24.『一緒にいたい』
読む自己で。
12月31日――年内最後の日。
今日は朝から燐さんが家にいた。
時刻は既に23時を超えており、もうお蕎麦も食べたし母は寝てしまっている。
だからリビングにふたりでいるわけなんだけど。
「けぃ……飲まないのかぁ?」
「未成年だからねぇ」
「そうかぁ……ひっぐっ……寒いなぁ、あ、ぎゅー」
「ちょ……」
このとおり、初詣に行くとかそういう気はさらさらないようだ。
このお酒は申し訳ないということで燐さんの自前ではあるが、既に4缶は開けてしまっていた。が……あまり耐性があるというわけではないらしい。
「……安心してくれ……いつもこんなのむわけじゃ……ない……」
「知ってるよ」
お酒パワー使ってやりたいことをするというのも良さそうだな。
まだできていないキスとか――いや、それは素面の時にやりたいものだ。
「けぃ……好きだ」
「うん、ありがとう」
僕もと言おうとしたら転がって寝始めてしまったので、毛布をかけておいた。
僕はスマホで紗織、櫻、千都、直人先輩が入っているグループ向けに『今年はお世話になりました、来年もよろしくお願いします』と送っておく。
すると通話がかかってきて、
「こっちこそ世話になったな箱田」「私も啓くんにはお世話になった」「全然関わりがなかったけど、お世話になったわねけいちゃん」「けーくんには迷惑ばっかりかけられたけど、お世話になりました」
一気に言われて僕困惑中。
ただ、みんなの雰囲気が明るくて自然と笑みが零れた。
「「「「でもみんなで初詣行ってくるから、また明日!」」」」
「うん、温かい格好してね。それじゃ」
通話が切られて静かになる。
やはり若い人は初詣に行くみたいだ。
でもこの人は爆睡中……。いやいいか、これもひとつの形だと思えばいい。
「……んん……あ、もう少しで日付が変わるな」
「うん、変わるね」
もう30分を超えており、いよいよ終わるというところまできていた。
たった少しだったが寝たことでスッキリしたのか、燐の状態は普通に戻っている。
「啓はやはり行きたいのか?」
「ううん、燐さんといられればいいよ」
「敢えて海にでも行かないか?」
「お、いいね、なんか楽しそう」
燐さんの酔いがもっと覚めるかもしれないし、悪くはないだろう。
「ああ、なら今から行こう」
20分ぐらい歩いて、僕らは暗い浜辺に立っていた。
初日の出が見える時間というわけでもないので、他に人は全然いないようだ。
風も比較的なくて寒いけど耐えられないというほどではなかった。
「少し座ろうか」
「うん」
座ってすぐに手を繋ぐ。
そうすると「温かいな」と彼女が笑った。
「なあ啓、私もお前といられればそれでいい」
「ありがと。あ、燐さんはさ、いつから好きになってくれたの?」
「気になり始めたのは啓が上着をかけてくれた時で、好きになったのは3時間くらい手を繋いでいてくれた時だろうか」
「ああ、風邪を引いてほしくなかったからね。それに手を握ったらドキッとしたよ僕も」
そうか、でも僕は複雑な気持ちを抱えていて突き放すようなこともしてしまったんだよね。すぐに謝ったけど、そんな燐さんの前で櫻、紗織、千都と仲良くしてしまっていた。僕が相手の立場なら悲しくて仕方ないはずなのに……。
「おっ、新しい年になったな。明けましておめでとう」
「おめでとう。燐、ちょっといい?」
「なんだ? どうし――」
初心者だがなるべく優しくを心がけ彼女の唇を奪わせてもらう。
とても柔らかくて外気に晒されているはずなのに温かくて、やばかった。
もっとしたくなった、ぽわぽわ暖かくて長袖を脱ぎたいくらいだった。
「……けぃ……だめだそんなの」
「いや、そんな反応を見せる燐が駄目だよ」
もう暗闇に慣れているので暗い中でも蕩けた顔をしているのが分かる。
それを見ているとしてしまいそうなので、海の方へと視線を向けた。
一面真っ暗な、少しの恐れさえ感じるような光景だったが、彼女と手を繋いでいたらなにも気にならなかった。
「燐、燐はなにかしたいこととかある?」
「そうだな、旅行とか行ってみたいな」
「あ、いいね! 他県とかに行ってぱーっとね」
「でも私は……お前とずっといたい、離れたくない、それが叶えばいい。だが、学校の時や平日は無理だしなあ……」
「燐と暮らすってのも現実的じゃないよね……」
住みたいけど流石に教師の家から生徒が出てくるのもね。
他にも燐の家を知っている人間がいたら危ないし、簡単にするべきではない。
「……啓の家に住みたい」
「え、それはどうだろうか……」
「土下座をすればなんとかならないだろうか? ひとりは寂しいんだ……」
付き合うことも簡単に認めた母のことだ、家に住むこともあっさりと認めそうだが、それだとそれでなんとも怖いというかなんというか……。
