる。
(それまでに色々と準備しなくてはなりませんね)
私は心の中で決意を固める。まずは仲間との連携や絆を深めなくては……。
ゼノンさんのパーティーでの失敗は、彼らが個人主義者であったせいなのもあるが、私が必要以上に距離を取っていたのも原因だったと思っている。
ルミアさんとはほとんど一緒にいるから人間性についてはかなり理解ができたが、エレインさんとローラさんとはまだそこまでではない。
これからは仕事の合間に彼女たちと積極的に関わろう。
そして、共に戦うときに息を合わせられるように訓練もしておこう。
あとは装備も揃えないとならない。私が使える武器は剣の他にも槍、鞭、トンファー、短刀、弓など多岐に渡る。
収納魔法を使えるのだから予備も含めて多く所持しておくにこしたことはない。
さらに、魔法をうまく組み合わせて戦う方法もこれまで以上に考えておこう。
手数を増やしておいて損はない。これは私の経験から確かだと言えることだ。
私はまだまだ強くなれる。仲間とともに……。
パーティーの結成を楽しみにしながら、今後のことに思いを馳せる。
「それでは、ルミアさん。本日の予定を教えてください」
まずは目先のお仕事も大事なので、ルミアさんに今日のスケジュールを確認した。
「はい~。本日は国からのソロの依頼を受けていただきます~」
「わかりました」
「依頼の難易度はBランクになりまして~。内容はコボルトの討伐となります~」
今回はソロなので他のパーティーの助っ人ではない。
前回と同じく国からの依頼なので報酬は高額である。
また、魔物の特徴を聞いてみると特に珍しいタイプのものではないようだったので、これなら問題もなさそうだ。
今日も頑張ろう。パーティー結成するまで、私はこのギルドのフリーターなのだから。
私は気合を入れて、ギルドの外へ出るのであった。
◆
「さすがはソアラ様~、無事にコボルトたちの討伐お疲れ様でした~」
仕事を終えてギルドの共用スペースで休憩をしようと腰をかけたら、ルミアさんはニコニコしながら私に労いの言葉をかけてくれた。
やはりルミアさんがサポートでついてきてくれると、かなり楽だ。
彼女のありがたみと頼もしさを実感する。どう考えてもパーティーには欠かせない存在だ。
「では、私はこれから事務仕事がありますので~」
「無理なさらないでくださいね」
「はい~。ありがとうございます~。あっ、それと……」
ルミアさんは猫耳を動かしながら、こちらに顔を近づけてくる。
そして、小さな声で私に言った。
「パーティーの件ですけど……、本当に私なんかが入ってもよろしいのですか~? よく考えたら、あれは夢なんじゃないかと思いまして~」
「もちろんです。むしろ、ルミアさんのような優秀な方に入ってもらわないと困りますよ」
「ソアラ様ぁ~! 嬉しいです~!」
「――っと!」
ルミアさんは私に抱きついてきた。
その勢いで倒れそうになるがなんとか踏みとどまる。
(ふぅ……、危ないところでした。ルミアさんは見た目よりもずっと力がお強いですからね)
「もう、びっくりしましたよ……」
「ごめんなさい~。でも、嬉しくて」
「ふふ、わかりました。頼りにしてますからね」
「はい~! 任せてください~!」
ルミアさんはにっこり笑って仕事に戻ろうとする。
だが、すぐに振り返って私を見つめると、頬を赤く染めて恥ずかしそうにもじもじし始めた。
「あの……、それでですね~。えっと、私……、実は……ソアラ様のこと……」
「どうされましたか?」
「いえ……、なんでもありませ~ん! 失礼します~!」
ルミアさんはそれだけ言うと、逃げるようにして走り去っていった。
(一体なんだったんでしょうか?)
