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10.『どうして私は』(櫻

読む自己で。

「わっ……くら……」


 体を起こしてスマホを確認してみると、まだ2時を超えたくらいだった。

 横にはすぅすぅと寝息を立てて寝ている紗織がいるけど、1度起きると寝られるまでに時間がかかる自分としては複雑だった。


「紗織……」


 起きない、それに今日も学校だから起こすべきではないのかもしれない。

 このまま部屋にいると怖いので出ると、リビングの電気が点いていることに気づいた。……箱田くんが起きている可能性は少ないけど、入ってみることに。


「あ……なんでこんなところで……」


 ソファに転んで寝ている彼がひとり、と。

 電気を点けてないと寝られない点は可愛い気もするけど。


「起きて」

「……あ……おはよ」

「まだ2時だよ。どうしてこんなところで寝てたの?」

「特別な意図はないけど、君が夜中に起きちゃったら怖がるかなと思って、安地を作っておいたんだよ」

「え……」

「ま、嘘だけどね。たまたまここで寝ていただけだよ」


 彼は呑気にんんっとひとつ伸びをする。

 実はお姉ちゃんがしてくれていることであり少しドキッとしたんだけど、まあ彼はこんな感じだよねと内心でタメ息をついた。


「紗織は?」

「すぅすぅ寝てる」

「そっか、凄いね」

「なんですごいの?」

「だって慣れない家なのに寝られてるでしょ? 僕がもし紗織の家に泊まったら多分寝られないと思うから」


 そういう点で言えば私もそうなんだけど……。


「箱田くんは紗織にしか興味がないんだね」

「そんなことないよ」

「横、座ってもいい?」

「うん、どうぞ」


 ソファに座って正面を見る。

 デジタル時計を見ると時刻は2時22分――不気味……。


「それより、おネムさんなのに眠くないの?」

「……1回起きると寝られなくなっちゃうから」

「なるほどね。そういえばさ、瀬戸さんは誰か好きな子いないの?」

「なんで?」

「いや……ちょっとね」


 質問の意図が分からなかったものの、「いないよ」と返しておいた。

 男の子の友だちはふつうにいるけど、恋愛感情を抱いたことは一切ない。

 それはあの中学生時代からそうだった。どうしてかはわからない。


「ま、その逆はいるからね、僕の家に泊まったなんて聞いたら困っちゃうかも」

「関係ないよ、べつにそういうつもりで箱田くんの家に来ているわけじゃないし」

「だろうね、君はそういう子だ」


 彼は「だから距離感に悩むんだよね」と口にし、タメ息をついていた。

 距離感、か。私の理想は中学時代の彼と紗織みたいな感じだ。

 基本的にいつも一緒にいて、休日とかも遊べるような仲ということになる。

 だから紗織の存在はそういう理想と言える感じかもしれない。


「ま、これからはやめてくれれば助かるよ」

「そんなにいやなの?」

「……君は知っているでしょ」

「ならこれからずっとそうやって守り続けるの?」

「あのさ、そもそも君らが広めなかったら、ああはなってなかったんだよ? 自分達の影響力を一切考えなかったせいでだ。その君がよく言えたものだね」


 怒鳴りこそしないけど怒っているのはわかる。

 でも、たしかに自衛は大切だけど、ずっと守ったって言う人は言うんだ。

 明確な敵――自分を害してくる人がいるならともかく、それがいないいまやってもムダではないだろうか。


「でもあれはあくまで冗談――」

「そうだね、冗談だったよね。でもさ、噂には尾ひれがつくもんなんだよ、しかも冗談の類が最悪だった。もっとこう、マザコンとかそういう類だったらなにも問題なかったけど、捉え方を変えれば犯罪にも聞こえるような冗談を言ったのが悪かったんだ。それが紗織や君には分かっていなかったということだよ」

「最低だよね箱田くんは」

「は……」

「そうやってネチネチと後から責めるくらいなら、あのとんかつ屋さんのときに怒れば良かったじゃん。過去のこと気にしても仕方がないとか言ってたけどさ、そうやって引っかかるんじゃん。文句を言いたいなら、遠回しにじゃなくて直接言えばいいでしょ今回みたいに!」


