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箱庭実験  作者: 朝霧 橙子
2/20

Case 1 Mayday

《》で囲った部分が本編を示唆する詩なのです


黒い紐で括られ、埃が堆積した古びた本を手に取る

破れた頁がはらりはらりと舞い、白灰色の埃の上に降り立っていく

忘れ去られた歴史。埋もれたそれを掘り起こすように、拾い上げる


滲んだインクが踊り出す。禁断の果実の甘味はなく、苦味と毒にまみれた黒き書が語りだす


《気づいたら世界は二人しかなく

足元の砂が文明を埋めて

四人いたはずの選ばれし者は

二人が狂って互いを殺して

赤い血は白い砂に溶け込んで

倒れた身体は太陽が焼いて

現れた骨は風が砕いて

新しい砂を作り出していた


生き残った二人は希望だと

どこからともなく声が響いている

声という概念知らない二人

声が与える知識を受け育っていく

発声を覚え最初の言葉は

「あなた、は、どうして、形、が、ないの?」

声は自身を神だと名乗り二人の世界を作ったという

二人は問い続け神は答え続けた

そうして二人は世界を知り知識を得て知能を手にいれた

時は流れて一人が気づく

世界を作った神が用いる

言語知識認知定義その全ては誰が神に教えたの?


時折遠くで声が聞こえれる

知能の発達が目覚ましいと

時折遠くで声が聞こえる

こうして文明が築かれたと


ねぇねぇどうして二人きりなの?

狂った二人の理由はなあに

メーデー神よ答えてください

メーデー神よ救ってください


鼓膜に響いた声を便りに目を凝らし

虚空に手を伸ばした

見えないなにかが指先に触れた

爪が折れ血が流れ出ても構わないまま掻き続けた

片割れが止めても止まらない衝動

片割れは触れることも出来ない壁

どうして気づかないんだと

詰寄り泣きじゃくり崩れ落ちた


遠くの声が近くで響いた

これが悪魔の正体でしたか

遠くの声が近くで響いた

これが信仰の崩壊ですか


ねぇねぇどうして壁なんてあるの

片割れが無いなんて嘘いうの?

メーデー神よ答えてください

メーデー神よ導いてください


ここを出たら答えは見つかるの

泣きながら問う片割れを見つめ

緩やかに首を振った一人は

正解をそっと耳打ちした


僕も君も外から来たじゃないか

気づかなきゃ新しい文明と

始祖の称号を手に入れられて

次の箱が出来るまでの年月

すべてから愛され敬われて

幸せに終わるはずだったんだ


マトリョーシカというオモチャと同じ

出ても出ても終わりのない世界

嫌々嫌々駄々こねてみても

仕組みそのものは変わらないのです


メーデーここから出してください

メーデーここから救ってください

メーデーここを終わらせてください

メーデーメーデーメーデーメーデー


いつから神は返答をやめたの

いつから声は聞こえなくなったの

いつから片割れはいなくなったの

いつから私はいつから私は…


メーデーどうか目を開けてくれよ

メーデーどうか立ち上がってくれよ

遠くで誰かの声が聞こえてくる

切迫した泣きそうな叫び

メーデーメーデーメーデーメーデー


目を閉じた一人を見つめる光

この世界最後の雌が死にました

涙する一人を見つめる光

この世界最後の雄は壊れました


衰亡し森閑とした世界で

砂を掘り抱いては空を見上げた

メーデー彼女を返してください

メーデー一人にしないでください

メーデー誰か返事してください

メーデーメーデーメーデーメーデー


どこにも届かない声はかれて

残りの一人も砂に同化した

モニター越しに見つめていた者達は

歓喜し労いモニターを消した

神の存在の証明実験

観察対象死亡で終焉

次はなにを証明しましょうか

無邪気に呟いた顔は歪み

どこか遠くから声が聞こえる

次の実験は……次の実験は……》



物語は、再び歴史を紡ぎ始めた


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