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3.自己紹介。

 それからというもの、俺は全力で走り教室に戻れたのは授業開始直前という時だった。


 教室の扉を開ける。


「おお! 高嶋くん戻ってきた!」

「ギリギリセーフ⋯⋯だね!」


 名前も知らないはずのクラスメイトたちが口々に俺へと言葉をかける。


「うん」


 しかし俺はそれだけ言って席へと戻った。


 少し無愛想だっただろうか⋯⋯。


 心配したのだが、クラスメイト達は俺のことなど気にも留めず、何事もなかったかのように会話を再開していた。


 しかしその会話はすぐに止んだ。

 授業開始のチャイムが鳴ったのだ。

 弛緩した空気がガラリと変わり騒がしかった教室は静かになる。


 そして授業が始まった。



 ◆◇◆◇◆



 この世界に来てから数時間が経った。


 楽しいことは何も無いし、辛いことも何も無い。しかし、分かったことはある。


 どうやらこの中学校、結構な田舎のようだ。

 教室の窓から辺りを見渡しても、ない、ない、何もないのだ。

 あるものといえば、畑や田んぼと言った、田舎っぽい! というものばかり。


 今思えば、さっき俺に人が集まってきたのも田舎ならではのイベントだったのだろう。

 田舎に転校生が来ることなんて滅多にない。だから皆転校生に驚くし、聞きたいことも山ほどある。


 俺のような生徒に興味を引いたのも納得出来る。


 正直これでは「異世界召喚!」と言うより、ただの 「田舎に引越し!」 である。


 まあ、不満などひとつもないのだが。


 一方で分からないこともある。

 友達とは何か、ということだ。


 俺をこの世界に送った「アイツ」が言うには友達を作ったら即帰還しなければならないらしいが、友達とは一体?


 どこからが友達なのだろうか。全く持って分からない。


 何せ俺は友達ができたことがないのだ。そんな線引きが分かるはずもない。


 例えば、話をする関係は友達ではないのだろうか。


 例えば、昼食を共にする関係は友達とは言えないのだろうか。


 答えは否。⋯⋯のようだ。


 今、俺が元の世界に帰還していないのが何よりの根拠。

 団欒しながら昼飯を一緒にする、といういかにも友達らしいことを現在進行形でしているにもかかわらず俺はまだこの世界にいる。


 本当に、友達とはなんなのだろう⋯⋯。


「高嶋くん、この学校は慣れた?」


 ふと誰かが口を開いた。


「いや、まだかな」


 俺は素直に答える。

 まだここに来てから数時間なのだ。慣れているわけがないだろう⋯⋯


 今は昼休み、昼食を取っている最中だ。


 俺は一人で食べるつもりだったのだが、どうやらここの学校では机をくっつけて食事をするというルールがあるらしく、それは叶わなかった。ローカルルールとか言うやつなのだろうか。


 机を合わせ、顔を見合わせ、俺はしぶしぶ中学生達と食事を共にする。


「あ、そうだ! 私たちの自己紹介しようよ! 高嶋くんが一日でも早く馴染めるようにさ!」


 突然女子生徒の一人がそんなことを言い出した。確か明美とか呼ばれていた奴だ。


「賛成」

 

 他の奴らも嫌な反応をひとつも示すことなく承諾した。


 いや~良い人達だなー。多分俺だったらそんな面倒なこと即断ってると思う。いや、友達いたことないから分かんないけどね。


「じゃあ、私から。私は明美です。よろしくね!」


 長い黒髪を払い、意気込んだように少女は言う。

 だが、正直言って意味不明だ。

 それは自己紹介ではなくてただの名前紹介だ。


 まあ、そんなことを俺が言えるはずもなく⋯⋯


「おい、待て明美。それ、なんの自己紹介にもなってないぞ! というか名字すら紹介出来てないってどういうことだよ」


 と、爽やかイケメンという感じの少年が畳み掛けるようにして言った。


 それを受け俺は心の中でその少年を賞賛する。

 よくぞ言ってくれました⋯⋯と。


「え? 高嶋くん、私の自己紹介悪かった?」


 少女が不思議そうな顔で聞いてくるので、俺は頷く。


「ええー? じゃあ秀くん! お手本をどうぞ~。あ、ちなみに私の名字は水上だよ!」


「は? なんで俺!」


 言いながらも秀と呼ばれた少年は自己紹介を始めてくれた。


「えーと、上野秀だ。趣味は釣りだ。よろしく⋯⋯」


「うん、よろしく⋯⋯」

「うん⋯⋯」


 俺は慌てて水を口に含む。

 そうでもしないとこの微妙な空気に押し潰されるような気がしたからだ。


「あー、なるほどね! だいたい分かった!」

「いや、絶対分かってないから」


「分かってるから。秀は黙って見てる!」

「あー、はいはい」


「えーとまず! この子が立花蕾ちゃんで、その子が野中翔平くん。そしてその子が前橋圭くんね! ⋯⋯⋯⋯分かった?」


「ごめん、分からない」


 俺は食い気味に、そして勢いよく答えた。

 何も分かっていないということを強調するためだ。


 今の説明で分かったことといえば、それぞれの名前とこのグループが五人構成ということくらいで⋯⋯


 いや、まあ、友達になるつもりは毛頭ないので別にいいのだが、それにしても紹介が雑すぎないか?


「よし! じゃあもう一回言うからね」


 それから再度同じ説明をされ、俺も再度首を捻っていた所で昼休みが終わった。



 そして授業が終わり、休み時間がはじまり、授業が始まる。



 そうして学校生活の一日目が終わりを迎えた。

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