12.『理想のタイプ』(&櫻
読む自己で。
「おじゃまします」
「うん、上がって」
彼女を連れてくればやることは同じだ。
飲み物を準備し、手渡して座る、ただこれだけのこと。
別になんの用があったのとか今はどうでもいい。ただ、今日の僕は楽をするために床に寝転んだ。
「どうしたの?」
「ごめん、ちょっと寝転びたくてね。瀬戸さんは遠慮なくゆっくりしてよ」
「ふふ、転んでると踏んじゃうよ?」
「どうぞ、ご自由にね」
踏まれることくらいなんてことはない。
それより気をつけなければならないのは、このまま隠し通せるかどうかだ。
どもったり、変な間を開けて話すのだけは避けなければならない。この子がどうかは知らないが、自分が原因だと分かったら責めてしまう可能性が否めないから。
「って、本当に踏んできてるし」
優しいんだけど変な気分になる。
タイツ履いているからかな、そういうプレイのようにも感じられるような……。
「ふにふに~どう?」
「正直、変な性癖に目覚めそうです」
「え?」
「いや、パンツ見えちゃうからやめた方がいいよ」
「あ、変態っ、やっぱりそうなんだから」
やっぱりってなんだよ……。
あと僕も表に出さないよう頑張っているつもりが、変な発言してしまっている。
「なんかさ、この2日間、けーくん元気ないよね」
「そうかな? 全然普通だけど」
「あと、西山先生と仲良くしすぎ」
「そうかなあ? 僕、ボロクソに言われて昨日泣かされたからね」
あくまで言ってみただけだったんだ、だというのにあそこまで全力否定。
……冗談が大事になるかもしれないことを分かっていたのに、それでも気になったから聞いていた。だって綺麗で格好良くて優しいのにそういうの全然聞かないから……誰だって気になることのはず。
「それより踏んだときにわかったよ、けーくん風邪ひいてるでしょ」
「ぶっぶー、それは違います。踏んだ時に熱く感じたのなら、それは君みたいな可愛い子に踏まれたからだよ」
「やっぱり変態さんなんじゃん、踏まれて喜ぶなんて」
「……うん、僕は変態なんだ」
こうなればやけくそになるしかない。
僕が変態なのは嘘でも過去に広がっていることだし、周知の事実だ。嫌だけど。
体調が悪いのを勘づかれるよりはよっぽどいい。この子や紗織の前では偽りたいのだ、素の自分をさらけ出したくない。
「変態さんといたら体が危ないかもね」
「うん、危ないよ」
「あんまり一緒にいたらキスされちゃうかも」
「うん、そうだね」
可愛い子ではあるし、関係を深めたらあり得るんじゃないだろうか。
もっとも、彼女の相手が僕ではないところが残念だけれども。
「もしかしたら――もされちゃうかも」
「うん、あり得るんじゃない?」
「むぅ! 適当に反応してるっ」
「そんなことはないよ、ちゃんと返事も変えてるでしょ?」
というか、どうして彼女は来たんだろう。
ただ会いたいだけなら、放課後に待っていてくれていれば良かったんだ。
それだというのにわざわざ帰宅してから来た理由は――……分からないな。
「けーくんってさ、中学生の頃は紗織が好きだったの?」
「うーん、仲のいい子ではあったけどね、それだけかな」
「私の印象はどうだった? あ、問題が起きる前のことで」
「瀬戸さんは紗織の友達ってだけだったね」
「そうだよね、友達の友達だったもんね」
だからこうして今、ふたりでいるのが意外なんだよね。
短い間に色々と衝突があったけど続けられている謎、おまけに興味がないと真っ直ぐに伝えられたというのにもだ。
「でもさ、いまはお友達になれたよね?」
「うん、一応そんな感じかな」
「だからそろそろ『櫻』って呼んでいいよ?」
「君がいいならそうさせてもらおうかな、よろしく櫻」
「うん、よろしくけーくん」
さあて、そろそろ帰ってほしくなってきた。
明日はせっかくの休日なのに風邪を移したら申し訳ないし。
「櫻、悪いけど今日はもう帰ってくれないかな、ふにふに踏んでないで」
「ん、どうして急にそんなことを?」
「ああいや、僕は変態だからさ、そろそろ目覚めそうだなって」
「ふぅん、それじゃあそろそろ帰る――なんてうそー」
「もう……」
「なんか事情がなければけーくんはそんなこと言わないもん」
そうだろうか、積極的に言ってきた気がするが。
何回も口にして怒られたことがあるような気もするんだが……。
「ね、けーくん、踏まれて気持ちいい?」
「あー……うんまあね」
「ね、調子悪い?」
「うん、まあ――悪くないよ!」
「ばか! うそつかないでよっ、けーくんのことだって最近はわかってきたもん」
なんだか凄く幼馴染感を出しているがどうすればいいんだろう。
「私のせいで雨に濡れたからでしょ?」
「それは違うよ」
「とにかくっ、ちゃんとお部屋のベッドに寝て!」
「ど、どうしたの? 櫻らしくないけど」
いつもはもっと無気力というか無表情の女の子なんだ。
ご飯を食べる時以外はいつもそんな感じなのに、今日はやけに積極的である。
「あ、お風呂入ってから寝るつもりだったんだよ、ちょっと行ってきていい?」
「お熱は?」
