1.異世界召喚、そしてぼっち。
今回は、週1投稿目指します!
目を開けると教室だった。
それもどことも知らぬ教室。更に言うと授業中だった。
周りを見渡す。男子がいて、女子がいて、真面目に授業を受ける者もいれば、受けない者もいる。
普通。
最初に浮かんだ感想はそれだった。平凡な教室でのただの一コマだと、そう思った。
アイツが言うにはここは異世界らしい。
異世界とは魔法があって、モンスターがいて人以外の動物が沢山いる、そんなおとぎ話のような世界のはずだ。
しかし、ここは俺が元いた世界と変わらない、いや、ほとんど同じ世界のように思える。
だが、ここは異世界だ。そう断言できる。
なぜなら⋯⋯こんな世界を他ならぬ俺自身が望んだのだから⋯⋯
俺は先程までの事を思い出す。
◆◇◆◇◆
「あなたは死にました」
どこからともなく、それは聞こえてきた。
無機質で感情の無いそれは、おそらく人から発せられたものでは無い。
いや、発せられたというのも違う気がする。どちらかと言うと、俺の脳にじわじわと言葉が広がっていっているという感じだ。
その正体不明の何かに淡々と事実を告げられた。
どうやら俺は死んだらしい。
驚かなかったと言えば嘘になる。
何しろなんの記憶もないのだ。驚かない方がおかしいだろう。
でもそれだけだ。驚いた。ただそれだけ。
「生きたいですか?生きたくないですか?」
ソレは俺に問いかける。
生きたいか、生きたくないか、聞かれるが⋯⋯分からない。
「生きること」とは何で「生きないこと」とは何かも分からない。
だから正直、どっちでもいい。
「では、生きましょう」
俺は何も言っていないはずなのに、ソレは俺の考えが分かっているようだった。どうやら心が読めるようだ。
「あなたの記憶を返します」
瞬間、脳が弾けるような感覚に見舞われた。
光が見えて、消えて、広がって、縮んでいく。それの繰り返し。
やがて、それが終わり──
俺は思い出した。
名前は高島晴輝。十七歳の高校二年生だった。
彼女はおろか、友達すらいないような、そんな悲しい高校生。いわゆるぼっちと言うやつだ。
そして、そんなぼっちの俺は何をするでもなく無意味な時間を貪っている所、トラックにぶつかり死んでしまったのだった。
そんな自分に辟易する。
「異世界へ生きたいですか?」
「生きたくない」
「なぜですか?」
「だって異世界って危なそうだし⋯⋯どんなすごい能力を貰ったって行きたくない」
俺は正直に答える。
俺は異世界よりも安全なはずの現実世界でも死んだのだ。そんな俺が異世界でなど生きていけるはずはない。
「では、そういった危険のない異世界ならばどうですか?」
危険のない異世界など存在しない。そう思い込んでいたので俺は少し動揺した。
「現実世界と遜色のない世界です」
「そんなのがあるのか?」
「はい。しかし、条件があります」
「条件?」
「あなたは前世で友達が一人も作れませんでした。」
事実だけを口にするその声に悪意がないことは分かっていた。
それでも、いや、だからこそ、その言葉は俺に刺さった。
「ですので友達が作れるまではこちらの世界へは帰って来れない、という条件付きです。」
友達を作れるまでは帰れない?
どういうことだ?
俺はもう既に死んでいるはずだ。
つまり、戻ってくるための体は無いということだろう。
「正確には死の間際です。条件を、即ち友達を作ることが出来れば帰還できます」
心を読み、声は俺の疑問に補足した。
しかし、俺は更なる疑問を口にする。
「た、例えば、俺が異世界で友達をずっと作れなかったらどうなるんだ?」
前の世界で友達が作れなかったのだから、次でも作れない可能性の方が高いだろう。
「どうもなりません。ただその異世界での時間が流れていくだけです」
「現実世界の時間は?」
「動きません」
いや、待て。これはもしかしなくても、もしかする。とてもいい話かもしれない。
つまるところ俺は、人間二人分の人生を歩むことが可能というわけだ。
「乗った」
俺は意気揚々と宣言する。
「はい。先に言っておきますが、これは異世界召喚ですので、今のあなたの顔や名前、容姿が引き継がれます。よろしいですか?」
「ああ」
どちみち、友達を作るつもりはないので別にいい。
というか、俺の容姿はそこまで悪いということもないしな⋯⋯そのはず。
「では、どのような家庭の子供がいいですか?」
「普通で」
即答。普通以上に楽なことはない。
「学校は?」
「普通で」
更に即答。普通が一番幸福だ。
「はい、かしこまりました。間もなく異世界召喚を始めます」
その言葉と共に俺の目の前に光が際限なく広がった。
眩しい。眩しすぎて目が焼けそうだ。
光は尚も広がり続ける。
熱い。熱すぎる。
もう限界だ、という所でそれは収まり、
そして俺は、異世界へと旅立った──