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19.友達

あと2話です!

「いやー、凄いよ高島くん。走れメロスを暗唱出来るなんて」


 小原先生は拍手をしながら、俺を褒める。


「ええー、そうですか? そんなことないと思いますけど⋯⋯」


 俺は心にも思っていないことを言う。清々しい程の謙遜である。

 本当は今もアドレナリンやエンドルフィンといった脳汁がドバドバに溢れ、自慢したい症状に駆られているのを我慢しているところだ。


「もっと自信もって良いよ。高島くん本当にすごいと思う!私、感動しちゃったよ」


「水上⋯⋯」


 水上がそう言った途端に教室の空気がガラリと変わる。今まで黙っていた生徒達は突然に口を開き始めた。


「高島くん凄いやー」

「かっこいー」

「高島くんってもしかして博識?」

「高島くんなんか、かっこいいかも⋯⋯」


 といった具合に。


 この変わり様、さすが水上だ。

 今思えば、拍手を初めにしてくれたのも水上だったのだろう。


 しかし、水上の言葉を聞いても尚、微妙な顔を崩さない生徒が一人いた。


 言うまでもなく立花蕾だ。

 彼女は微妙な顔、というか心底悔しそうな顔でこちらを見ている。


「ね、凄かったねー、蕾ちゃん」


 そんな立花を見て、水上は立ち上がると、立花の席を見やりそんな事を言った。

 彼女にとってはこれ以上無いくらいの屈辱だろう。


「う、うん。そうだね、明美ちゃん」


 立花の笑顔はこれ以上ないくらいに引きつっていた。



 ◇◆◇◆◇



 授業は恙無く進行し、そして昼休みになった。

 すると昼休みまでの授業の疲れがどっと押し寄せてきた。といっても、その疲れのほぼ全てが一時間目の国語の授業のものだ。

 そんな中、ふと机の中を見ると、想像とは違った景色が広がっていた。それも良い方向で。


 立花に奪われていた国語の教科書がそこにあったのだ。


「おお!まさか返ってくるとは⋯⋯」


 返ってこないものとばかり思っていたので、驚きで思わず声が出てしまった。

 と、喜んだのも束の間。それと一緒に何か薄い紙のようなものが入っている。

 国語の教科書が返ってきたという事はつまり、その紙を入れた人物も⋯⋯⋯⋯、嫌な予感がする。


 恐る恐ると俺は机の中からその紙を取り出した。


「昼休み。2階の階段の踊り場にて待つ。来なきゃ⋯⋯こ○す」


 怖っ、怖いよ。


 果たし状、いや、これでは最早殺害予告だ。


 どうやら相当怒っているらしいことが手紙の文面と乱雑な字から見て取れる。

 誰が書いたかという事は、わざわざそこに行かなくても分かるが、万が一、いや億が一、立花以外の人物が書いたという可能性もある。

 それを考慮し、俺は2階の階段踊り場へと行くことを決意する。



 俺は目的地へと向かうために教室を後にした。

 すると、

「高島くんー、ご飯食べよー。あ、あれ? 行っちゃった!?」


 そんな水上の声が後ろの方で聞こえてきていた、気がした。


 いや、きっと気のせいだろう。そういうことにしておこう。



 ◆◇

 

 目的地までもうすぐの所。

 具体的には、2階階段のすぐ近く。1階階段を登りきった辺りの所。


 そこを歩いている時、上の階で誰かの声が聞こえた。

 それは絞り出したような怒りの声だった。


「クソっクソっクソっ!ウザイウザイウザイッッ!ムカつくムカつく!高島晴輝!!」

 

 どうやらお怒りのご様子だ。

 今、俺がそこに現れれば、確実に殺されそうなくらいの迫力がある。


「まあまあ、蕾ちゃん落ち着いて」


「落ち着いてられるかっ」


「ご、ごめん」


「翔平はどっちの味方なの!?」


「も、もちろん蕾ちゃんの味方⋯⋯だよ」


 翔平とやらのせいで殺伐とした雰囲気に更に拍車がかかってしまった。


 そんな雰囲気なものだから、俺はさっきと全く位置で⋯⋯つまりは一歩すら動くことが出来ないでいた。

 

