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13.『どんなプレイ』

読む自己で。

「ふぅ、よく寝たな」


 昨日の夕方、夜からずっと朝まで寝られたことで体調は治っていた。

 体を起こして確認してみると現在時刻は6時50分。


「ん……」

「は」


 随分僕も可愛らしい声が出せるようになったな、なんて楽観視はできない。


「あ……寝すぎだよ……帰れなかったじゃん」

「いや、あの、なにやってるの君……」


 勝手に布団の端に丸まり寝ているなんて、自由がすぎる。

 大体、仲良くもない異性の部屋で寝るなんて危機意識がなさすぎるだろう。

 いや、僕の体調が悪いことを見破り、一緒にいてくれたのはありがたいけど、それで体を冷やして風邪を引かれても困るのだ。


「……くちゅんっ……ずずっ、元気になった?」

「君こそ大丈夫なの?」

「私はだいじょうぶだよ、すごく元気」


 おでこに触れてみても確かに熱は出ていないようで。


「もうこれからはしちゃ駄目だよ? 異性の部屋で寝るとか」

「でも、けーくんのこと男の子として意識してないし」

「僕を傷つけるの得意だね……」

「それにけーくんも私を女の子として意識してないし」

「分からないでしょそんなの」


 いきなり関わることになったように、これからどうなるかなんて分からない。

 もしかしたらコロッと落とされる可能性だってあるのだ。


「櫻、送るから帰りなよ、お姉ちゃんが心配しているだろうから」

「うん、帰る」


 ――別れ道に着いたので挨拶をする。


「まあ、ありがとう。君が手を繋いでくれたからすぐに寝られたよ」

「って、寝たときにはもう離してたよ?」

「い、いいんだよ、心地良かったってことだから」

「……けーくん、もうむりしちゃだめだからね」

「君こそね、それじゃあまた」

「うん、ばいばい」


 自分よりも小さな後姿を見送りつつ、随分優しくなったもんだなあと内心で呟いた。少し前なら薄い笑みを浮かべて『普通』を極めていたというのに。

 でもまあ、これ以上は発展しようがないから気が楽――寂しいというか……。

 

「危ないぞ」


 車が横に止まったと思ったら……本当にこの人は僕が好きすぎるな。


()から聞いたぞ、風邪を引いていたんだってことはな」

「というか交換していたんですか?」

「まあな、櫻はお前の監視役だ」


 丁度いいので勝手に乗らせてもらうことにする。


「快適……」

「はぁ、まあいいけどな。よし、それなら山に行ってお前だけ置いてくるか」

「酷いですよ」


 先生は車を走らせ始めた。

 どこに行くのか分からないのがワクワクする。

 あとはやっぱりこの手触りのいい感じ、もうこのままずっといたい感じだ。


「箱田、ちょっとティッシュ取ってくれ」

「はい、どうぞ」

「ありがとな」


 なんだろう、車を運転しているところが最高に格好いい。

 昔、後部座席から見る父がこんな風に見えてたっけ。信号で止まった時などに必ず振り向いてくれて、「楽しいか?」ってキラキラした顔で聞いてきたんだよね。

 頻繁に車へと乗れる生活ではなかったので、僕は毎回「うん、楽しい!」と答えていた。小学校低学年だったのも大きいだろう。

 そう考えると……先生の存在は異性の女性というよりも父みたいな感じで。


「先生は格好いいですね」

「は? 一応、女だがな」


 先生は信号で止まろうと、なにをしていようと、振り向くことはない。

 というかいいのかこれ、教師の車に生徒が乗っているとかいいのかこれ。

 とはいえ、もう家から離れてしまっているため、どうしようもないのは確かで。


「先生――」

「今日は休日だ、先生はやめろ」

「西山さん、どこに行くつもりなんですか?」

「別に目的地はない、適当に走っているだけだ」


 そ、その割には山の方角へと向かっているんですけど!?