「え、分からない。というか言い方、可愛いね」
「計って!」
――計ってみると38度2分だった。
微熱よりも体温の高い方が楽なのは共通ではないだろうか。
「でもお風呂入りたいんだよね、いいかな?」
「ダメ! 早くお部屋に行って!」
「……しょうがないなあ、櫻ままの言うとおりにするよ」
部屋へ移動。
僕はベッドに寝転び、彼女は端に腰を下ろした。
「あの、寝るので見ていないでくれていた方が……」
「ダメ、だってけーくん逃げるもん」
僕もそう言って無理やりお風呂に入らせたわけだし、無視はできないか。
大人しく目を閉じて寝ることにした。
「手、つないでてあげるね」
「ありがとう」
これを少し西山先生バージョンで考えてみることに。
「箱田、手を繋いでてやろう」
「はい、ありがとうございます」
「箱田、馬鹿みたいな寝顔だな」
「ちょ、失礼ですよ」
――うん、馬鹿馬鹿って言われるのが関の山だ。
体調管理もできない人間は嫌いみたいだし、言うべきではないだろう。
「おやすみ、櫻」
「うん、おやすみ」
なんかおかしなことになったけど、ここで治しておけば土日楽しめるわけで。
彼女もいてくれることだしさっさと治すことにしよう。
「はぁ……なにやっているんだろ」
彼の手を離してベッドから下りる。
このまま家にいてもなにも意味がない。となれば、あとは帰るだけなんだけど。
「うぅ、なんか気になる」
だってこれは自分のせいで引いた風邪だ。
飛び出していなければ、ムダにごねていなければ、こうはなっていなかったかもしれない。ううん、きっとそうだよ、だからこれは私のせい。
だからってどうすれば良くなってくれるかがわからない。
いや、冷やせばいいのはわかるし、お水とかをたくさん飲ませればいいこともわかっているけど、自分が原因ならもう少し自分でなんとかしたいものだと思う。
「そういえば私が風邪をひいたとき、お姉ちゃんが抱きしめてくれたっけ」
風邪を他の人にうつせば治るのが早くなるって聞いたし、実践してみる?
でも、彼は変態さんで、触れさせたら最後、自由を奪われてしまうかも……。
「ううん、これは私のせいなんだから」
私は彼に覆いかぶさるようにして抱きついた。
間には布団もあるため一切問題はないはず、ないはずなんだ。
だというのにすごく恥ずかしい! なんだろうこれっ。
「……櫻、重いよ」
「か、風邪を移せば治るって聞いたよ?」
「僕は君に移したいわけじゃない、だからやめてほしい」
大人しく離れると優しい笑みを見せてくれた。
それは昔、優しかったお父さんが浮かべていた笑みによく似ていて、私は思わず顔を両手で覆う。もう向けてくれないと考えたら悲しくなってしまったのだ。
「櫻?」
「……はやく寝て」
「うん、おやすみ」
私が彼の近くにいたいと感じた理由がいまわかった。
簡単に言ってしまえば昔の父を思い出せるからだ。
同級生の子にこういう感情を抱くのはおかしいかもしれない。それでも、私にとっては大切なことだったので、悪いことではないとわかってほしかった。
「だから恋愛感情はない」
「……え?」
「恋愛感情はないよ、けーくん」
「分かってるよ。でも、最近は振られてばっかりだなあ」
振られたって、調子が悪かったのに誰かに告白したのかな。
……そういう点は父と違うところだ、真っ直ぐじゃない。
とはいえ、出て行ってしまった父とはよく似ているので、なんとも曖昧な評価しかくだすことができなかった。
「櫻はどういう人がタイプなの?」
「優しくて怒鳴らない人、いつも近くにいてくれる人、うそをついて隠したりしない人――だからあなたは対象外」
「……そう、まあいいけどさ。見つかるといいね、そんな人が」
さて、どうだろうか。
ここまで16年生きてきて1度もそういう人に出会えなかった。
私が自分でバリアを張っているというのもあるけど、これから先も出会えそうにないのは、正直に言って微妙なところではある。
「けーくんは?」
「僕は、近くにいてくれればいいかな。優しいのが1番だけど、別に僕が優しくないから望むべきじゃないと思う」
「うそつき」
「嘘じゃないよ、だって君に怒鳴ったでしょ? 優しくないじゃん」
あれは私を試すためだったというか、そうされて当然だったというか。
彼はなにもわかっていない。いつもそうだ、だからこそ『対象外』なんだ。
「けーくんにも理想の人が現れるといいね」
「そっちもね」
紗織とかどうかな、そう言おうとしてなぜか引っかかった。
単純に中学生のときにやらかしているから、とかではないような気がする。
けーくんは甘いから誰でも受け入れそうだけど、これからどうなるんだろうか。
見た目とかも気になるよね? そしたらやっぱり紗織ということになる。
「西山先生とか?」
「すぅ……すぅ……」
「バカ」
ムリするから寝込むはめになるんだっ。
先生と勝手に仲良くやっておけばいいんだよ、けーくんは。
でも、難しそうな恋だと思う。
先生は人気なのに浮ついた話をまるで聞かないし、どうなるんだろうか。
俺の中では櫻がヒロインムーブかましてきたな。