「ああー、うっざー」


「ごめん。ごめんね」


「というか高島晴輝はまだ? 圭、ちゃんと机に入れてくれたんだよね?」


「ああ、入れた」


 何か、何か、とても嫌な雰囲気だ。

 俺が何か彼女に言われている訳ではない。

 それはそうだ。俺は彼女に気付かれてすらいない。そのはずなのに、なぜだろう。


 立花蕾がとても鼻につく。 とても⋯⋯ムカつく。



 ⋯⋯気づけば止まっていた俺の足は自然と動き出していた。


 音が響く。


「だっ、誰?」


 立花は慌てるように踊り場から顔を出した。

 しかし、俺ということを確認するや否や、水を得た魚のように、キャッキャッと騒ぎ始める。


「なあーんだ、高島晴輝か。というか遅い! 何してたんだよー。私はね、早くアンタと会いたかったの! 何でか分かる? 分かる? わかる? アンタの絶望に歪んだ顔が見たかったからだよっ!うっふふっ」


 ここは動物園かとツッコミたくなるが、それを飲み込み、それよりも優先すべきことを、俺の言いたい事を言うことにした。


「なあ、ほんっとうにダサいなお前」


「はあっ!? 誰がっ」


「お前、お前だよ。立花蕾」


「は? 何でよ」


 立花は俺を睨みつける。


「分からないか? 」


 諭すように、子供にしつけをするように俺は柔らかい表情で立花を見る。


「いつも人に頼るくせして、いざ上手くいかなければ人のせい、自分は何も悪くないと、全て他人の責任だと。お前は女王様か何かなのか?」


 言い終わり、俺は身構えた。

 立花が血管ピキピキで激高してくると思ったからだ。

 しかし、俺の予想とは反し、立花は笑った。


「ふふっ、ふふっ、ふふふ。そっか。まぁもう、いいや。」


 それはまるで、動揺した表情を隠すようで、おおよそ笑顔とは言い難いものではあった。


 やがて笑みは消え去り無表情へ。そして怒りの表情へと移り変わっていく。


「明美ちゃんが悲しむから、やめようって思ってたんだよ? でも⋯⋯もう知らない。あたしは悪くない! 悪いのはぜんぶぜんぶぜーんぶアンタ、あたしを怒らせるようなことをするアンタだっ!」


 ハアハアと呼吸が乱れるほどの大声。それは彼女の必死さを物語っていた。

 即ち、俺の言ったことは図星で彼女にもその自覚があるという事の裏付けである。


「翔平! 」


「は、はいいっ」


「高島晴輝を取り押さえて。動けないように」


「え、な、何で?」


 翔平と呼ばれた少年は立花が何を言ったのか、言っているのか理解できなかったようで、とても動揺している。


「そりゃあ、いじめるからに決まってるでしょう? 私に屈辱を与えたんだ。一発殴ったくらいじゃ収まらない⋯⋯最低でも半殺しだよねー。あ、でも女の私の力じゃそれは無理だからさ、圭、よろしくね」


「ああ」


 翔平とは対照的に圭とやらは無感情に言う。


「ちょっと待って! それはさすがにやりすぎじゃ⋯⋯」


「何、翔平。文句あるの」


 すかさず、ギロリと鋭い眼光が異を唱えた異端者へと飛んだ。


「いや、そういう訳じゃ⋯⋯ないけどさ、」


「じゃあ、はやく」


 そう促すも翔平はその場を動こうとしない。いや、動くことができない。


「ああもういいよ、どいて? 私がやるから」


 わざとらしく溜息をつき、痺れを切らしたようにそう言うと、立花はこちらへと近づいてくる。

 ゆっくり、ゆっくり。この状況を楽しむように。


 そして俺の目の前に来たとき、ニヤリと笑みを浮かべた。


「ふふ──」


 かと思うと、俺の後ろへと回り俺の手を掴む。


 そして羽交い締めで俺の両腕を封じ、俺を動けなくした所で彼女は言う。


「圭! 」


「あぁ! 任せろ」

 

