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非公開中  作者: するめいか
最終目標「世界を平和にする」
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18話「勝利への執着」

 草を踏みしめる音が小気味良い。暗闇にも目が段々慣れてきた頃だ。

 分厚い氷の箱に閉じ込められたジャングルは、さながら真冬のような冷え込みを帯びていた。虫は黙り、鳥は行き場を無くしている。


 急激な温度の変化で風邪を引きそうになりながら最後尾を歩く。

 一番前にはウィッチ、その後ろにはネメス。二人は前と横に気を巡らせ、僕は後ろからの攻撃を用心している。


 今はイズさんが逃走したと思われる道を進んでいるところだ。暗くて道に慣れていない僕らはゆっくり歩くことしかできない。森を覆う黒い氷箱の狙いはそこにあるのだと思い至るのに、そう時間はかからなかった。


「分かれ道ですわ。四つの道に続くみたいですわね。足跡や体を引きずった形跡は消されています」


 広場まで来たところでウィッチが足を止めた。


 注意を周りに向けていたせいで、彼女の声よりも早く止まっていたネメスにぶつかってしまう。それが原因となって、まるで玉突き事故のように、ネメスはウィッチの背中へ顔から突っ込んでいった。「わふっ」という変な声に萌えながらも、こちらの作戦を開始する。


「どの道に行ったんだ……! クソ、逃がしてしまったか……!」


「ごめんなさい。わたしが目を離したから……」


「気にしないで、ネメス。暗い上に初めて来る森ですもの。あなただけが責任を感じる必要は無いですわ」


 会話と一緒に悩むふりをしながら、横目で周りを見ていく。表に出さないだけで二人も同じだ。


 さあ、隙を晒してやったぞ。出てこい。攻撃を仕掛けようとする時が、君の敗北が決する時だ。


 イズさんが取る作戦。それはさっきと同じように、隠れて攻撃してくる事だ。

 だが変化させてくる部分がある。僕の予想だと、三百六十度の全てから氷の矢や炎の球を投げてくる可能性が高い。

 そうすると僕らはそれを避けられない。防ぐしか道が無くなる。


 では、次にはどうなるか。

 彼女はこう考えるはずだ。僕達が周囲に四角の箱やドーム状の物体を作り、その中に身を隠して防御する、と。


 ネメスのモデリングとウィッチのスリングストーンは使ったところを見られている。

 いずれかでの防御という行動に移る事くらい、容易に想像できるに違いない。壁を作って攻撃をしのぐのはイズさんの得意分野なんだ。真っ先に思いつくさ。


 テレポートやサイコキネシスを扱える可能性は考慮していないだろう。だって、使えたら逃がす前に唱えているはずだから。可能性は勿論ゼロではないが、彼女はそこまで臆病じゃない。


 不確定な要素が入らず、必要以上に深読みしていないなら、イズさんもここまでは疑わずにやってくる。


 さて、そこで僕らは詰むのだ。


 呪文は強く認識した場所にしか使えない。だから、彼女は僕達が立っている地面さえジッと睨んでおけばいい。目に焼き付くくらいにジットリとね。


 そうして三人がスリングストーンやモデリングで防御をした後、ガードしていない唯一の場所、足下から攻撃を発生させてグサリ。それで勝てる。

 途中で気付いたとしても、壁を無くしたら外からの砲撃にやられてしまう。回復させる間も与えない必殺技だ。


 ならば、こちらも対する策を講じなきゃならないだろう。


 壁を作成する時に床も作る?

 いや、僕らの入れ物を火で炙るなりされたら終わりだ。イグニッションのせいで迂闊に隙間も作れないし、空気が不足する恐れがある。根比べにもなりやしない。


 じゃあ、相手の攻撃を別の方法でかわす?

