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箱庭実験  作者: 朝霧 橙子
5/20

3

上空に映し出された映像を、娘は反応もなく見つめていた


横たわる三人と、起き上がっている一人

それぞれの下には→と数字が記載されている

999。と書かれた数字にはルビが振ってありエル。と記入されている

数字とのバランスが悪い事から、そのルビは予めあったものではなく、先ほど急に追加されたのだろうと推測できる。ツヴァイはモニターに映し出された映像を見て苦笑を漏らしたが、黙る事にした。番号で管理されたものに名前をつけても仕方がないだろうに。そう言いたい気持ちはあるのだが、アインにも考えがあるのだろう。と、様子見に徹することを選択したのだ


映像と共に、「おはよう。エル」と、繰り返される言葉

数える事を止めたくなるほど繰り返された言葉に、ようやく娘が反応を示したのは、娘の真上にあった太陽が夕暮れを示す赤に変化した頃だった

娘はゆっくりと、周りを見る。横たわる3人は未だに目覚めることがない。ツヴァイが何度目かになる投薬量についての話題を振ると、アインは肩を竦めながら量を変えて投与したことを認めた。


「同時に目覚めたら先に進化の過程がわからないかもしれないだろう?

映像の通りに行動し、その行動の意味や名を理解できるのか。ある程度時間をおいて一人ずつ確かめたいんだ」


無茶苦茶だな


アインの回答に呆れつつもあえて口にすることはない

こういうやつを学者と言ったのだろうか?

そう思いながら、自身の所有するAIに訊ねる。


「マッドサイエンティスト。サイコ野郎。研究バカ。等、あまりいい表現はされませんが、研究者としては優秀であったそうですよ」


と、なんとも反応に窮する回答を返してきた

研究者より前の言葉が何をさすか定かではなかったが、誉め言葉ではないことだけしっかりと理解できた。同時に、かつての世界でも彼のような人は異質だったのだろう。と、理解した


そうこうしているうちに、娘は映像と自身の状況が同じであることに気づいたらしい。映像を見て、周りを見る。その繰り返しを行なっていた


娘の視点に映像をリンクさせ、娘の視線の先にある人の番号を音声が告げる。暫くその行動を繰り返していたが、娘は飽きたのか人を眺めるのはやめて視線を空に戻した

隣に眠っている黒髪の男の背中に手を置き、動かしている様が延々と繰り返し流れている。映像は未だに一人が起きて三人が眠ったままだ。関連付けることができたのか、それとも模倣しただけかはわからないが、娘はゆっくりと腕をあげた

AIは視点と行動から娘が映像に興味を抱いたことを察し、映像を娘の行動を一度だけ模倣させる


腕をゆっくりと上げた娘と同じく、腕をあげた映像を見て娘は首を傾げた

映像はまた、横たわっている男を揺さぶっているものに切り替わっている

腕をあげたまま眺めていた娘は、ゆっくりとした動作で自身の右隣で眠っている男性の背中に手を置いて、映像を見ながら動きを真似た

砂が半身につき、顔にもべったりとついているため、体の動きに合わせて砂にも動きが出る。休むことなくゆすっていると、ようやく男が目を開ける


映像はすぐさまゆさぶるのを止め、空に映し出されたそれを見たエルも同じように手を止める。だが、そこで男が映像とは違う行動を起こした。勢いよく立ち上がろうと動いてしまったのだ

筋肉がうまく動かないのか、立ち上がろうとして前のめりに転んでしまう。ううつ伏せになりながらも体を動かして立ち上がろうとする男をエルが見つめる

空中に流れている映像と、男を見比べ、止まったままの映像を認識したエルは、同じものにしようと動き……立ち上がろうとする男の頭を力を籠めて押さえつけた

映像を確認しては、止まっていなければならないのだとでも教え込むかのように、エルは男の頭に手を乗せて砂に顔を密着させる。呼吸が苦しくなって男が暴れようとすると、言葉になっていない音を喉から発し、映像を指しながら喚く。すっかり日が暮れ、徐々に体の力が抜けていく男が動かなくなるまで、その手を離すことはなかった


「アインさん」


「想定外だ。知らん」


じとりと睨むツヴァイの視線から逃れるように、アインは動かなくなった男のデータを照合し、その死亡を確認する。女性に顔を押し付けられたからと言って、赤子でもない男がいとも簡単に命を落としてしまう

彼らが図体が大きいだけの赤子という状態であり、先に目覚めたエルが強く出ても逆らう方法も知らないのだ。そのため、頭を押さえつけられたら手を払えばいい。という簡単なことすらできなくなかったのだ。


エルは映像と違う行動をした男を止めたかっただけだったのだが、力加減を知らなさ過ぎた。そもそも。エル自身が映像と異なる行動をしていることに気づいているのだろうか?

AIは制止させるために映像を止めた。だが、エルは男が動くまで映像が彼から距離を取った状態で静止していても、気にも留めずに男が動かなくなる事を優先したのだ。結果、男は砂で窒息死したのだろう。さすがに長時間抑え込まれてはもたなかったようだ


エルは、男が全く反応を示さなくなったところで、映像と同様に距離をとる。

映像の動きを真似て動くエルは、一晩かけて二人を岩陰に運び、一晩かけてもとの場所に戻った

そして、そのまま数日間映像が動きを見せる事がなく、エルは空を見上げたまま衰弱し、やがて死亡した


エルの死亡が確認されてからすぐ後に、残された二人が目を覚ました

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