6.友達は作れない。いや、作らない。
学校三日目だ。
昨日の疲れはまだ完全には取れていないようで少しばかり眠気がする。学校への足取りも妙に重い。
昨日の一件はどうやら俺の中で相当に疲労の溜まるものだったらしい。
そんな朝の通学途中、学校まであと少し、という所で誰かに話しかけられた。
「高嶋くーん!!」
振り向かなくとも誰か分かる。
こんな朝っぱらから俺に話しかけてくる生徒なんてこの学校に、いやこの世界でもたった一人しかいないだろう。
「おはよっ!」
流れるような黒髪を揺らし、軽快なステップで駆け寄ってくる少女、水上明美は今日も今日とて満点の元気を持って俺に声をかけてきた。
「おはよう⋯⋯」
だから負けじと俺も、昨日よりも更に磨きのかかった陰気声で応戦する。
「高嶋くん、早いんだね」
「まあ、うん」
そんな俺の抵抗も虚しく、水上は気にした様子を見せることもせず、会話を再開した。
だが、水上は知らないだろう。俺の本当の姿を。
友達が多い奴には多い奴なりの理由があるように友達がいない奴にもそれなりの理由があるのだ。
今、その一端を見せようと思う。
「今日、天気いいねー」
「確かに⋯⋯」
「一時間目何だっけ?」
「分からない」
「あ、体育だっけ?」
「そうかも」
ふっ、どうだ? とてつもなくつまらない男だろう、俺は。
こんなつまらない奴と友達になろうだなんて誰が思うのか、という話だ。
だが、この世界ではこれでいい。むしろ、これがいいのだ。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
水上はついに黙りこくってしまった。
恐らくはこんなにもつまらない奴がこの世の中にいたのか! という驚愕の沈黙だろう。
「ねえ、聞いてもいい?」
「何?」
どんな罵詈雑言を浴びせられるのか、少し身構えた。
しかし、それは杞憂に終わる。
「高嶋くん、彼女とかいたことある?」
ふいに、唐突に、なんの脈絡もなく、水上はそんなことを聞いてきた。
意図が分からない。他意があるのかと疑ってしまう。
それが思わず態度に出そうになるが、ギリギリのところで踏みとどまる。
「いや、ないよ。水上さんは?」
即答、そして反撃。
だが、直後に思う。俺はなんて余計な事をしてしまったのだろうと。
大人しく、「ないよ」とだけ答えておけば良かったのだ。
「た、高嶋くんが、私に質問してくれたっ!?」
心底嬉しそうに水上は俺へと視線を向けてくる。
「た、高嶋くんっっ、これはもう心を開いてくれたってことでいいよねっ!」
「ち、ちがっ」
「ありがとねっ!」
俺の言葉を遮り、水上は何に対してかは分かり兼ねる感謝を口にした。
「いやー、何だか感慨深いねぇ⋯⋯、あの高嶋くんが、私に⋯⋯」
涙すら浮かべそうな勢いで感傷に浸る水上。
「別に深い意味があったわけじゃ⋯⋯」
「照れなくてもいいよー、 はるきくん?」
「は、はあ!?」
突然、名前で呼ばれ思わず動揺してしまう。
「ふふっ、楽しいなあ」
そんな俺の気を知ってか知らずか、水上はいたずらに小悪魔的な笑顔をこちらに向けた。
「高嶋くん、ここでひとつ提案があります」
「なに?」
「 私たち、友達になりませんか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
体は固まり、思考は停止する。
「ごめんなさい!!」
しかし、口は反射的に動いていた。
そして、すぐさま走り出し学校へと向かった⋯⋯はずなのだが、足が動く気配は一向にない。
「逃がさなーい」
「ちょっ、待っ」
水上に腕を捕まれたのだ。
合図もなく突然掴まれたので、俺の体は不安定な状態になり、
そして次の瞬間、俺は盛大に転倒した。
それからは一時間目、二時間目と流れるように時が過ぎていった。
まあ、その全ての間、水上に絡まれ続けたのだが。
好きな食べ物や趣味、好きなこと等、本当に様々な事を聞かれた。
今日一日、水上と話していなかった時間の方が短いのではないだろうか。
だから気づかなかった、いいや、気づけなかったのだ。
クラスの一部から放たれる不穏な視線、それは明らかな闇であること。
そしてその視線は俺を確実に突き刺していることに気づけなかったのだ。
そうして学校生活三日目は終わりを迎えてしまった⋯⋯
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