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02.『ごめんなさい』

とんかつ食べたい。

 今日も今日とて僕はひとりでの生活となった。

 あ、ちなみに昨日の女の子はクラスメイトで、他の友達と楽しそうにしていたよ、うん。

 あの様子だと僕が同じクラスかどうかすらも分かっていなかったんだろう。

 そう考えると寂しいような辛いような、なんとも言えない複雑な気持ちを抱えて。


「箱田ー」

「はい、どうしました?」


 相変わらず西山先生が来てくれることだけは救いだ。


「なんでお前は毎日、放課後に残っているんだ?」

「話しかけてくれるかもしれないってワンチャンを抱――」

「有りえないから諦めろ。毎回自分から残っているから、手伝いがしたいのかと思ったぞ」


 まあ、そのワンチャンが起きないからこそ11月まで友達0なわけだし、分かってるけどね。


「暇ならこれでも仕分けとけ」

「別にいいですよ、だって西山先生といられるのは嬉しいですからっ」

「……気持ち悪いな」

「ちょっ!? マジトーンやめてくださいよ! 僕くらいじゃないですか、こういうこと言うのは」


 少しくらいは喜んでほしいものだ。

 そりゃ、迷惑をかけていることは分かっているけど、中々簡単い言えることじゃないんだから。


「友達がいないからって教師を求めようとするのは、どうかと思うがな」

「そ、そういう意味で求めてるわけじゃないからねっ!?」

「男のツンデレとか需要ないからやめろ。終わったら置いておけばいいからな」

「はい……」


 というか先生はこうしてすぐに戻っちゃうしね、いまの発言は意味ないね。

 ――今日は内容が少ないのですぐに終わりを迎えた。

 僕は席に座りつつんっと伸びをして、机に突っ伏す。


「帰らないの?」

「はっ!? あ、また君……」


 毎回どうして早くに帰らないんだろうか。

 その子は横の椅子に座って頬杖をついて前を見ていた。

 帰るのすらだるいのか、それ相応の理由があるのか。

 ……興味がないな、そしてきっとこの子も話すつもりなんてないはずだ。


「帰るよ、早くしないと寒さが酷くなるしね」

「そっか」

「うん」


 会話終了。

 初対面の先輩後輩だろうともう少しくらい話せると思う。

 僕にコミュ力がないのか、この子にないのか。

 はたまた広げる気がないのか、それならどうして話しかけてくるのか。

 どうでもいいから僕は席を立ち、「気をつけて帰りなよ」と口にした。


「ばいばい」

「うん、じゃあね」


 教室から出て昇降口へ向かいつつ考える。

 あの子はひょっとして空想の存在なのではないか、ということを。

 僕があまりの友達欲しさに作り上げている幻の存在。

 わざわざ放課後に残って話しかけてくれている時点で、非現実感を疑うべきだったのだ。

 僕がそういう風を求めているからこそ、あの子もろくに会話を広げず終わらせるのではないだろうか。

 主人の意思に従うプログラムコンテンツ――つまり架空。


「危ない危ない、これ以上は良くないな」


 思わずそんな存在を作り上げてしまうくらい追い詰められていたということ。

 奇しくもそれを自分が作り上げた存在から教えられるとは思っていなかった。

 それに実際、西山先生が来てくれるから、誰からも興味を抱かれていないというわけではないのだ。

 そりゃ、先生が哀れみや受け持ったクラスの生徒だから来てくれていることは分かっている。自惚れたりしないし、自惚れることなどそもそも不可能で。


「とんかつ、食べたかったなあ」


 年に1回あるかどうかのレア料理なのに、そのチャンスをたかだか『友達がいないから』というだけで逃すなんて。条件を出してきたということは自然発生はもう有りえない、つまり今年は食べられないということが決まったわけだ。

