47 バーミリオングランドホテル
長らくお待たせして、本当に申し訳ありません。
色々とプライベートが忙しくなってしまいまして、再開が大幅に遅れてしまいました。
楽しい話に出来るように頑張りますので、よろしくお願いします!
ムラサメ王国――かつては黄金の国と呼ばれていて、各国との交流も少なかったが、現在は世界有数の観光地となっている。
バーミリオン家はムラサメ王国の観光地に多額の援助をしており、自らが経営する施設を多く作っていた。
バーミリオングランドホテルは満を持してバーミリオン伯爵が金に糸目をつけずに世界中からありとあらゆる技術を駆使して建設した超大型の宿泊施設。
魔光結晶と呼ばれる希少な魔力を含んだ鉱石を動力として動く《エレベーター》という昇降装置はとても評判がよく、階数の高い部屋にそれを目当てに泊まりに来る人もいる程だ。
そんな設備まで用意してある、バーミリオングランドホテルは世界一の宿泊施設として全世界で認知されており、世界中からVIPが訪れる最高級ホテルとなっていった。
私がこのホテルの支配人となってから既に一年が過ぎていた――。
「やぁ、ルシアくん。今回も楽しかったよ」
「行ってらっしゃいませ、ゼルネアス様。そう言っていただけて光栄です」
アレクトロン王国の上流貴族、ゼルネアス公爵は見送りに出てきた私に対してそう声をかけてくれた。
このように世界中の貴族や王族、さらには豪商が集まるので、接客をする私たちはとても気を遣う。
正直言ってレストランの時のほうが肩の力を抜くことが出来て良かったと思うこともあるが、これはこれでお客様が喜んでくれることにやり甲斐も感じるし、楽しいと感じる日も増えてきた。
しかしレストラン時代と変わらずに困りごとは継続中であった。それは――。
「やぁ、ルシアくん。この前の話は考えてくれたかね?」
先ほどのゼルネアス公爵と同様に、アレクトロン王国の上流貴族のプーレット伯爵が私に話しかけてきた。
「これはプーレット様。この前の話というのは?」
私はわざととぼけた顔をしてみる。お客様には失礼にあたるが、こればかりは受け入れられない話なのである。
「あっはっは、イヤだなぁ、忘れたなんて言わせないよー。ウチの娘が君に夢中でね、是非とも君との縁談をとせっつくのだよ。まぁ、君は平民だが教養もあるしバーミリオン伯爵の懐刀と呼ばれるほど有能らしいから、私としても娘をやってもいいと思っている」
プーレット伯爵は私を自らの娘の結婚相手にと、勧めてきた。
レストラン時代と同様に、なぜか貴族たちは私に対してひっきりなしに縁談を持ってくる。
しかも相変わらず、相手は全員女性だ……。
いや、クリスティーナのときのモテ期は男が相手だからまだ納得出来たが、ルシアになった瞬間、今度は女にモテるってどういう人生なんだ? しかもお客様の娘さんからのアプローチをさり気なく躱すって、めちゃめちゃ気を遣う。
いつか地雷を踏んでしまわないか、戦々恐々の毎日である。しかも、こういう話が来ると必ず……。
「これはプーレット様、ご機嫌麗しゅう」
「ええと、あなたは確か、バーミリオン伯爵のご息女の――」
「はい、メリルリア=バーミリオンですわ。プーレット様……。ところで、わたくしのルシア様に何か素敵なお話があるみたいでしたが、わたくしにもお聞かせいただけませんか?」
メリルリアは得意の人懐っこい笑顔を向けてプーレット伯爵に話かけた。私に自然に寄り添うようにして……。
「はぁ……、なるほどぉ。いや、すまないねぇ、ルシアくん。君も人が悪いよ。良い人が居たんだったら遠慮なく言ってくれればいいのに」
プーレット伯爵は察したような顔をして、いそいそと立ち去って行った。『いや、違うんです』と喉から声が出かかったが、それを言ったら言ったで面倒な話になる。
まぁ、メリルリアのブレない鉄壁のガードのおかげで貴族たちが持ちかける縁談の話は消えてくれるのだが、既成事実が着々と根付いているのは由々しき事態だ。
私とメリルリアが近々婚約するのではという噂は既にホテルの従業員の全員が知るところとなった。
「腹を括るのも一つの手なんじゃないのぉ。もう男に懲りているなら、女同士も悪くないじゃなぁい」
スイートルームをずーっと貸し切ってるフィーナは私の悩みに対してそう返した。
まったく、この人は人のことだと思って。
フィーナは一番いい部屋を貸し切っているのに、私の業務終了時間になった瞬間に今日みたいに支配人室に遊びに来たりする。
「いやー、男がダメなら女に走るっていうのも違うっていうか。そりゃあメリルには恩もあれば、借りは大きいですし、私は彼女のことが大好きですけど……」
この好きという気持ちは、恋愛感情とは違う……。なんていうか、妹に対する気持ちに近い。
「ホントにそうかしらぁ? じゃあケビンやアウレイナスの坊やの方が良いのぉ?」
「アウレイナス殿下はともかく、ケビンはないですね……」
私はフィーナの言葉に即答した。さすがにケビンはちょっと……。
「酷ぇなー、はっきり言ってくれるぜ」
ホテル内のレストランの料理長をやっているケビンは売上金の計上を終えて、部屋に入ってきた。
「なんだ、ケビン。まさか、私に惚れてるのか?」
「知ってるくせに、しょうがねぇ奴だな」
私の軽口を苦笑いしながら返すケビン。この男ともそろそろ長い付き合いになってきた。
「そういや、ルシア。最近、この国の界隈で噂になってる《悪魔の子》の話を知っているか?」
ケビンは世間話がてら、ムラサメ王国で噂になっている《悪魔の子》の話を振ってきた。
なんでも、この国に悪魔の子供が侵入していて、母親を探しているっていう噂だ。
その《悪魔の子》というのは雪のように白い肌の銀髪の少女らしく、関節には継ぎ目がある人形のような見た目で、おおよそ人間には見えないようだ。
悪魔という存在が実在するかどうかは分からないし、そんな容姿かどうかも分からないが、あまりにも目撃情報が多いので、噂はあっという間に国中に広がった。
「ふーん、妾が昔見た悪魔とは随分と見た目は違うわね。多分、その子は悪魔じゃあないわぁ」
相変わらずサラリとトンデモ発言を放り込むフィーナ。何百年も生きている魔女は人生経験が違う。
「いや、あなたの経験の方が長いけどねぇ……」
フィーナは私の心を読んで、それに答えた。もう慣れたけど、最初の方はドキッとしたものだ。
「フィーナ様は悪魔を見たことあるんですね。どんな感じだったんですか?」
私はフィーナの見たことがある悪魔について質問をした。
「そうねぇ、妾が見た悪魔は――」
「ルシア様、迷子が居たのですが、どうしましょうか?」
フィーナが口を開いた瞬間にメリルリアが、部屋に入ってきた。
小さな女の子を連れて……。
あれ? この子の肌――真っ白だ。しかも肘と膝の関節に継ぎ目のようなものが見えるぞ。
まさか、この少女が噂の《悪魔の子》なのか?
そう思っていると、少女は私の顔を見るなり走って近づいてきた。
「やっと見つけた……。あたしのママ……」
無機質な声で彼女は私に向かって、『ママ』と言ってきた。
いや、何かの聞き間違いだよね?
久しぶりに投稿しましたが、いかがでしたでしょうか?
第二部は《悪魔の子》と呼ばれた少女との出会いから、始まります。
次回もよろしくお願いします!




