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4.一日経って。

 下校時間を迎え、先程までの静寂はどこへやら、クラスは再び喧騒に包まれた。

 帰りはどこに行こうだとか授業が疲れただとかそういった他愛もない話が聞こえてくる。さすが中学生、元気が凄まじい。


 そんな中俺はというと、そんな気力はなく、というか誘われるわけもなく静かに帰路に着いていた。


 家までの道のりはなぜか自然と理解していた。

 不思議だ。全く知らない土地のはずなのに俺の足に迷いはない。

 まるで初めから自分の家の場所が分かっていたかのようだ。


 ああ、そうか⋯⋯

 おそらくこれも俺をこの世界に送った「アイツ」の仕業なのだろう。


 俺はただひたすら田舎道を歩く。

 気持ちの良い風、新鮮な景色、さっぱりとした風景。見れば見るほど本当に何もないその中、静寂の時間をただただ過ごした。


 そんな田舎道を徒歩数十分、ようやく目的地へと着いた。


 目の前には立派な建物、そして石の表札には「高嶋」の文字。どうやらここがこの世界での俺の家らしい。


 正直予想以上に大きくて度肝を抜かれた。


 俺は勢いよく玄関を開ける。


「おかえり」


 漏れ出た僅かな言葉。

 それは多分、誰かの返事を期待するものではなかった。長年の癖、現実世界で毎日のように機械的に発していたモノ。


 しかし、そんな意味のない言葉は新たな言葉を呼び込んだ。


「おかえり、晴輝」


 家の中から誰かが出てくる。

 瞬間にこの人が誰かを理解した。


 この人は母親。おそらくこの世界での俺の母親なのだろうと直感的に理解した。


「学校どうだった?」


「別に⋯⋯普通かな」


 言いつつ俺は二階への階段を登っていた。


 素っ気なかっただろうか、怒らせてはいないだろうか、今ので良かったのだろうか⋯⋯

 そんな心配が溢れてくる。


「ちょっと! もう、夕飯までには降りて来なさいね」


 少し語気を強め母は言う。


「はーい」


 俺の家があって、母親がいて、おそらく父親もいる。

 本当に異世界に来たのだなと改めて実感する。

 俺の知らない土地で俺の知らない人達が俺の事を知っているのだ。


 こんなものを見せられれば信じる他無いだろう⋯⋯


 自室へと向かうや否や、俺はまずベッドへとダイブした。


「⋯⋯はあー、疲れた」


 思わずそんな言葉が出てきてしまう。


 今日だけで本当に色々なことがあったからだ。

 異世界に召喚され、知らない奴らに話しかけられたためか精神はすり減り、もう限界である。


 これからはこんな重々しい日々が日常になるというのだから憂鬱以外の何者でもない。


 しかし、友達も作れないこんな世界で、俺は何をすればいいのだろうか。


 いや、もう分かっているはずだ。


 どうもこうもない。どうすることも出来ないのだ。

 俺にできることはただがむしゃらに生きていくことだけである。


 そんな事を考えている途中で、俺の意識は静かに遠のいていった。


 今は一時の安息として惰眠を貪ろう。

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