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非公開中  作者: するめいか
最終目標「世界を平和にする」
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19話「そして灰になる」

 硝子でできたように透明な剣の中に、一つだけ火の玉が浮かんでいる。


 炎が辺りを明るくしても、その光は天井の高さに届かない。ただ周りの氷塊をキラキラと輝かせ、僕らの絶望を照らすだけだ。


「いけない! 二人とも、来ますわよ! 三百六十度からの同時砲撃がっ!」


 ウィッチが叫ぶ。それを合図にしたように、炎と氷が僕ら目掛けて飛んできた。


 業火に焼かれるか、氷の棘に貫かれるか。三人の未来が急速に二つの選択肢に絞られていく。


「カズヤさん!」


「和也!」


 ネメスとウィッチが僕の名を呼ぶ。イズさんの攻撃は、その間にも着々と距離を詰めてきていた。途中で当たった木々が削られ、倒れていく。


 どうする。防御しても死ぬぞ。でもこのまま捌ききるには、相手の手数が多すぎる。


 攻撃は真上からも来ている。たった一つの炎球だ。空気も通さないくらいの密閉された空間に閉じ籠もる他に、道はない。


「カズヤさんってば!」


 もう一度ネメスが声をかけてきた。先程よりも焦りが見える声色だ。


 分かってる。彼女がどうして緊急事態に僕を呼んでいるのか。


 僕自身が頼んでいたからだ。ここに来る前、想定外を想定して、彼女達にお願いしていた。『もし先制攻撃が失敗したら、その時は僕の指示に従ってくれ』と。


 二人は信じてくれたんだ。会ったばかりの僕を、あっさり信用してくれた。頼んだこちらがビックリするくらいに、容易く運命を委ねてくれた。


 だから僕は勝てるんだ。彼女達のおかげで、僕はあと少しだけ頑張れる。


「ネメスッ! ウィッチと自分の身を守れ!」


 言いながら隣のウィッチを掴み、ネメスの方に押し退けた。同時に彼女からスリングストーンをコピーする。


「任せてっ! 待ってるからね!」


「私の使い魔である事を忘れないように! ガッカリさせたら怒りますわよっ!」


 二人はそのまま紫の球体に包まれた。重厚なそれは自重だけでも地面に沈むほどで、巨大なボーリングのボールに見える。


 彼女達が隠れた直後、僕と球体に次々と攻撃が命中していった。右手は吹き飛び、膝は撃ち抜かれ、左腕は丸焦げになる。


 筆舌に尽くしがたい痛みを感じながら、僕はひたすらヒーリングを唱えていた。頭を抱えて蹲りながら、呪詛のように呟き続ける。


 その姿勢で移動し、木の影に隠れたところで、呪文の雨は降ってこなくなった。


 ネメス達は無事みたいだが、僕の有り様は酷い。いや、外傷はそんなに無いだろうけど、痛みでおかしくなりそうだった。

 ウィッチの命令で苦痛は感じづらくなっているはずだが、それでも発狂しそうなんだから、通常だったら生きていなかったかもしれない。


「まさか、女の子を置いて自分だけ逃げるつもりかしら? 失望だわ。この私を苦戦させておいて、土壇場でヘタレるなんてね!」


 依然としてネメス達が入っている球体への攻撃は続いている。足下も完全に塞いでいる入れ物なため、地面から氷の槍が生えてくるのもガードできている。けれど所々(くぼ)んでいるから、もうあまり猶予は無いだろう。


 一方、僕に攻撃は来ない。つまり、今僕を視認できる位置にある目玉は全て偽物ってことだ。


「いいの? あんたが放っておいたら、いずれあの子達は殺されるわよ。氷の槍に破られるか、炎で炙られるか、或いは酸欠になって死んじゃうわ!」


 本物がいる場所は、僕から見ても死角になる位置にある。おまけに、炎の球が出現した場所から半径十メートル以内に彼女はいるんだ。


 これで残り二十個ほどに候補は絞られた。しかし片っ端から適当に攻撃するわけにはいかない。彼女は僕の隠れるところを見ていたはずだ。一発外せば相手から反撃を食らってしまうだろう。


 ならば、次はどうやって本物を見つけ出すかに問題は移る。


 瞳孔が開いていない物を探すか? あちこち見渡している眼球を探すか?


