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13.信頼の代償。

 力一杯に抱き留められたその手はとても震えていた。

 それは抱き留めた彼女も同じようで、その手も⋯⋯震えていた。


 完璧だと思っていた彼女の震える手を見て、とても動揺した。嘘だと思った。そう、思いたかった。


 だけど違う。


 ああ、そうか。彼女も自分と同じ人間なのだと、そう理解せざるを得なかった。


 その震える手にはたぶん、沢山の、本当に沢山の想いが詰め込まれているのだろう。


 それは今まで彼女が積み重ねてきた頑張りだ。努力の結晶なのだ。


 それを否定する事なんて誰にだって出来ない。


 それは彼女、水上明美自身にだって出来るはずはないと。


 だから、彼女に頼るのは辞めようと思った。



 ◆◇◆◇◆



 水上の言葉一つでクラスが変わる。

 今もそうだ。水上の元気が無いという理由だけでクラスの空気が最悪になった。

 しかし、元に戻った様子を見るや否やクラスは元通り、あるいはそれ以上のハイテンションとなる。


 水上明美一人の行動で変わるこのクラスが異常だとか、それを直そうだとか、そんな事は思わない。俺が言えた義理じゃない。


 でも、そんな中一つ思うことがあったとすれば⋯⋯やはり水上明美はすごいという事だ。

 たった一言でクラスをまとめる彼女は、さながらどこかの英雄か何かに見えた。


 彼女は最早、「みんなの明美ちゃん」なのだと⋯⋯誰のものでもない、それが崩れれば全てが終わるこのクラスの核のような存在⋯⋯それが水上明美なのだ。



 水上は仕切り直すようにパチンと自分の頬を叩いて見せた。


「みんな、ごめんね。私、ちょっとぼーっとしてたみたい。でも、もう大丈夫⋯⋯」


叩いた頬はすぐさま赤くなり、相当に力を込めて叩いたことが伺える。


「ほ、ホントに? もう、私の事無視しない?」


 先程まで涙を流していた女子生徒。蕾と呼ばれていた彼女は目元をすすりながらに言う。

 どうやら水上に無視されたのが相当に応えたらしい。


「しない、しないよ。蕾ちゃん本当にごめんね!」


 慌てて再度謝罪する水上。


「うん、それなら良かった。明美ちゃん⋯⋯頬っぺ大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫。まだ痛いけど⋯⋯これは罰。戒めの証だから、大丈夫!」


 すると蕾は水上に再度抱きついた。


「蕾ちゃん?」

「大好きだよ、明美ちゃん」


「ふふっ、私も」


 水上は蕾の頭を撫でながら微笑む。小動物を愛でるような優しい眼差しだ。


 その瞬間だった。蕾は含んだような笑みを一瞬、なぜかこちらに向けた。

 俺と彼女に接点なんて全くと言っていいほど無いはずなのにも関わらず、だ。

 しかし、その笑みが好意的なものでは無い事は明らかだった。


「私、蕾ちゃんも、秀くんも、高島くんも、みんなが⋯⋯このクラスが好き! 大好きだよ!」


 そう言って彼女は、水上明美はいつものように幸せそうに笑うのだ。

 彼女の笑顔に呼応するようにクラスもまた幸せに包まれた。それが日常とばかりに。


 そんな中、先程とは真反対の苦い表情で、ただ一人立ち尽くす女子生徒がいた。

 俺はそんな彼女を見なかったことにして、静かに席へと着席した。


 時計を見ると、とっくに授業の始まっている時間帯だった。


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