 逆ギレだということは自分でもわかっている。

 けれど彼から言ったんだ、友達になりたいってたしかに言った。

 それで認めてみたらこれだ、変なところで優しいくせに変なところで厳しい。 

 だからどうしようもなくて私は箱田家を飛び出し走り出した。

 家に帰る気はないので公園で時間をつぶす。

 雨が降っているとか、彼から借りた服が濡れるとかどうでも良かった。


「はぁ……だから嫌だったんだよね、家に泊めるのは」


 わざわざ追ってきていまさらそんなこと……。


「あのさ、僕がなにか間違ったこと言ったかな?」

「……ちがうよ、だから怒るならさっさと怒ればいいって話で」

「でも怒鳴ったら君は怯えるだろ」

「怯えないもん……」


 暗いところが怖いとか、大きな声を出されたら怖いとか、昔よりは耐性が上がってるし、いまさら彼に怒鳴られたくらいで泣いたりなんかしない。


「おい!!」

「ひっ!?」

「はは、ほらね、無理するべきじゃないよ」


 ……偽っているは彼の方だ。

 母親思いだから暴れないだけで、本当なら私たちを言葉で、暴力でボコボコにしたいんだ。それくらいのことをした自覚は私にもあるから、それがわかるわけで。


「いいから帰ろうよ。僕の家が無理ならそこまででいいからさ」

「……帰らない、このまま朝まで濡れたままでいい」

「駄目だ、その場合は無理やりにでも家に連れて帰る。そうしたら過去みたいに言えるよね自由に、先生でもなんでも味方につけて叫べばいいんだよ?」

「なんで……そんな思ってもいないことっ」

「冬の寒い夜の中、ずっと雨に濡れていたら冗談で済まなくなるから」


 彼は過剰なくらい強い力で私の腕を掴み引っ張った。

 とてもじゃないけど私の抵抗力ぐらいじゃ残ることはできず。

 あっという間にあの分岐点まで連れて行かれてしまう。


「どうするの? 自分の家に帰るか、僕に家に帰るかは君の自由だよ」

「……あなたの家に行って、明日、本当に私が周りに言ったらどうするの」

「そうしたら今度は真正面から潰すだけだ」

「じ、自分から自由って……」

「あ、外野をだけどね。鬱陶しいだろ? 関係ないやつが出しゃばってくると。僕は過去もそのことが1番許せなかった、屈辱だった。君らは発端なだけでほとんと関わっていなかったしね」


 彼はもう1度「それでどうするの?」と聞いてくる。

 そもそも私にもうあんなことをする気力はない。

 でも、自宅に帰るのも、彼の家に帰るのもなんだか違くて。


「自分の家に帰るよ」

「そっか、じゃあここでお別れだね。早く帰らなきゃ駄目だよ?」

「うん、ばいばい」


 私はまず自宅方向へ20メートルほど歩いてから引き返す。

 あの分岐点に戻ってきていないことを確認してから公園へ戻ろうとしたとき、


「だと思った、あっさり帰るわけないんだよね」

「なっ、なんで!?」


 確認したときいなかったのに……。

 こちらの腕を掴んで無理やり連れて行こうとする彼。


「君はバカだ」

「……バカでもなんでもいいもん」

「もういいよ、君も僕もバカだったってことで片付けよう。ここで君を放置するくらいなら、学校で言われてひとり孤立した方がマシだ。頼むよ、自分のためにじゃなくて僕のために、寒いし冷たいんだよもう」

「なんで……傘さしてこないの」

「君だろそれは、いいから行こう」

「……箱田くんのためだよね?」

「そう、僕のためにだ。僕は君のことなんてまるで考えてないからね」


 バカじゃん……考えてないならこんなことしないのに。

 ……仕方ないから彼の家に向かう。


「じゃ、お風呂入ってきてね」


 着いたらお風呂を追い焚き状態にして温めたあと、彼がそう言った。


「いいから入ってきなよ……」

「うるさい、早くしてくれないとまた怒鳴るよ」

「……もう。……って、出ていかないの?」

「そうしないと君は逃げるからね」

「は、恥ずかしいよ……」


 さすがに裸なんて見せられるわけがない。

 

