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7.理不尽な矛先。

「おっはよう!!」


 朝の通学路で声が響く、最早日常である。

 水上明美は相も変わらず俺に付き纏い、話しかけてくる。

 正直、朝一番からそのテンションにはついて行ける気がしない。

 まあ、昼だろうと夜だろうとそれは同じか。


「おはよう」


 俺は淡白にそれだけ言い、足を止めることも無く歩き続けた。


「うん、おはよっ」


 そう満足気に返し、俺の隣へと並んでくる水上。

 そこでふと当たり前の疑問が浮かぶ。


 なぜ水上は俺にこんなにも頑なに好意的に接してくるのだろうと。

 それもただひたすら。ひいては俺が鬱陶しいと感じ始める程にしつこく。

 水上にメリットなんて無いはずだ。

 正直、意図が読めない。意味が分からない。


 だから⋯⋯怖い。

 打算的な考えがない、見えない、意味もなく笑顔を絶やさずそれを周りに振りまく彼女が、水上明美が怖いのだ。


 分からないから怖い。全て分かって、安心していたい。


 そういった気持ちを抱く。


 ああ、そうか。だから俺には──


 そんなことを考えているうちに学校、教室前まで着いていた⋯⋯




 ◇◆◇◆◇




 教室に入ると、いつもと違うことがひとつ。


「明美ちゃん、来てー」

 

 そんな風に水上を呼び止める声が教室奥から聞こえてきたのだ。

 教室奥を見据える。

 男二人、女一人の三人組が水上に手を振り、こちらへ来いと促していた。

 それは見覚えのある生徒、確かこの学校に来た初日に水上と一緒に自己紹介された生徒達。名前は確か⋯⋯。


 と首を捻ったは良いものの、全くと思い出せる気がしない。



「あ、はーい!」


 水上はその名前の分からない三人の元へ駆け寄る、かと思いきや、くるりと体をこちらへと向ける。


「行ってきますっ」


 そう言って水上は朗らかに笑う。


 そして今度こそ駆け足で三人の方へと。

 三人は暫く俺の方を注視していたが、水上が赴くと俺への視線は途端に外され談笑を始めたのだった。


 水上明美は人気者だ。だから俺なんかと登校している所を見て彼女らは不思議に思ったのかもしれない。

 その視線は少し気になったが、気にしていても仕方がないので考えないことにする。


「ちょっといいか」

 

 一難去ってまた一難。


 ふと、俺の耳元で声がした。

 聞こえるか聞こえないか、そんな小声を発したのは男子生徒。


 振り向くと、黒い髪、整った顔立ち、そして何より鋭い眼光だった。

 しかし、その目線の先は俺ではなく⋯⋯先程まで俺の隣にいた少女の方へと注がれていた。


 初日に自己紹介された生徒、最後の一人。

 名前は確か⋯⋯上野、上野秀だ。他の三人とは違い、なぜか名前を覚えていた。


「え、なに」


 急に話しかけられたこともあり、俺の声は相当上ずっていたことだろう。


 しかし上野はそんなことを気にも止めずに続ける。


「話がある。今日の昼休み三階の3ーCの空き教室に来てくれ」


 それだけ言うと、俺の返答を待たずして自分の席へと戻っていった。


 拒否権はない⋯⋯か。

 はあ、面倒なことになってきた。


 何の話か、なんてことは想像に難くない。

 先程の上野の様子から鑑みるに十中八九水上明美のことだろう。


 じゃあどんな話だ? 水上のどんな話か?

 それは分からない。


 行ってみるまでは何も分からない。

 そんな迷惑極まりない爆弾を上野は置いていったのだ。


 それはすぐさま俺の頭を侵食した。


 たぶんこれは昼休みのその時になるまで離れることはないだろう。おそらくはその後も⋯⋯


 しょうがない。こういう性格だ。そう割り切るしかない。

 俺は元々どんな些細なことだって大きく捉え、深刻に考えてしまう性格である。

 これは生まれつき。異世界であろうと現実世界であろうとそれは変わらない。


 でも、だけど。それで俺の時間が奪われるのは少しばかり理不尽が過ぎるのではないだろうか。

 だが、だからといって、この原因を作った上野に怒りを向けたとて、どうなる問題でもない。


 そもそも向けることなんて出来ないからこんなにも深刻に捉えているのだ。


 分かっている。


 だが──


 ふつふつと湧き上がる。

 青い炎の様に静かに燃える。


 何が?


 言うまでもない。


 怒り。憤り。その他諸々。


 それも時を刻むにつき、熱に拍車がかかる面倒なタイプの怒りだ。


 そう、何倍にも、何倍にも膨れ上がる。


 昼休みになる頃にはどうなるだろうか。


 もう何も、何だって、どうだっていい。


 仕方がない。


 俺は元々こういう性格なのだから⋯⋯

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