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19/48

19 信頼

「最低か……、そうだな。確かに俺ぁ、最低だ……。オメーの弱みに付け込んでるだけだからな。だが、グランルーク派はこの国を掌握したら、軍事力を強化して隣国に戦争を仕掛けるつもりだ。手段は選べねぇ。俺はこの国を守りたい」


 ケビンは尚も真剣な顔をして、睨んでいるあたしの目を真っ直ぐに見ていた。


「それだから、あたしに投獄されて殺されるリスクを背負えって? どうせ、貴方が不利になったら、あたしを見捨てるじゃん。まぁ、親友の身が危ないのなら、協力はするけどね」


 あたしはマリーナの身に危険が及ぶのだけは無視できなかった。だから、この男は許せなかったが、協力することにした。


「見捨てねぇよ。そりゃ、俺は最低な男だけど自分だけ助かって仲間を見捨てるって真似だけは絶対にしないって。必ず助けるぜ」


「ふーん、口だけじゃ何とでも言えるから。悪いけど、きれい事なんかあたしは信じないよ」


 保身を考えない人間などいない。まして、あたしは数々の男に裏切られた。


 そんな言葉を信じる気はなかった。


「なるほど、その通りだな。裏切らねぇって言って、それを鵜呑みには出来ないのは当然だ。じゃあ、これをオメーに預けるぜ」


 ケビンは自分の首飾りをあたしに手渡してきた。菱形の銀細工の中に緋色の宝石が埋め込まれていた。


「これは? こんな古びた首飾りに何の意味が? アーツブルク王室の紋章が刻まれてるけど……」


「これは、アーツブルク王室の王位継承権を持つ者が代々受け継いでいる首飾りなんだ。宝石には神々の加護魔法がかけられているから、グランルーク派も喉から手が出るほど欲しがっている。これは俺の命より大事な物だ」


「はぁ、貴重な首飾りをなぜ私に?」


「オメーに預けるぜ。そいつをどっかに隠しとけ。自分だけが知ってる場所にな」


 そう言ってケビンはあたしの手の上の首飾りから自分の手から離した。

 

「なんで? これって、王室のどんな宝物よりも大事な物なんでしょ? あたしなんかに持たせる意味がわからないんだけど……」


 何の意図があるか、さっぱりだ。こんなもの持たされて、怖いんだけど……。


「だから預けるんだよ。そりゃあオメーの命の方がこんなものよりも、よっぽど大事だけど、俺もリスクを少しは背負わなきゃ納得してもらえねぇだろ?」


「あー、そういうこと? 馬鹿なんだな、貴方。そんな無意味なことをするなんて」


「無意味だからするんだよ。打算なんてもんがあったらオメーに信じてもらえねぇからな」


 ケビンは頭を掻きながら面倒そうに答えた。

 

 ふむ、打算なくしてリスクだけ背負うか。そこまでするなら……。


「わかったよ。ちょっとだけ信じてやるよ。本当に、ちょっとだけだぞ」


 あたしはとりあえず少しだけこの男を信じる気になった。まぁ、それでも自分の命が危険になったら保身を優先させるだろうけど……。


「ああ、それで十分だ。オメーはアウレイナスと婚約する()()でいい。後は、俺が何とかする」


「はいはい。じゃあ、89回目の婚約の準備をしてやるか。はぁ、まさか今回も婚約する羽目になるなんて思わなかったよ……」


 あたしは疲れ切った顔をして、帰路についた。

 ケビンは何とかするとか、必ず助けるとか言ってるけど、あたしは88回の経験から不安しかなかった。


 まぁ、でも、ちょっとだけ信じてやりたいと思ったのは自分でも意外だったな。

 

 そんな感情はとっくに無くなったと思ったから……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 あたしは自分の部屋のベッドで今日のことを振り返る。

 アウレイナスとのデートから始まって、ケビンの正体、それからメリルリアに謝って……さらに……。


「あー、それでも気が重いな。婚約破棄されると分かっていて、婚約するって、狂気の沙汰としか言いようがないよ……」


 約束したこととはいえ、あたしは気が重かった。あたしの人生ってなんなんだろう?


 でもマリーナは大事な親友だし……。


 本当、あの男はどうやって調べたのか知らないけど、あたしのアキレス腱を見事に捉えたものだ。


 物思いに耽りながら、ボーッとしていたら、大声で現実に呼び戻された。


「お姉様っ! 一体、何をやらかしましたのですか!?」


 フィーネが飛びつくようにあたしに迫ってきた。

 なんだ、ノックもせずに入ってくるなんて?


「別に何にもしてないぞ。殿下は用事が出来たからって早くに別れたけど、あたしのせいじゃないし」


 今回は何もやましいことが無いので、あたしはそのままの事実を話した。

 フィーネが怒っているのは、殿下とのデートが直ぐに終わったことに対してだと思ったからだ。


「あら、そうでしたか。絶対にお姉様が何かやらかしたからだと思いましたよ」


 フィーネはブツブツと失礼なことを口に出していた。絶対にって……。信用されてなぁ。


「お姉様、今回は仕方ないですが次こそ必ず殿下とですね、婚約を……」


「うん、するよ。殿下と婚約を、近いうちに……」


 あたしは意を決してそれを口に出してみた。


「そうです。お姉様は殿下と婚約――はぁ!?」


 フィーネは目を見開いて大声を上げて驚いた。

 えっ、何かあたしが変なこと言った。


「おっお姉様? 昨日、もしかしてお祭りで変なモノを召し上がりましたか? 何処か体が悪いのでは? お医者様を呼ぶ手配をセリナに……」


「ちょっと待て!」


 医者を呼ぼうとするフィーネを慌ててあたしは制止する。どういうことだよ、まったく。

 

「だって、お姉様が急に婚約するだなんて、おかしいですもの……。ほっ本当にお体は大丈夫なのですね?」


 今までになく本気で心配をする妹を見て、あたしは思いっきり脱力してしまった。

 何だかんだ言ってこの子は可愛いんだよなぁ。

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