18 派閥
「貴方、自分が何言ってるかわかってるのか? 婚約破棄されてくれって、言ってる意味全然わからないんだけど!」
あたしはケビンに詰め寄った。冗談でも質が悪すぎる。
「おっと、すまねぇな。ちょっと、率直に言い過ぎたぜ。まっ、簡単に言えばこの国の不穏因子を取り除くための手伝いをして欲しいんだ」
ケビンは両手を挙げてオーバーなリアクションをとった。
不穏因子だって? それと婚約が何の関係があるって言うんだ。
「ちょっと長い話になるが、聞いてもらえないか? オメーの力がマジで必要なんだ。頼む」
急に真剣な表情になり、頭を下げるケビン。だったら、最初から喧嘩売らなきゃ良いのに。
「ああ、なんか怒ったオメーの顔が心地よくってな。悪かったよ、本当に……」
「全然、言い訳になってないけど、話くらいなら聞いてやるよ。あくまでも、聞くだけだからな」
あたしはケビンに続きを話すように促した。
「ありがとな。恩に着るぜ」
「別に聞くだけだから、そんなに畏まらなくてもいいよ」
あたしは面倒ごとは御免だが、一応話を聞くことにした。気になるのは確かだし。
「そっか、だったら聞いてくれ。王室は第一王子派と第二王子派の派閥争いが続いていた」
やはり、王室は揉めているのか。あたしはそういったのは全く興味なかったから知らなかったけど。
「知っていると思うが、アウレイナスの母親、つまり、現在の王妃マルティアナはこの国で尤も力のある貴族、グランルーク公爵の長女。かたや、俺の母親は聖女ではあるが平民の出で親父が若い頃に無理を通して結婚した相手だ」
「ああ、それなら知っている。平民と王室の結婚はアーツブルク王室の歴史で初めてだったんだっけ? 今の王妃陛下のことも、もちろん知っているよ……」
平民と王の結婚か……。あたしの前世でも何度かあったな。もちろん、奪われる側だったけど……。
「どうした? 顔色悪いぞ……」
「あっああ、ちょっと昔のことをね……」
「そうか。大丈夫か?」
「聞くだけなら、大丈夫さ」
過去のトラウマであたしは顔を青くしていたらしい。話の腰を折ってしまったな。
「平民の血を引く俺が王に相応しくないって目くじらをたてる連中が結構いたんだよ。別に俺は王になるなんて興味なかったからさ、城から出ていって弟に王位を継がせる土台を作ろうとしたわけだ。第一王子派を説得してからな」
ケビンが失踪したのは、アウレイナスに王位を継がせる為だったのか。それなら話は終わりそうだけど……。
「俺の説得の甲斐があって、第一王子派と第二王子派の争いはほとんど終結したんだ。だから、俺もこっちに戻って王位継承権をアウレイナスに譲る準備を進めようとした。だが、不穏因子はまだ残っていたんだ。それは、グランルーク派……」
ここに来て、新しい派閥とか面倒だなぁ。
「奴等の存在は王も王妃も知らねぇ。秘密裏に動いてるからな。要するにグランルーク公爵を王にしようって勢力だ。アウレイナスと俺を排斥してな」
「ふーん。グランルーク公爵にそんな野心があるなんてねぇ。自分の孫を消してまで……」
あたしはそんなに驚かなかった。権力の移り変わりなんて、何度も見たし。
「そんな中でアウレイナスがオメーにいきなり求婚した。グランルーク派は面白くねぇ展開だと思っている。オメーがアウレイナスの子を身籠りでもしたら、面倒だし、ハウルメルク公爵が力をつけるのも厄介だ」
ここであたしに話が繋がるのか。世継ぎが出ると確かにややこしくなるんだろうな。
「だから、もし、オメーがアウレイナスと婚約したら、直ぐに奴等は動き出すはずだ。オメーに何らかの罪を着せたり、アウレイナスに奴等の用意した女を当てたり、そういった陳腐な手を使うと見ている。その瞬間を俺が叩く」
ケビンは拳を握り締めて宣言した。どうして、あたしはこういう運命に振り回されるのかなぁ。
「それで、あたしに婚約破棄されて来いって? ははっ、悪いけど、アーツブルク王室がグランルーク王室になってもあたしは構わないよ。変なことに巻き込まないで欲しいんだけど」
あたしはウンザリした。リスクしかないし、失敗したらあたしは投獄されて終わりじゃん。今まで通りじゃないか。
「オイオイ、言葉遣い戻ってるぞ。まだその格好だろ?」
ケビンはあたしの話し方を指摘する。そんなの今はどうでもいいだろ。
「とにかく、自分で何とかしなよ。便利な眼だって持ってるんだし――それに――」
「マリーナ=ベルモンドはオメーの親友だっけか? ベルモンド伯爵は第一王子派の中心人物の一人だ。グランルーク派は元々、第二王子派から別れたからそっち側には害を及ぼさないだろうが、第一王子派はそうはいかねぇだろうなぁ……」
ケビンはあたしの耳元で囁いた。こいつは、どこまであたしをっ……。
「貴方はサイテーだな。久しぶりにこんなに人を嫌いになれそうだよ」
「悪ぃな、俺も手段は選べないんだ。責任はこの命をかけて取ってやる。だから、頼むっ……」
「頼むって、脅迫じゃないか。本当にサイテーだよ、貴方は――」
あたしは思いっきりケビンを睨みつけた。