「お金だってきちんと払うつもりだ、一緒に頼んでくれないか?」
「うん、頼むくらいならするけどさ」
彼女の頼みなんだし断るつもりはない。
とはいえ、今度は生徒の家から出てくる教師ということで問題にならないだろうか。最悪、本当にクビになるからなあ……楽観視はできない。
とりあえずその話は明日の朝にするとして、僕らはゆったりとした時間を過ごしていく。
「啓はしたいことないのか?」
「僕は燐とキスがしたい」
「……あれは駄目だ、立てなくなるから」
「でも学校が始まったらこうして、ゆっくりもできなくなるよ?」
「でも……というか貴様っ、やけに慣れている感じだが何人としてきた!?」
「燐が初めての相手だよ、なるべく優しくって心がけただけ」
燐こそ誰かとやってきていそうなものだが。
そんな過去の学生時代とかに嫉妬しても仕方がない。
なんでもそうだが今を変えるしかないんだ。
というわけで強制上書き作戦に出ることにした。
「燐、したい」
「ぜ、絶対に初めてではないだろう!?」
「初めてじゃないよ? だってさっきしたし」
「屁理屈を言うな屁理屈を! 私はしないぞっ」
「頼むよ。いたであろう小中高大生活の彼氏に負けたくないんだよ」
「言っておくがな、これまで特別な人間は誰もいなかったからな?」
「だったら尚更のことだよ、駄目かな?」
燐は唸っていたがやがてゆっくりと頷く。
だから僕は今度も優しく彼女の唇に自分のを重ねた。
今度はすぐに離さず、じっくりと味わって。
大体20秒くらい経過した頃、これまたゆっくりと離した。
「……もう終わりだ……これ以上するとダメになるから……」
「……僕だってやばいからね」
先生としている、綺麗な人としている、好きな人としている。
ドキドキしないわけがない。童貞少年が興奮がしないわけがない。
「……なんで今日は積極的なんだ?」
「離れたくないってのもあるけど、離したくないんだよ。だって燐は人気者だ。学校が始まれば格好いい子や可愛い子に囲まれることになる。そうなれば僕の存在なんてちっぽけすぎて意識もされないというか……恋人アピールもできないしね」
「これまで一切そういう浮ついた話がなかった私だぞ、それくらいで靡いたりしない。大体、お前からは2度もされたんだぞ? ……私は時間が経ってもこのことを思いだすだろう。ふとした拍子に浮上してきてドキドキするかもしれない。というか今だってダメなんだ……だからそんなこと言ってくれるな。隠そうとした感情を伝えたんだぞ……疑わないでくれ……」
月明かりに照らされ彼女の涙がキラリと輝く。
いや寧ろ僕の方が忘れないでくれと言いたかったんだけど……。
「うん、ごめん。2度とこんなこと言わない。でもだからこそ、燐との時間を大切にしたいんだ。やめろって言うならやめるよ」
「そうではないが……キスを何回もするのは駄目だ」
「燐は案外耐性がないのかな? お酒とかもそうだけど」
「なんでだろうな……なんか情けない」
「そんなことないよ、可愛いと思うよ?」
それにすぐ酔えばお酒代も減るわけで、悪いことばかりではない。
「正直、特に可愛かったのは付き合い始めたあの日、髪の毛を整えた時だったけどね。なんか顔を真っ赤にしてたし、色っぽいなって」
「……髪の毛だけではなく、体の隅々まで綺麗にされたんだ。これからするかもしれないからと」
「でも、僕らはあの時にキスはしなかったよね」
「そ……うじゃなくて……」
「あ……全く、お母さんには困ったもんだ」
付き合い始めたその日になに言ってるんだ!
それで燐が逃げてたらどう責任を取るつもりだったんだよ!
「ごめんね」
「いや、綺麗な状態で接したいと思うのは私も同じだからな」
「もう……燐もずるいよね。なんか逆にきゅんとする」
「啓は乙女だな、私にも格好いいと言っていたくらいだったし」
「実際、仕事をする時の燐は格好良くて好きだったんだ」
真剣な表情で、こちらの声も聞こえていない感じで。
けれどだからこそ真面目になれるその姿が素晴らしいと思えた。
「あまり嬉しくないな……まだ綺麗とか言われた方が嬉しい」
「綺麗だよ、というわけでもう1回していい?」
「駄目だ、もう勢いに流されないぞ私は」
「残念……またいつかさせてくれることを望んでおくかな」
「ああ、これからいつでもそんな時がくるさ」
まあそうだ。
付き合い始めてからまだ6日しか経っていないんだ。
焦ったって仕方がない、一方的では意味がない。
こうして時間を作り一緒にいられたらいいなと、僕はそう思ったのだった。
読んでくれてありがとう。
紗織か櫻のつもりだったんだけど、優しい先生を書いてたらこうなってた。




