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21 毒殺

「クリスティーナ様は亡くなったか……。早めに動いた甲斐があるな」


「自殺だ、自殺。軽率な言動は控えろ」


「おっと、すまないな。君もご苦労だった。食事のことは誰にも気付かれてないだろうな」


「ええ……、もちろんです」


「なら良い。さあて、殿下に報告せねばならん。君は普段通りに動くのだ」


「わかりました。それでは、失礼します」


 あたしは胡散臭い連中に頭を下げて、部屋を出た。

 どうやら、変装はバレなかったみたいだな。

 

 あたしは、毒入りの食事を運んだ使用人に変装している。


 そして、毒を飲んで部屋で死んでいるのは、あたしを殺そうとした使用人である。まぁ、彼女はあたしに変装しているんだけど……。


 ケビンは気絶させておいた使用人に容赦なく毒入りのスープを飲ませた。

 そして、あたしの髪や眼の色を変化させるだけの魔法とはレベルの違う、完全な変身魔法を死体にかけたのだ。


 自分と同じ容姿の死体を見るのは複雑な気分だったし、目の前で人が死んだことにも戦慄した。

 しかし、そうしなきゃ自分が死ぬ状況にあることも先程の連中のやり取りで理解して何とか受け入れた。


 ちなみにこの変身魔法は未完成で生き物にはかけられないらしい。

 だから、あたしの変装はルシアになる要領でやっている。さっきは結構怖かったなー。


「よう、見事な変装じゃねぇか。さすが俺の見込んだパートナーだぜ」


 あたしが城の倉庫裏に辿り着いたとき、先に部屋を出たケビンが話しかけてきた。


「誰がパートナーだ。貴方と馴れ合うつもりはない」


「冷てぇなぁ……、仲良くやろうぜ」


「本当に頭がお花畑なんじゃないか? 婚約破棄させられて、その上、死んだことにまでされてるんだ。あたしが貴方と仲良くできると思ってるの?」


「えっ? 思ってるけど……」


 ケビンはキョトンとした顔であたしを見つめていた。この人、馬鹿なのかな?


「……はぁ」


「まっ、今すぐ仲良くするのは無理みてぇだな。とりあえず、オメーはどっかに身を隠せ」


 ケビンはそう言って一人で納得していた。


「だけど、あたしと入れ替わった奴はグランルーク派なんだろ? 居なくなったら、あたしの死も疑われないかな?」


「あーっ、心配すんな。むしろ、連中は気を利かせて姿を眩ましたって思うだろうぜ。あの女は毒入りスープを運んだ実行犯なんだからよぉ……」


 確かにそれもそうか。ボロが出るより居なくなった方がいいと思われそうだな。


「ふーん、そういうもんかな? しかし、どこに身を隠せば……」


「まっ、オメーが信頼出来る人間のところか、もしくは旅の冒険者にでも成り済まして城下町に住むかだな。言っとくが実家は連中が見張ってる可能性があるから論外だぞ」


 両親や妹にあたしが死んでるって思われたままなのが、とても気がかりだ。


 しかし、あたしが自殺したことになっているので、罪が両親に及ぶ心配が激減したのは良かった。

 一応、責任を取ったってみなされるからね。だから、家に迷惑をかけないために今までも自害していた。


「一週間後の正午に、オメーと初めて会った店の前でまた会おう。全て終わらせてやるからさ」


「なんだ、一週間もかかるのか?」


「そりゃあ、国家転覆企んでいる奴らを取っ捕まえるんだ。グランルークのジジイも含めてな。それなりに時間はかかるさ。あと、待ち合わせに俺が来なかった場合だけど――」


 ケビンの声のトーンが下がる。そして、真面目な顔をした。


「この国を出ろ。クリスティーナの人生は捨てて、新しい人生を組み立てるんだ。オメーにはそれが出来る力がある……。貴族だけが人生じゃねぇんだ。それは覚えておいてくれ――」


「はぁ? それはどういう意味?」


 貴族だけが人生じゃない――あたしの中で何かが壊れた気がした。


 しかしそれが何なのかあたしにはわからなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「――それで、我がバーミリオン家を頼って下さいましたの? ルシア様……」


 その日の夕方……、あたしはメリルリアと紅茶を飲んでいた。

 彼女にだけ事情を打ち明けて……。


「すまない。君しか頼れる人が居なかった……」


 マリーナの実家は第一王子派らしいから、あたしが厄介になると更に危険に晒されそうなので避けた。


 バーミリオン家は中立の立場を貫いている稀有な貴族ということをケビンから聞いていたので最も安全だと判断した。メリルリアには迷惑をかけるが……。


「えへへ、ルシア様に頼りにされてしまいましたわ。なんだかとっても嬉しいですの」


 メリルリアが人払いをしてくれたお陰で、今はこの部屋に彼女と二人きりだ。

 事情を全て聞いた彼女は二つ返事であたしを受け入れてくれた。

 彼女には大きな借りが増えてしまった。


「本当にありがとう。この借りはきっと返す」


 あたしはメリルリアに頭を深く下げた。


「頭を上げてください。わたくしは見返りが欲しいわけではございませんの。想い人が困っているときに、手を差し伸べられないなんて、バーミリオン家の淑女失格ですから――」


 メリルリアはニコリと微笑む。

 本当に彼女はどこまで器の広い子なのだろう。あたしとは大違いだ。


「そう言ってもらって助かるよ。メリルは優しいな」


 あたしも自然と笑みがこぼれた。


「うふふ、ルシア様と暮らせるなんて夢のようですわぁ。一週間と言わずに一生暮らしてくれればよろしいのに……」


 メリルリアは上機嫌で紅茶に口をつけていた。


 あたしはこの日からしばらくルシアとしてバーミリオン家に居候することとなった。

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