11.煌びやかな日常。
「⋯⋯別に高島くん、悪くないじゃん」
水上は言った。
怒っていた理由、泣いていた理由、俺の不甲斐なさ、その全てを聞いて尚、水上は言ったのだった。
俺は悪くない⋯⋯と。
「え?」
度肝を抜かれた。それは俺だけではなく、上野もそうだったようで心底驚いた、といった表情で立ち尽くしていた。
「秀くんの自分勝手な行動に怒ってたんでしょ? ならもっともっと怒らなきゃ。なんでお前に合わせなきゃなんないだっ! ってね」
「いや、でも」
「自己嫌悪で泣いた? べつにいいじゃんそれくらい。泣きたい時は泣けばいいよ。恥ずかしくなんか、全然ないよ?」
「それは」
「不甲斐なさ? 不甲斐なくなんかないじゃん。十分頑張ったよ、君は。ね? そうでしょ?」
「がん⋯⋯ばった?」
「うん! 頑張ったよ」
水上曰く、俺に落ち度は無く、悪いのは全て上野⋯⋯らしい。いや、そんな訳は無い。
そんな事、分かっている。だけど、どうしてもその事を否定する気にはなれなかった。
せっかく水上が擁護してくれた事を否定なんてしたら、どう思われるだろうか。
嫌われたくない。だから、口に出来なかったのだ。
言われて、少なくとも悪い気はしなかったから。
水上は本当に⋯⋯⋯⋯強い。
だけど俺は本当に⋯⋯⋯⋯弱い。
またもや自己嫌悪である。本当に、本当に俺は、弱い自分のことが大嫌いだ。
「高島くん、どうしたの?」
「ああ、いや、何でも」
取り繕うように努めて笑顔で俺は返す。
しかし、
「嘘」
水上は全てを見透かしたように、確信を持ったように力強く、確実に否定した。
「え?」
「嘘、だよね?」
「⋯⋯うん」
嘘であるかどうかなんて俺以外に分かるはずは無い。
だけどなぜだろう。水上明美には敵う気がしなかった。だから、白状してしまった。
「自分の事が、嫌い?」
本当に⋯⋯敵わない。でもそれが不思議と心地良い。
「ふふっ、やっぱり図星か」
「なんで⋯⋯⋯⋯なんで、分かったんだ?」
俺は彼女に問いかけた。もしかしたら── そんな淡い期待を込めて。
「自分が嫌で嫌でどうしようもなくて、自分の事を否定したくてたまらないって。そんな表情を⋯⋯君がしてたから」
「⋯⋯」
「辛いよね、もどかしいよね。殺したくなるよね? でもダメだよ? それは ”逃げ” だから」
まるで彼女がその先の結末を知っているかのように、経験しているかのように、そう見えてしまった。
けど、それは多分、俺のエゴだ。
「逃げちゃダメ、何て言わないよ。だけどさ、ちょっと立ち向かってみてもいいかも、くらいは言わせてよ? ほんのちょっと、ほんとのほんとに、ね?」
「そ、それくらいなら、まあ」
「え! ほんとうに!?」
そんなに力説されたら断れるモノも断れなくなる。
でも、やっぱり、本当に⋯⋯水上はすごいな。
「うん、本当に」
「そっか! ならまずは笑顔の練習だね!」
「えー、笑顔関係あるのか!?」
「そりゃ、あるよ!!」
もしかすると、こんな日常を、当たり前を、俺は待ち望んでいたのかも知れない。
今思うと、何に悩んでいたのかすら曖昧だ。
俺の全てを理解してくれる、本当に全てを⋯⋯。もしかしたら彼女なら──
淡い期待は止まらない。
◆
「ああ、そう言えば高島くんやっぱり猫かぶってたんだねー? 」
「うん?」
猫? 猫とは? 何の話か見当もつかない。
「丸聞こえだったよー? 」
「な、何の話?」
「へー、そう? 分からない? なるほど、なるほどお?」
水上は何かを企んだような小悪魔めいた笑みで俺を見た。
「ね、猫って何?」
おそるおそると聞き返す。
「えーっとね。あーあー、コホン」
何かの準備をするように喉を鳴らす水上。
「すーーーーーーっ」
深い、深い、深呼吸。そして、
「な、なんで俺がっ、なんで俺がああぁぁぁぁぁぁっ!! 」
大音量が教室に響いた。いや、学校中に。
「へ?」
「ってヤツのことかな?」
聞いて尚、理解出来なかった。
だけど、一秒、二秒、と時間が経過するにつれて徐々にそれが何だったかを理解し始めた。
十秒も時間があれば全てを理解するのには十分だった。少々誇張した、誇張しすぎの、俺の物真似だった。
「さ、さ、さき、帰りますっっっ」
羞恥心で顔が焼け切れそうだった。俺は、俺はなんという大罪を犯してしまったのだろう。一生の黒歴史だ。
もう、死のう!
「えっ、ちょっ、まだ昼休みっ!」
水上が何を言っていたのかも分からなかった。
「あーー、やりすぎちゃった⋯⋯かな? というか秀くんもいないじゃん!?」
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