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17 返答

 これで彼女との関係は終わりか。本当に悪いことを――。


「ルシア様って、本当は金髪だったのですわね。目も青い……。でも、何故そんな魔法を?」


 まだ、全然伝わってなかった……。よく考えたら化粧もしてるし、格好もこんなだからな。


「ごめん。メリル、違うんだ。あたしは女なんだよ。ずっと、貴女を騙していたの」


 あたしは出来るだけ声を高くしてメリルリアに真実を告げた。

 今度こそ終わりだ。残酷な告白がこれほど苦しいなんて……。


 

 メリルリアは1分ほど無言だった。状況の理解が追いついてないのだろう。

 あたしはひたすら彼女の最初の言葉を待っていた。そして、彼女はようやく口を開いた。


「ええーっ、ルシア様は女の子でしたのね。驚きましたわぁ」


 間延びした声でメリルリアはリアクションをとる。うーん、なんか想像と違う気が……。

 そして、彼女はしばらく腕を組んで考えるような仕草をした。何を考えているのだろう?



「――うーん、まぁいいですの。愛の形は色々ですし、ルシア様に一目惚れしちゃったのは、紛れもない事実ですもの」


 そして、唇に人差し指をつけてとんでもない発言を続けるメリルリア。


「メリル? えっ?」


 意外すぎるメリルリアの返答にあたしはびっくりしてしまい、目を見開いて驚いた。

 

 あたしが言う筋合いはないけど、受け入れるの早すぎるだろ。妖しい発言もしてるし。


 ていうか、騙してた事に対しての恨みとか、怒りとかないのか? 普通はそこからだろ。あたしは裏切ったのだぞ。


「あのさ、あたしに対する怒りとかないのか?」


 あたしは我慢できなくてそんなことを言ってしまう。


「もちろん、残念な気持ちはありますわ。でも、それでも、愛する人に怒りを感じたりはしませんわ」


 何、この子、天使なの? 悪い人に騙されない? 大丈夫? いや、今のいま、悪い人(あたし)に騙されたところか……。


「でも、あたしは貴女をずっと騙していたわけだし……」


 あたしはもっと責められると思っていたから、釈然としなかった。


「そうですわね。あんなにカッコいい殿方を見たのは初めてでしたから。まさか、女の子とは思いませんでしたの。というより、貴女って、もしかして、あの時の女騎士さんでは?」


 メリルリアはようやくあたしの正体に気付いた。一応、顔を覚えてくれてたのか。


「そう、あたしはクリスティーナ=ハウルメルク。ハウルメルク家の長女よ」


「存じてますわ。アウレイナス殿下と婚約されたと……。嫌ですわ、わたくし、浮気相手になってしまいましたの……」


 メリルリアはあわあわと慌てだした。

 いや、浮気もなにも、そこまでの関係にはなってないし、そもそも、殿下は『ルシア』の存在など知らないし。


「大丈夫。殿下とは婚約してないし、どっちみち、浮気にはならないと思うから」


「あら、婚約はされてませんの? でしたら、わたくしにもチャンスがありますわね」


「えっと、メリル。あたしは女なんだよ? わかってるよね?」


「ええ、わかっておりますわ。しかし、クリスティーナ様は殿下の求婚を躱しているようにお見受けしますわ。ということは、おそらく殿方のことをあまりお好きではないはずですの」


 なっ、何気に核心をついている。だからといって、女性オッケーとかじゃないぞ。


「ふふっ、わたくし、待っておりますわ。なんとなく、予感がしますの。クリスティーナ様の婚約は上手く行かないって」


 メリルリアは力強く声に出した。鋭い、この子、とても鋭いよ……。


「ははっ、否定できないのが悲しいよ……」


 あたしは苦笑いしながら、『ルシア』の見た目に戻した。


「はぁ、やはりカッコいいですわぁ」


「そりゃあどうも。貴女の執事たちにも心配かけてしまっているから、そろそろ戻ろう。ありがとう。メリルは優しいな」


 あたしはメリルの手を引いた。


「惚れた弱みですから。クリスティーナ様に振り向いて貰えるように、わたくし頑張りますわよ」


 

 

 

 こうして、あたしの告白は思わぬ形で幕を閉じた。今日は濃い一日だった。

 明日からどうやって過ごせばいいのかわからなくなるくらい。


「それで、貴方はオレにまだ何か用事があるのか? ケビン」


 メリルリアと別れて5分くらい歩いたあたしは、後ろからわかりやすく付いてくるケビンに声をかけた。


「つれねぇこと言うなよ。メリルリアちゃんとのデートは邪魔しなかっただろーが。いやぁ、メリルリアちゃんがいい娘でよかったねぇ」


 ケビンはニヤリと笑いながら軽口を叩く。

 この男、どうやったのか知らないが遠くから会話まで聞こえたらしい。


「あー、俺の眼なら唇の動きで会話を読むくらい簡単だから」


 そして、彼はあたしの疑問に先回りして答える。そりゃ、便利な能力をお持ちですこと。


「そんな便利な眼を持っているのに、アウレイナス殿下と会ったときはかなり狼狽してたじゃないか」


「そりゃ、オンオフを切り替えて使ってるからな。結構、“天眼”の使いっぱなしって疲れるんだぜ。まっ、あいつには然るべきタイミングで接触したかったんだけど仕方ねぇ」


 含みのある言い回しだな。やはり、王家には何かあるのだろう。


「そういうことか。で、もう一度質問するが、何の用だ?」


 あたしはいい加減、イライラしていた。

 この男から感じる得体の知れなさのせいで警戒心を上げてしまっているからだ。


「おおっ、聞いてくれるか? 実はよぉ、オメーの強さや体質を見込んで頼み事があるんだ」


「ん? 体質が何だって」


 急にヒソヒソと話し始めたあたしは耳を自然に彼の方に傾ける。


「だからさ、俺の弟と婚約してさぁ。その後、婚約破棄して貰ってきてくれねぇか?」


「――はぁ?」


 あたしはあまりにもふざけた話に耳を疑って、不機嫌を全面に出して聞き返した。


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