09.『誰が好きなの』
逆お気に入りユーザーが増えて嬉しかった(小並感
なんでこういうのに通知はないんだろうかね。
感想やメッセージとかは通知あるのに。
温かい紅茶の入ったカップを手渡して僕も彼女の横に座る。
あ、もうお風呂に入らせたので彼女も濡れてないから一安心だ。
「で、傘もささないで来るような用件だったの?」
来た理由が分からない。
今だって微笑を浮かべて紅茶をふぅふぅ冷まし飲んでいるわけだし、特に重い出来事があったようには見えないが果たして。
「ふふ、こうでもしないと入れてくれないから」
「おバカさんだったか……」
僕も同じようにカップに口をつけて中身をちょびっと飲んだ。
たかだか、なんてことはない家に入るために濡れるなんてどうかしている。
「……うそだよ、怖かったの」
「いや、結局それはバカなことには変わらないよね?」
「うるさいっ、なんでさっきからバカって何回も言うの!」
「……ごめん。それでどうして今日なの?」
「お母さんは?」
「お友達と食事かな。ま、正直に言ってひとりは寂しかったし、君の存在はありがたくもあるんだけどね。西山先生を誘ったんだけど断られちゃってさ」
ま、特定の生徒と特別親しくしていたら怪しまれるし、あの対応が正しいのは分かっているつもりだ。積極的に先生を困らせたいわけじゃないから、僕も大人しくお礼を言って引いたというわけ。
「……ね、今日は家に帰りたくない、前と同じ部屋でいいから泊まってもいい?」
「うーん、一緒の部屋で寝ろとか言わなければいいかな」
「いいの?」
「傘を持っていかれちゃうと困るしね、明日も雨とか言ってたし」
冬に濡れるのは堪える、濡れたまま授業なんて受けたくない。
それにこれで少しでも落ち着けるのなら、まあ、構わなかった。
どうせ母が帰ってくる、そうすれば母の言うようにふたりきりではなくなるわけで、過剰に心配する方が意識しているみたいで愚かなことだと思うのだ。
「じゃあさ、紗織も連れて来ていい?」
「あ、まあ君を泊めるならもう、意固地になっていても仕方ないしね」
「うん、電話をしてくるね」
ちょっと待て、僕の家に泊まるなんてバカ正直に話してあの人が許可を出すだろうか。また変なことを言われるんじゃないのか? また紗織を怒ったりしないか?
……僕が責められる分には構わないが、それで彼女が責められるのは避けたいところだ。でも、もう瀬戸さんは電話をかけてしまっているし……。
「うん、わかった、じゃあね」
「なんだって?」
「ひとりじゃ怖いから迎えに来てほしいだって」
「……しゃあない、僕が行ってくるよ」
コソコソするよりかは顔を見て直接話すほうがいい気がする。
後からバレて見えないところで彼女が怒られるのは堪えるから。
「私が行くよ?」
「怖いんでしょ?」
「……お願いします」
――というわけで僕は彼女の家の外までやって来た。
なんともインターホンを押すのが憚られるが、いつまでも外にいたら風邪を引いてしまう。おまけに彼女をひとりで残してきているので心配なのもあった。
『はい』
「あの、箱田啓ですけど」
そう返事した後すぐに家の扉がガチャリと音を立て開いた。
出てきてくれたのはあの人――紗織の母である。
「どうしたの?」
「あ、えっと……娘さんが僕の家に泊まりたいと」
「紗織が? 紗織ー、啓くんが来ているわよー」
そんで娘の方も出てきて微妙な笑みを浮かべる。
「啓くん、よろしく頼むわね」
「……あの時のことをもう気にしていないんですか?」
「あれは誤解だった、なら心配する必要もないでしょう?」
「ですね、僕は神に誓ってそんなことはなかったと言えますし」
叩く前に気づいてほしかったものだが、ま、今はどうでもいいか。
「ええ、それなら問題ないわよ。とにかく頼むわ、紗織も暖かくして寝るのよ」
「うん……おやすみなさい」
紗織母は家の中へと戻って行った。
「行こうか」
「……啓くん、どうして家に櫻がいたの?」
「なんか知らないけど来たんだよね、わざわざ濡れてまでさ。『こうでもしないと入れてくれないから』なんてバカなことを言ってね」
とりあえず寒いので家に移動。
まだ寝るには少し早いのでリビングに集まる。
「櫻、無理やりはダメだよ」
「うん、私もそう思ったんだけどね。でもさ、家にいたくなかったんだ」
うーん、この子もなんか抱えてそうだな……。
ソファは彼女達に譲り僕は椅子に座った。
というか母はいつ帰ってくるんだろうか、既に21時になりそうなところだが。
「紗織もそうだった?」
「うーん……今日はそうでもなかったけど」
「私はいたくなかった。なんか家って落ち着かないんだよね、ちゃんとそこで生きてきたはずなんだけどさ」
「たまにあるよ、私にだってそういうの」
「だから、箱田くんの家に来たの」
「うん、そっか」
別に他にも友達はいるんだしそっちに行けばいいと思う。
でもなんだろう、来てくれて、頼ってくれて嬉しいと感じるこの気持ちは。
甘い、だから足元をすくわれるのではないだろうか?
