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36 ピンチ

 最初は二人揃って遅刻だと思っていた。欠勤の連絡もなかったし。


 次に連絡も出来ないほどの事件か事故に巻き込まれたのではないかと疑った。

 なので、ケビンに頼んで二人の家を見に行ってもらった。




「駄目だ、二人とも家に居ないみたいだぜ」


 戻ってきたケビンの第一声に私は頭が痛くなった。

 ここからピークまで客が増えるとレオルはともかくリーナの不在は痛い。


 リーナの調理スピードは他の料理人たちを遥かに凌駕する。


 彼女の休みの日には普段より3人多くの従業員を配置するほどだ。



「まいったなこれは……。今日休みの者に助っ人を頼むしかないか……」


 私はどうにかして今日を乗り切る方法を思案した。


 しかし、これは根本の解決にはならない。


「けどよぉ、レオルはどうでもいいが、リーナがこのまま見つからなかったら困るだろ? あいつの代わりなんざ中々見つからねぇぞ」


 ふむ、そうだよなぁ。仕方ない、ここは支配人という立場は一度置いておくとしよう。


「とりあえず、しばらく私が厨房に入ろう」


「はぁ? オメー、料理なんざ出来るのか?」


「まぁ、だてに前世で経験を積んでないさ。男を落とすには先ずは胃袋からとも言うではないか」


 私は調理用の服装に着替えて、包丁を握った。


「しかし、ちょっとばかり料理が出来るくらいでリーナの穴が――」


「とりあえず、3品ほど作ってみた。一応、ウチの味になっているか味見を頼む」


 私は人気メニューを調理して、ケビンに差し出した。


「早っ! リーナと変わらねぇスピードじゃねぇか。――味も完璧だ……。オメーってホントになんで1回も結婚出来てねぇんだ?」


「それを君が言うのか?」


「すまねぇ……。なんだったら、オレの嫁に……」


「ん? 何か言ったか?」


「はっ、何でもねぇよ! んじゃ、俺も今日は本気を出すぜ」


「ふぅ、毎日本気を出してくれ……」


 私とケビンが踏ん張り、なんとかピークを乗り切ることが出来たが、ついにリーナ達は姿を見せなかった。




「あらぁ、駆け落ち? 演劇の練習の延長線上でぇ? レオルって子も面白いわねぇ」


 例のごとく遊びに来たフィーナは興味深そうに話を聞いていた。

 早くリーナだけでも連れ戻したいのだが、どこにいるのかさっぱりわからない……。


「そうだ、フィーナ様よぉ。パパッと、魔法でリーナの場所とか分かんねぇかな?」


 ケビンはそんなことをフィーナに尋ねた。さすがにそんな便利な魔法なんて――。


「分かるわよぉ。ほらぁ、ご覧なさぁい」


「えっ? 分かるのですか?」


 フィーナはサッと水晶を取り出した。水晶にはリーナとレオルが映っていた。

 すごいな、人探しをいとも簡単に……。さすがは世界一の魔法使い……。


「ふぅーん。居場所は……、まぁた面倒な場所ねぇ……」


 フィーナは呆れた表情で水晶を覗く。

 私とケビンも彼女にならって水晶を凝視した。げっ、これは……。


「「船っ!」」


 私とケビンは同時に声を出して思わず顔を見合わせる。

 そう、リーナたちは船の上に居た……。


「つーか、やばくねぇか? 船なんかで別の大陸に行かれると連れ戻すにしても時間がかかる……」


「そうだなぁ、少なくとも船が上陸するまで一週間はかかるもんなぁ。戻ってくる日数を計算して……」


「戻る日数は計算しなくていいわよぉ。上陸したらぁ、妾の魔法で迎えに行っても、構わないから」


 私が頭を抱えて悩んでいると、フィーナが優しい申し出をしてくれた。

 普段なら厚かましいことは遠慮するのだが、状況が状況だ。甘えさせてもらうことにした。


「ほっ本当ですか? フィーナ様、それは助かります」


 私は絶望的な状況に光が見えた。

 もちろん、リーナたちの行ったことは許しがたいが、それ以上に彼女を失うのは痛い。

 とにかく、私が頑張って少しの期間耐えれば良いのなら、いくらでも頑張れる。


「任せなさぁい。友人のピンチに力くらい貸してあげるわよぉ」


 フィーナはニコリと微笑んだ。扱いにくい人だと思っていたけど、結構親切な人だ。

 歳を取ってるだけあっていつも冷静で落ち着いてるし。


「扱いにくい人だなんてぇ、心外だわぁ。助けるの止めちゃおうかしらぁ?」


「心を読むの止めてください。失礼なこと考えたことは謝りますから」


「仕方ない子ねぇ。素直に謝ったからぁ、許したげるわぁ」


 やっぱり、恐ろしい、否、素晴らしい魔女である。



「ルシア様、リーナを見つける目処がついたことはよろしいのですが、レッドウッド様にはどう説明します? 確か舞台の初日って一週間後じゃ……」


「あっ……。というより、レオルは就業後に夜の舞台稽古には行っていたから、いないことは既にレッドウッド氏も気付いてるかも……」


 レオルはトーマスから預かっている状況だからなぁ。行方不明になった責任を追求まではされないだろうが、心象は良くないだろう。



「ルシアちゃん、噂をすれば……だぜ。レッドウッドさんが来られたぞ……」


 ケビンが事務所のドアを開けながら私に声をかけた。


 ドアの向こうにはトーマス=レッドウッドが立っていた。

 


「ルシアさん、夜分に申し訳ない。単刀直入に質問するが、レオルの居場所を知っているか?」


 トーマスは事務所に入るなり、焦燥した表情で私に質問した。

 まずは、手短に状況の説明をするか。


 私は彼にレオルがリーナを連れて船に乗っているという現状を話した。


「――あの馬鹿っ……。ルシアさん、すまない。レオルだったらこれくらいする予測は立てられたのに――。何とお詫びをすれば良いか……」


 青い顔をしたトーマスは弱々しく頭を下げた。


「いえ、私の監督不行届が原因です。大事な役者さんを預かった身でこの体たらく……。私こそお詫びの仕様がありません」


 私もたまらず頭を下げる。どう考えても舞台公演前に主演俳優が居なくなったほうがダメージが大きいだろうし……。


「ルシアさんには、責任はない。あの危険な馬鹿から目を離した僕が悪いんだ……。しかし、もう舞台公演まで時間がないし……、代役を立てるにもっ……」


 トーマスは絶望という顔つきで拳を震わせていた。

 うーん、なんとか力になりたいが……。レオルを連れ戻すにしても日数が……。どうすれば……。




「力になりたりならぁ。ルシア、あなたが出てみたらどぉ? その舞台とやらに……。役者の経験もかなりのものなんでしょう?」


 フィーナが私に声をかけた。


 私はまたもや驚いた顔で彼女を見た。


「フィーナ様、なぜそれを……」


 私は確かに前世で演劇の経験を積んだことはあったが、フィーナに話したことはなかったのだ……。


 いや、だからといって、一週間後に主演なんて無理だから……。大体、トーマス=レッドウッドの舞台に簡単に立たせて貰えるわけ――。


「ルシアさん、頼むっ! “ヒース”の代役をやってくれ!」


 トーマスは必死に私に懇願してきた。

 

 ええーっ、どうしたら良いんだ?

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