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15.『余計なことを』

読む自己で。

 12月になった。

 あれから少しだけ意識を変えて適度を保った結果、櫻と燐先生とは上手く距離感を保てている気がする。勿論、学校で燐先生なんて名前で呼ぶことはしないが。

 で、同じクラスと言えども一緒にご飯を食べる関係ではないのでひとり寒い外で食べていると、見知らぬ男の人が声をかけてきた。


「1年の箱田啓……だよな?」

「はい、箱田啓ですね」


 同じ学年に同姓同名がいないことは知っているので素直に認める、と。


「ふぅ……寒いな」

「あ、そうですね」


 よく分からない人だなと眺めていたら、「横、いいか?」と聞いてきたので頷いた。そのままその人は座って少し間、お互い無言状態に。


「どうして瀬戸や緒方と食べないんだ?」

「あ、彼女達は他にも友達がいるので」

「なるほどな。まあ、あいつらは友達多いからな」


 どうやらふたりの知り合いみたいだけど、それならどうして僕のところに来る?


「って、なんで来たのか分からないよな、これじゃ」

「はい、察する能力がないので……すみません」

「箱田、お前に頼みがあったんだ。聞いてくれるか?」

「はい、聞くくらいなら」


 これは「あのふたりと関わるな!」とか言われそうなパターンじゃないか? もしそうなら仕方ないけど距離を置くしかないが。


「瀬戸と出かけたいんだ、その旨を伝えてほしい」

「え、それなら今から」

「いや、今週の金曜日までに言ってくれればいい」


 となると土曜日か日曜日にお出かけがしたいということ。休み日に出かけるということはデートがしたい、ということなのだろう。

 櫻を誘うことなんて簡単だ。ただ、僕はこの人のことをまるで知らない。

 あのふたりが知っているかどうかも分からないので、猶予をくれたのは正直ありがたかった。


「あの、お名前を聞かせてもらってもいいですか?」

「ああ、悪い! 新島直人にいじまなおとだ、よろしくな」

「はい、よろしくお願いします。あ、そのことはきちんと言っておきますので」

「おう、悪いな……初対面なのにいきなり頼んで」


 横暴な人というわけでもないみたいだ。

 これなら櫻も怯えずに接することができる……かもしれない。


「いえ、少しでも役に立てるなら嬉しいですから」

「おう、それじゃあ戻るわ。あ、えと…………ほら、連絡先だ」

「ありがとうございます。分かったら連絡させてもらいますね」


 新島先輩は歩いていった。

 僕は既に食べ終わっていたお弁当箱を片付けてスマホにIDを登録する。


「やっほ」

「うん、やっほ」

「暗い、もう少し明るくしてよ」


 そんなことはない、僕にできる精一杯の明るさを見せつけたつもりだ。

 冗談はともかく、


「丁度いいや。櫻と出かけたいって言ってきた人がいるんだけど、どうかな?」


 わざわざ教室で言うと誘っているみたいに思われるので、ここで聞かせてもらうことにした。


「出かけるっていつ? あと、その人の名前は?」

「多分今週の土曜日、名前は新島直人――先輩」

「……新島先輩が? ……大丈夫って言っておいて」

「うん、じゃあもう連絡しておく」


 こうして彼女が誘いに乗るということは、少なくとも悪い人ではないのだろう。

 だったら僕には関係ない。メッセージを送ってスマホの電源を消す。


「それにしても……さむぃ……」

「なにしに出てきたのさ」

「だってけーくんを見つけたから」

「はいはい、はやく戻ろうよ」


 だからどうしてそこで僕を見つけたからって出てくるんだ。

 分からないな、友達がいないというわけではないのに……。

 とにかく教室内に戻って袋を鞄にしまう。


「え……」


 鞄の中に謎の紙があり確認すると、


『放課後、体育館裏まで来てほしい』


 とだけ書かれた物で、僕は固まることしかできなかった。

 ――そして放課後。


「やあ、よく来てくれたね箱田くん」

「あれ、あ! 同じクラスの……誰だっけ?」


 彼は「酷いなあ」と口にし複雑そうな表情を浮かべた。

 あ。安達優希あだちゆうき君か。わ、分からないなんてそんなことはない。


「それで安達君、なんの用なの?」

「同じクラスに瀬戸櫻さんがいるだろう? その子と出かけたいんだが……誘うのを頼めないだろうか」

「ち、ちなみに、いつ出かけたいの?」

「今週の土曜日、かな」


 のぉ!? こんな偶然がありますかっ?!

 でも新島先輩が土曜日に出かけるとは一言も口にしていない。とはいえ、このまま安請け合いもできないと。


「安達君、悪いけど瀬戸さんには先約があるんだよ。というのもね、今日のお昼休みにとある先輩も彼女のことを誘ってさ、そして瀬戸さんも了承したんだよね。だから、今週の土曜日じゃなかったら大丈夫なんじゃないかな」


