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9.密かな確信、決意。

 私は走る。ただひたすらに走る。


 なぜ?


 いつも感情なんて見せることのない彼が、ぎこちない笑顔で、迷惑そうな表情でわたしを見据える、そんな彼がいつもと違って見えた。

 その時、私の脳裏には絶対に嫌な最悪の結末が過ぎった。

 あの数年前のトラウマが蘇るようで、いてもたってもいられなかった。あんな出来事、もう二度とごめんだ。


 だから走った。


 どこへ?


 それは、分からない。

 でも、救いたい人が⋯⋯今、救わなければならない人がいる。


 だから⋯⋯走る。

 

「どうか、何事もありませんように」


 気付けば私はそんな願いを口にしていた。



 ◆◇◆◇◆



 思いの外、探し人である高島晴樹くんはすぐに見つかった。

 だけどそこには高島くん以外にもう一人、男子生徒の姿が見えた。


「何だ? 怒ってるのか? 高島、どうした?」


 その声を聞いた瞬間、思わず声が漏れ出そうになった。

 落ち着きのあるその声の主。それが誰かなんて顔を見なくても分かる。

 毎日のように聞き、耳に馴染み込んだ声、それは疑いようもなく私の友達、いや、親友の上野秀くんのものだった。


 なぜ、秀くんがここに? 高島くんと仲良かったっけ?

 お昼はもう食べたのかな。もしかして秀くんも高島くんのこと気にかけて⋯⋯。


 疑問は際限なく溢れ出る。本当に際限なく⋯⋯だ。

 でも、今はそんな疑問よりも優先すべきことがある。


 いつものように笑顔で彼を迎えに行こう。秀くんがいても関係ない、そう、いつもみたいに。


 私は一歩を踏み出す。


 と、次の瞬間。


「なんで俺がっ、」


 辺りに声が響いた。

 その声はとても掠れていた。

 

「俺が、気を遣わなければならないんだ」


「別にそんなこと頼んでない」


「いっつも、何でお前らにビクビク怯えなければならない?」


「知らん」


 怒気を含んだ声色、今にも泣き出しそうで震えるそれが高島晴輝くんのものだと理解するのには数秒の時間を要した。


「なんでっ?何でなんでなんでなんでだ?」


「だから知らないって。高島、さっきからお前が何を言いたいのかがさっぱり見えてこないんだが──」



 でも、ああやっぱり、そうか。そうなんだ。やっぱり⋯⋯違ったんだ。


 いつか、私が引き出すはずだった彼の本音、本当の彼は、いとも容易く秀くんの手によって解かれた。

 正直に言うと、それは私がやりたかった役目だ。




 ⋯⋯猫被ってるでしょ?




 前に一度、高島くんに聞いたことがあった。


 その時は肯定も否定もせず、高島くんはただただ黙っているだけだった。

 でも、私には分かった。ううん、私じゃなくたって分かっただろう。

 その時の高島くんは明らかに取り乱し、バツの悪そうな顔で俯いたのだ。


 その時、私は決意した。


 絶対に彼を救うと。

 高島晴樹くんと絶対に本心で話すことを誓ったのだ。



 だから⋯⋯迷うな、私。今がそのチャンスだろう?

 一歩を踏み出せ。あと一押しの勇気を振り絞れ。


 日常に戻ろう。私達の日常に。

 いつものように笑顔で彼を迎えに行こう。とびっきりの笑顔で。そしてその後で、彼をめいっぱいからかおう。


 私は勢いよく駆け出した。


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