 悲しいなあ、友達がいないのってそんなに駄目かな? いないままで11月まで切り抜けてきたけど、母親的には誰かといてほしいというわけか。

 でもね、これは僕だけで解決する問題じゃないんだよ、お母さんよ。

 そんなことをいつまでも考えたところで仕方がないので、帰ることに専念しましたとさ。




「え? あの子と関わってみろ、ですか?」

「そうだ」


 翌日の放課後、西山先生から変なことを言われて思わず聞き返してしまった。

 また面倒くさいことを言い始めたぞこの人! 内心でそう叫ぶが、先生は止まらない。


「別にいいだろ? 友達が欲しかったんだろ?」

「でもあの子は僕が作り上げた幻――」

「はぁ、ここまで馬鹿だとは思わなかったな。もういいぞ、さよならだ」

「待ってくださいよ! 別にそれはいいですけど、大切なのは向こうの気持ちじゃないですか」


 それにあの子と会話しようとしても、


「いいお天気ですね」

「うん」


 で、終わるだけだろう。

 話はろくに広がらず、モヤモヤ感だけが残されるくらいなら、ひとりの方が気が楽と言えるだろう。


「瀬戸、ちょっとこっちに来い」

「は? え」


 いつの間にか彼女が自分の席に座っていた。

 この短時間でどうやって来たんだよ、ステルス能力高すぎるだろ……。


「なに?」

「瀬戸、箱田と友達になってやれ」

「イヤ」

「そうか、なら仕方がないな」


 いっそ気持ちのいいくらいの即答だった。

 先生も諦めるの早すぎないかな? ま、無理な存在だし、合わないなら仕方がないけど。


「先生、今日の仕事はないんですか?」

「ないな、申し訳ないが」

「なら帰ります、最近寒くなってきましたからね」

「そうか、気をつけて帰れよ」

「先生こそ、気をつけてください。それでは」


 瀬戸さんのことは3年間ずっと一緒にいても分からないままだろう。

 だってどっちにとっても分かろうとする、そういう気持ちがまるでないのだ。

 実は先生の個人的な知り合いとか? あ、でも、僕にだけだ冷たいのは。

 教室では普通に友達と一緒にいるわけだし、なにが気に入らないのかは分からないが。


「待って」


 おっと、予想外のパターンがやってきた。

 まさか追ってくるとは思っていなかったから、僕はギギギとぎこちなく振り返る。


「なんでお友達を作らないの」

「なんでって、頑張っても空回りするからかな」


 正直に言ってくれるこの子のような存在ばかりではない。

 迷惑そうな顔でこちらを見てくるだけだったり、そもそもこちらに視線すら向けなかったりもする。

 だから、彼女のような存在は助かるのだ、余計な深追いをすることなくて済むから。


「お友達がいないって楽?」

「そうだね、気を使わなくて済むのは楽かな」


 それ以外では冬なみに寒くて寂しい時間になることを許容できれば、いいのではないだろうか。


「私もそうなりたい」

「駄目だよ、友達がいるなら大切にしないと」

「べつに欲しいわけじゃなかった、気づいたら勝手にいた」

「はいはい、僕を無自覚に傷つけるのやめてね」


 気づいたら誰も周りにいない人だっているんですよ、ここに。


「どうしたら君みたいになれるの?」

「ならなくていいって、それって退化するってことなんだからね?」

「ずるい」

「ずるくないよ。大丈夫、僕よりマシなんだから、じゃあね」

「待ってっ!」


 こうして服の袖を掴んだりしてきたりすると、可愛く見えるのは現金な性格だからだろうか。


「な、なに?」

「暗いの怖い……」

「え、でも大して知らない人間といるよりは怖くないでしょ?」

「怖い、送って」

「別にいいけどさ」


 というわけで外に出て、僕らは歩き始めた。


「家はどこなの?」

「そっち」

「大雑把だねえ」


 方角だけ指さされても困ってしまう。

 というか、暗いのが怖いなら遅くまで残っていなければいいと思うんだけど。

 先生が必ず教室に来ると分かっているから? それなら先生を待った方が信用できるのではないだろうか。


「ふぅ、寒いね」


 歩いているだけで手が冷えて動かしにくくなるくらいだ、だから冬はあんまり好きじゃない。


「箱田くん」

「うん?」

「お友達になってあげようか?」

「嫌なんでしょ?」

「うーん、箱田くんならいいよ?」


 上目遣いはやめてほしいが、本人が言うなら悪くないことだと思う。

 僕だって進んで誰かといたくないというわけではないからだ。


「瀬戸さんが良ければ」

「うん、お友達になろ」


 彼女が差しだしてきた小さな手を握ると、冬だというのに凄く温かかった

 初めて握る異性の手ということで少しだけ心臓をドキッとさせつつも、おくびにも出さないことに成功。


「それで、家はどこなの?」

「そんなに興味があるの? 休日も来たいとか?」

「いや、送れって言ったの君だし、知らなかったらそれができないでしょ?」

「そういえばとんかつ」

「あ、瀬戸さんが来てくれれば作ってくれるんじゃないかな」


 その内側に渦巻く感情がどうであれ、こうして友達になってくれたということは可能性があるということ。

 もしかしたら初のお友達記念ということで、お母さんが彼女にも作ってくれるのではないだろうか。

 それを伝えると、


「食べたい、箱田くんの分まで」


 彼女にしては明るい笑顔で残酷なことを言ってのけた。


「それは無理だよ! 僕の大好物なんだから」


 可愛ければなんでも思いどおりに行くわけじゃないんだ、それを覚えておいた方がいい。


「でも、君は細いよ?」

「そうなんだよね、食べても太らないというか」


 いいことばかりではなく筋肉もつかないので困っているという状況だ。

 けれど冬はどうしても美味しい物を食べすぎて太ってしまうなんてよく聞くし、僕のこの体質を羨ましいと感じる人は少なくないだろう。

 でもなあ、もし不良に襲われたりしたとき、大切な子を守れなそうで嫌なんだよな。

 おまけに頼りなく映るのも微妙だった。

 女の子から避けられているのはそういう点もあるのかもしれない。


「そういえばさ、どうして変な声をあげてたの?」

「ん? あ、怖かったから」

「すみませんでした」

「……あんまり知らない人に話しかけられるとああなる」

「ごめんなさい」


 それなのによく話しかけてくれたものだ。

 彼女のおかげで楽をできたときもあったわけだし、「ありがとう」と口にしておいた。


「あ、こっちだから」

「うん。まあ、家を知られない方がいいよ、ホイホイとね」

「うん、ありがと」

「風邪を引かないようにね、友達になった次の日にそうなられたら悲しいから」

「箱田くんも。あ、とんかつ、絶対だからね」

「お、おぅ……多分だけどね」


 彼女と別れて走りだす。

 やばい、無責任なことを口にしてしまった。

 もしこれで「ダメ」と言われたら、せっかく友達になってくれたのに白紙になるぞ。


「お願いします!」


 家に着いた僕は早速お母様に土下座。


「え?」

「友達の分までとんかつを揚げてください!」

「は? あ、友達できたってこと? おめでと」


 うーん、ドライ!

 ……とりあえず僕は今日あったことを話して、リビングでゆっくりすることにした。


「でもあれだね、それなら連れてこないとね」

「あ……そうじゃん……」


 あの子が来るとは思えないけど、僕のとんかつがかかっているんだ。

 大丈夫、あの子ならきっと来てくれるさ。

 頑張ろう。

瀬戸さんは150センチくらい。髪は肩までで、色は薄い黄色? 金髪? 目も同じで。

地味に胸がある、みたいな感じかなあ。


西山先生はボンキュボンだね。

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