 空気が変わった。殺気に変わった。


 そうか。俺は⋯⋯殴られるのか。


 その瞬間になってようやく理解する。自分の命知らずな行いを。


 圭は力いっぱいに手に、足に力を込め、狙いを定めた。


 殴られることを予測し、俺は反射的に目を瞑った。

 あんなに息巻いて彼女を煽りまくった俺だが、殴られるのは怖かった。

 仕方が無いだろう。俺は強くともなんとも無い。むしろ弱い方であるという自覚すらある。

 だから、目を瞑ることくらいしか出来なかった。


 あと数秒で拳が届く。俺の意識を刈り取る一撃だと、そう直感する。


 ああ、痛いだろうな。当たったら⋯⋯。


 他人事のような感想。

 俺の世界の出来事ではないような、どこか浮世離れした世界に迷い込んでしまったのではないかと錯覚する。

 だけど、違う。これは現実なのだ。

 拳が当たったら痛いし、怖い、当たり前の事実である。


 だから、目を瞑って闇の中へと逃げ込む。


 ──刹那。声が聞こえた。

 聞き慣れた、安心できる声だった。


 それは俺の幻聴。来るはずのない”彼女”を期待してしまった故の幻聴であると、そう思った。


 幻想の中の”彼女”は名前を呼んでいる。大声を張り上げ、力いっぱいに。


 しかし、それは俺の名前ではなく⋯⋯


「秀くん!!!!」


 パチンッ!

 目の前で空気が揺れた。何かが何かとぶつかったような、とても鈍い音。


「あん?」


「弱いものいじめ? だっさ」


 聞こえたのは聞き覚えのある男の声。

 そしてそれは水上が呼んだ名前からして上野秀のものであることは明白だった。


 ゆっくりと目を開けるとそこには、圭という少年の拳を真っ向から受け止めた上野秀がいた。


「秀くん! ナイス。 間一髪、だね!」


 俺の幻聴だと思ったものはどうやら幻聴などではなく、紛れもなく現実だったらしい。

 

「な、なんで⋯⋯明美ちゃん。なんでいるの。なんで⋯⋯⋯⋯なんでソイツの味方をするのよ!!!」


 焦り、怒り、戸惑い。色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合った彼女の第一声が鳴り響く。


「なんでって? そんなの簡単だよ? 高島くんは”友達”だから」


 その言葉はとても自然だった。ごく当たり前の事のように言ったのだ。



 だからだろうか。俺もそう信じてしまった。

 心の底から彼女の事を信じてしまったのだ。


 ああ、そうか、これが──


 途端、押し寄せてくるのは高揚感、満足感、虚無感、脱力感⋯⋯⋯⋯そして涙。

 

 生まれてから十数年今まで一度も出来たことのなかったソレとして認識してしまった。

 ”友達”として認識してしまったのだ。

 認めてしまったが、最後抗うことは出来ない。


 この世界で友達を作れば、現実世界へと戻される。

 そんな説明を受けたのもつい一週間前のはずなのにも関わらず、なぜか遠い昔のように思える。


 つまりは、彼女とは、彼女達とはもう⋯⋯お別れである。


「水上。ううん⋯⋯明美。ありがとう、本当に感謝しかない。してもしきれないくらい、本当にありがとう。⋯⋯⋯⋯たぶん一生忘れない」


 出会いは唐突だった。ならば、別れも唐突なのだ。


「え? どうしたの? 高島くん」


 水上は当たり前の反応を示す。


「高島くん、なんで⋯⋯泣いて」


「じゃあ、また」


 そして、高島晴輝はこの世界から姿を消した。

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