 いや、ネメスのモデリングでイズさんの氷なら変形させる事もできるだろうが、無理だ。ウィッチのエクスプロージョンを使っても、現実的に間に合うとは思えない。


 それならどうするのか。ウィッチに尋ねられた時、僕は即答した。


「見つけましたっ!」


 突然、ネメスが叫ぶと同時に木の一つに矢を放った。

 矢が葉の間に吸い込まれた後、ゴトッという音を立てて、地面に何かが落ちる。作戦は成功した。


 そう。僕が考えた突破口は、先制を取る事だ。攻めの姿勢は崩さない。攻撃は最大の防御とはよく言ったものである。


「やった! お姉ちゃん、見てた? 今度は当てられたよっ!」


「見てましたとも。偉いですわね。一日で随分と頼もしくなったものですわ」


「えへへ~」


 二人の間には僕の知らない友情物語があったようだ。

 いつもなら尊い光景を記憶のフィルムに焼き付けるところだけど、今は流石にわきまえよう。


 あっけない勝利に数秒間は呆けていたが、彼女達より早く音の方向へ足を進めたのは僕だった。


「悪いね、痛いだろう? でも、ちょっとだけ眠っていてもらうよ。ちゃんと回復はしてあげるから安心して……」


 数歩進んで、木から落ちた物を見た瞬間、僕の足は無意識のうちに止まってしまった。


 氷だ。人型の、しゃがんでいる姿勢をした氷が落ちている。

 してやられた事に気付くには、もう数秒の時間を要した。


「まさか……ダミーを使ったのか……!」


「フフフ。私がただ深い記憶力ゆえに賢者と呼ばれているとでも? いいえ。判断力、応用力、観察力……。ありとあらゆる能力を兼ね備えているからこそ、賢者なの!」


 イズさんの声が巨大な氷の箱に響き渡る。


 彼女の台詞には耳を貸さず、氷人形に近付いた。ウィッチ達が動揺する声も、内容までは入ってこない。


 ただの氷人形をネメスが人だと見間違うか?

 いいや。彼女はイズさんへ当てた事について微塵の疑いも抱いていなかった。トリックがあるはずだ。


「そして、私が賢者たる最も大きな要因は、努力であるのよ!」


 人の形をした塊の前に膝をついて、仰向けにさせた時、僕は初めて『生唾を飲み込む』という事を体験した。


「おいおいおいおい……!」


 目だ。人形の顔に、片目がある。眼球が一つ、埋め込まれているのだ。


 何よりも恐ろしい事実は、その瞳の色がイズさんのと同じで、目玉の周辺におびただしい量の血液が付着しているということ。


「プライドが高いなんて生易しいものじゃない! 狂ってる……! 正気の沙汰じゃないぞ、こいつは……!」


「和也! 危ないっ!」


 瞬間、アスファルトにレンガを叩きつけたみたいな音がした。


 頭を上げると、僕の背面に石の盾ができている。

 二人に視線を戻したら、あらゆる方向から襲いかかる炎や氷を何とか回避しつつ、僕のもとへゆっくり向かっていた。


「カズヤさん、囲まれました!」


「何だって……?」


「囲まれたんですよ! 何十人も人がいます! 相手は一人じゃなかったんです!」


「周りを見なさい、和也。こちらを覗きこんでいる不気味な瞳が何十個もありますわ……!」


 ウィッチが言い終えた頃に、二人は僕の傍まで来ることができた。


 見ると、確かにどの角度にも、木の葉に潜んで僕らを見ている目があった。


 だが、そうじゃない。あれは何十人もいるんじゃないぞ。たった一人の仕業なんだ。たった一人が、この薄ら寒い恐怖を作り出しているんだよ。


「違うっ! あれは偽物だ! あの人、目玉を抉り取って、氷の人形に埋め込んでいた……。それを量産したんだよ! あちこちに設置して、自分の居場所が分からないようにするために……!」


 イカれている。眼球を取って、回復してを繰り返していたんだ。僕らがここに来るまでの間、ずっと独りで声もあげず、勝つために準備をしていたんだ。


「じゃあ、じゃあ、どれが本物なのっ!」


「分かりませんわ……。でも、このまま手を(こまぬ)いていたら……!」


 パニックが伝染する。

 ヤバいぞ。全員がこれから起こる事を把握しだした。


「ふん。私を追ってきてしまった事が、最悪の選択ミスだったのよ。もうこの場からは逃れられないわ。死ぬ覚悟を決めたら、手を挙げなさい。勇気ある者から順番に殺してあげる」


 呪文が止んだ。静寂が辺りを支配する。

 当然、誰も手は挙げない。再び来るやもしれない攻撃を恐れ、身動きすらも取れなかった。


 なんてこった。このイズさん、正真正銘、殺しを楽しもうとしていやがるぞ。


「そう、結構ね。沈黙は『仲良く死にたい』と受け取るわ。私、決断が遅い人は大嫌いなの」


 一秒も待たないうちに、彼女は一面に氷の剣を発生させる。真上には巨大な業火の塊が出てきた。それらを見た瞬間、僕には一瞬で理解できた。あの人の目的、今から起こる惨事を。


 これは、想定していただけに、実に無念極まるシチュエーションだぞ……。


「勝因は、勝利に対する貪欲さってところかしらね」


「いけない! 二人とも、来ますわよ! 三百六十度からの同時砲撃がっ!」


 焦りが爆発した時には既に、イズさんの攻撃が一斉に迫ってきていた。

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