私は首を傾げながら、その場に立ち尽くしていた……。
「そろそろ話しかけてもいいか? ソアラよ」
「えっ? あ、はい。すみません、ローラさん。少しだけボーッとしていました」
私は声をかけられて我に返る。
いつの間にかローラさんが共用スペースに来ており、私の背後に立っていたのだ。彼女は呆れた様子で私を見ていた。
「まったく、これが戦場なら困ったことになるぞ。あなたなら大丈夫だとは思うが……もう少し気を引き締めておけ」
「申し訳ありません。以後、気をつけます」
「うむ、わかればいいのだ。で、ルミアは仲間になってくれるのか?」
「はい。とても心強いですよ」
私は笑顔で答えた。
すると、ローラさんは満足そうな顔で大きく首肯する。
「それはよかった。ルミアは頼りになる奴だからな」
ローラさんやエレインさんからもルミアさんの評価は高かった。
二人とも、私が彼女とともに仕事をこなしている姿を見てそう思ったのだという。
「それで、今日から時間が合えば剣の鍛錬に付き合うと言っていたが、本当か?」
「はい。お願いできますか?」
「ああ」
「では、早速行きましょう」
私は彼女とともにギルドの訓練場に向かう。訓練場はギルドの裏にあり、ギルドに登録している者なら自由に使うことができる。
訓練場についた私たちは木刀を持って向かい合った。
「さて、それでは始めるとするか」
「よろしくお願いいたします」
「あなたの実力は知っているつもりだが……まずは手合わせしてくれないか?」
「わかりました」
私は返事をして構える。
それから、一気に距離を詰めて斬りかかった。
「くっ……!?」
私の攻撃をローラさんは咄嵯に防いだ。
さすがはダルメシアン一刀流の師範代だ。優れた反応速度である。
ダルメシアン一刀流――東の島国であるアトラス皇国で多くの門下生を抱えており、戦場で無類の力を発揮するという剣術。
それだけに彼女の剣は実戦向きで力強いが、それに加えて華麗さもあった。
しかし、スピードでは私が勝り……このままでは押し切られてしまうと判断したのか、すぐに反撃に転じた。
「スマッシュ!」
「うっ……!」
上段の構えから木刀が振り下ろされ、強烈な一撃が飛んでくる。
それを避けられず、まともに受けてしまったが、私はしっかりと木刀で防御することができた。
(真剣だと危なかったかもしれません)
そのまま鍔迫り合いの状態となる。
「ほう、さすがだな……」
「ありがとうございます。ですが、まだまだ頑張れますよ?」
私とローラさんはお互いにニヤリと笑みを浮かべた。
「では、行くぞ!」
「はい!」
私たちは同時に動き出し、何度か木刀で打ち合う。
そして距離を取り、再び激しい攻防を繰り広げた。
「ふぅ……、やはりソアラの技は美しい……」
「き、恐縮です……」
しばらく打ち合って改めて実感したが、やはりローラさんは戦い慣れている。
勘が鋭くて、死角からの攻撃にも対応するセンスには舌を巻いた。
スピードで勝る私の攻撃をすべて捌いてしまい、隙を突いて的確に攻撃を仕掛けてくる。
まるで私の動きを先読みしているかのような戦い方だ。
「私もかなり腕には自信があったが……ソアラほどの腕前を持つ者は初めて見た」
「いえ、そんな……」
「謙遜することはない。誇っていいことだ」
ローラさんは爽やかな笑顔で言う。
(それでもやはり剣の腕前は彼女のほうが若干上……。このままでは勝てないでしょう)
私も彼女の強さに感嘆していた。
しかし、勉強になる。彼女のしなやかさと力の強さは相当なものだ。
(もっと鍛えなければなりませんね)
「よし、そろそろ本気を出そう。ソアラ、あなたに初めて見せる。これがダルメシアン一刀流の真髄……闘気術だ!」
ローラさんが目をつむって集中したかと思うと、彼女はオーラのようなものを身に纏う。
こ、これは……!
(すごい! 先程までとは比べ物にならないくらいのプレッシャーです)
私は驚きつつも、ワクワクしながら身構えた。
「闘気術は体内にある気を放出することで、身体能力を飛躍的にアップさせることができる」
「なるほど……。素晴らしい技術です」
「うむ。だが、これには大きな欠点がある」
「というと?」
「体に大きな負担がかかるのだ。長時間の使用はできないだろう。しかも、使用中は体力が著しく消耗する」
「確かに……、デメリットは大きいようですね」
「ああ、だから悪いが早めに決着をつけさせてもらうぞ」
「構いませんよ」
「行くぞ!」
ローラさんの姿が消えたかと思った瞬間……私の目の前に現れた。
「速い!?」
「スマッシュ!!」
「ぐっ……!?」
なんとかガードしたが、凄まじい威力の攻撃を受けて吹き飛ばされた。
先程、同じ技を受けたが威力は段違い……。腕が痺れて握力が入らないほどである。
(木刀でも、これほどですか。闘気術、恐るべし……ですね)
「勝負あったな」
地面に倒れ込む私を見てローラさんが言う。
こんなにすごい技を見たのはゼノンさんのパーティーにいたとき以来。やはりこの方はすごい……。
