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13 思案

「ふぅ、何とか――なるだろうか?」


 あたしは自室のベッドで横になりながらメリルリアとの約束と、殿下とのデートが両立出来るかどうかを考える。


 メリルリアには、なんとか夕方からという遅い時間からの約束にしてもらった。

 殿下とは朝からなので、早めに切り上げることが出来れば間に合うはずだ。


 しかし、念には念を入れたい。

 なんせ殿下に『他の人と会う用事があるので、今日はこれで失礼します』なんて言えるわけがないのだから。


「はぁ、体が2個あればいいのになぁ。なんて、馬鹿なこと出来る訳ないか……」


 そんな非現実的なことを考えてると、ノックの音が鳴った。

 

「お姉様、入ってもよろしいですかー」


 フィーネである。

 あーあ、面倒なのがやって来た。きっと今日の話を聞きに来たのだろう。


「今、忙しいから――って、返事をする前に入るなよ」


「ぐーたらな、お姉様が忙しいはずがございませんから。はぁ、何故アウレイナス殿下はこんな人に求婚を……。というより、ここに同じ顔の淑やかな令嬢がいるではありませんか」


 フィーネは頭をふるふると振りながらため息をついた。

 淑やかな令嬢ってどこに居るのだ?


 ん? 待てよ、同じ顔?


「フィーネとあたしって、そんなに似てるかな?」


 あたしは悲劇のヒロインのような表情をしているフィーネの顔をマジマジと見つめた。


「えっ、何を今さら仰っておりますの? お姉様だって、お顔()()は自信を持ってもよろしいのですよ。私に似て整っているのですから」


 フィーネは当然のようにそう言った。顔だけって――。


「お前、よく自分で恥ずかしげも無くそんなこと言えるなぁ。それに、あたしが先に生まれたんだからお前があたしに似たんだよ」

 

 あたしは半ば呆れながら返事をした。フィーネは自分が可愛いと自信満々なのである。


 しかし、可愛いとか、整ったとかは置いといて、フィーネに自分の影武者をしてもらうのはどうだろうか? 背格好は似たようなものだから、髪さえなんとかしたら、いけるのでは?



 そんなことを考えていると、突然フィーネの声が低くなった。


「ところでお姉様。食事会に遅刻されたらしいですね――」


 背筋が凍る程の威圧感。思わずあたしは、ビクッとなって姿勢を正す。


「えっ、あーっ、そうだったね。あのう、フィーネちゃん。落ち着いてくれ、これには(ふかぁ)理由(わけ)が……」


 あたしは笑顔を作って、フィーネを宥めようとした。


「あら、そうでしたか。突然手品をしたり、靴を隠したりすることに、深い理由とやらがあるのでしたら、ぜひともお伺いさせて欲しいですね。お姉様……」


 凍りつくような視線。まずい、セリナが全部バラしたな。


「まさか、本気で殿下との縁談を断ろうとしているのですか? ありえませんよ。Sランクですよ、Sランク!」


 フィーネは顔を近づけてきた。だから、Sランクって何だよ!


「まぁ、確かに乗り気じゃあないけどさ、一応、来週さ、デートには行くから――」

 

 あたしはさり気なくデートの話を切り出した。

 もしかしたら、フィーネは羨ましがるかもしれない。そしたら、替え玉の話を振ってみて……。


「ふーん、デートですか? それは、殿下からの提案ですよね? お姉様からそんな提案をするなんて、世界中の火山が一斉に噴火するよりもありえませんから」


 フィーネは意外そうな顔をした。確かにあたしから誘うことはないけど、その例えは少し腹立つな。


「そうだよ。どうだ? 代わってやろうか?」


 あたしは冗談っぽく言ってみた。アウレイナスのことも評価してたし……、乗ってくるだろう。


「えーっ、アウレイナス殿下はちょっと……、遠慮します。確かにハイスペックは魅力的ですが、私には完璧すぎるっていうか、優等生すぎるっていうか……。正直言ってタイプじゃあないのですよねー」

 

 フィーネは心底嫌そうな顔をした。


「はぁ? お前、この前、あれだけSランクとか言ってたじゃないか。アウレイナス殿下のことが好きなんじゃないのか? さっきも自分が求婚されなかった事に不満顔だったじゃないか」


 もう嫌だ。あたしは自分の妹がわからない……。


「そりゃあ、殿下から求婚されたら、考えて差し上げてもよろしいですが……。お姉様は、全然(ぜんっぜん)わかってないでしょうが、殿方の価値というのは、スペックだけじゃないのですよ。どれだけ、“ときめき”を頂けるかどうかなのです!」


 フィーネ、渾身のドヤ顔である。あたしは頭痛がしていた。考えてあげるって、随分だな。それに……。


「じゃあさ、なんであたしには、あんなにアウレイナス殿下を推すんだよ?」


「そりゃあ、お姉様は特に恋とかってタイプじゃないですし、だったら出来るだけ私の恋の幅を広げられる人物が良いに決まっているじゃないですかぁ」


「おっお前なぁ……」


 あっけらかんとして、持論を展開する妹に、あたしは苦言を言いかけた。


「冗談ですよ。半分は……。お姉様はいつも寂しげですし、人をあまり信用するタイプでも無いので、優しい方が良いと思ったのですよ」


 フィーネは腕を組みながらそんなことを付け加えた。ふーん、意外とあたしのこと見ているんだな。

 しかし、半分か……。でも、半分はあたしのことを考えてくれたんだもんな。


「そっか、じゃあ、殿下とのデートを頑張ってみるかな」


 あたしは妹を影武者にする案を捨てた。

 自分の責任は自分で取らなきゃ意味ないし。というより、よく考えたらフィーネに任せるのは怖すぎる。

 大体、今さっき、軽率な行動をして痛い目に遭ったばかりではないか。


「そうですか。では、お姉様……、今度、遅刻したり、変なことをしたら許しませんからね……」


 フィーネは耳元で低く囁くと。ニコリと笑って部屋を出ていった。


 うっ……、一週間後が怖すぎる……。


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