 本当に山へと捨てるつもりなのかもしれない。今だってよく見ると、楽しそうに笑みを浮かべているみたいだし――ドライブが好きだと判断しておこう。


「なんか不思議ですね、休日に先生とふたりきりなんて」

「同級生と一緒に寝たことに比べればなんてことはないだろ」

「って……どこまで話してるんだよ……」


 まあいいや、こうして座っていられているなら存分に味わっておこう。

 そう考えてから30分くらい経った頃、先生が車を止めた。

 先生が降りたので自分もそうすると、静かで空気がいい場所だと気づく。

 天気がいいのと、少しだけ高い場所なので見晴らしがいいのもグットである。


「はぁ、車移動は楽だが腰が痛くなるな」

「おばあちゃんですか……まだ若いですよね?」

「27だ、箱田に比べればおばあちゃんだろ」

「十分若いじゃないですか、そんなこと言ったらお母さんが悲しみます」


 先生がくれたジュース缶に口をつけ中身を少し飲む。

 なんだろうこの時間、どうして僕は先生とこんな所にいるんだろう。


「西山さんは誰か好きな人とかいないんですか?」

「いないな、特に興味がないな」

「勿体ないなあ、西山さんを好きな人は沢山いるのに」

「そうしたら向き合わなければならないのか? 自分が望んでいるわけではないのに? 下らないな、そういうのは」

「そういうところですよ、勿体ないのは」


 僕が先生の見た目と能力を持っていたら異性を誘惑しまくるね。

 僕みたいな人間が1番楽だろう。落とすのには優しさだけでいいんだから。


「私はどちらかと言えば追う方なんだよ、多分な」

「あ、でしょうね、としか言えませんね」


 標的は絶対に逃さない! という目をしているし。


「箱田、悪いが後は帰るだけだぞ」

「いえ、ここまで楽しかったですから」

「楽しかったか、その割にはほとんど喋っていなかったが」

「先生をずっと見ていましたからね、昔の父を思い出して心地良くて」

「なるほどな。それなら敬語を使っているのはおかしいんじゃないのか? 私は父なのだろう?」

「あくまで西山さんは西山さんですから」


 先生をさん付けで呼んでいるのも違和感がある。

 日常生活に戻った時に調子が狂いそうなので、残りは帰るだけというのが気が楽だった。


「好きになったらとか気軽に言うくせに、こういうところではヘタるのだな」

「いや……敬語をやめたら癖になるかもしれないですし」

「いいからしてみろ。あ、りんだぞ」

「え、可愛い名前なんですね」

「私は時々、恥ずかしくなる時があるけどな」


 そんなことはない、凛としているみたいでいいじゃないか。


「早くしろ」

「……り、燐さん、今日はありがとう」

「おい、実の父親にそこまでよそよそしかったのか?」

「だ、だって、燐さんはやっぱり先生だし……」


 なんのプレイだよこれ。

 これならまだ櫻からふにふに踏まれていた方がマシだ。

 というか先生は真顔だから困るんだよ、もうちょっと照れるとかしてほしい。


「まあいい、帰るか」

「そうですね」


 それで心地のいいシートの具合を味わって、朝の所まで戻ってきた。


「今度は風邪引くなよ」

「ありがとうございました、気をつけてくださいね」

「ああ、またな」

「はい」


 ああ、車が離れていくぅっ。

 あれはやばいな、中毒性があるからやっぱり気をつけないといけない。

 あと、先生との距離感も分からなくなるので、するべきではないことだ。

 時間はまだ8時をちょっと過ぎた頃。


「ワンッ」

「お、ミロちゃんおはよ。ん? あれ、君だけなの?」


 と、よく見てみれば向こうの方から慌てて走ってくる彼女の姿が。


「はぁはぁ……良かったぁ、啓くんがいてくれて……はぁ」

「お疲れさま。僕がいたから来てくれたのかな?」

「うん、途中までは大人しかったんだけど……ミロ、だめだよ?」

「ワン」


 そうだよね、ここは先程の先生みたいに車が通る場所だし飛び出したら危ない。


「ミロちゃん、これからは気をつけないと駄目だよ?」

「ワンッ」

「むぅ、なんか私のときよりミロが嬉しそう」

「はは、たまにしか会えないからでしょ。というかごめんね紗織、約束守れなくて……ちょっと調子が悪くてさ」


 やはり濡れるのはいつでも避けたいところだ。

 風邪を引くとなんでも楽しめなくなるので、これからは気をつけよう。


「大丈夫だよ、櫻から聞いたし。一緒に寝たことも、聞いた」

「それは語弊があるけど、まあ同じ部屋にいたのは事実だからなあ」


 おまけに先生ともふたりでいたし、少しだけ後ろめたいのは事実だ。


「啓くんはこれからひまかな? あ、でも病み上がりだからあんまり無理しないほうがいいのかな? もし大丈夫そうなら、ファミレスにでも行かない?」

「いいよ、あ、ドリンクバーくらいしか頼めないけど」

「大丈夫っ、私だってお金に余裕があるわけじゃないし」


 というわけで一旦別れて家に帰る。


「ただいま」

「どこ行ってたの?」

「ちょっと井戸端会議をね、おはよ」


 先生と会っていた件はなんか言えなかった。

 そこに優しさだけしかないと僕が分かっていても、母からすればどう感じるかが分からないからだ。先生に迷惑はかけたくないからね。


「おはよ。ご飯はどうする?」

「あ、今からファミレスに行ってくるから」

「分かった。あんまり遅くならないでね」

「大丈夫だよ、まだ8時過ぎだし」


 自室に向かって財布を持つ。


「って、あの子……」


 スマホ置きっぱなし……普通、忘れるだろうか?

 問題なのは櫻の家を知らないということ、とはいえ渡さないと困るだろうし。


「――というわけなんだけど、どこか知ってる?」


 集合場所に戻った僕は紗織に聞いていた。


「それが知らないんだよね」

「えっ?」

「教えてくれなかったんだ。無理やり付いていくのは簡単だけど、そんなことできるわけないからね」

「でも、このスマホどうしよ……あ、通知……」


 しかもディスプレイが点いて表示された名前は男の人のもので。


「なるほどね、この人が櫻のタイプかもしれないってことか」

「勝手に見ちゃだめだよ」

「だね。まあ、普通のことだよね」


 どんな人なんだろう。

 きっと引っ張っていけるような人だと思うんだよなあ。

 櫻がマイペースだから、そういう人が必要なんだと思う。


「櫻の好きな人が気になるの?」

「ま、友達だからね」

「誰だろうね、私も結局答えてもらえなかったから」

「秘密ばっかりだね。とりあえずファミレスに行こうか」

「うん、いこ」


 スマホは月曜日に返すと決めて、僕らはお店へと向かったのだった。

先生ぃ……。

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