けれどあれだ、この空気で怒るわけにもいかないだろう。だから先生が言ってくれたことを実行することはできそうになかった。ごめんよ先生、勇気がなくて。
「ねえ櫻、どうして私を誘ってくれたの?」
「だって先に言っていたのは紗織だもん」
「私が先とか関係あるの?」
「べつにいいでしょ、来たかったんじゃないの?」
「そうだけど、なんか違和感があって」
違和感は僕も感じている。
何故に僕になんか興味がない瀬戸さんが家に来たがるのか。
母には申し訳ないけど、普通の小さい一軒家だ。
最新ゲームがあるとか、漫画が沢山あるとかそういう場所ではない。
他に誰かがいないと寂しい空間で、僕だって頻繁に来たいとは思えない場所で。
憶測だけど紗織の家の方がよっぽど楽しい時間を過ごせると思う。入ったことがないから分からないけれども。
「そういえば啓くんはどうやって帰ったの?」
「先生が車で送ってくれたんだけど、もう凄く快適な空間でさ! 思わず結婚を前提にお付き合いしてください、なんて言っちゃったんだよね。あの車はそれくらい魅力があった……」
なんならミロちゃんを触るよりも手触りが良かった。
ただ先生の車をベタベタ触るのは申し訳ないので、我慢したという形になる。
「啓くん、西山先生を困らせるのは良くないと思うよ」
「うん、そのとおり! だから明日、またお礼と謝罪をするつもりだよ」
先生のことを好きな子、人はいっぱいいるので邪魔もできない。
まあ今の時点で邪魔をしているとかという指摘は置いておくとして、適切な距離感というのを築きたいものではある。
「ふぁぁ……眠い……」
「ははは、おネムさんなのも本当だったのか」
「うん……この時間にはいつも寝ているから」
「じゃあ寝てきなよ、おやすみ」
「……やっぱりダメ?」
「うん、駄目だね」
僕の袖を掴みつつ上目遣い。
でも、僕は負けない、こういうところだけには強いのだ。
「むぅ……おやすみ」
瀬戸さんがリビングから消えて紗織とふたりきりになる。
ここでふたりきりはあの時ぶりで、僕は少しだけ手をキュッと握った。
同じような失敗は繰り返さない、なにを言われても言い返さないぞと決める。
「啓くんがあの子のことを偽っているって感じていた理由が分かったよ」
「うん? どうしていきなり?」
「だっていまのあの子は本当の自分って感じがするもん。啓くんといるのが落ち着くんじゃないかな」
そういうものかねえ、そこに関しては僕は分からない。
自分からそうだと認めたら自惚れだし、違うと答えるのもそれはそれで申し訳ないと思う。故に自分にできるのは黙るか、「そうかな?」と聞き返すだけ。
「でもさ、あの子と僕は君経由の関係みたいなものでしょ? 友達かどうかすらも曖昧なんだよね」
「え、お友達に戻ったじゃん」
「そうなの? それじゃあ友達か」
でもあの子は母が作ったご飯を美味しいと食べてくれたいい子だ。
その点に関しては関われて嬉しかったと素直に言えるが、分からないのはあの子の気持ちである。これは中学の頃からそうだった。
「啓くんが他の子と仲良くできているところを見ると、私も嬉しいよ?」
「なんで紗織が嬉しくなるの?」
「だって、私は啓くんの友達だし」
「はは、そっか、ありがと」
一応、僕も瀬戸さんや紗織が楽しそうにしていれば嬉しくなるわけだし、そういう思考なのかもしれない。
「ね、櫻のこと名前で呼びなよ、多分いきなりじゃなければ怒らないから」
「まあ本人が認めてくれたらね。さてと、君もそろそろ寝なよ、廊下に出てすぐの部屋で瀬戸さんとだけど」
「啓くんはどうするの?」
「お母さんが帰ってくるのを待つよ、もう帰ってくるだろうからさ」
とかなんとか言っていたら「ただいま」と母が帰ってきた。
リビングに入ってきて「わっ」と母は大袈裟に驚く。
「あ、あはは……紗織ちゃん来てたんだ」
「あ、はい……お邪魔してます」
「泊まっていくの?」
「はい、櫻――瀬戸櫻さんと一緒に」
「へぇ、ふぅん、啓もついてに積極的になり始めたのかー」
「「お母さん、それは誤解です」」
とりあえず客間に紗織を押し込んで「おやすみ」と扉を閉じた。
それでリビングに戻り母の横に座る。
「ごめん、楽しくなりすぎちゃって」
「いいんだよ、楽しめたのならさ。お風呂はちょっと冷めてるかもしれないから追い焚きしてね」
「ねえ啓、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
母の雰囲気及び表情は酷く真面目なものだった。
「うん、なに?」
「あのふたりのどっちが好きなの?」
「どっちって……分からないよそんなの」
今だって心の底から信用できたわけじゃない。
それに彼女達だってそういうつもりで近づいているわけではないだろう、多分。
だからそういう変な勘ぐりをするのは失礼だ。
「やっと友達になれたくらいだからね」
「そっか、好きになったら答えてね」
「誰を好きになるんだろうね」
先生が言っていたようにふたりでなくとも沢山の子がいるわけで、もしかしたらビビッとくるような存在がいるかもしれない。出会わないまま経過するかもしれない、案外あのふたりのどちらかをそういう目で見るかもしれない。
そこは自由だからどうなるのかなんて予想できるわけもなかった。
先生をヒロインにしたい……。
でも、この流れだとふたりのどっちか、かなあ。
句読点で文字数カウントされるのやめてほしい。
自分は合っているかも? というところにつけてるけど、間違っていたら申し訳ない。