 いいや、違う。イズさんが知らなかったから対策できなかった事。それで対応する。


「逃げてなんかないさ」


 木の陰から身を乗り出す。


 彼女の狙いは僕だ。ネメス達も殺す気だろうけど、これまで散々ヘイトを稼いでいた僕を、あのイズさんが無視できるはずがない。


「出て来たわね! そう来ると思っていたわ! 果敢に戦って死ぬ事が美学だと考えているんでしょうね?」


「紛れもない事実だろう。仲間のために死ぬのは美徳だよ。自己犠牲こそが愛の最高到達点だ」


「くだらないの一言に尽きるわ。他人のために自分を削るだなんて、時間の浪費でしかないもの」


「世界は大なり小なり、各人の自己犠牲によって成り立っているんだよ。あ、ごめんごめん。独りで生きてきた不器用さんには分からないかな?」


「あんたは……死ぬまで減らず口を叩く気みたいね……!」


 彼女が僕の周囲に氷のナイフを浮かび上がらせた時、声色を変えて短く呼んだ。


「おい」


 さらに僕から最も遠い場所にある、一つの目玉を指差して、何度目かになる台詞を読んだ。


「今の会話中に、僕は、君の居場所を突き止めたぞ」


「……あんた、また」


「『カマかけてんのか』って? 果たして本当に、ハッタリだと思えるのかい? ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 僕の見据えていた瞳がフルルと震えた。その上に浮かぶ文字もまた、不安そうにユラユラ揺れている。


【レベル3642・賢者イズは十秒以内に敗北する】


 チェックのレベル表示は生物に対して唱えないと出てこない。ただの眼球を調べても、普通のメッセージが出てくるだけだ。


 そして、チェックで断定された言葉は、すべて真実である。


「三秒あれば十分さ! 〈スリングストーン〉!」


 僕が唱えた瞬間、手のひらサイズの岩石が前方に飛んでいき、木の上からイズさんが転がり落ちてきた。同時に周りを浮遊していたナイフも地に吸い込まれていく。


 イズさんは四つある小道の一つ、その入り口に入り込んだところで倒れていた。動く気配はまったく無い。魔力切れだったのか、もろに食らったみたいだ。


「敗因は、勝利に対する貪欲さってところかな」


 意趣返しに彼女の決め台詞を使わせてもらった。

 まったく、この夢世界は初っぱなからキツいな、本当に。







 震えていた手を握り締める。うまく力が入らない。


 いくら冒険をしても、女の子に暴力振るうのは怖いものだ。

 男女間の肉体的な力の差よりも、魔力量によってできる力の差が大きいから、こっちにそういう概念は無いんだろうけど、根付いた価値観ってなかなか無くならないよね……。


「二人とも! もういいよ!」


 一人で決めていたのがなんだか気恥ずかしくなって呼び掛けると、紫の球体が消え、二人が出てきた。


 ウィッチはイズさんのもとへ駆け寄り、ネメスは僕のところまでやって来る。僕の手を取り、笑顔でピョンピョンと跳ねだした。


「凄いですっ! 凄いです、カズヤさん!」


「ハハハ。もっと褒めたまえ~」


 一緒にジャンプして喜びを分かち合っていると、ウィッチが戻ってきた。


「あの子は気絶していましたわ。命にも別状は無いみたいでしたし、そのまま縛りつけておきました。完全に無力化しましたので、ご安心を」


 ボンヤリ見えるイズさんからイグニッションをコピーし、彼女の姿を照らし出す。魔力が尽きてきたらしく炎は小さい。


「イズさん、凄い姿になってるな……」


 口と鼻以外はほとんど石に包まれているんですが。無詠唱で呪文使える人って、あんなにガッチガチに拘束しなきゃいけないのか……。


「うん? そういえば、どうしてイズって女の人は、天井に穴を開けたんでしょうか。それも小さく沢山、均等な配置で……。カズヤさんがしたみたいに、炎の呪文で辺りを照らすことならできるのに」