「はぁ……、まさかこれほどまでに差があるなんて思いませんでした。完敗です……」
「まあ、私は一応剣術専門だからな。あなたが剣だけでなく魔法なども使えば敵わなかっただろう」
「それはどうでしょう?」
「謙遜をする……、だがそれもソアラらしいな」
ローラさんは苦笑いする。
ありがたい。こんなすごい方と私は仲間なんだ……。
「では、約束通り、これからも剣の鍛錬に付き合ってくださいますか?」
「もちろんだ。まずはさっきの闘気術を教えよう。きっとソアラにも使えるはずだ」
「はい、お願いします! って、秘伝の技を教えていただいてもよいのですか?」
私はローラさんの発言に驚く。
しかし、彼女は首を縦に振り……まっすぐにこちらを見た。
「問題ない。それに、ソアラなら悪用しないと信じているからな」
「ありがとうございます」
「それに……、エレインはきっとこんなすごい技をソアラには教えないはずだ。わ、私のほうがソアラのことを――」
「えっ……?」
「い、いや、気にするな。そ、それより、早く始めよう」
「はい!」
なぜか顔を真っ赤にしてなにか聞き取りにくいことをいうローラさんでしたが、顔をブンブン横に振るといつものような凛々しい顔つきに戻る。
こうして私は剣の鍛錬を始める。
この闘気術を覚えれば、きっと私はもっと強くなれる。
彼女との鍛錬は時間を忘れてしまうほど楽しかった。
パーティーが始動するまでの間、私はローラさんとこのようにして剣術の稽古に励んだのである。
◆
「姐さん、すみませんね。買い物まで付き合わせてしまいまして」
「いえ、お安い御用です」
私は現在、エレインさんと街に来ており、彼女に必要なものを買い揃えるために歩いているところだ。
「しかし、ソアラ姐さんにこのようなことを頼んでしまって申し訳ないと思っています」
「そんなことありませんよ。私でよければいつでも声をかけてください。エレインさんにはいつも魔法の修行に付き合ってもらっているのですから」
「へへ、あんなのお安い御用というか、ソアラ姐さんとデートできるなら儲けものっていうか……」
「……? えっと、今、なにか言いましたか?」
「い、いや、なんでもありませんよ!」
「そうですか?」
エレインさんは慌てて否定する。
少し様子がおかしいが、まあいいか。
そんなことを考えながら私たちは街を歩いていく。
「しかし、こんなにも多種多様のハーブ。一体何に使われるおつもりなんですか?」
「……それはエルフ族秘伝の新魔法を作るためですよ」
「新魔法!?」
私は驚いてしまう。
エレインさん、新しい魔法を開発しようとしているんだ……。
確かにエルフ族は植物を使ってオリジナル魔法を作るという話は聞いたことがあるが、身近にそういった方がいるのは初めてである。
「そ、そうなんですか。それで、どんな魔法を?」
「それは秘密です。完成するまでは内緒のほうが面白いじゃないですか」
「なるほど……。ちなみにどのような効果があるのでしょうか?」
「そうですね。ソアラ姐さんにぴったりな魔法ですよ。できたら姐さんにプレゼントしようと思っていまして」
「私にぴったりな魔法……?」
「ええ、きっと気に入りますよ」
「ふむ……」
私は考える。
果たしてどんな魔法だろうか……。
すっごく強力な攻撃魔法……、それともあらゆる攻撃を防ぐ防壁魔法。
まぁ、どんな魔法でもエレインさんからの贈り物だ。喜んで使わせてもらおう。
(うーん……。でも、エレインさんのことだから私が想像もつかないようなすごい効果の魔法かもしれませんね)
それからしばらくすると、私たちの視界に一軒のレンガ作りの家が入った。
「あれがあたしの家です。魔法の開発はここでやっているんですよ。ささ、入ってください」
「はい、失礼します」
エレインさんに促されて家に入る。
通された部屋は小さなリビングとなっており、部屋の中心にはテーブルと二脚の椅子が置かれていた。
「ちょっと待っていてくださいね。今お茶を出しますから」
「いえ、おかまいなく」
「ダメです! 客人をもてなすのは当然のことなんですから」
「はぁ……。わかりました」
私は仕方なく椅子に腰かける。
そして……、部屋の隅に置いてある本棚に目を向けた。
そこには大量の本が並べられており、そのどれもが魔法に関するものであることがわかる。
「凄まじい数ですね」
「そりゃあもう、暇さえあれば研究していますからね。あっ、紅茶持ってきました」
「ありがとうございます」
「どうぞどうぞ」
「いただきます」
私は差し出されたカップに口をつける。うん、美味しい。
「ところでエレインさん。先ほどの話の続きなのですが……」
「ああ、ソアラ姐さんに相応しい魔法って話でしたよね?」
「はい、いったいどういうものなのか気になりまして……」
「いいでしょう。それではさっそく作りましょうか」
エレインさんは買ってきたハーブを取り出して並べ、胸の谷間から取り出した御札を構える。
(えっ? なんでそんなところに御札をしまっているのでしょう?)