 というか、どうして僕に言うんだろう。

 というか、櫻はモテすぎではないだろうか。

 小動物チックなところはあるけど、ガードが固い女の子だ。

 安達君や新島先輩が格好良くても、あれを崩すのにはきっと苦労する。

 長年一緒にいる紗織にだって隠し事をするくらいだ、全然面識のない彼に心を開くとは思えない。

 とはいえ、そこは彼らや彼女次第だ、外野がとやかく言うべきではない。


「てっきり僕は君と出かけるものだと思っていたけれど」

「そんなのないよ、だってあの子には好きな子がいるんだ」


 新島先輩からだったんだけどねあのメッセージは。

 つまりまあ、相思相愛? 安達君が頑張っても報われないということ。

 勿論、そんなことを直接言えるわけもないが。


「なるほど。やっぱり自分で頑張るよ、他人経由で誘うのは卑怯だろう?」


 と言ってますけど新島先輩! 男力では彼の方が上のようだ。


「そうだね、一緒に出かけてくれたらいいね」

「そうだね、僕もそう思うよ。今日はありがとう、またなにかあった相談させてほしい」

「ま、僕にできる範囲でなら」


 安達君が去り、僕は草むらに向かって話しかける。


「だってさ、どうするの?」

「安達くんのは来週かな」


 彼女は袖やスカートの汚れを払いながらそう答えた。


「断るかと思ったよ」

「べつに断るほどでもないでしょ」

「好きな人がいるのに?」

「あれ、そんなこと言ったっけ?」

「うん、新島先輩のことでしょ?」


 やっぱり隠すようなことではない。

 ましてや、僕みたいに他に友達がいない人間相手なら。

 信用できないと言うならそ、れでまでとなってしまうけれど。


「啓くん、そういうのやめてほしい」

「別に言いふらしてないよ?」

「ううん、考えることもやめてほしいの。そうやって勝手に考えて、失礼とは思わないの?」

「やめろって言うならしない、だから怖い雰囲気やめてよ」


 別に僕にはどうでもいいことだ。

 ただ、あのふたりには最初から自分で頑張ってもらいたかったことではある。


「余計なことを気にしなくていいんだよ」

「そうだね」

「啓くんのそういうところが嫌い」

「そっか」


 って、他にも僕がやらかしたような言い方じゃないか。

 最近の女子及び女性というのは、無駄に攻撃しないと仕方がないのかもね。

 わざわざここで「嫌い」なんて口にする必要はないように思う。


「だから中学生のときもああなったんじゃないの?」

「それとこれとは関係なくない? どうしたの、今日は攻撃的だね」

「余計なことしないでってこと、わかった?」

「分かった、誰かに頼まれても断る。だから……これ以上はやめてほしい」

「わかってくれればいいよ、ばいばい」


 壁に背を預けて内心で溜め息をついた。

 いちいち近づいてきて鋭い攻撃を毎回されたら精神が保たないぞ。


「あはは、櫻って怖いね」

「悪趣味だなあ」

「べつに『嫌い』とまで言わなくていいのにね、啓くんは優しくしているのに」


 でもそう感じていないからこそ、彼女は冷たく接してきているわけだ。


「あの子が分からないよ」

「私も、長年一緒にいるけど分からない」


 幸い、新島先輩も安達君も怖い人ではないのが救いか。

 メッセージを送った後にすぐ『ありがとな』と返事をしてくれた人だし、あとは本人達に任せれば終わり、なんだけれども。


「ミロちゃんに触れたい、そうしないと心が痛いままだからさ」


 欲を言えば先生の車の方がいい。だが、もう乗らないって決めたんだ。


「うん、なら帰ろう」


 彼女の家に寄ってそのまま散歩を開始する。

 ミロちゃんはいつも元気で安心できる存在だ。

 あと僕にも優しくしてくれる、求めてくれるいい子である。

 ある程度で折り返しまたあの公園へ戻ってきた。

 ブランコに腰掛け、ふぅと息を吐いた。


「ああいう悪く言われるの怖いんだよ」

「私だって怖いよ?」

「いや、広がるんじゃないかってね」

「あ……」


 僕がそんなに特別、悪いことをしただろうか。

 紗織だってそういう類の話題を彼女に持ちかけていたわけだし、これはもう個人的に僕を嫌っているとしか考えられなかった。

 笑いかけてくる彼女とあの冷たい彼女、どちらが本物なんだろう。


「まあもうしないって言ってたしメリットがないからね、無闇にしても時間の無駄だしデメリットもある。中学の時にそれは彼女も分かっただろうから」


 実際、それで彼女達を悪く言う子はいたんだ。

 つまり味方をしてくれた子はいたんだけど、同調圧力の前にはそれ以上動けず、気づけば悪く言う方に加わっていたんだよね。

 感謝の言葉も伝えられなかったのは、今でも後悔しているところではる。


「ミロちゃん、君だけは味方でいてくれよ?」

「ワンッ」


 本当に大人しくていい子だ。

 ただ、櫻もどうして蒸し返すようなことをするんだか。


「啓くん、あれは私が悪い――」

「いいって、彼女の言うように弱かったってことでしょ。僕だってそう思うし、男のくせにすぐ泣くし、分かっているつもりだよ。……よし、もう帰ろう、送っていくからさ」


 僕が立ち上がるとミロちゃんが体を足に擦りつけてきた。

 ご主人さまからリードを預かって勝手に歩きだす。

 終わったことだ、なにを言ったところで事実は変わらない。

 確かに彼女の言うように、余計なことをしたのは自分なんだから。

 傷つくくらいなら、傷つきたくないなら、大人しくしておけというメッセージなのだろう。

 だからそれを守ればいい。

 余計なことをしなければ言ってこないさ、彼女も他の子も。

誰がヒロイン?

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