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22.『吹っ切れたら』

読む自己で。

「それは箱田が断ったからだろ、クリスマスに会いたいって口にするのは勇気がいることだ。それを全く考慮もせず即答したから瀬戸も困っていたんだろ」

「いや、そもそも新島先輩が先に誘っていたじゃないですか! それを考えて断ったのに文句を言われましても……」


 そもそも直前に攻撃してきていなければ断ることもなかったんだ。

 根に持ってあんなことをしていなかったら、普通の仲でいられたんだ。

 だというのに被害者面っ、言いたいことがあるなら直接言えよって話だ!


「まあいい、これで俺の役目も終わりだ」

「は?」

「帰ってやるから安心しろ、それじゃあな」

「ちょっ……」


 こんなもの残していくな! 好きなんじゃないのかよ!

 けれど先輩はそのまま去り、僕らはふたりきりとなった。

 防犯上のため鍵を閉めて、リビングの椅子にどかっと座る。


「はぁ……どいつもこいつも勝手がすぎる、クリスマスなのにやってらんねえ」


 自分勝手に振り回すやつらばかりかよ、なにがしたのかまるで分からない。

 家に来たいと言っていた割に黙ったままの彼女も、なにがしたいんだ。


「……やっぱり意識してるんじゃん、普通でいいとか言っておきながら『クリスマス』って」

「そもそも君らが勝手やってくれなかったらもっと言わずに済んだんだけどね!」

「ど、怒鳴らないでよ……」

「それが嫌なら帰ればいいだろ? 公園までひとりで来れたのなら家にだって帰れる。というか、臆病設定も嘘だったんだろお前っ」

「……おまえは……やめてよ……」


 はぁ……なんか自分が悪役みたいになっているじゃないか。

 女はいいよな、泣けば済むんだから。男が怒ればすぐ加害者になるからやっていられない。


「分かった、悪かったよ。まさか捏造の原因が小6の時のすっぽかしとは思わなかったけど。でも仕方ないじゃないか、僕にとってはお母さんしかいなかったんだから。お母さんまで消えてしまうんじゃないかって心配だったんだ。風邪を引いた親と一緒にいたいと思うのはおかしなことかな?」

「……おかしなことじゃないけど……でも、来てほしかったの!」

「それならどうしてすぐに言ってくれなかったの? あんなことが起きたら距離だってできるでしょ。君が言っていたように、自業自得ってやつなんじゃないの? どれだけあれで……こっちが傷ついたか分からなかったの?」


 なにより堪えたのは母からすら疑われたことだ。

 周りからの悪口、暴力、物隠し、そんなことそれに比べればどうでも良かった。

 一時期は家にすら居場所がなくて、さっきの公園で時間を潰すしかなかったくらいだ。毎日、21時くらいまでずっと残るしかできなかった。

 だというのに、一方的に僕を責めるようなこと繰り返す彼女に不満が溜まり続けた。今年の11月まで関わってこなかったなんて嘘だ、入学してからずっとネチネチと口撃してきていた。

 恐らく名前とかも思い出したくなくて、でも忘れることができなかったから偽っていた形となる。


「……ごめんなさい」

「あの時の冬休みにでも言ってくれれば良かったのに……」


 勝手に怒鳴って涙を流す点は僕も同じ。

 拭っても止まらなくて僕は無様に足の上へと水滴を落としていた。

 なんでクリスマスにお互い涙を流しているんだ。これがプレイだったらどんなに楽だったことか。


「け……くん」

「……なに?」

「……抱きついてもいい?」

「は? え、いや、駄目だよ」

「いやっ」


 なんで急にそうなるんだ……。


「けーくん!」

「ああもううるさい……」


 どうしてこんな子を抱きしめなければいけないんだ。

 できることならここから逃げ出して、ブランコでもひとりでこぎたいくらいだ。

 皮肉なことだよな、ふたりになった瞬間にひとりを望むなんて。


「……櫻はさ、新島先輩のことが好きなんでしょ?」

「ばか」

「なら紗織とか?」

「ばかばか」

「燐先生とか千都とかかな?」

「もうわざと言ってるでしょ!」


 いや、そんなワケないだろ?

 どこに好きな人間を執拗に口撃するやつがいるんだよ。

 いるとすれば不器用すぎるというか、逆効果というか……全く。


「……あのクリスマスの夜に告白しようと思っていたの!」

「はぁ? なにこの子……分からなすぎて辟易とするわ……」


 というかボールぶつけただけじゃんか……。

 究極的なM属性だったのか? 付いていけない。


「櫻は昔から先輩を頼っていたでしょ? それなのにどうして?」

「だって積極的にお手伝いとかしていい子だなって思ったから」

「いや、先輩だって――」

「直人くんのことはいいの! ……だから抱きしめて」


 抱きつくから抱きしめてに変わっているんですがそれは。


「好きな人はいないんだね?」

「……いる」

「いるなら無理かな」

「だからけーくんのことだよぉ!」

「はぁ……ま、それなら問題ないかなあ……」


 この極端な女の子を自由にさせてたら被害者ばかり生まれそうだ。

 ……色々と面倒くさいことにならないよう紗織には明日、説明をしよう。


「ほら立って」

「うん……」


 僕も立ち上がり彼女に近づく。


「やるよ?」

「うん」


 優しく抱きしめた。

 クリスマスの夜にリア充の仲間入りか!? なんてテンションは高ぶらず、至って冷静で落ち着いていた。


「えへへ、クリスマスらしいことできた」

「いや、それは語弊があるでしょ」


 だってそれじゃ異性を抱きしめられなかったらクリスマスらしくないということだ。勝手にそんなルールを作るのは良くないと思う。


「けーくん……ちゅー」

「それは無理だね、だって僕は君のことを好きじゃないし」

「え……ぐすっ……」

「いや、好きだとでも思ったの?」

「……好きでもない女の子を抱きしめる最低人間だってお母さんに言う」


 た、質が悪いぃ! なに言ってんのこの子!?

