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12 謝罪

 帰宅後、直ぐにあたしはタキシードに着替えた。

 お父様がサイズを間違えて作らせたタキシードがあたしにピッタリだったので、捨てたフリをして取っておいたものが役立つとは思わなかった。





 何故、ピアノを弾いていたのかというと、合わせる顔が無かったからだ。

 勢いで辿り着いたけど、大遅刻。その上、あたしはメリルリア(かのじょ)の純真な気持ちを弄んだ。

 今更だけど、犯した罪の大きさに気付いたんだ――。




「――とても、素敵な演奏でしたわ。ルシア様……」


 涙で目を潤ませながら、メリルリアは笑顔を見せる。遅れたことを一言も咎めず、素直に喜んでいた彼女はいじらしい。

 この()はあたしが失った大事な感情(モノ)を持っているのだと理解した。そして、それが堪らなく羨ましかった。


 あたしは立ち上がり、メリルリアを見つめる。


「本当に悪かった。オレは君を裏切ろうと――」


「ああ、ルシア様、いいんです。わたくしは今、とても幸せですの。まだ弾けないと申しました、お気に入りの曲をわたくしの為に弾いてくれた……。それだけでわたくしは満たされました」 


「君は本当に良い子だ。オレには、過ぎたほどにな。大丈夫だ、君は必ず幸せになれる」


「ええ、幸せになる条件は簡単ですの。貴方が側に居てさえいれば――」


 メリルリアの声は力強かった。あたしの心は罪悪感に支配される。

 残酷なことをしている。ちゃんとケジメはつけなくちゃ。


「メリルリア!」


 あたしは彼女の肩を掴んだ。言わなきゃ、もう会うことは出来ないと――。


「あの……、ルシア様、メリルと呼んで下さいまし。親しい人は皆、そう呼んで下さいますの……」


 そう、懇願するメリルリアの雪のように白い肌は桃色に染まっていた。


「そっ、そうか。わかった、あのさ、メリル」


「まぁ、ルシア様がメリルと呼んでくれましたわ。とっても、嬉しいですの」


 メリルリアは幸せそうな顔で満面の笑みを浮かべる。ここから、彼女を地獄に叩き落とすような宣言をしなくてはならないのか……。


 いや、これ以上、あたしの理不尽な自分勝手に巻き込んでは……。でも……。


「そうですの。こちらのモンブランはいかがですか? ルシア様と食べてもらおうと思ってまして、特別な材料を使ってシェフに更に美味しく作らせましたの」


 メリルリアはモンブランをあたしに勧めた。

 いや、モンブランどころではない話が――。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「どうですか? ルシア様、このモンブランのお味は?」


 メリルリアはニコニコ笑いながらあたしにモンブランの感想を聞いてきた。いや、モンブランよりも大事な話があるし……。味って言われてもなぁ。


「あっああ、とても美味しいよ。ありがとう、メリル」


 あたしは極力、優しい口調でメリルリアの質問に答えた。


「まぁ、ルシア様にありがとうと仰ってもらえましたわ。わたくし、とても感動しております。特別な最高級の栗を使わせて大正解ですの」


 メリルリアはとても上機嫌になっている。


「そっそうか、それはわざわざ、すまなかったな」


 あたしは話を切り出すタイミングを探していた。うーん、今話していいのかな?


「いえいえ、ルシア様に喜んで貰えるなら、何でも用意いたしますわ」


 終始メリルリアに会話の主導権を握られて、困惑するあたし。

 もう言わなきゃまずいし、家に帰らなきゃ居ないことがバレて大騒ぎになりそう。


「メリル! 今日はそのう、遅れてしまって本当に悪かった。それでだな――」


「あーっ、ルシア様。そろそろ、わたくし、家に戻らなくてはなりませんの。そうですわね。ルシア様が、遅刻されたことの埋め合わせをして頂けるのであれば、1つだけお願いがありますわ」


 メリルリアはタイムオーバーを告げた。ああ、モンブランを食べたが故に言いそびれた。

 埋め合わせか。確かに言うことの1つや2つは聞かないと、あたしも罪悪感で圧し潰される。

 

「オレに出来ることなら何でも言ってくれ。待たせてしまった借りは返したい」


 あたしはメリルの頼みなら何でも聞く姿勢をとった。


「あの、ですね。今度の女神生誕祭の日に、一緒に城下町を歩いて頂けませんか? 理想の殿方とお祭りの日に出歩くことが、わたくしの夢でして――」


 メリルリアはモジモジしながら願い事を話した。

 なんだ、そんなことでいいのか。


「わかった。今度は遅れないって約束をしよう」


 あたしは、頷きながら約束した。


「嬉しいですわ。約束ですよ、ルシア様。うふふ、一週間後が楽しみですわ……」


「わかった、一週間後だな。――って、ちょっと待って」


 しまった、一週間後は……。


 あたしは内心パニックになっていた……。

 そう、アウレイナス殿下とのデートの日付と見事に被ってしまったのである。


 もう二度と裏切る訳にはいかない。あたしは何としてでも彼女との約束を守るために頭をフル回転させることになった。

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