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21.『今こそアイス』

読む自己で。

「啓、本当にひとりでいいの?」

「うん、こっちは大丈夫だから楽しんできてよ」

「な、なるべく早く帰るからね」

「大丈夫だって、ゆっくりしてきて」


 お母さんも心配性だな。

 わざわざお風呂に入ってから食事に行くというのも面白い。

 これはもしかして――気になる男の人との食事だったりするのだろうか?

 ま、どんな相手であったとしても楽しんでほしいと思う。


「今は19時か……」


 相手がいれば1番盛り上がっていた時間かもしれない。

 今頃、新島先輩達も楽しんでいることだろう。

 僕は冷蔵庫から買ってきていたファミリーサイズのアイスを取り出してきて、スプーンで食べ始める。

 誰にあげるというわけでもないので平気にバニラ、チョコ、バニラ、チョコと順番に味わっていたのだが――なんとも寂しい気持ちが込み上げてきて手を止めた。


「あーあ、アイスなんか買ってくるんじゃなかった」


 あくまで日常みたいな捉え方及び発言をしたくせに、わざわざこんな700円くらいするアイスを買うなんてどうかしている。

 それに全く美味しくない。誰かといれば違ったのだろうかなんて考えも意味はないが、そう考えてみないとやっていられなかった。

 燐先生は実家に帰ると言っていたし櫻との最後があれだ、そもそも寂しくなったところで誰も誘えないというのが現実で。

 アイスが溶けても後で飲めばいい。僕はソファに寝転んでスマホを弄る。

 ただまあ弄ったところで通知音はならない意味のない箱状の機械だけど。


「痛いところ突いてくる内はいたくないって伝わったかなあ」


 誰だって毎回口撃されてたら堪える。

 でもあの言い方だとお互いに相手といたくないと伝えたようなものだ。

 それならそれでいいけど、だったら来るのはもうやめてほしい。

 悪口を言いたいからって僕をサンドバックにするのはやめてほしい。


「外にいた方がマシだな」


 寒さはあるけど退屈凌ぎにはなる。あの公園で適当に時間を潰そう。

 ――というわけで公園に着いたらブランコに座り、ゆっくりと勢いをつける。クリスマスの夜になにやってるんだって話だな、全く。

 勢いがついたら同じ動きを繰り返して一定に保つことに集中した。なにもやっていないよりはマシだった。


「昔はこの公園でよく遊んだな」


 今みたいにひとりで怪しく呟いていることなんてなく、僕の側には紗織や他の子がいてくれた。紗織がいれば毎回と言っていいほど櫻もいたので、実は案外、関わりがあったということになる。

 だが、僕も彼女も積極的に話そうとはしなかった。11月に言ったように、あくまで紗織ともだちの友達だったんだ。

 でもなんだっけ――あ、そうだ、ドッジボールをした時にミスして顔にぶつけてしまい泣かせしまったことがあった。謝ったけど、当分、許してくれることはなくて、ずっと謝り続けることになって。

 その時になって初めてまともに会話したということになる。ま、会話したと言っても片方はずっと不機嫌なままだったんだけど。

 それが現在に繋がっているのではないだろうか。つまり、小学生の頃からずっと僕のことが嫌いだったということ――中々この結果には悲しくなるが。

 あの時も「けーくんと一緒にいたくない」と叫ばれたんだよなあ。それも紗織や他の子がいる前で。おまけに最悪だったのは、彼女が好きな男の子もいたせいで責められる羽目になったことだろう。


「って、あれ以前に嫌われてるんじゃないか自分……」


 中学のあれがなくても元から周囲の評価はそうだったということだ。

 というか待て、確かその男の子って年上じゃなかったか? 櫻と紗織の知り合いだったし、もしかしてあれは直人先輩だったんじゃ……どんな偶然だよ。しかも、櫻も気に入っていて、泣いた時なんか自分から甘えに行っていたくらいだ。


「いいじゃねえかよ……きっかけをあげたじゃねえか」


 その証拠にふたりの仲がより親密になったんだ。

 だったらどうして僕を恨む? ボールをぶつけられたくらいであそこまでするのか? ……いいよな、女ってだけで周囲が味方してくれるんだから。


「……なにぶつぶつ言ってるの」

「うわぁ!? ……君は本当に攻撃が好きだねっ?」


 あと矛盾が過ぎる。

 なんでだよ、今この時間はみんなで盛り上がっているはずなんだ。

 なにをやってる、というかどうしてここに来たんだよ……。


「勢いついている時に来られたら危ないでしょ……全く!」


 つか、なんで僕も彼女のことなんて考えているんだよ。

 自分から悪い気分になる選択肢を選んでどうするんだ。


「なんでお外にいるの」

「君こそ、どうして僕といたくないのにここにいるの?」

「むぅっ、嫌い!」

「僕も嫌いだ、君なんて」


 たかだかボールぶつけたくらいで根に持ちやがって。

 というか暗闇が怖いんじゃないのかよっ、本当に最初から最後まで嘘つきやろうだ。やっていられない、これならまだアイスでも食べた方がマシというもの。 

 

「……来てよ、みんな待ってるから」

「嫌だね、賑やかなのは嫌いなんだ、君らがしでかしてくれたことのせいでね」


 好き勝手に振る舞うこの子に気を使っていたのも正気じゃない。

 なにやってるんだろう、もっときちんと嫌なことは嫌だと言えば良かった。


「けーくんの嘘つき!」

「なにがだよ!」

「小学生最後のクリスマス、けーくんは約束していたのに来てくれなかった」

「はぁ? 小学校最後……はぁ、どれだけ根に持ってるんだよ」


 ――なにも断りをいれずに行かなかったわけではない。

 その日は母が熱を出してひとり残すわけにもいかなかったんだ。

 その旨を紗織経由で伝えてもらったはずなんだけど、捉え違いになったのだろうか。それとも自分で言いに来ないからむかついていたとか? にしたってそんな昔のことを今、言われても困る。 