「はぁ、じゃあ廊下にいるから出たら教えて」


 彼はそう言って出ていき、私は濡れた服を全て脱ぐ。

 浴室に入ってお湯を頭からかぶって湯船の中に。


「温かい……」

「当たり前でしょ。雨に濡れたらいつだって冷えるのに、君はバカだから冬にそれを実行するんだからね」

「変態っ!」

「別に直接見てないし問題ないでしょ、廊下を濡らすと後が面倒くさいんだよ」


 さっきだって裸を見ようとしたし、そういうつもりで優しくしてきているのかもしれない。


「もうこれから無理して強がらないことだ、分かったね?」

「……強がってないもん」

「ま、君がやめないなら言い続けるだけだから安心して」


 なんで声音だけでこんなにも優しいと感じるんだろう。

 なんだかんだ言っても付き合ってくれると思うんだろうか。


「け……」

「どうしたの?」

「けけ……けーくん」

「はははっ、冬の夜に飛び出すことに比べたら緊張することじゃないでしょ」


 意味のないことを口にしていた。

 どうしてこんなことを言いたいなんて思ったんだろう。


「けーくん、どうして私はいまこんなことを言ったの?」

「え? む、難しい質問だね……君の気持ちになって考えろってことか。んー、君の中で僕の存在が少し近づいたとか?」

「でも私はけーくんのこと最低だと思っているよ?」

「ちょっと紗織を起こして――」

「ダメだよっ、可哀そうじゃん起こしたら」


 女の子の寝顔を無許可で見るとか最低だし、うん、良くないことだ。


「もういいからさ、そこから出てよ。そうしないと……最低のけーくんが風邪引いちゃう……」

「最低ってついてなければ最高に可愛くて優しい感じなのになあ……」

「うるさいっ、どいて」


 出ていったことを確認してお風呂場を出る。


「あ……新しいの……」


 勝手に借りて着て扉を開けると、


「お……はぁ、ちょっとお風呂に入ってくるね」


 なんかちょっと調子が悪そうな彼。


「だ、だいじょうぶ?」

「うん、全然大丈夫だから。君は早く寝なよ、今日も学校なんだから」


 これ以上、負担をかけないように私は大人しく部屋に戻る。


「もう、どこ行ってたの?」

「さ、紗織……ちょっとけーくんと……」

「けーくん?」

「あ……」

「しかもその服、新しいのだよね?」


 待って、変なところで言いよどんだせいで意味深な感じになってしまった。

 し、しかも……()()()()()()ということが最高に恥ずかしくて……。


「ね、もしかして一緒にお風呂に入ってたとか?」

「それはちがうよ、神さまに誓ってもいいよ?」

「でもさ、その啓くんの服の内側って……」

「うん……持ってきてないから」


 それなのに濡れてきてお風呂にも入らせてもらうなんて、変態は自分かもしれない。まるでそういう前提で来たみたいじゃん……。


「櫻はえっちな子なの?」

「ち、ちがっ……」

「でも啓くんを誘惑しようとしたんだよね?」


 違うはずなのにそうじゃないと即答することができなかった。

 だって私がやったことを究極的な構ってちゃんみたいなものだ。

 さっき飛び出したのだって、そういうつもりでしたんじゃないの?

 わざわざ怒らせるような言い方をしたのも……。


「はは、でもダメだよそのやり方じゃ。健全に振り向かせないとね」

「え、なに勘違いしているの?」

「え、だから櫻()啓くんのことを好きになったことでしょ?」

「だ、誰があんな最低な子を……」

「最低なのは私達でしょ」


 そうだ……最低なのは私たち。

 だというのに彼は優しくしてくれた。

 だからって、そこに恋愛感情なんて一切……ない。


「さっきだって裸を見ようと――」

「はい、ちゃんと全部話してね」


 そうして全て吐かされることになった。

い、いいのか、これじゃ櫻がメインヒロインみたいだが。


会話→喧嘩のループね。

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