「まずは植物成長!」
エレインさんが呪文を唱えると、置いてあったハーブたちがみるみると大きくなっていく。
まるで生きているかのように動くその姿は圧巻だった。
「これがあたしの魔法です。この魔法は植物の生育を促進させることができます。しかも、ある程度成長したら勝手に枯れるので、栽培しているときに余計な手間がかからない優れものです」
「なるほど、素晴らしい魔法ですね。これが新しい魔法ですか……?」
「いいえ。それは今から作ります」
エレインさんはそういうと、再び胸の谷間に手を入れて、今度は一枚のメモを引っ張り出す。
(えっと、ここはやはりツッコミをいれるべきなのでしょうか? でもエレインさんは真剣な顔をしていますし……)
「これは魔導書の一ページでして、魔力を通すと、このように文字が浮かび上がる仕組みになっています」
エレインさんはそう説明しながら、紙に指を走らせていく。
すると、紙の上の空間に光の文字が現れ始めた。
「すごい……、魔法に関しては私もかなり詳しいですが初めて見ました」
「エルフ族の秘伝なのでご存じないのは無理ないかと……。では、これを成長したハーブに張り付けてっと」
エレインさんは作業を終えると、こちらに向き直った。
「これで準備完了です。あとはこの魔法を発動すれば……」
彼女が魔法名を呟くと、一瞬だけ魔法陣のような模様が現れた。
しかし、すぐに消えてしまい、特に変わった様子は見られない。
「この種の中に新しい魔法が宿ります。食べてみてもらえますか?」
「わ、わかりました」
私はおそるおそるハーブの種子を手に取る。
そのまま口に運んで、噛んでみた。
「うぐっ、味はかなり苦いですね」
「ふふ、まぁ薬みたいなものですから。しかし魔法の種は母体であるソアラ姐さんに宿りました。……そろそろ呪文が頭に浮かぶのではありませんか?」
「……ええ、そうみたいですね」
私は目を閉じ、魔法のイメージをする。
すると、確かに言葉が頭に思い浮かんだのだ。
(お、驚きました。頭の中に前世の記憶が蘇ったときみたいに、元々その魔法を知っていたかのような感覚です)
「……おそらく、できました」
「それはよかったです。早速発動させてください」
「はい、いきます。身体強化!」
私が魔法名を唱えると、体が軽くなるような不思議な感触を覚えた。
「こ、これは……?」
「成功したようですね。少し、外に出て説明しましょう」
エレインさんが嬉しそうな表情を浮かべる。
そして私たちは一緒に彼女の家の外に出た。
「今のは身体能力を強化する魔法です。この魔法を使えば魔力を消費し続けるというデメリットはありますが、スピードもパワーも守りも飛躍的にアップします」
エレインさんの説明を聞きながら、私は軽くジャンプする。
すると、普段の数倍の高さまで飛び上がったではないか!
さらに全力疾走してみると、かなりの速さで走ることができた。
(……すごいですね。先日、ローラさんから教えていただいた闘気術と同じくらい身体能力が強化されています)
まさかお二人から同様に身体強化の術を教えてもらえるなんて、偶然だろうが嬉しいことだ。
「それにしても、なぜこんな素晴らしい魔法を私にプレゼントしてくださったのですか?」
「ふっ、そんなの決まっているじゃないですか」
「……決まっている? どういうことでしょうか?」
「だって、ローラのやつがなんかソアラ姐さんに技を教えたって自慢してきたんですよ。それが悔しくて、あたしも何かしてやろうと思ったわけです」
「えっ? そ、そうだったのですか? すみません。お気を遣わせてしまって」
エレインさんの言葉を聞いて私は申し訳なくなる。
だが、彼女は微笑みながら首を横に振って、私の手を握った。
「どうです? ローラなんかじゃ、こんなにすごい魔法は教えられないでしょう? やっぱり、あたしがソアラ姐さんの右腕ですよね!?」
機嫌良さそうな顔をして、エレインさんはそう言った。
(これはローラさんの闘気術とほとんど同じ効果ということは黙っておいたほうがいいんでしょうか……)
それにしても本当に面白い偶然だ。二人が二人とも同じような術をプレゼントしてくださるなんて。
仲があまりよろしくないと思っていたが、案外……二人の波長は合うのかもしれない。
こんな感じでエレインさんとはパーティーが始動するまでの間、魔法の談義や修練などを一緒にすることで親睦を深めた。
そして……一年というのは思ったよりも早く過ぎ去って、ついに私たちは新たな旅立ちの日を迎えたのである。