「……ここで待ってたんだもん……ひとりで遅くまで」

「え」


 いや……紗織やそれこそ新島先輩だって一緒に会う予定だったんだ。なのにどうしてひとりで待つようなことになるんだ? ハブにされたとか――や、そういうことをするようなふたりではないし……。


「『けーくんが来ないわけない!』って言い続けていたらふたりと喧嘩になっちゃって……ひとりで。だけど来ると思ったの……お母さんが風邪で大変なのはわかったけどけーくんなら来てくれると信じてた。でも、来なかった……それどころか謝りにすら来なかったから……ずっとむかついてて中学のときにあれを……」


 待ってくれよ……なんだよそんな理由だったのかよ。

 なんでそれをはっきり言ってくれなかったんだ、あれを起こす前に。

 なるほど、確かに彼女からすれば放置した罪はそれくらい重いと言いたかったのだろう。だが、あれがなければ彼女を恨むようなことも、賑やかなのが苦手になることもなかったんだ。

 それくらいの効力があった。ひとりの小僧を社会的に殺すそんなパワーが。

 紗織はただ「泊めてもらえなかった」って言っただけだったんだ。それを捏造し「連れ込まれた」なんて言葉に変えて広めてしまった。効果はすぐに表れた。

 まずは女子から敵対視され、彼女達のことが気になっていた男子達にも敵対視され、いつの前にか他クラス、学年にまで広まっていて、暴力を振るわれ、物を隠され、悪口を言われ――今にして思えばよく不登校にならなかったものだ。


「というかそもそもさ……櫻が1番仲良かったのは新島先輩だろ? どうして僕に拘ったんだよ」


 何度も言うが友達の友達だった。一緒にいたのは紗織がいたからだ。

 そして僕はボールでぶつけたくらいしか真面目にしていない。言い方を変えれば傷つけ泣かせただけ、それで終わり。

 そんな人間がたかだかクリスマスの夜に来なかったくらいでなんの問題がある?


「まあいい、そんな終わったことの話をしても意味がない。いいから君は帰ればいい、僕だってもう帰るから」

「待ってよ! 付いてくっ」

「駄目だ、君は自分が矛盾しているとは思わないの?」

「いいでしょ……べつにあのときと違って言いふらしたりしてないもん」

「くどい」

「啓くん!」

「うるさい!! どこまで自分勝手なんだよお前は!」


 あぁ、やっぱり我慢できなかったか。

 こんな気分を味わうくらいなら先生と出かけていた方がマシだったな。

 今頃、お酒でも飲んでいるだろうか? それかもう実家に帰っているだろうか。

 電話番号は登録してあるし、連絡してもいいかもしれないが。


「新島先輩、彼女のこと頼みます、失礼します」


 ――来ていることは分かっていた。

 そりゃそうだ、好きな女の子が他の男に会いに行ったら誰だって気になる。

 おまけに今日はクリスマス、より心が揺れたことだろう。

 もしかしたら今日、決めようとしていたのかもしれない。

 ……邪魔をしてしまった。公園になんかいるべきではなかったのだ。


「瀬戸、箱田の家に行きたいのか?」

「うん……いきたい」

「箱田はふたりきりだと嫌だと言っていたし、俺も行ってやれば問題ないだろ。だよな? 嘘をつかないよな?」

「瀬戸さんといたいなら家に戻ればいいじゃないですか」

「そもそも箱田は勘違いしている。最初から瀬戸は家に来ていないんだよ、『悲しいことがあったから行けない』って連絡がきてな」


 悲しいことってまさかあれじゃあないだろうな?

 自分から吹っかけてきておいてドタキャンとかなんだよ、僕と同じようなことしているじゃないかよ。


「分かりましたよ。来てもいいので勝手に盛り上がってください」


 今こそアイスをやけ食いしよう。

 家に着いたらふたりを放置し、僕は溶けたアイスを胃へと流してこんでいく。

 液状になったのが逆に美味しくて、先程と全く違う気持ちを抱きながら全て食べ終えた。


「新島先輩、千都はどうしたんですか?」

「緒方と盛り上がってるぞ。いや、正直に言えばあそこに残るのは微妙でな。俺も賑やかなのはあまり得意じゃないと気づいた」

「紗織が家から出られたのなら良かったです」


 好きな友達といられる方が気が楽だろう。

 僕的には母といられればそれで良かったが。


「あ、そういえば毎年家で過ごす的なこと言ってたな。瀬戸のおかげで説得できたんだと喜んでた」

「そういう点だけは彼女もいいところあるんですけどね。聞いてくださいよ、今日の放課後だって自分の方から『一緒にいたくない』って言ってきたんですよ? それで言い返してみたら悲しいなんて、自分勝手が過ぎますよ本当に」


 いいよな、これで先輩という味方を得たわけだ。

 大きな声で怒鳴ることもできなくなる。先輩が怖い顔をすると本当に怖いので、相手に無理やり我慢させることができるというわけ。俯いて座っている彼女は卑怯なことこのうえなかった。

うん、メインヒロインは櫻だな。

無理やり不機嫌だった理由を作ってみた。

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