 でも最悪なことに前例がある、実際に言いかねない。


「ちゅー」

「えぇ……」


 この子にするくらいなら先生にしたいな。

 1番仲がいいのは自惚れでもなんでもなく先生じゃないだろうか。

 ただ、立場の違いで絶対に上手くいかない恋、と。

 いやまあ、そういうつもりでいたわけではないが……先生にも謝らなければいけないのは確かなようだ。


「まだできない、抱きしめだけで満足してほしい」

「むぅ……なら頭を撫でて」

「はいはい」


 本当、余計なことしてきてなければもっと上手くいったはずなんだ。

 されたからこそ近づけたなんてそんな考えはしない。

 結果的に妥協に妥協を重ねたおかげでこうなっているだけで、大抵の人間ならこんな子と一緒にいようとは思わないはずだ。


「いいのかこんなんで……」

「いいんだよ、気にする必要はないよ」

「はぁ……」


 まあいい、もうこれも過去のことだ。

 過去は変えられないなら今を変えるしかない。


「送るから帰りなよ」

「泊まってく。まさか追い出したりしないよね? もし外に出されたら家の扉を朝まで叩き続けるから」

「質が悪いね君は本当に!」

「こ、声がでかぃ……」

「……分かった。じゃあ今からお風呂を溜めるから入って」


 さっきまで外にいたし体も冷えているだろう。

 体を温めるのに最適なのは湯船につかること、それが1番だ。


「……く、臭くないつもり……だけど」

「いやそうだけどさ、なんかお風呂に入れた方が気持ちいいでしょ?」

「抱きしめられてるだけで十分……」

「……入ったらもう1回――」

「入る!」


 これくらい現金な性格でいられたなら人生楽そうだ。

 ――20分くらいしてお風呂が溜まったので約束どおり彼女に入ってもらった。

 僕はリビングで出てくるのを待つ。出てきたら僕も入って、割とすぐに出た。

 というかまただ……彼女に服を貸すのは。問題なのは……まあ……うん。


「けーくん……」

「ちょ、甘えるような声音で呼ばないでよ」

「はやくぅ」

「……はぁ」


 既に抱きついてきていたのを抱きしめ返して。

 数分して疲れたのでソファへと座ると、僕の足の上に向き合うようにして座ってきた。そしてそのまま、また抱きしめ、と。


「……苦しいよ」

「もう離したくない」

「いや、ちょっとやめてくれないと困るんだけど」


 なんか罪悪感が半端ない。

 先生の誘いを断ったのもこうするためだったみたいじゃねえかよ。


「はぁ、なんで悪口なんか言ってきたの?」

「だって燐先生とばっかり仲良くしていたから。それに紗織や千都とも……」

「それは君が冷たかったからでしょ?」

「なんで私が冷たいと他の女の子に手を出すの?」

「手を出すって……あ、いやまあ……」

「……もうしないで、けーくんは私にだけ意識を向けておけばいいの!」


 重い、色々な意味で。

 仮に僕が他の子が好きとか言ったら刺されかねないぞ。

 まあ実際に特別想っている人がいたわけじゃない。

 先生が教師じゃなければ魅力的な人だったけど、残念ながらそれは叶わない。

 だからってこの子? 見てくれはいいし甘えてくれる時は可愛いが、それ以外が致命的すぎる。


「ねえ櫻、君は本当に僕が好きなの?」

「好き」

「なんでその真っ直ぐさを見せてくれなかったの?」

「……勇気がなかった」

「僕がもし紗織や千都、燐先生のことを好きだと言ったら?」

「……そしたらしょうがない……諦める」


 予想と違う。

 好きな人を傷つけたくないということなのか?

 過去にあんなことをしてしまったから、なるべく迷惑をかけたくないということなのかもしれない。きちんと考えられるのは偉いが――とはいえなあ。


「でもそれだったら燐先生と付き合ってほしい。紗織や千都に取られるのはやだ」

「いや僕もそう思うんだけどさ、先生は先生だからね」

「ここで電話してもいいよ? 告白してみたら?」

「ちょいちょい、君の想いはいいの?」

「燐先生なら全然いい」


 好きって言ったり先生ならいいって言ったり忙しいな。

 けれどその真剣な顔を見て僕は、


「……少なくとも今日は電話しないよ。実家に戻っているだろうしね」


 電話をするのはやめた。

 告白なんかするつもりはないが、休んでいるところを邪魔したくない。


「……けーくん、眠たい。いろいろあって疲れた……」

「じゃあまた客室――」

「だめ、けーくんのお部屋で」

「……よく分からない子だね、君は」


 ま、部屋に突っ込んで僕はベッドに転ぶ。


「ひどいよ、私だけ床?」

「うん、我慢して。あ、それか君がこっちで僕が床か、どっちかだね」

「……一緒に寝たい……」

「勘弁してよ、そんなことしたら……じゃん」

「え?」


 どんなに中身が致命傷でも可愛い女の子には変わらない。

 クリスマスの夜に一緒に寝るなんてできるわけがないだろう。


「いや、君はアホで致命的な感じだけど、ドキドキするんだからね?」

「それなら嬉しい……私でもけーくんをドキドキさせられるって」


 おいおいおいおい、吹っ切れたら女の子ってこんな積極的になるのか?

 気をつけないと一転、やられてしまいそうだ。

先生が良かったぁ……。

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