 ネメスがふと、上に向けていた視点を僕が出した炎へ向けた。


「それは、ネメス、簡単ですわよ。完全に暗くした状態で炎を出したら、かえって目立ちますわ。だから彼女は、地形に精通している自分がギリギリ分かるだけの明るさに調整したんです」


 答えるウィッチの息は乱れていた。疲れているのだろうか。

 魔力が限界まで来ているのかもしれないな。もともと僕が無理に追跡させた訳だし、戦意もそこまで無かったんだろう。


 モチベーションは魔力量に直結するからなぁ。今度からは気をつけないと。


「それにしても、よくこれだけ広々とした舞台を用意したもんだよ」


 言いながら彼女達の様子を見る。キョロキョロする二人に怪我は無い。どうやら無事に、僕らは運命を打ち破ったらしかった。


 とりあえず、これからどうにかイズさんを仲間にする流れに持っていきたいな。このイズさんが根っからの悪人だったら難しいけど、何か事情があって盗賊をしていたんなら、不可能ではないはずだ。


 戦力がまだ心許ないからね。モルト町みたいに即死イベントがあるとするなら、仲間が沢山いた方が避けやすくなるだろう。


「先は長いな……。まあ何はともあれ、一件落着だ」


 ふうっと長い息を吐く僕の胸を、唐突に誰かが強く押す。


「退きなさい!」


 ウィッチの声。「きゃっ」というネメスの悲鳴。着地と同時に背中へ伝わる衝撃。


 ウィッチによって、僕達二人は吹っ飛ばされたのだ。しかし、それ以降の事態の把握は、僕の方が断然遅かった。


「お、お姉ちゃん……? お姉ちゃんっ!」


 仰向けのまま天を見上げる僕の耳へ、聞くに堪えないネメスの叫喚が届く。


 起き上がった後、初めに見たのは、串刺しになったウィッチだった。

 限りなく透明に近い氷の棘が何本も、彼女の体を貫いている。それを伝うのは赤い滴だ。その体躯から下の氷を、鉄の匂いが赤黒く染め上げていく。


 それだけじゃない。小道へ続く前の広場、僕らがいる場所のほぼ全体に、黒い氷柱が突き刺さっているのだ。


「聞き……なさい。天……じょ……に、時間差で……」


 彼女の顔面は蒼白で、僕らの方を見ていた。天を力なく指差している。瞼は今にも閉じようとしていた。


 けれどそれを許すことなく、口を金魚みたいにパクパクさせて、何かを必死に伝えてきている。


「ネメスを……」


 不意に、彼女が脱力した。こちらを見つめる瞳にもう光は無い。


「カズヤさん……それって……!」


 涙でグシャグシャになったネメスが口元を押さえて僕の手を指す。釣られて目を向けると、信じられない事態が起こっていた。


 左手の指先から、どんどん色が消えていくのだ。僕が灰色になっていく。色が変化したところから体の感覚も無くなっていった。


 この異変の正体は、知っている。サモンの効果だ。召還者が死んだ時、召還された者は消える。


 つまり、現在起こっている異常が意味するところは一つ。


「ウィッチィィィ!!」


 伸ばした左手は既に無く、腕も瞬く間に灰となって舞っていく。二人分の絶叫が混ざりあい、やがてそれは一つになった。


 刹那、無詠唱で勝手に呪文が発動する。岩石が地面から伸び、ネメスをさらに遠くへ押し飛ばした。同時に体の感覚が足の爪先まで消滅する。


 最後に消えゆく視界には、真上から降り注ぐ無数の氷柱が映っていた。それを見た瞬間に僕は全てを理解する。


 だが既に手遅れだ。もう何も見えなくなっている。ネメスの声すらも聞き取れはしない。


 最期に願ったのは彼女の無事だった。頭の中に、ウィッチの伝えようとしていたメッセージが繰り返されている。それが聞こえなくなったのと同時に、僕自身の死は訪れた。


 そうして全てが灰に変わった。






【どんなに辛くても諦めないで。世界の運命は、全て君にかかっているんだから】








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